感染
悪意は感染する。
生きている人間は、生温かい意志がある。
だが、死んだ人間はどうだろうか。
冷たい意思があるのだろうか。
四十九日、魂はとどまっていると言う。
善良な魂の方が多いと信じたい。
しかし、人間と同じで悪しき意志を持った魂もあるのだろう。
死した人間の魂は、悪意に、感染するのだろうか?
同じゼミの女性が身内が亡くなったと嘆いていた。
歳若い姉だったそうだ。
長年付き合った恋人に裏切られて精神を病み、痩せ衰えて亡くなったと語っているのを、近くの席で聞いていると、彼女が振り返る。
目が淀んでいた。
薄暗く、痩けた頬で無理矢理笑顔を作る。
「ごめんね。こんな話聞かせちゃって。君はそんなんじゃないってちゃんとわかってるから」
先ほどから散々男はクソだと何度も言っていたので、気を遣ってくれたのだろう。
同級生の慰めを受け入れる彼女は、いつか前を向き、姉の死を受け入れるのか。
そんなことを思いながらバイトに入り、ぼんやりとしながらシフトを終えた。
今日は先輩とシフトが被っており、朝ご飯を一緒に食べようと誘われてファミレスのモーニングを頼んだ。
早朝である。
ドリンクバーでおかわりをしていると、ゼミの彼女が通りかかった。
光の下で見る彼女は日に日に痩せ衰えており、彼女の話す姉も同じだったのではないかと感じた。
「ずいぶんと遅かったじゃないか。女性を見ていたね。好みだったか、いや違う。知り合いかな?」
出たなサトリ。
相も変わらず見透かすような目線が刺さる。
ため息をつきながら心配なのだと、ゼミの話をした。
「彼女、のまれないといいけれどもね」
「のむとは」
「悪意に飲み込まれつつある目をしていた」
ゆっくりと、薄味のコーヒーを口にしながら立ち上がりグラスを2つ持ってきた。
湯気の立つ紅茶にゆっくりと氷をからんと2つ3つ転がしていく。
それに、ミルクを注ぎ入れた。
琥珀色と白が混ざりゆく。
「魂の温度が違ったとしても、低い方に流れる。そして温まっていた体が冷えてこうして混じり合う。巻き込まれないように気をつけたまえ」
そう言って笑う先輩は巻き込まれたことがあるのだろうか。
後日、メンタル的な問題で彼女が休学したと聞いた。
慰めていた友人が悲しそうに言葉を転がり落とした。
「お姉さんの看病で、もともとだいぶ参ってたみたいで。何があったか知らないけれども、お姉さんの元彼がお線香あげに来たって。
その時に暴れちゃったらしくて、休養がいるみたいで。お見舞いに行ったんだけど、会える状態じゃなかったの」
裏切った元恋人へ線香を上げに行く理由。
そして心を病んでしまった彼女。
誰が何に感染したのだろうか?
願わくば、彼女が早く回復できるよう心から思っている。




