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剣聖の平伏と、賑やかすぎる西への旅路



カラン、と。

渓谷を吹き抜ける風の音に混じって、硬質な金属音が響いた。


人類の武の頂点に立つ『七天の聖座』の序列三位、剣聖カレン・アステリアは。


地面に転がった愛剣の巨大な刀身と、自身の手の中に残された柄を交互に見つめ、完全にフリーズしていた。


「……は?」


何度瞬きをしても、現実は変わらない。


神話の時代に竜の牙から鍛え上げられたとされる、絶対不壊の業物『竜断の大剣』。それが、目の前の麻服の青年が「少し休ませてあげて」と指を向けただけで、留め具からスッポ抜けて解体されてしまったのだ。


「ずっと無理して強がってたみたいだから、少し眠らせてあげたんだ。刃こぼれもひどかったしね」


アッシュが優しく微笑み、地面に落ちた刀身を撫でる。


すると、あんなに禍々しい殺気を放っていた大剣の刀身が、まるで親に撫でられた子供のように、安らかな淡い光を帯びて沈黙した。


カレンは身震いした。


彼女の愛剣は、持ち主の闘気と魔力に呼応して凄まじい切れ味を生み出す生きた武具だ。つまり、剣自身がアッシュの底知れぬ力に触れ、「この人には絶対に敵わないから、もう戦うのはやめましょう」と自ら白旗を揚げたということだ。


(武の極致……? いや、違う。そんな人間の枠に収まる次元の話じゃない……!)


カレンの顔から退屈の翳りが消え失せ、代わりに、全身の血が沸騰するような強烈な『歓喜』が込み上げてきた。


「……ッ!!」


カレンは突如として地面に片膝をつき、アッシュの足元に深く頭を垂れた。


「お見それした! 私の完全な負けだ、名も知らぬ強者よ!」


「えっ?」


「私はカレン! 武の頂を極めたと思い込み、この世の全てに退屈していた哀れな女だ! だが、あなたのその無造作な立ち姿、そして万物を従える理外の力……私の求めていた『究極』がそこにある!」


目をキラキラと輝かせ、猛犬のように尻尾を振らんばかりの勢いで迫る人類最強の剣士。


その背後で、憧れの剣聖の威厳が音を立てて崩れ去っていくのを見届けたエリスは、静かに両手で顔を覆っていた。


「ちょっと待ちなさいよ!!」


カレンがアッシュの脚にすがりつこうとした瞬間、シルヴィが凄まじい勢いで二人の間に割って入った。


「アッシュ師匠の栄えある一番弟子はこの私、シルヴィ・フォン・アークライトよ! ポッと出の剣術バカが、気安く師匠に近づかないでちょうだい!」


「あァ? 誰かと思えば、ルミナスの引きこもり魔導院長じゃないか。お前こそなぜここにいる?」


カレンが片眉を上げてシルヴィを睨みつける。


「ていうか、お前みたいな机にかじりついてるだけのモヤシに、この御方の深淵なる強さが理解できるわけないだろ! 私は荷物持ちでも露払いでもするぞ、師匠!」


「なんですって!? 師匠の真理を魔導式で紐解けるのは私だけよ! この脳筋!」


「なんだと!? このボサボサ頭!」


「どっちもアッシュから離れなさいよ!! アッシュの一番は私なんだから!! 燃やすわよ!!」


人間の姿の白竜リリィも参戦し、広大な渓谷のど真ん中で、人類最強の剣聖、人類最高の魔導師、そして神話の白竜による、世界を滅ぼしかねない次元の低い口論が始まってしまった。


「ふふっ。アッシュさん、またお友達が増えましたね」


セフィラが妖精眼を細め、口元を袖で隠して上品に笑う。


「うん、賑やかなのはいいことだよね」


アッシュものんきに頷いている。

エリスはついに膝から崩れ落ち、地面に手をついた。


「……大精霊様。剣と魔の頂点が、一人の青年の隣を取り合って子供のように喧嘩をしています。もう、このパーティの戦力だけで小国が三つは滅ぼせます……」


胃薬がいくらあっても足りない。エリスの切実な祈りは、今日も風に虚しく溶けていった。


ひとしきり騒いだ後。

カレンは解体された大剣を布で包んで背負い、一行の荷車(風が自動で押している)の横に並んで歩き始めた。


「なるほど。『蝕の教団』か。道理で最近、妙な魔物が多いわけだ」


エリスからこれまでの経緯と、西のエルフの森にある『世界樹』が狙われていることを聞いたカレンは、真剣な表情で頷いた。


「さっき私が斬り裂いた巨大な山鬼も、西の森の方から狂乱して逃げてきた個体だ。あの辺りには、すでに教団の連中が入り込んでいると見て間違いない」


「エルフの森の結界は強固だけど、人工的な『穢れ』で内側から侵食されたらひとたまりもないわね……」


シルヴィが魔導師としての見解を述べる。


「エルフたちは極端な閉鎖主義ですから、人間の私たちが森に入ろうとしても、警戒されるでしょうね」とエリス。


「大丈夫だよ」


不安げな三人をよそに、アッシュはどこまでも真っ直ぐに、西の空を見据えていた。


「木々たちが、泣きながら風に伝言を託してくれてる。僕が声をかければ、森の門は必ず開くよ。だから、急ごう。これ以上、誰も悲しい思いをしないように」


アッシュの優しく、けれど芯のある決意の言葉に。


エリスも、リリィも、セフィラも、シルヴィも、そして新しく加わったカレンも、一様に頬を染めて力強く頷いた。


「ああ。この剣聖カレン・アステリアの命、これより師匠の往く道を切り拓くために振るおう!」


「だから、カレンも師匠じゃなくてアッシュだよ。剣のお手入れ、今日の夜に直してあげるからね」


「本当か!? 一生ついていくぞ!!」


規格外の青年と、彼に心酔する五人の少女たち。


圧倒的な力と騒がしさを兼ね備えた最強のパーティは、世界樹を蝕む黒い太陽の陰謀を打ち砕くべく、西の森へと歩みを進めるのであった。

お読みいただきありがとうございます。


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