14.ご主人様は貢ぎ体質??
「ルーカス様~、このドレスにはこっちがいいです~」
「おうおう、買っとけ」
「あと、やっぱりハイヒールは5足は必要だと思うのですが~」
「いや、それで足りるのか?」
「とりあえずは大丈夫です~あ、でもドレスの下のシークレットブーツとか、普段のヒールがない靴とかも買っていいですか~」
「全部買っていいぞ」
うん、これだけ聞くと、カスガがルーカス様におねだりして、それを気前よく買っている図なんだけど。まあ、曲がりなりにも私も侯爵令嬢。それなりにこういう買い方はしていたけれど。
目の前にはこれでもかというくらいの箱が積まれていく。ドレスはオーダーメイドで、あとから屋敷に届けられるらしい。
目の前の荷物がすべて私の物だとおもうとさすがにくらりとした。
私は豊かに与えられてはいたけれど、ここまで湯水のようにお金を使うことはなかった。せいぜい夜会前にドレスを新調するくらい。
その他はずっと屋敷で本を読んだり、気の合う令嬢たちとお茶会をしていたくらいだもの。そのときもわざわざ新調するようなことはなかった。
「あの…買い過ぎでは?」
「「まだまだ」」
私の言葉にカスガとルーカス様は声を揃えて否定してきた。
「だいたい、アンジェラは着られる服なんて一着も持ってきてないんだもん~」
「そうそう。今日出かけると言って、俺の前にあのぼろぼろの服で来たときはさすがにびっくりした。母上の若い時のワンピースが入ってよかったな…」
「でも…さすがにこんなに買っていただくのは少々罪悪感を感じますわ」
「ルーカス様はね~、気に入った人とか動物には湯水のようにお金を使うからね~~諦めたほうがいいよアンジェラ。たぶんずっと貢がれるよ~。大丈夫大丈夫、ルーカス様お金だけはアホみたいに持ってるから貢がせちゃえ~」
「おい、主人への扱いを改めろお前は」
カスガとルーカス様の応酬にはくすくすと笑ってしまうん、だけど。
「ある程度で、大丈夫ですからね?ルーカス様」
「おう、わかってるさ。あ、あのネックレスと指輪も色違いで買うのはどうだ?アンジェラは、どの色がいい?」
「ふふ、見事に聞いてくださってませんね。そうですね。アイスブルーと、このライトグレーのものが好きです」
カスガが横から覗き込んでにやり、とする。??どうしたのかしら??
「へええ〜ルーカス様の色だね〜!」
「ふふ、そうなの。ルーカス様のお色味とても綺麗なんですもの。身につけておきたいわ」
カスガに笑いながら言うと、カスガはその顔に満面の笑みを浮かべて言った。
「だって、ルーカス様〜よかったね〜!」
だが、いつまで経っても返事がない。不思議になってルーカス様を見ると。
「ルーカス様?お顔が真っ赤ですわ…?どうなさいました?お具合がよろしくないのでは?」
失礼します、と言って私はルーカス様の両頬を手で包み込んだ。
「ングゥッ?!?!」
まあ、カエルみたいなお声を出されたわ。本当に具合が悪いのではないかしら??
そのままつま先立ちになると、ルーカス様は自然と屈む体制になってくれる。そのまま顔を近づけ、こつん、と額と額を合わせる。
「お熱は…無いようですが、若干火照っていますわ。お店が暑いですか?お疲れになったのでは?」
こてん、と首を傾げながら問うと。ルーカスさまは完全に石像と化していた。
「る?!ルーカス様?!」
慌てて失礼だとは思いながらも伸ばしていた手で頬を優しく叩く。
「ちょ、まっ、も、やめ、…っ!カスガ!!にやにやすんな!!!」
「えーだってこんな翻弄されるルーカス様とか超珍しくって〜!カスガいつまでも見てられます〜。ロー爺も連れてくればよかった〜」
「ロー爺ってローガン様?」
「そうそう~」
「アンジェラ!話す前に手を、ちょっと手を離してくれ…!俺は大丈夫だから!」
「あら、失礼いたしましたわ。ルーカス様。本当に大丈夫ですか?」
手を離しながらの私の問いかけにルーカス様はこくこくこくと頷いてくださったので、とりあえずはほっとする。
「そ、その今言った宝石も、つ、包んでくれ…っ!」
「かしこまりました」
店員さんが嬉しそうにニヨニヨしながら包んでくれる。ん?なんでそんな微笑ましいものを見る目なのかしら。
―――――
「君は稀代の悪女かなにかなのか???!!!」
お店を出た途端にルーカス様が物騒なことを言い出した。
「ええと、産まれてからこの方悪女と言われたことはありませんけれど…」
「にしてもだ!アンジェラ!あんなに不用意に男の肌に触れるものではない!」
ルーカス様がぷんぷんしてらっしゃるわ。ふふ、可愛い。
「でも、ルーカス様のお肌、とても綺麗でしたわ。何か特別なものを使ってらっしゃる?」
「人の話聞いてたか!?」
「ふふ、聞いてますわ。私だって誰でも彼でも殿方のお肌に触れるわけではありませんわよ?ルーカス様だから安心して触れられるのです」
「まだ出会って二週間ちょっとだろう!?簡単に人を信用しすぎだ!」
「違いますよ、ルーカス様だから信用してるんです。あ、もちろんカスガもよ」
「ふふ~アンジェラありがと~」
「………あの、レイブンという男にもこんな風に触れたりしたのか?」
「お義兄さまですか?」
私はびっくりしてしまう。どうしてここでお義兄さまの話が出てくるのだろう。
「かなりの美丈夫だったらしいじゃないか。…その、やはり今みたいに触れたりしたのか?」
なぜか視線を逸らせながらルーカス様が聞いてくる。
「お義兄さまには指一分触れていませんわ。だって、多分私信用していませんもの」
「「ん゛ん゛!?!?!?!?!」」
ルーカス様とカスガが目をぐりんと大きく開いて私を見る。
「嘘、だろ???信用してないならなぜあいつらのいいなりになっていたんだ?」
「言いなり?にはなっていませんけど…ええとあいつらというと、お義母様とお義兄さまですか?私は確かにお義母さまとお義兄さまと仲良くなりたいと思って行動していました。でも、信用しているかというとそうではないのかな…と。なんでしょうね…理屈では説明できないんですが…」
私はううむと口元に拳を作って考える。どう考えてもこれ以外答えがない。
「…なんとなく?」
こてん、と首を傾げると、ルーカス様ははあああ…と肩を落とされた。
「本能はしっかり機能しているようで良かったが…」
「カスガも同感です~…」
「…とにもかくにもだ!男性に気軽に触れるものじゃない!」
「え…っ」
「え…っ?とは」
私はしょぼんとしてしまう。
「…ルーカス様にも、触れてはダメなんです…?」
「だ…っ!!だめにきま…っては、ない、が…っ」
「苦しい、苦しいですよ~ルーカス様~。ここは素直になるべきです~」
カスガの言葉にルーカス様はんぐっと声を詰まらせる。あまりにもルーカス様が苦渋の決断を強いられるようなお顔をしているため、私は即座に反省した。
「ごめんなさい。ルーカス様…やっぱりお嫌でしたわよね。今度から気を付けます。私、すっかり甘えん坊になっていたみたい。ルーカス様だったら許してくださるかな、とか打算的なことも考えていましたわ。…今後は気を付けます。本当に申し訳ございませんでした」
そう言ってぺこりと頭を下げると。
「ほら~~~ルーカス様~~~!?淑女にこんなこと言わせるつもり~??正直いまのアンジェラのほうがよっぽど豪胆ですよ~」
「わ!わかってる!違う。アンジェラ、違うんだ」
ルーカス様が真っ赤になって、それでも視線をそらさず私の目を見て言ってくれる。ふふ、こういうところがこの御方は本当に好もしいの。
「君になら…いい」
「え?」
小さすぎてあまり聞き取れなかったので聞き返すと。
「君になら、触られてもいい」
今度ははっきりとしたルーカス様の声が聞こえ、私はたちまち嬉しくなって破顔する。
「…はいっ!!!!」
ルーカス様のお顔がさらに赤くなってしまったわ…。




