26.パジャマ会
「も~~~ルーカス様、本当に油断も隙もない~~ね~ロー爺!」
「全くでございます。だいたい坊ちゃんのことだからアンジェラ様の返事を待つことなく手を出されてしまったんでしょうが!」
「だって…今まで同じ質問しても即答で「帰ります」って言ってたアンジェラが初めて…「いやです」…って」
「「だってじゃありません!!!」」
ガゼボのベンチに並んで座らされてる私とルーカス様。そして、私の隣に座るルーカス様は目の前の二人に叱られるたびに小さくなっていってしまわれている。
「あ…あの、カスガもローガン様も…私もその…拒絶しなかったと言いますか…なのでそんなルーカス様だけが悪いわけではないですし…それに…」
「「それに?」」
目の前の二人が合わせて先を促す。
「…あの、嫌では…なかったので…」
その言葉にルーカス様が勢いよく私の方を向いた。
「嫌じゃ…なかったのか?」
確かめるような、どこか懇願するような口調のルーカス様に私は思わず頷いてしまった。
そうか…と嬉しそうに破顔するルーカス様の表情に私はまた胸がドキリと跳ねる。
「え~~?それならなに?アンジェラはルーカス様のことが好きなの?」
カスガの問いに私は首を傾げる。
「え?ええ。大好きだけれど」
「…本当か??」
「いや、坊ちゃん。アンジェラ様に限ってはその言葉は『そっちの意味』が高いとは言えませんぞ」
ローガン様がすかさず突っ込まれるんだけど…。
「ええと、それは一体どういうことですの?」
怪訝になって尋ねると、ローガン様は質問に質問を返してきた。
「アンジェラ様は私やカスガのことも好きですか?」
「え?ええ。もちろん!ルーカス様と同じくらい大好きです」
「「「ほらやっぱりそういうこと!!!!」」」
「え?え??」
一気に三人の突っ込みが入ってしまって、私は思わずたじろいでしまう。
「は~~、よし、分かりました。ここはカスガが一肌脱ぎましょう。ルーカス様、もう夕方ですし、アンジェラ貰っていってもいいですか?ついでにもう早上がりしてもいいですか~?」
カスガがおもむろに立ち上がり、ルーカス様に暇の打診をしている。
「ああ、勿論構わないが…?何をするんだ?」
ルーカス様の問いに、カスガは一回不敵に笑って声高らかに宣言した。
「女子パジャマ会です~~~!!!」
―――――
私の部屋の大きなベッドの上にパジャマ姿の私とカスガとリカさんが集まった。
ちなみにパジャマ、というのはトゥーケ国の寝間着のことだ。私はナイトドレスを着ていたのだけれど、リカさんがパジャマというものを貸してくれた。リカさん本当に衣装持ち。
「初めて着たわ…これがパジャマ…」
この国で貴族女性が普段眠るときに使っているナイトドレスは足首まであるシルクでできたロングドレス。その下にドロワーズを履いて眠るというのが一般的なのだけれど。
パジャマはシルクで出ているのではなく、綿でできているとのことだった。シャツのような形状の上着が腰まであって、そして腰から下は男性が着るようなゆったりとしたズボンを着る。
でも、どんな動きをしても下着が見える心配をしないでいいし、なにより全身を包まれている安心感がある。
「ふふっ、アンジェちゃん可愛い」
そういうリカさんはトゥーケ国のお父さまとここブリスデン王国のお母さまを持つハーフだ。お父さま譲りの黒い瞳にこの国では一般的なブロンドの髪色をしている。どちらの血も混ざっている故か、とてもエキゾチックな顔立ちをした美女だ。
カスガとまた違ったタイプで、カスガが妹っぽいというのであれば、リカさんはどちらかというといつもお姉さんっぽい。
「さ~、アンジェラ、リカ~ごろんしてお酒でも飲みながら話そう~」
カスガがそう言って、どこか悪いことをしている気分になりながらもドキドキして私は二人の真似をしてベッドの上にうつぶせになって彼女たちと向かい合った。
「ふふ、ベッド汚してしまったらどうしましょう」
「その時はその時よ、アンジェちゃん。わたしたちプロのメイドがいるんだから安心して?」
「そうそう~リカの言う通り!料理長がこうやって零れても大丈夫なように大きな受け皿を用意してくれたんだから~楽しもう~」
カスガの言う通り、私たちの真中には大きな桶のような受け皿があり、その中にコップが三つとお酒に遭うおつまみが置いてある。これなら零れても直接シーツにかかることはないだろう。
「で?今日はなんの会なの?」
リカさんの言葉ににっこりしながらカスガが言う。
「そりゃ~、アンジェラに自分の気持ちを自覚してもらうための会だよ~」
「私の気持ちを自覚?」
こてん?と首を傾げながら問いかけると、カスガはその大きな黒目を爛々と輝かせながら言った。
「そうだよ!アンジェラのルーカス様への気持ち!」
「ええと、好きよ?」
「ちが~~~う!そんな!そんなライトな感じじゃなくてさぁ」
カスガが頭を抱えだして大げさに唸るものだから笑ってしまう。横から口を挟んだのはリカさんだった。
「ねぇ?アンジェちゃん?その好きってのはどういう形の好き?」
「どういう形の?というと…?」
私の問いにリカさんがふふ、と妖艶な笑みを浮かべる。ああ、なんて美人さん。
「恋愛であるか、そうでないか?ってこと」
「……」
返事に窮してしまう。私だって多少箱入りだけれど、恋愛の意味くらい分かる。
「そうそう!そこをね、はっきりさせてあげないと、ルーカス様かわいそうだよ~~アンジェラ~」
「う…ん、わかってるのだけど…ほら。ええと、私腐っても一応こんな感じでも貴族令嬢として心構えだけは育てられたんですの…」
「「???」」
カスガとリカさんの顔に疑問符が浮かび上がる。
「お父さまは、好いた殿方と結婚していいよと常日頃からおっしゃってくださってはいたんだけれど、でも、どうしようもない時は婿を迎え入れる可能性を心のどこかに置いていてくれ…って言われて育ったんですの」
うんうん、と丁寧に相槌を打ってくださる目の前の二人が好もしい。
「貴族令嬢としてそれは当たり前のことで…私はお母さまを亡くしてからお父さまと支え合って生きていきたいと思っていましたから、いくら好いた殿方と結婚していいよと言われても考えたことがないというか。最初からあまり恋愛を意識したことが無くってですね…殿方をそういう目で見たことが一度もないんですの。なので、ルーカス様のことは本当に好いているんですが、これが果たして恋愛の愛情なのか…区別がつかないというのが本音です」
「あらぁ…意外と拗らせているのかと思いきや、ただ単に純粋培養された弊害だったのねぇ…」
リカさんがぽつりとつぶやいて、カスガがうんうんと頷いている。
「ねえねえ、じゃあちなみにさ?ルーカス様がアンジェラを恋愛の意味で好いていることは伝わってるの~?」
カスガの問いに、私はぽんっと顔を赤らめてしまう。昼間のアレを思い出してしまったからだ。嫌でもわかってしまった私はこくり、と頷いた。
「あら、伝わってるみたいね、良かったわねルーカス様」
「うんうん~さすがにこれだけ攻めてて意識されてないとなったらルーカス様不憫~~」
「で、でも…本当にいつからなんだろう…って感じなんですの。全然そんなそぶりなんか見せてくださらなかったのに」
赤み引かぬ頬を押さえながら言うと。
「「いやいやいやいやいやいや」」
カスガとリカさんの声がハモる。
「いつからって言うんなら、カスガがアンジェラを最初に磨いてあげた時に、ルーカス様がお酒に誘ったってロー爺から聞いたんだけど~~そこらへんだと思うよ~~」
「ええっ!?」
今度は私が頓狂な声を出す番だった。え?それって割とここにきて初期の方ではなかったかしら。
「ルーカス様が、自分から女性をお酒の席に誘うって、カスガくらいだものね」
「そうそう、それもロー爺と絶対一緒だし。ロー爺とカスガに愚痴りたいときだけだもん~~愚痴り要員で呼ばれるだけだから~あんな風にお酒を楽しむために女性を誘ったなんて初めて聞いた~」
「そ…そうなの?全く気付かなかったわ…」
「それはそれでルーカス様不憫ね…」
「ね~~~。あれだけあからさまに貢いだり一緒にご飯食べたりデート誘ったりしてたのに~」
うう…面目ないわ…こういうことと無縁で過ごしてきたから…ってのは言い訳にもならないけれど言い訳させてほしい…
「で?アンジェラの気持ちなんだけど…そうねぇ…あれほどの美丈夫っていうと…アーサー王太子殿下あたりかしら?ねえ、アンジェラ?アーサー殿下って格好いいわよね?」
リカさんの言葉に私は素直に頷く。
「血縁関係にあるし、ルーカス様ともお顔立ち似てるじゃない?」
こくこく、と言われるがまま頷く。
「それなら、想像してみて?アーサー殿下があなたに口づけたらどう?」
えっ、なにかしらその唐突な質問…。
「わけわからないって顔してる~~~まぁ、リカの言う通り想像してみてよ~~妃殿下がいない設定でね~」
そ、それって大丈夫かしら?不敬罪とかにならないかしら?…とは考えてみたものの、とりあえず想像してみる。
…アーサー様が私に口づけ。
「…。…。…、なんか、想像…してみましたけど…代わりに何かを要求されそうな…」
「ぶはっ!」
「ふふっ!」
目の前の美女二人が噴き出す。確かに、結構狡猾そうな顔してるものね、とリカさんが言ってるけど、不敬罪不敬罪。
「じゃあ次だよ~~?アンジェラ~~。ルーカス様に口づけされたらって考えて~」
ルーカス様との口づ…ってもうそこで私はダメだった。
体中の皮膚が急に熱を持つ。頬どころじゃない、全身が熱くなる。思い出してしまって照れているのか恥ずかしいのかわからないけど、これだけは言える。
「う…嬉しい…わ」
言いながら声が小さくなってしまう。そんな私を目の前の二人はにこにこ…いや、によによしながら見ている。
「それが答えなんじゃな~い?アンジェラ~?どっからどう見ても、アンジェラの今の姿はルーカス様に恋してる乙女だよ~」
カスガの言葉に、私は即座に自分の気持ちを認めて首を縦に振るしかなかった。




