25.私がすべきこと。
年末年始長期休みでした~~~また連載開始していこうと思います!今年もよろしくお願いします!
「それを聞いて、もし二人共の答えが『否』だったら、君はどうするんだ?アンジェラ」
ルーカス様の問いに私は目を伏せてしまう。
「偽りの愛ならば、認めることは出来ません。キャロルお義母さまとレイブンお義兄さまには家を出て行っていただくしかありません。…それだけではなく…」
私は思わずため息を吐いてしまう。察したアーサー様が言葉を続けてくださった。
「そうだね、アンジェラ。キャロル夫人とレイブンは、経歴詐称をしての婚姻詐欺、貴族への服毒という大罪に問われることになる。良くて懲役、最悪処刑だ」
「…そうですね」
「なんでそこで沈痛な面持ちになるのか俺には理解しかねるな…」
ルーカス様のお言葉に私はあいまいに笑って見せる。
「はぁ、わかってるよ。何度も聞いたからな」
私の頭をルーカス様は一回くしゃりと撫でる。お義母様の愛がたとえ虚構であろうと、お父さまのあの笑顔を引き出したことに感謝している。何度もルーカス様に伝えたその言葉をルーカス様は尊重してくださっているのだ。そのことがとてつもなく、嬉しい。
「正直、俺はキャロルとやらもレイブンとやらもめちゃくちゃ気に食わない。アンジェラへの扱いを考えたら、処刑でも足りないくらいだと思う。…でも、アンジェラが減刑を望むなら、辺境伯当主として王家に嘆願書を出すくらいのことはしてやる。だから、あまり気にするな。君の、その辛そうな顔を見ることが一番つらい」
頭のてっぺんにあったはずの大きな手が、そっと後頭部に降りてきて、そのまま私はルーカス様の胸の中に抱き寄せられた。
「何があっても、君の笑顔だけは守るから。安心して、アーサーに預けてみたらどうだ?」
王家預かりの話のことを言っているのだろう。正直、まだどれが正解なのかはわからない。でも、ルーカス様が守ると言ってくださるなら、預けてみろと進言してくださるのなら…信じないという選択肢は私にはない。
「…何もかも悪い方向に向かって私が泣いたら抱きしめてくださいますか」
「離してと言いたくなるまで抱きしめてやるさ」
どのくらいその腕の中にいたんだろう。でもルーカス様の腕の中に居たら、もやもやしていた気持ちは少しずつ消えて、どんどん思考がクリアになってきた。
今、私がすべきこと。しなければならないこと。
そっと、両手でルーカス様の胸を押すと、察してくれたルーカス様は私への拘束を弱めてくれた。甘やかな拘束から逃れた私はまっすぐにアーサー様を見つめて言葉を発した。スカートの裾を摘まみ、片ひざを折ってこの国の王太子に敬意を表する。
「…アークライト侯爵家嫡女、アンジェラ・アークライトよりアーサー・ロイヤル・ウェリントン殿下へ不躾ながらお願いがございます。…我が家への問題にお手を煩わせてしまい、不徳の致すところは弁明のしようもございません。しかしもし可能であるのであれば、王家の御助力を頂きたくここに頭を垂らせていただきとうございます」
「…しかと承った。王家の名に誓って必ずや解決してみせよう。―――だから、ねえ、アンジェラ?ほら、顔を上げて?」
目の前の平伏すべきお方は王太子から即座にいつものアーサー様の声音に戻った。言われるがまま顔を上げると。ぽんぽん、とその優しい手が私の頭に触れた。
「あんまり心配しないで?僕は確かに狡猾なところもあるけれども、中立を守る侯爵家に貸しを作って無理やりにでも王家に引き入れるような無粋なことはしないよ。せいぜい僕の治世になった時に裏切らないでね、という打算くらいしかない」
「もとより、殿下を裏切ろうだなんて微塵も思っておりませんわ。こんなに良くして頂いているのに」
その言葉を聞いて安心した、と目の前の王太子は眩しいくらいの笑顔を見せてくれた。
―――――
「不安か?」
アーサー様を見送った後、ルーカス様から少しお茶をしようと中庭のガゼボに誘われた。
隣り合って着席するなりそう聞いてきたルーカス様に私は頭を振る。
「…もうアーサー様にお預けいたしましたから。あとは信じて待とうと思います。私の願いはお父さまの記憶が戻ること。それが最優先ですから」
「…そうか」
少し落ち込み気味のルーカス様の表情に今度は私が尋ねる。
「ルーカス様?なにか不安なことでも?」
「解毒がうまくいって…お父君の記憶が戻ったら…」
ルーカス様はそこで言葉を切ると、まっすぐに私を見つめてきた。その手が膝の上に置いた私の手に伸ばされてきた。おもわずぴくり、と指が震える。
「アンジェラは…帰ってしまうんだろう?」
ごくり、と喉が鳴ったのが自分でもわかった。
わかっている。ここになんのために働きに来たのか。お父さまの記憶を取り戻すための医療費という名目できたのだから。だけどお給金はアークライト家には送金されず、しっかりと私がいただいているので、もはや意味はないのだけど。
でも、ここに置かせていただいているのはひとえに目の前のルーカス様の温情あってのこと。お父さまの記憶が未だ戻らぬままのアークライト家に私の居場所がないことを慮ってくださってのこと。
―――じゃあ、お父さまの記憶が戻ったら?
ここに置かせてもらう理由も何も無くなってしまう。そんなの…
「…いやです…」
ぽつり、と漏らしたそれがどんなに不躾で不遜な言葉かを悟って、はっと我に返ったのとルーカス様の力強い手が私の手を更に強く握ったのはほぼ同時だった。怒らせてしまった?あまりにも図々しい女だと思われた?隣に座るルーカス様の顔を見られないまま私はしどろもどろになりながら言葉を続ける。
「あ、いえ、えっと違うんです、ルーカス様…私あのっ!そんなおこがましい…不遜なことは…っ!やだ…何をいって…わた、くし…図々しいにもほどがあ…」
言葉はそこで途切れた。
気が付けば私は強く引きよせられ、そして気が付けば目の前にはルーカス様のお顔が。そしてさらに気が付けば、私の唇に触れる何か。
―――口づけを送られた、と気づいた時にはもうすでに唇は離れた後だった。
「…あ、え…?」
「悪い。抑えきれなかった。君が愛おしい、アンジェラ」
「えっ!?え?」
さすがに鈍感だとカリンに言われ続けてきた私だってわかる。好きでもない人に唇への口づけは送らない。頬とか手のひらとか、手の甲とか親愛を示す口づけは社交場のマナーとして存在するけれど…ええと…ええと…!?!?!?
「帰るな。俺も、アンジェラには帰ってほしくない。傍にいて欲しい」
「え、ええと…そ、そんなに私補佐として…優秀でした…?」
「話を逸らすな」
ルーカス様の真摯な目が、私をまっすぐに射抜く。
「だ、だって…それ以外に…ルーカス様が…私に帰ってほしくないだなんて思う理由が…」
「理由なんか一つしかないだろう?好いた女を手元に置いておきたいというのは立派な理由にならないか?俺は以前言ったからな?その鈍感さに付け込むと」
いうが早いか、つづけさまにルーカス様の唇が、私の頬に、鼻先に、瞼に、あちらこちらに降ってきた。
「!?!?!?!?!」
「ほら、鈍感さに付け込まれてるぞ、アンジェラ。俺の気持ちに気付かない限り止めないからな」
どこか楽しそうなルーカス様のお声に私はもう脳内がパンク寸前だ。
そのまま二回目の唇への口づけが来そうな寸前で私は両手で思いっきりルーカス様の胸を押す。けど、逞しく鍛え上げられたその屈強な体では、私の腕の力なんてアリが象にパンチするようなものだろう。
でも、どうやら彼の動きを止めるには一役は買ってくれたようで。
「わわわわわわわかりましたわ!!!!もう!!!もう!!十分すぎるほどわかりましたわ!!!!!」
精いっぱい、そう、声を出すのが精いっぱいだった。もう、脳内は大混乱、なのに。
「…ぶっ!」
真っ赤になりながらはた、と顔を上げるとそこには至極嬉しそうなルーカス様のお顔が。
「…そんなに赤面するのは初めて見たな」
嬉しそうに、そして照れながら美しい顔でそんなことをいうものだから。私の胸がまた大きく脈を打った。
「可愛いなぁ」
ほらまた。また胸がどくん、と。
可愛いなんて、初めて言われた言葉じゃないのに。今、ルーカス様から言われると全然違う。聞こえ方が全然違う。まるで…まるで、ルーカス様が私を…
「…好きだ。アンジェラ。君のことが一人の女性として好きだ。私を、君の一番近い男にしてくれないか?」
はにかみながら、それでも真摯に伝えてくるルーカス様。なにか言わないといけないのに、頭が真っ白になって言葉が出てこない。
なにか、なにか言わないとと思っていたそのとき。
「「こらーーーーーー!!!!!」」
向こうからものすごい勢いで走ってくる初老の男性と、可愛い黒髪の美女が。
「手を出すのは慎重になさい坊ちゃん!!!!」
「カスガはそこまでゆるしてないよぉぉ!!!???ルーカス様~~!!!」
ローガン様とカスガがめちゃくちゃ慌てながらルーカス様を私から引きはがした。




