ワイバーン討伐戦
ドラゴン討伐の準備としてのワイバーン討伐戦がはじまった。
ちゃちゃ先輩が前衛で剣を振るい、ミハエラ姉さんが後ろでヒーラーという、いつものコンビにくわえて、マヤちゃんが魔法使いとして参加している。
生産組のうち、僕は武器でなんとか戦う方法を考えていて、結果的に銃までいった。
一方でマヤちゃんはリアルの物理法則を無視した魔法に興味をひかれてがんばっていたんだけど……没入型VRでもゲームの補正が入るからレベルさえ上げればなんとでもなるはずなんだけど、たまにプレイヤースキルがゲームの補正を超えて大幅にマイナスな人もいるらしい。
でも、こうなってみれば魔法を使ってもらうしかない。
僕はバックアップ。
つまりはライフルで援護する係なんだけど、下手に攻撃してしまうと、みんなのレベル上げにならない。
だから、危ないことがなければ撃たないことになっている。
「麻痺いけるか?」
ちゃちゃ先輩からマヤちゃんに指示が飛ぶ。
剣のきつい一撃を受けたワイバーンは空に逃げようとしていた。
そうなってしまうと、ちゃちゃ先輩には手が出せなくなる。
「スタン!」
マヤちゃんの魔法が放出された。
上手くワイバーンに命中した――けど、スタンの効果があったのは数秒というところ。
レベルが低いのもあるが、そもそも麻痺魔法としては初歩のものだから効果はかなり限定的になってしまう。
だけど、ちゃちゃ先輩にしてみれば一瞬でいいからワイバーンの飛行を防いでくれればチャンスとしていかせる。
「ストリームスマッシュ!」
とっておきの必殺技を叩き込む。
そのとき、空がわずかに曇る。
べつのワイバーンが寄ってきたのだ。
「もう1匹きたよー、これはボクがやるよ」
戦争映画みたいなものの対空射撃を見ると機関銃でものすごくたくさん撃つけど、なかなか当たらない印象だ。
いまのところ僕の手にあるのは1発撃つとボルトを操作して空薬莢を弾き出し、次の弾を装填するライフルだから、もし敵が戦闘機だったら手も足も出ないだろう。
ところがワイバーンは地面すれすれまで降りてきて、地上にいるプレイヤーを襲うのだ。
早く動くものに命中させるのは難しいが、降りてきた後はその位置で羽ばたいているワイバーンを撃つのは簡単。
ミハエラ姉さんを狙って降下してきて、襲うためにホバリングした瞬間を狙い撃ちにする。
すっかりプレイヤーを食い散らかす気になっていたら腹部にいきなりダメージを受けてワイバーンがひるむ。
手早く2発目を装填して、ワイバーンを睨んだ。
ワイバーンもダメージをあたえた敵を探していて、僕と目が合った。
威嚇するように口を大きく開いて叫ぶ。
「ぐぐわわわっっっっっーーーーーーー!」
同じタイミングで僕は引き金を引いていた。
パアアァァァァァーーーーーーン!
銃弾は目で追える速度ではないけど、口の中に飛び込んでいくのがわかった。
クリティカル判定が出て、ワイバーンを1発で瀕死に追い込むことに成功した。
「ファイアーボール」
マヤちゃんが初級の火属性魔法を放ち、とどめを刺す。
貧弱な魔法でも1発で沈むほどワイバーンは弱っていたのだ。
「こっちも仕留めたぢぇ」
ちゃちゃ先輩から声がかかった。
いままで暴れまわっていたワイバーンがいなくなっていた。
傷だらけ、血まみれの死体が横たわるようなグロい表現をしないゲームなので、倒したモンスターはピカッと光って、すぐに消える。
「もう1本やるー?」
さらにべつのワイバーンが寄ってきて、僕たちの頭上を旋回している。
「今日はここまでだな。焦ってもいいことはないんだぢぇ」
確かにミハエラ姉さんも、マヤちゃんも疲労の色が隠せない。
この3日、僕たちはワイバーン狩りをやっている――ワイバーンの大量殺戮でレベルを無理に上げていた。
結局チュプちゃんがリスポーンしなかったから、モンスター狩りはリスクが高い。
本人にとってはどうなるかわからなくて怖いし、残されたほうは人数が減って戦力が削られてしまう。
肉体的にも、精神的にも、きついワイバーンとの連戦を3日も続けていて、そろそろ日が暮れようとしているのだから、本日終了も当然だ。
でも、モンスター狩りが終わったからといって、今日の全日程が終わったわけでもなくて、家に帰れば生産の時間。
ちゃちゃ先輩やミハエラ姉さんはワイバーンの革を鞣したり、防具を作ったりしている。
子ドラゴンの素材やレシピも少し手をつけはじめているらしいけど、これは秘密にしていて、たぶん完成まで見せてくれない奴だと思う。
マヤちゃんと僕は武器の研究――なんだけど、僕のほうは行き詰まっている。
対物ライフルをベースに威力を上げたいんだけど、爆発死できないから無理な試作ができなくて、口径を大きくするのには苦労させられた。
しかも、それでできたのが大砲のレシピで、運搬はインベントリを使うというゲーム的な解決策でいいとしても、出してから弾を装填したり、狙いをつけたりするのに時間がかかり、1人での運用は難しい。
それだったら対物ライフルを連続して撃つほうがDPSが稼げるんだよ。
もしドラゴンの動きを完全に止めることができれば頭にクリティカルヒットさせて大幅にHPを削ることができるから、対物ライフルよりずっと優れた武器になるんだけど……そんな限定的な使用方法では、とても実用にはならない。
もし車みたいなものが作れれば、装甲をつけて、大砲を載せて、戦車とか装甲車に改造できそうなんだけど。
エンジンの製作と、原油の採掘と精製が必要になるわけで、飛び越えないといけないハードルが異常に高い。
ハードルというより、高層ビルを飛び越えろというレベルの難題だ。
さすがのマヤちゃんにも無理だろうね。
ギリギリ可能性があるとすれば蒸気機関だけど……やっぱりマヤちゃんに相談してみようか?
どうせ向こうも研究中で、まだ寝てないだろうとマヤちゃんの家を訪ねて――ドアを開けれて中の光景が目に入った瞬間、気づかれないように息を殺す。
マヤちゃんは抱えるほど大きな注射器を持っていた。
足元には魚の死骸らしきものが山積み。
テーブルにはビーカーとか、試験管とか、三角フラスコとか、他にも僕が知らない機材を使ってなにかをしてる。
べつに禍々しい色の液体とかではなくて、無色透明だし、刺激臭がするわけでもないけど、なんかヤバそうな感じがした。
そっとドアを閉める。
「なにやってるんだろー? いや、本当はべつに知りたくないけどねー。というか、知ってはいけない気がするよー」
小さく呟いて、僕はマヤちゃんの家から去った。
本当になんだったのだろう、アレ?
いや、ダメだ。
これは考えてはダメな奴だ。
ただ1つわかったのは七軒家マヤというVストリーマーはマッドサイエンシストという設定だったはずだけど、きっとキャラ設定ではなく、本当にそうなんだろう。
コントローラーで操作するゲームと違ってVRゲームはプレイヤースキルが生かせるんだけど、そのプレイヤースキルがマッドサイエンシストって、なんか嫌だな。




