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壊滅からの反撃




 親ドラゴン討伐戦の朝がやってきた。


 手順としては子ドラゴンと同じだ。


 魔法でおとなしくさせておいてドラッヘファウストを撃ち込むのだが、チュプちゃんがいないので睡眠の魔法は使えない。


 ミハエラ姉さんの鎮静の魔法だけで少しの間でいいからドラゴンをおとなしくさせておいて、ちゃちゃ先輩、マヤちゃん、僕の3人がドラッヘファウストを撃ち――そのあとはノープランだ。


 ドラゴンのHPと、ドラッヘファウストのダメージ量だけ見て、そのまま撤退ということもありうる。


「カーム」


 魔法の鎮静剤は麻酔と睡眠剤を合わせたような効果を持つ。


 ミハエラ姉さんがかざした手から光が伸び、巣で丸まっているドラゴンを包んだ。


「いまだぢぇ、撃て!」


 ドラッヘファウストの発射音が響く。


 3発分が1まとめになったせいだ。


 銃弾よりは遅くて目で追えそうな速さだが、親ドラゴンの全長は50メートルを超えているから外れるわけがない――と思っていたのだが、命中する寸前、いきなり尾が振られて薙ぎ払われた。


 そして、いままで丸まっていたドラゴンは四つ足を踏ん張って、こっちを睨んでいる。


 高速移動というより、瞬間移動に近い。


 この巨体で、ここまで速く動けるとは。


「て、撤退するぢぇ、これは想定外だぢぇ」


 ちゃちゃ先輩が焦った声を出すのははじめて聞く気がする。


 ただ、指揮としては絶対に正しい。


 確かに想定外の事態となっている――チュプちゃんの魔法がない分、ミハエラ姉さんだけでは危機が薄いだろうと予想していたけど、まったく効かないとは思わなかった。


 ドラッヘファウストも3発も撃つのだから、外れるものも出るかもしれないとは予想していたけど、全部が外れるとは思ってなかったのだ。


 これはもうバトルにならない。


 急いで撤退しようとした僕たちに、さらに想定外の事態が続く。


 ドラゴンは一気に襲いかかってきて、魔法を確実に届かせるため少し前にいたミハエラ姉さんを狙ってきたのだ。


「おまえらは先に逃げろ!」


 ちゃちゃ先輩がミハエラ姉さんを助けようと剣を抜きながら突っ込んでいった。


 一緒に戦うとか、先輩も逃げたほうがいいとか、もう遅いとか、いろいろ頭の中で言葉がゴチャゴチャと乱れ飛んでいたけど、それを打ち消すようにマヤちゃんが僕の手を引っぱる。


「早く逃げるよ」


「でも……」


「私の指示に従って! お願い!」


 昨夜もマヤちゃんから指示に従ってもらいたいと言われたけど、僕のほうはそれを認めたつもりはない。


 ただ、その後に続けられたお願いという言葉の切実な響きに負けた。


 なにか奇跡的な出来事が起きて、かろうじて2人が助かるなんて展開はない。


 現実は残酷だ。


 奇跡はほとんど起きないからこそ奇跡なんだし、僕が願ったところで映画のようなストーリーにはならない。


 4人でやってきた洞窟を2人で逃げ出す。


 だが、予想外の事態は終わってなかった。


 ドラゴンが追ってきたのだ――同時にそれはミハエラ姉さんが倒され、ちゃちゃ先輩もかなわなかったということだ。


 視界の端に表示されているキルログでミハエラ姉さんとちゃちゃ先輩の死亡を確認。


 洞窟を抜けて森には入れば、それ以上は追ってこないのではないかという希望はすぐに砕かれた。


 ドラゴンは洞窟から出て、森でも追ってきたのだ。


 マヤちゃんが僕を押し出し、自分は迎え撃つような構えを見せた。


「音乃、逃げて!」


「そんなこと……」


 2人で立ち向かったところで勝ち目はないのに、1人で戦おうというのは無謀どころじゃない。


 ちゃちゃ先輩もミハエラ姉さんも死んだ。


 負けイベント確定。


 だったら、ここで2人であがいてみてもいいじゃないか。


 いきなりマヤちゃんが抱きついてきた。


「私の最強の武器を使うから、たぶん倒せる。だけど、ダメだったら……」


 その瞬間、くらっと意識が飛びそうになった。


 視界の端に睡眠、鎮静、麻痺のバッドステータスが真っ赤に光る。


「なにを……」


「死んだ場合のリスクがわからないから、いまは生き残ってちょうだい。だいじょうぶなら、なんとか連絡するから」


 マヤちゃんの右手には注射器があった。


 前に見た大きいものではなく、一般的な病院で使ったいるようなものだ。


 麻酔薬とか、睡眠薬とか、そんなものを打たれたらしい。


 みっしりと茂った藪の中に運ばれた――ドラゴンの目を誤魔化せるのか?


 体が動かないまま捕食されるとか、勘弁してもらいたいんだけど。


 なくなりそうな意識を必死に保ちながら、なんとか目を開けているとマヤちゃんがインベントリがあの巨大注射器を取り出した。


 覚えているのはそこまで。


 どんな強力な薬なのか完全に意識を飛ばされた。




 そして、目を覚ましたときにはすべてが終わっていたのだ。


 キルログにマヤちゃんの死亡が表示されている。


 ドラゴンはいなくなっていた。


 これからどうしたらいい?


 混乱しながらも家に戻る。


 誰もいない森の中の集落。


 とうとう1人になった。


 続けるのなら、僕だけでドラゴンを倒すことになるけど――絶対に無理。


 いや、そんなふうに最初から諦めてしまったら僕を生かそうとしたマヤちゃんに申し訳ないな。


 とりあえず僕の家にはドラゴンを倒す秘密兵器はないし、いまあるものを進化させたところで突破口があるとは思えなかった。


 他のメンバーの家も勝手に入ってキャビネットの中身を調べてみるけど、これといって感じるものはない。


 最後にマヤちゃんの家でキャビネットをあさる。


 TNTがぎっしり詰まった爆薬のキャビネットは3つもあって、どれだけ爆薬をためこめば気がすむのかな?


 黒色火薬や無煙火薬、綿火薬など、火薬のキャビネットはべつにあって、どんだけ爆発物が好きなのかと思ってしまう。


 薬品ばかり入っているキャビネットには毒もいろいろあった。


 触って調べてみると最強はテトロドトキシンだ。


 確かフグの毒だったはず。


 リアルの世界でのフグは毒を含んだ部位を食べない限り安全だけど、この世界のフグはモンスター扱いで、海の中に入ると襲ってくることがある。


 しかも噛まれると毒にやられて麻痺のバッドステータスのせいで体の動きが極端に悪くなり、定期的にHPが減っていく。


 効果的な解毒剤はなく、時間経過でなおるんだけど……海中で襲われて麻痺状態で岸まで泳ぐのはほとんど不可能で、たいてい死ぬ。


 まあ、海岸にかなり近いところであれば毒がまわって麻痺がはじまる前に戻って砂浜でしばらく寝てれば助かるんだけどね。


 あの巨大注射器でドラゴンに使った毒はきっとこれだ。


 大量の魚の死骸も、あれはフグからテトロドトキシンを抽出していたのだろう。


 しかし……だとすると、マヤちゃんはドラゴンに注射したけど、その毒がまわりきらないうちに死亡したのかもしれない。


 武器で攻撃するのと違って毒は即効性がないのだ。


 これは確認する必要がある。


 すぐに洞窟の近くを見てまわったけど、ドラゴンの死体はなかった。


 ちょっと躊躇ったけど、そっと洞窟の中に入ってみた。


 ドラゴンは巣の中に横たわっている。


 HPバーを確認すると、すぐ下に毒と麻痺のバッドステータスがついていた。


 そのHPバーも1/3も残ってない。


 これなら……ひょっとした殺せる?


 バッドステータスが抜けたら、たぶん回復するだろう。


 やるならいましかない。


 慌てて集落まで戻った。


「戦争の準備だぞー、ボク1人だけの戦争だぞー!」


 叫びながら自分で自分に勢いをつける。


 試作の大砲と砲弾をインベントリに放り込む。


「37ミリ砲と、徹甲弾が10発だぞー! やるぞ、やるぞ、やるぞ!」


 今度はマヤちゃんの家にいく。


 今日のためにドラッヘファウストは5発用意されていて、3発は撃ってしまったが、予備の2発はマヤちゃんと僕が1発ずつ持っていた。


 だから、最後の1発は僕のインベントリにある。


 爆薬を詰め込んだキャビネットからTNTを持ち出せるだけ持ち出した。


 それから……持ち出したら後で怒られそうだけど、ちゃちゃ先輩のところから子ドラゴンの革鎧を借りた。


 もしロストしたら親ドラゴンの革で弁償するということで――お願いしますから親ドラゴンの革がドロップしますように。


「これで勝負だー!」


 すぐに洞窟に引き返し、入り口の近くにTNTを積んでいく。


 本当は巣に近い場所のほうがいいのかもしれないけど、作業中に襲われたらおしまいだ。


 僕1人だけだから見張りを立てることもできないし。


「導火線をつないでー」


 準備ができると、インベントリからドラッヘファウストを取り出し、洞窟の奥へ。


 ちょっとでも動きを止めると、いろいろネガティブなことを考えてしまって怖くなるので、勢いよく射程圏内まで近づき、巣で丸まっているドラゴンを狙って撃った。


「着弾、いまー!」


 命中したかどうかも確認せず、大きな声で叫んだ。


 景気づけだ。


 どうせ動かない電車2両分はある大きな的を外すわけないし。


 もちろん、ドラッヘファウストの弾頭はドラゴンに命中し、背中で派手に爆発した。


「ぐうぅぅぅぅぁぁぁぁぁーーーーーー」


 ドラゴンが叫んで、こっちを見た。


 その瞬間、体が硬直しそうになるが、無理にドラッヘファウストの筒を振りまわした。


「勝負だっー!」


 そして、逃げ出す。


 ドラゴンは追ってくるが、やはり毒の影響があって速くは走れないようだ。


 背中の向こうで大きく息を吸う音がする。


 ぼわーん、と後ろから炎が迫ってきて、ものすごい勢いで通り過ぎていく。


 最初のときより弱い気がしたけど、毒の効果が続いているせいか?


「熱いー、熱いー、熱いー!」


 一気にHPをもっていかれたが、子ドラゴンの革鎧がいい仕事をしてくれたみたいだ。


 もっとも、この1発で耐久値のかなりの部分を失ってしまったが。


 ちゃちゃ先輩に怒られる――いや、こういう緊急事態だから怒りはしないかもしれないけど、悲しい顔はするだろう。


 それなのにドラゴンの革鎧はどんどん耐久値を減らしていく。


「熱いー、熱いー、熱いー」


 僕の全身はまだ燃えたままで、継続的にHPが減っていくけど、たぶん死ぬまではいかないはず。


 またしても、後ろで大きく息を吸う音がした。


「ヤバい、ヤバい、ヤバいー!」


 洞窟の出口が見えてきた。


 あそこがゴールというわけではないけど。


 ぼわーん、とブレスが迫ってくる。


 火のついた体でそのままTNTに突っ込んで導火線に火をつけた。


 洞窟から飛び出して、そのまま地面に伏せる。


 頭上をブレスが通過していった。


 とっさに半身を起こして、インベントリから37ミリ砲を出す。


「かかってこいー!」


 今度は僕のほうからドラゴンを睨んでやった。


 応じるようにドラゴンが咆哮をあげる。


「うががかがかっっっっっーーーーーーーーー」


 導火線を走る小さな炎がTNTを詰めた箱に到達した。


 ドラゴンが洞窟から出ようとしている。


 ズドン!


 そんなに大きくはないが、体の芯まで響くような爆発音。


 洞窟の左右、天井、そして地面から真っ赤な炎が吹き出した。


 真っ赤な炎はドラゴンを取り巻いて暴れる。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー」


 吠えているのだろうが、悲鳴のようにも聞こえる。


 さらに洞窟は落盤を起こし、大量の土砂がドラゴンを押し潰した。


 もわーっと土煙に覆われた。


 しばらくして土煙がおさまって視界がきくようになると、土岩の下敷きになったドラゴンが見えてくる。


「あれ、まだ死んでないねー」


 だが、身動きできない巨大な的になんの脅威も感じない。


 37ミリ砲の照準を合わせる。


 ドン!


 ドラゴンの頭に『critical』の文字とダメージ値が表示される。


 かろうじてHPが残ってしまったようだ。


 HPバーは真っ赤だとわからないほど細い。


「早く死ねよー」


 新しい弾を装填して撃つ。


 ドン!


 またしてもドラゴンの頭に『critical』の文字とダメージ値が表示された。


 髪の毛1本ほど残っていたHPが吹き飛ぶ。


 そして……ドラゴンは光の粒になって消えていった。


「勝ったよー!」


 思いつきの作戦で、戦力がぜんぜんなくて、よくやれたと思う。


 ちょっとでもタイミングがズレていたら失敗だったし。


 でも、最大の要因はマヤちゃんの巨大注射だ。


 HPが回復するどころか、継続ダメージを与え続けていて7割くらい削れた状態だったから倒せた。


 万全だったら絶対に無理。


 そのとき、僕の目の前に大きく光る文字が現れた。


『スペシャルイベント ドラゴンの憤怒をクリアーしました MVPは茄風音乃が選出されました』


 どうやら現状はイベント中で、僕はそれをクリアーできたようだ。


「マヤちゃん、やったよ」


 なんとかして連絡すると言っていたけど、その前に自力で解決できたことになる。


 むこうからすれば肩すかしだったかもしれないけど、僕としてはマヤちゃんを必要以上に頼ることなくてすんでよかったと思っている。


 いくら同期でも、あまりに過剰に頼るのもよくないからね。


 次に目を開けたとき、イベントクリアーで自動的にログアウトしたようで、僕は自分の部屋にいた。






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