うしろのひとだあれ
背後霊が見えるんだ。
そのように公表している同級生がいた。
えぇーうそぉ。
本当?私にもいる?
嘘やん。
まじで?俺ばあちゃんが後ろならバリ怒られとぅけん頭凹んどらん?
等々反応は様々だが、本人はいたって温厚で信じる信じないは別として、いつも周りに人が居る。
たくさんの人とはしゃいで過ごせるようなコミュニケーション能力は無いので、いつも遠目に見ていた。
あのような感じは、陽キャ集団とはまた違う対応しづらさを感じる。
一方で、近々の連休の予定を海辺でバーベキューをしようかと相談しているうちの1人がレポートを手伝ったお礼なのか、誘ってくれる。
が…金欠を理由に申し訳なさを含み断る。
「そうだよな、いつも大変そうだもんな。予算結構安く抑えてるから余裕ある時来てくれよな。」
軽く肩を叩かれて、こちらの負担のないような返事を返してくれる。
自分が属するグループとは真逆だが、とても良い人なのでついつい頼られると助けたりするが、その分のお礼のような、こちらが得する事を差し出すあたりが流石コミュニケーション上級者だ。
怪談やUMA、オカルトは好きだがスピリチュアルを根っから信じているわけではない。むしろ斜め上から楽しんだりはしている。
そんな自分が苦手にしているのが最初に話したような連中。
見えても見えなくてもいいと思っている。
そもそも、脳のブラックボックスの部分で感知しているものだから、それぞれ見え方感じ方が一定方向に矯正や修行しなければ統一しないのでは?とすら考えており、必ずこのように見えなくてはいけないという視界を説明共有して説得されるのは酷く疲れる。
民族学をやっているからといって、スピリチュアルへの盲信を強制する人たちが一定数いて、残念なことに、そのような集団が近くにいるのだ。
中心人物の男は信者と言っても差し支えない女性たちに囲まれて、容姿や体格が良いわけではないがおそらく教主としての才能を持ち合わせており、現在遺憾無く発揮している状態であろう。
日を追うごとに、手口は、上達し続け放っておいてくれればいいのに、自分たちのグループに僕を入れようとする。
わかりやすく、女学生を使って声をかけて引っ張り込む。
上達、いや、カルトグループの勧誘方法でも学んでいるかのように定型通りだ。
僕だって、同級生の可愛らしい女性から手を引かれて。
「ねえ、後ろの人見える?」
と無邪気にはしゃぐ手を振り解く勇気も気力もありはしない。
中心部の男は、目をすがめて。
「もちろん見えるよ。年配の女の人だね。」
すごいすごいと歓声が上がる。
無言で立ち去るのも良くないと思い。
「そうなんだね。ありがとう。」
と、お礼を言って立ち去ろうとすると。
「信じてないでしょう」
暗い水っぽい声が追い打ちをかけた。
信者たちの非難がましい目線が突き刺さる。
「そういうわけじゃないよ。僕が親族の女性と顔をほとんど合わせずに過ごしたものだから、誰か想像もできないんだ。でもこんな僕でも誰か心配してついててくれるのは素敵なことだね。」
ありがとうと改めて伝えて、その場を立ち去った。
そんなことがあったと、愚痴を言いながら、Photoshopで画像編集をしている。
バイト先ではない。
先輩と一緒に真澄さんの依頼で、コスプレイヤーの画像編集を時給で手伝っている。
指定されたフォルダのにメモで指示が書いてあり、フォルダ内に同じ名前に改と付けて保存してくのだ。
今やっているフォルダ名は日付+佐賀競馬場なので、フォルダの中に更にフォルダを作り名前は佐賀競馬場改とつけて保存していっている。
今日はコスプレの画像編集だが、先日は漫画の背景にするための写真ベースの画像編集だった。
理由は知らないが、先輩はえぐい写真の編集をさせられており、背中合わせで作業中時折こっちを向いてご覧とかちょっかいをかけられつつ、ゲンナリとした顔で担当している。
まぁ、モザイク処理が大半だからだろう。
「仕事が早くて助かっているよ、ありがとう。」
明るい笑顔の真澄さんから淹れてもらった紅茶はKUSMI TEA のサンクトペテルブルクで、アールグレイの香りとベリーが混ざって大変華やかである。無論味も完璧。
お茶請けは博多チョコレートショップのサブレで、好きなものを何枚でもどうぞと大盤振る舞いである。
最近できた縁からのバイトでは最上級である。
しかも真澄さんはATELIER BOZの黒いワンピースが良くお似合いで目に麗しい。
バイト代は弾んでくれるし、お願いって可愛く言ってくれる様は日中の出来事を吹き飛ばしてくれる。
たとえお願いされた画像が3桁弱でも。
ダンボールで出来た馬体とゴムの馬頭で、これを自然に仕上げてという無茶な依頼でも。
嗚呼ハリボテエレジー。
佐賀競馬場で撮影した分は終わって次のフォルダを開くと、え?と声が出た。
「どうしたの?」
真澄さんも先輩も後ろに立って覗き込んだ途端、真逆の反応が返る。
「アハ、ごめんね、これは私がやらなきゃいけないやつ。今入れ替えるね、えっと、マッチョのフォルダそっちに入れたからお願い。」
「興味深い。これは真澄くんが撮ったのかな」
先輩の弾んだ様子にうわぁと内心思ったが口に出さずとも顔に出ておりデコピンされた。
「水辺で撮ったから余計にね。映り込みやすいの。
興味ある?今やってるのは廃墟だからこっちの方がたくさんあるんだけれど。」
マウスを動かして開いたフォルダを先輩と僕が覗きこむ。
これは、うん、まずい。
真澄さんはペコちゃんみたいな顔で笑う。
「レンズ通すと顕著になっちゃうの。何でやろかねぇ?」
画像の中に不審な人影があちらこちらにいる、が。
人の後ろに立って居るのは、、、日中の会話が蘇る。
「これって守護霊ですか?」
真澄さんは首を傾げる。
「何なんやろうかねぇ?姉様に聞けばちゃんとわかるやろうけど。んー、黒っぽいしヤな感じやろうから、恨み持ってる怖いのじゃないかなぁ?死んでるか生きてるかはわからんけどねぇ。」
後ろにいるものが、守護をしてくれるものか、傷つけようと虎視眈々と狙っているものか、好奇心で覗き込んでいるものなのか。
それはわかる人にしかわからない。
だが、もし、守護をしてくれる存在ではないモノを肯定して周りに知らしめているとするならば、それはどのような事を招く事になるのか。
「真澄さん、もし良くない存在を、通り過ぎるだけのものを、肯定してしまった場合、本人にどんな影響があるんですか?」
先輩が後ろで嗤っている。
「それはもう、気付かれるねぇ。」
首を傾げた紅い二日月が酷く魅力的だった。
銀と黒の艶やかなネイルが、ジアンのティーカップにスミレの砂糖漬けを摘み上げてゆっくりと落とす。
「本人が気づかれないように軽く振り向くだけなら大体はこんなふうに」
表面張力が働く。
だが、そのまま2つ、3つとスミレが紅茶に踊りカップから琥珀がソーサーに流れていった。
「元々はソーサーにうつして飲んでいたのが今はカップからに変わっていったらしいの。あぁ、良い香り。」
うっとりと瞬きが蝶のように感じられて、ふと蝶は香りを追うというのを頭の隅で考えながら、自分の紅茶を手に取って1口飲んだ後に僕もスミレを下さいますか?とおねだりをしてみた。
勿論と紅茶に花と香りが広がり目を閉じて。
誰だったか通夜の席で仏様は香りを味わうのだから線香とお茶を絶やさぬよう言いつけられたのを思い起こす。
目線で、声で、そして人が近づけば必ずある香り。
それら全てで息を顰めているモノへ語りかけるならば。
どちらに影響を与えるのか。
「そのモノ次第だろう」
先輩のあいも変わらずサトリっぷりに眉を寄せて今は美味しい紅茶を味わう事にした。




