幕間 21話 冬の終わる頃
大雪のお茶会から一か月半が過ぎた。
まだまだ外の世界は寒くて、草花の大半は、まだ蕾のまま雪を被って、暖かい季節をじっと待っていた。
しかし、砦の食堂では外の寒さなんか微塵も感じない程の盛り上がりを見せていた。
「……どこも痛くないし、しんどくないし、重くない! 全部治ったー! やったー!」
「私もだよ〜! やっと、やっと普通に出来る!」
エリシアとアミルは、両手を繋いでぶんぶんと振り回し合った。
大袈裟に動いても痛くないことが、こんなに嬉しいのかと、エリシアは笑いが止まらなかった。
「体というのはこんなに、思った通りに動く物だったか……? ならここは――」
セドリスは完全に治りきった自身の体に、嬉しさよりも先に戸惑いが来て、分析まで始めた。
そんな三人を、各棟の見習い達が揃ってお祝いしていた。
「おめでとう〜! あの日、聞いた時はだいぶ笑ったけど、まじだったんだな」
「おかえり、健康な世界へ」
「これで何でも遊べるな!」
「今度、合同演習しようよ! きっと楽しいわ!」
などなど、口々に祝いの言葉を掛けられていた。
昨日、エリシアがユーリに「明日の朝、最後の治癒魔法をかけるの」と話したところ、彼女が他の見習い達に声を掛けてくれたらしい。
その結果が、この大騒ぎだった。
止まらない拍手の嵐に、通りすがった人達はぎょっとした顔をしている。
「え〜っと……すごい恥ずかしいけど、とっても嬉しい! ありがとう、忙しいのに朝から集まってくれて」
「こういうのが、大事って気付いたからな!」
「息抜きだよ」
エリシアがみんなにお礼を言うと、そう誰かが言った。
みんながどこか恥ずかしそうで、子供特有の笑顔が広がる。
アミルはにこにこの笑顔で、セドリスは少し口角を上げて、エリシアの横でありがとう、とみんなに手を振った。
しかし、お祝いされればされるほど自分達は箒で大失敗しただけなのに、とエリシア達は段々いたたまれなくなっていった。
その事に気付いた見習い達は、余計に盛り上がって最後はエリシア達を揶揄った。
***
「今朝の“アレ”聞きました?」
セリオンのいる医療士長室では、アランが今日の流れを伝えていた。
報告の合間に、朝の食堂での出来事も差し込んだ。
紅茶のカップを手にしていたセリオンは、そっと机に置き直すと、コホンと小さく咳払いをした。
「その話を耳にした時、私はもう感動で胸が震えたよ。森の中で拾われた赤ん坊が、みるみる成長していく過程を、私が誰よりもそばで見ていただろう? それが今では、友達まで出来たなんて、もう! 友達だよ!? あの二人以外にも友達が――」
「つまるところ、見に行ったんですね?」
「……行った。行くしかないじゃないか! ちゃんと気配消したからバレてないよ!」
「まぁ、私も行きましたけど」
しれっと答えたアランに、セリオンは目を丸くした。
「……え、君も居たの?」
「居ましたよ〜。あんな面白そうなの見ないと損でしょう。途中から親達がちらほら気配消して、見てましたよ。士長はエルシーばっか見てたからわからなかったんでしょう〜」
「……ふむ」
「あれ、また何か考えてます? 面白い事なら賛成しますよ」
「いつか実現できるように、案だけは考えとくよ」
セリオンは窓の外に目をやった。
この部屋からの景色は、雪の日が一番美しいと思っている。
どこもかしこも白と銀がきらきらと煌めいて、「白銀の世界」とは言い得て妙だなと感心すらしてしまう。
この雪の季節が終われば、次は草花が咲き誇る季節がやって来る。
その頃にはまた、ここからの景色も変わって、今度は春こそが一番美しいと思うのだろうか。
セリオンは、しんしんと降り積もっていく雪に背を向けると、今朝の微笑ましさを胸に、再び書類仕事を始めるのだった。




