22.ご主人様はやっぱり貢ぎ体質
「アンジェラ~、入るよー。ルーカス様も一緒だけど大丈夫~?」
アーサー様の来訪があってから一週間ほどたったある日、カスガが朝一番に私の部屋を訪ねてきた。
とりあえずまだ買っていただいた服が届いていないので、メイド服で仕事をしている。しばらく来客はなかったので問題はなかった。
今日もメイド服に着替え終わって、軽くメイクもしてさあ朝ごはんを食べに行こう、というときの訪問だった。
「あら、カスガ。おはよう。ええ、大丈夫よ」
「じゃ、失礼するね~おはよーアンジェラ」
「おはよう、アンジェラ」
部屋に入ってきた二人からの挨拶を受け、私も返事をする。
「どうなさいました?」
カスガはともかく、ルーカス様まで私の部屋に来られるのは珍しい。
「ん?ああ、やっと服やらなんやらが届いたもんでな。おーい、持ってきてくれ」
はーい、という声と共に、次々と服が運び込まれてくる。オートクチュールのドレスはまだしも、既製品のドレスも一つ一つ私の体形に合わせて手直ししていただいたため、配達まで時間が掛かったのだ。と言っても購入してからこれだけの数を一週間で納品ってすごいことじゃないのかしら…。
「それにしても…こんな購入しましたっけ…?」
次々に運び込まれるドレスやアクセサリーや靴に首を傾げてしまう。どう考えても、ドレスも靴もアクセサリーも購入したものの二倍の量がある。
「ああ~、それね~ルーカス様が追加で電報打ってアホみたいに購入してたの~」
「だって、足りないだろう?あの時何着買った?」
「十着くらいですかね~?」
「十着じゃ十日あったら終わっちゃうじゃないか」
「ルーカス様は全部で何着持ってるんですか~~?」
「ん゛…っ、じゅ、十着くらい?」
「十日で終わってますか~~?お仕事も毎回毎回同じの着て~。ロー爺がもう少し服を買わないとデートにも行けないと嘆いてましたよ~~」
「男は良いんだよ。着飾ってもつまらんからな」
言葉の応酬を繰り広げながら、カスガとルーカス様が次々とドレスの箱を開けてクローゼットへとしまっていく。え…ええ、と、当主様にそんなことまでさせていいのかしら…??
「おい、カスガ、ドレスもう入らないぞ。あと、ネックレス類はどこにしまうんだ??」
「ああ、そうですね~~ここは使用人部屋ですから、クローゼットもドレッサーも小さいですもんね~なんなら、今はアンジェラ旦那様付き使用人なんだから旦那様の部屋がある階に移動したらいいんじゃないですか~?家人用の部屋、いくつも余ってたでしょう~?」
「まあ、クローゼットもこれじゃなぁ。よし、じゃあローガンに伝えてきてくれカスガ」
「あいあいさ~~~!」
ううん!私のことまるっと無視して話が進んで行ってしまっているわ…!
「あの、ルーカス様?家人のお部屋って…」
「ん?ああ、俺の居住する四階は家人用の階なんだ。父上と母上の部屋もそこなんだが、当の本人たちはいないしな。だが、ローガンも同じ階だし、俺とお前だけというわけじゃないから、あまり気にするな。あと、そっちのほうが、仕事もしやすい。君に連絡があるとき俺が不必要に使用人部屋の階をうろうろするのも憚られるしな」
「…そういう、ことでしたら」
とは言いながらもなんだか異例の昇進…?他の使用人の人たちとか良いのかしら?あとから来た人間がこんな好待遇を受けていて、嫌な気分になったりしないのかしら?
「たぶん、今何を考えてるかだいたいわかるが」
そんな私の思考を見透かしたかのようにルーカス様はくつくつと笑いながら言われた。
「…久しぶりに浮ついてるこの家の独身主義者だった主人を見て、使用人一同君のこと全推しらしいぞ。あと出自についてもいくらかカスガが説明したらしいからな。それに加えてその才女っぷり。俺も最初気になってカスガに尋ねたが、『あんな非の打ちどころのなくて正確素直で可愛くて可愛くて垂涎ものの才女を推す人間こそいるものの、妬むような浅い人間がいると思われるとは我々使用人は旦那様に見くびられたものですね』とか喧嘩腰で言われた」
「喧嘩腰」
「ま、そういうわけだから気にするな」
―――ええと、褒められているという認識でいていいのよね?
はあ…と、なんだか曖昧な返事をしそうになった時、ちょうど、カスガがローガン様を連れて部屋へ帰ってきた。
「坊ちゃま、アンジェラ様のお部屋を移動なさるとカスガから聞いたのですが」
「ああ、一応お前にも伝えておかなければと思って。いいだろうか?」
「ええ、ええ!勿論でございます。なるほど。心がなかなか近づかないからまずは物理的にですね!!!」
「オイコラ」
「アンジェラ様。ではさっそく四階に参りましょう。カスガ、リカを連れてきてください。せっかくドレスが届いたので二人でアンジェラ様の身支度をお願いします」
「あいあいさ~~~!」
そういってカスガは部屋を飛び出していった。
あれから荷物を四階に運びなおし、私はカスガとリカさんに手伝ってもらって仕事用のドレスに着替え、メイクを施してもらった。自分でできるというけれど頼むから着飾らせてくれと全然聞いてくれないんだもの。
――――
「あの、ルーカス様??」
さっきから落ち着かない。なんかずうっとルーカス様に見られている気がする。
今日はルーカス様は一週間ぶりの内勤だ。アーサー様が来られた翌日からずっと領地内の視察や登城など外回りの業務に追われていたらしい。
「どうした?アンジェラ」
「あの、なんだか、…視線がこちらに向いているような気がして」
「ああ、…ドレスが似合っていて嬉しいんだ」
「あ!すみません!届いてからお礼を言ってなかったですわね!!!私としたことが…!」
感謝の言葉をきっとお待ちになっていたのね。失礼なことをしてしまったわ。
「ち、違う!!!感謝はたくさんもらったからもういい。いや、本当に…可愛いな、と思って」
確かに可愛い。フリルスタンドカラーの白を基調とした紺色ストライプのドレス。袖はふわりとバルーンタイプになっていて、胸元にはシンプルにブルーのリボンがあしらってある。ウエストから下は切り返しになっており、暗めのマスタードイエローのボリュームのあるAラインのスカートになっている。社交界に着ていくほど華やかなものではないけれど、本当に上品なデイリーのドレスだ。
「まぁ…嬉しいですわ。ルーカス様が贈ってくださったものですもの。お見立てがいいのは間違いないですわ」
「相変わらず伝わりませんねぇ」
「ローガーーーーン」
「私の名前を使ってショックを受けたみたいに言わないでください坊ちゃん。アンジェラ様、男というのは好いた女性を自分の財力で着飾らせることが出来た時、嬉しいものなんですよ」
「うふふ、私も大好きなルーカス様から着飾っていただけて嬉しいですわ」
「ほっほっほ、いっそのこと伝わらなさ過ぎて清々しいですねぇ」
伝わっているのだけれどなぁ?と私は思う。きちんと自分に向けられている好意はきちんと受け入れているつもりなんだけど、なぜ伝わっていないと思われるのだろう???ルーカス様の好意は勿論、ローガン様やカスガ、リカさんからもきちんと好意をいただいて、私も好意をお返ししていると思うのだけれど。
私がキョトンとしているのに気づかれたローガン様が苦笑される。
「ま、いろんな好きの種類があるということでございます。さて!本日も書類が山積みですよ!よろしくお願い致しますね、坊ちゃま、アンジェラ様」
おう、という声とはい、という声が執務室に響いた。
「アンジェラ、夕飯を食べに出ないか?」
夕方執務もあらかた終わり、片づけを済ませてから部屋に戻ろうとした私にルーカス様が声を掛けた。
「夕飯をって…お外にですか?」
「ああ、チーズが好きだと言っていただろう?チーズ料理の専門店があるんだ。行ってみないか?」
「まぁ…!なんて素敵なお誘い!…いいのですか?」
「ああ。いいだろうか?ローガン」
「勿論でございます。山山羊亭ですね。それでは馬車を用意してまいりますね。坊ちゃんもアンジェラ様も少々お待ちください」
そう言ってローガン様はそそくさと部屋を出て行った。もちろん未婚の男女二人きりになったので扉は開けっ放し。
「ドレスコードなんかはないんですの?」
「ああ、お互いに今着ているもので充分なくらいだ。あと山山羊亭は全部個室だから、さほど服装には気を遣わなくていい」
「そうなんですね。ふふ、外食なんて久しぶりです。楽しみですわ」
「―――あなたを今夜エスコートする名誉をいただけますか?レディー?」
不意に。本当に不意に、そんな言葉がルーカス様から出てきて、私はびっくりしてしまった。
またいつもみたいにおどけてらっしゃるのかと思ってルーカス様を見ると。その美しい瞳には確かに熱と真剣さがこもっていて。差し出された手も、まるで緊張しているかのように見えてしまって。
―――冗談で返しては、失礼に当たるわ。
直感でそう感じる。
「…喜んで。よろしくお願い致します」
私は彼の手にそっと自分の手を重ねた。
触れたルーカス様の手は、一瞬ひんやりしていたけれど、すぐに熱を持ち始めて行った。
チーズ専門店行きたいぃ




