幕間 それぞれの祝福
アランから、記憶媒体が届けられた各家庭では、我が子の成長に多くの人達が胸を熱くしていた。
――セドリスの屋敷
「お坊っちゃまー!!!」
「だから、そう呼ぶなって!」
セドリスが帰宅するやいなや、初老の執事長が涙を隠す事なくセドリスを出迎えた。
「わたくし……もう感無量でして……いつお迎えが来ても悔いは――」
「だーかーら! そんな事を軽々しく言うなって言ってるだろ! 俺が死ぬまで働け!」
「……ぼっちゃま〜! ずっとずっとお側に居りますからね!」
よよよ、と再び泣き出した執事長の背中をポンと叩いた。
「この背中が曲がっても、俺が治してやる」
執事長は、その場に泣き崩れたのだった。
そして、セドリスが父と母が待つ部屋の扉を開けると、ぎゅっと強く抱きしめられたセドリスだった。
涙ながらにセドリスの両親は、「あそこが良かった」「庇った姿が格好良かった」「『蜘蛛のような何か』は見ていてちょっと恥ずかしかった」など、次々と思いを口にした。
セドリスは、寝るまで一緒に記憶映像を見る羽目になり、蜘蛛が映ると即座に目を背けたのだった。
――アミルの邸宅
「ただいまー!」
「アミルちゃん! おかえりなさい!」
帰宅したアミルを、両親はすぐに出迎えた。
そして、砦の料理人でもある両親が腕を振るったご馳走が、たっぷりと並べられたテーブルに案内されて、三人での夕食が始まった。
「もう、お母さん、神官様の言葉に涙が止まらなくって……」
「あぁ。『誠実だからこそ、一人でもやり遂げられる』って言われた所な。あの神官様は本当によく理解してくれている……!」
「……もう、恥ずかしいからやめてよ〜」
「何度だって見れる! アミルが涙を拭って前を見た瞬間なんて……ほら、見てごらんお父さんの腕。鳥肌だ」
「もー! 良いって! 分かったから〜」
「ねぇ、お父さん。あそこ見た? アミルが最後に魔力流す所! 私、調合なんて初めて見たから感動しちゃって! どんどん色を変えていく液体の素晴らしさったもう!」
アミルは、嬉しさからか恥ずかしさからかも分からない涙を浮かべていた。
両親の愛がたっぷりの食事は、胸がいっぱいでいつもより喉を通りにくかった。
アミルは手放しで褒められ続けた結果、恥ずかし過ぎて、すぐに部屋へと逃げ込んだのだった。
――エリシアの屋敷。
「おかえりなさいませ、お嬢様ー!」
「リヴィア! ただいま!」
「お嬢様、おかえりなさいませ」
リヴィアとグレイに出迎えられたエリシアは、食堂へと向かった。
そこには当然セリオンは居なかったが、あの後すぐに熱烈な鳥が飛んできて祝福してくれたので、エリシアの心は満たされていた。
「お嬢様、私感動しました……あんなに蜘蛛嫌いだったお嬢様が奮い立つ姿! 格好良過ぎてもう……!」
と、リヴィア。
続けてグレイがずいっとリヴィアの前に出て、話し始めた。
「お嬢様。赤ちゃんの頃からずっと見ていたお嬢様の、地に足をつけた生き様……素晴らしかった……!」
「生き様って……、グレイちょっと大袈裟よ?」
エリシアは、真面目な顔で熱く語るグレイに少し笑ってしまった。
「いいえ、そんな事ありません。ここに何故マリアンが居ないかお分かりですか?」
「マリアンは侍女長の仕事をしてるんでしょう?」
「いいえ、お嬢様。彼女は泣き過ぎてしまって、目を腫らしてしまったのです。『侍女長がこれでは、示しがつきません』と言って部屋に篭ってしまいました」
「……そう」
「それ程に、我々はお嬢様の成長を、心の底からお喜び申しております。本当に宜しゅうございました。あの映像が届いた時、私宛てでしたので、一人見てみましたらもう……そこから、屋敷の人間に声をかけて全員で応援していました」
エリシアは嬉しさで胸がいっぱいになり、食事がなかなか喉を通らなかった。
その夜、屋敷のみんなに一言ずつ手紙を書いた。
マリアンには目の腫れを治す薬を添えた。
エリシアがベッドに潜って早めに眠りについた頃、大人達はそれぞれ届いた手紙を使用人達の休憩室へと持ち寄った。
そして少しのお酒と軽い食事を囲んで、エリシアの成長を喜びあった。
「あんなに小さかったお嬢様が、もう医療士見習いを卒業ですか」
「本当に、大きくなられましたね」
「私なんて、よく叱っていたから一時期は避けられてましたからね。それが……昔、初めて一人で作ったお薬を、私のために持ってきてくれて……」
「マリアン。私のでよければハンカチを貸しますよ?」
「……気が利くわね」
「ふふふ。あの時のエプロンはまだお部屋に?」
「……もちろんです」
三人それぞれの長い一日が、ようやく終わった。
その夜は、どの家にも、我が子の成長を喜ぶ温かな笑顔が溢れていた。




