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決戦前夜



 さらに2日ワイバーン狩りをやった僕たちは、とうとうドラゴンに挑むこととなった。


「明日、第1回ドラゴン討伐戦をおこなうぢぇ」


 ちゃちゃ先輩が気勢を上げる。


 日が暮れた後、僕たちはちゃちゃ先輩の家に集まっていた。


 べつに準備は完璧というわけではないんだけど、最低限のレベルには達しているので、まずは軽く当たったりみることとなったのだ。


 まあ、基本的は偵察戦に近いね。


 危ないと判断したら、すぐに撤退すると決めたし。


 ゲームだと熱くなって、引き時を間違えることも多いからね――もう少しで倒せるとねばって返り討ちにあうパターンはよくある。


 普段なら、それも取れ高なんだけど。


「死亡後どうなるかわからないので今回は命大事にするのが第1目標だぢぇ。第2目標が戦力調査。いまわかっているのはブレスの直撃で基本的には死亡。耐火性能のあるワイバーンの革鎧でも瀕死。その他の攻撃方法は不明だし、こっちの攻撃がどれほど通るのかも不明。せめて敵の手を1つや2つ、どんくらい硬いか、HPの数字、この3つは知りたい」


「たしか子ドラゴンが6000ほどだったから、2倍の12000から3倍の18000程度では? いちおう、そのあたりを想定して準備してたのだけど」


 マヤちゃんが質問する。


「まあ、ちゃちゃも最大でHP15000あたりだと思ってるぢぇ。それを大幅に超えるのだと、さすがに他のモンスターとの格差が大きすぎてゲームバランス的におかしい」


「ドラッヘファウストの威力を30パーセント向上させましたので、おそらく1発でHPを2000くらい削れるはずで、それを5発用意したから、だいたい10000はこれでできる――全部命中するという楽観的な予測の上での数字だけど」


「すると今回の偵察戦で1発くらいは撃ってみるか? 計算通り2000削れるのなら、材料を集めて量産するか、ドラッヘファウストで削りきれなかった分を剣と魔法とライフルでなんとかする方法を考えるか」


「材料集めを手伝ってもらえれば、10発とか、もっとたくさん用意することはできる」


 そんなちゃちゃ先輩とマヤちゃんの会話を聞きながら、僕は自分のふがいなさに悲しくなっていた。


 結局、対ドラゴン決戦兵器を作り出すことができなかったのだ。


 対物ライフルを進化させていったら大砲になったけど、モンスター討伐の実用兵器にはならなかった。


 なんとかならないかいろいろやってみたけど、そもそも大砲は1人で運用できるようにはなってないし、そうそう連射がきくようなものではない。


 つまり、なんともならなかったのだ。


 それで対物ライフルを進化させるのを諦めて、別方向の武器を考えてみたけど、ネットで調べられない状態は困るよね。


 ビューアーのお兄ちゃん、お姉ちゃんの知識も借りられないし。


 あんなに鬱陶しく感じられた指示厨おじさんさえ懐かしい。


 ちゃちゃ先輩の家で明日の打ち合わせを終えた後、暗い気持ちで自分の家に戻ろうとしたらマヤちゃんに呼び止められた。


「ちょっとだけ話をしたいんだけど」


「いいよー」


 ちょっと心配したけど、マヤちゃんの家は魚の死体もなくて、生臭くもなく、大きな注射器も見当たらなかった。


 どうせインベントリの中にしまってあるんだろうけど、見えないところにあるのなら問題ない。


 だけど、マヤちゃんはなかなか話を切り出さなかった。


「ねえー、どうしたのー?」


「上手くいくのかな、と思って」


「いかなくてもいいんじゃないのー? 討伐戦といってるけど実質的には偵察戦なんだからー」


「そういう意味じゃなくて……」


「どういう意味で上手くいかないのか心配なのー?」


「音乃はこんな特殊なイベントがあると思う?」


「あるんじゃないのー? 実際こんな状態なんだしー」


 他になにがあるというのだろう?


 特殊イベントがスタートして、クリアーされるまでログアウトできないというのはバグといってもいいレベルの仕様だけど。


「前に行方不明になったVストリーマーがいるという話をしたよね?」


「覚えてるよー。だけど、どうせ引退したとか、そんな珍しくもない話だということになったような……チャンネル登録者がそこそこいるなら引退配信くらいするだろうし、少しは噂になると思うけど、まったく伸びなくて嫌になって辞める場合はわざわざ引退配信なんかしないだろうし、まったく話題にもならないしねー」


「Vストリーマーは私たちみたいな企業勢だけでなく、個人勢まで含めたら万の単位までいきそうだし、特に先輩たちの実績や宣伝費がない個人勢だとチャンネル登録者が100人にも満たないことも結構ある。嫌になってしまう気持ちもわからないではないけど、行方不明と噂になること自体が不思議だと思わない?」


「なぜー?」


「なぜって……音乃のいうとおり人気がとれなくて無名で消えたVストリーマーは引退したところで話題にもなにもならない。だったら、なぜ行方不明という噂になるの? つまり行方不明という噂が出たということは、そこそこ名が売れたVストリーマーがいなくなったという意味じゃないの?」


「そういう意味かー。だけど、その噂って曖昧なんだよねー。行方不明という噂はあっても、いつ誰がどんな状況でいなくなったのか調べても具体的な話にはつながらないんだよねー。ボクは都市伝説みたいなものかもしれないと疑ってるんだけどー」


「たとえば大手のVストリーマー所属事務所が他から出てきた有望な新人を潰しているとしたら?」


「ああ……また、ちゃちゃ先輩スパイ説だったねー? まだ疑っているの?」


「ちゃちゃ先輩がかかわっているかわからないけど、同業他社の妨害行為だという可能性はかなり高いと疑っている」


「新説が爆誕だねー!」


「からかわないでよ。前にも言ったけど、ちゃちゃ先輩の態度はいま改めて考えてもおかしい。ログアウトできなくなったゲーム世界に閉じ込められたのに、心配したり、不安になったり、パニックになることもなく、ドラゴン狩りをやるぞ! って異常だから」


「まあ、そういえばそうだけどねー」


「ちゃちゃ先輩については心証だけで確証がない。だけど、同業者ならゲーム配信をやっているだろうし、当然『ドラゴンワールド・フロンティア』のサーバーについても詳しいはず。うちより大きい会社なら、それこれゲームの運営会社にだって力を持っているだろうし」


「Vストリーマーの大手事務所がこの業界では有名だったとしても、日本全体でみれば中小企業だよー。自動車会社でいえば下請けの、下請けの、下請けの、下請けの、そのまた下請けくらいの企業規模なんじゃないのー? プレスとか、樹脂で小さな部品を作ってる町工場くらいかなー」


 有名なVストリーマーが投げ銭だけで何億も稼いだとニュースになったりするけど、日本企業のトップクラスだと売り上げが何十兆とか、営業利益が何千億とか、まったく桁が違う。


 人様に名前を覚えてもらう仕事だから知名度はあっても、稼げる金額なんて、何十万人もの従業員のいる会社に勝てるわけがない。


 足元にも及ばない、というやつだよ。


 そんな程度の経済規模で犯罪まがいの裏工作までするとは、ちょっと信じられない。


 ゲーム会社にしてもベンチャー企業みたいなところも多いけど、『ドラゴンワールド・フロンティア』は割と老舗のゲーム会社だから触法行為に手を貸すとも思えないしね。


 だけど、マヤちゃんはそんなふうに考えないようだ。


「ゲーム会社そのものが協力してくれなかったとしても、担当者を抱き込むのならできるんじゃない? そして、有望そうな新人を潰す」


 マヤちゃんの人差し指が僕のほうを向く。


 僕がそこまでして潰したい有望な新人かという疑問はあるが、それを脇に置いたとしても話が飛躍している気がする。


 担当者個人なら何百万円とか、何千万円とか、なんとか用意できる金額の範囲で買収できなくはなさそうだけれど……どうだろう?


 まあ、最後は人によるんだろうけど、僕だったらせっかく手に入れた仕事を失う危険は犯したくないかな?


「つまりマヤちゃんはボクたちが狙われていて、ちゃちゃ先輩たちは巻き込まれたと考えているんだねー? それなら、マヤちゃんの考えるクリアー条件はなにかなー? もし営業妨害みたいなものならドラゴンを倒したところで意味ないよねー?」


「ボクたちではなく、ボク、だね」


「ボクうー?」


「そう。茄風音乃を狙ったものだと思う。私なんてチャンネル登録は音乃の半分がやっとだし、その登録者にしてもほとんどが音乃が目当てだから」


「それは違うでしょー」


「デビューしてすぐに音乃のほうが人気があると感じたから、同期であることを利用してできるだけ一緒にゲームするようにしていた。配信の予定を聞いて、それに私も合わせたりして、やっと音乃の半分。それが私の実力」


「いくらなんでも自己評価が低すぎるよー」


「低くも、高くもない。がんばったとか、努力しているとか、ふんわりした抽象的なものではなくて、チャンネル登録者は数字で出るんだから」


「いまの現在の数字だけでいうとボクが15000くらいで、マヤちゃんはもうすぐ8000くらいかなー? でも……ちょっと厳しいことを言っていいかなー?」


「なに?」


「大手に所属しているVストリーマーなら初配信のときに10000を超えてても普通なくらいだし、3か月あったら50000だって珍しくないしー。人気がでたら100000だってありうるよー。つまりボクたちは2人とも底辺Vストリーマーだよー、下手をしたら個人勢にも負けることがあるレベルのねー」


 個人勢といってもバカにできるものではなくて、とても才能のある人もいる。


 それこそ作詞作曲できて、しかも耳に残りやすいキャッチーな楽曲を製作して、自分で歌って大ヒットさせた個人勢Vストリーマーだっているのだ。


 ゲーム配信だって、プロのゲーマーを蹴散らす腕で有名なVストリーマーとか、プレーしながらビューアーと楽しいお喋りをして飽きさせないので人気のVストリーマーもいる。


 僕たちの所属しているメモワールはVストリーマーの所属事務所としては新しく、小さいところだから3か月で15000はそれほど悪い数字ではないけど、下を見て、自分は上だと考えるのはどうだろう?


 上には上がいるのに。


 マヤちゃんの考えかたはメモワール内の、しかも3期生としてデビューした僕たちの間だけで数字をくらべて勝った負けたと評価しているように聞こえるけど。


「……どうも音乃には上手く伝わらないみたい。私、他人にわかるように説明するのが下手だし。だけど、いまの状況はゲームとして想定されたものではなくて、誰かの人為的な小細工によるものだと私は考えている。その考察を進めていくとターゲットは音乃。だから、私に約束してもらいたい」


「なにー?」


「私の指示に従ってもらいたい」


「ビューアーのお兄ちゃんたちがいなくなったと思ったら、今度はマヤちゃんが指示厨おじさんになるのー?」


 冗談っぽく言ったんだけど、マヤちゃんはニコリともしなかった。


「いままで同期という建前でなるべく音乃とからむようにして、いってみれば寄生して登録者数を延ばしてきた自覚はある。だから、ここで恩返しさせてもらう。これは私が勝手にやることだから音乃は気にしないでいい」


 そんなこと言われたら気になるよ、むしろよけいに気になるし。


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