第九十八話 氷と炎と発見と
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先鋒戦で熱戦を繰り広げた両者陣営は、次の戦いの主役である二人に視線を向けていた。
国盾の砦陣営からはティア、氷壁の砦陣営からはなんと早くも団長であるダンデが出てきたのだ。これにはライ自身も意外だった。元々言い出したのはライとダンデの二人なのだ。周りもてっきりそう感じていた。代表者二人が戦うのだと。
しかしふたを開けてみればそれはまったく違い、二回目で登場となっていた。この状況を生み出した予想外な人物とは氷結の砦メンバーである女性が関係しているのだがそんなこと知る由もない。
奇しくも意外な組み合わせになった二人。
「やあ、嬢ちゃん。このま」
ゴオォ
口を開きかけた瞬間、ダンデの横を炎の塊が着弾した。これに周りは驚愕する。確かに開始の合図はあった。でもまだお互い魔法がありなのか、なしなのかを決めてもいない。さらに付け加えればこれは交流試合、なのに不意打ちのようなことをするなど言語道断だった。
この行動にライもティアらしくないとは思う。戦ならばまだしもだ。
言葉を続けることができなかったダンデにティアは話しかける。
「ごめんなさい。でも私としてはダンデ団長、貴方から聴きたい言葉はないです。それは今必要ではなく、後でもいいこと。……この試合の原因であるケジメとして私は全力で貴方を倒す。でなきゃ死んじゃうよ?」
「……ならば今は言わないでおこう。だがこれだけ確認したい、魔法はありでいいのだな?」
「うん、こっちも全力でいくし制限も守らない。今の全力をだすよ、赤い悪魔の異名は伊達じゃないよ?」
「承知した。ならこちらも全力で行こう。……ライ殿!それでよろしいか?」
ここで一度ダンデはライに聞いた。これはティアが言った制限という言葉の意味を察して言ったのだ。おそらく、何かしら制限をつけて先ほどラッシュという戦士も戦っていたのだろうと推測したのだ。しかし、今回は制限を守らないと、全力で戦うと言っている。それが、ライの判断でいいのか、ここ一帯が被害にならないかを心配したのだ。
「大丈夫ですよ。いざというときはこちらで何とかします」
「ならば安心した。……ではそろそろいこうか」
ダンデは返事を聞いて目を閉じ、次に目を開いた瞬間周りの空気が変わる。ダンデ団長が本気を出したことにより、威圧が強いのだ。国盾の砦の兵士たちは畏怖をそしてまた氷壁の砦のメンバーは別の意味で驚いていた。
それは交流試合という名目なのに本気を出したからだ。それだけ対戦相手が危険な相手というのを認識したからで、逆に見かけが女ということで油断などせずに相手の本質を見抜いたことを誉めるべきだろう。
「……」
「……」
ダンデの威圧された空気を受けてもティアは動じなかった。ダンデは幾度もの戦場を渡り歩きこのような空気を出せるのかもしれない。しかし、ティアも年月は負けたとしても一通り死線を潜り抜けてきたつもりだ。
ラッシュのときと同じで奇妙な均衡状態が生まれるが、やはりすぐに均衡状態は崩れる。一向に始まらないと判断したためか最初に動いたのはダンデであった。
「ふんっ!」
ダンデは右手に持っている大剣を振り落としながら武器を叩き落としにくる。ティアの武器は昔から使っている槍、だから第一戦でラッシュがしたように相手が槍ならば中腹を狙い叩き落とそうと考えたのだろう。
しかし、ティアはその攻撃を受けるつもりもなく一歩引く……ではなく逆に一歩前に飛び出す!」
「はぁあ!」
気合とともに突き出される槍。普通この場合最初に攻撃していたダンデのほうが一歩早くティアに攻撃を入れられるだろう。でも第六感というのだろうか、ダンデは攻撃をやめて飛んできた槍を叩き落とすのではなく、弾くことに変化させた。
槍を弾かれたティアはそれをも予測していたのか、ティアが持っている魔法道具の一つ槍蛇鞭を使用した。すると、今まで普通の槍だったものが鞭のようにしなやかに唸り、蛇のようにダンデに襲い掛かる。この変則的で不意打ちな攻撃に対してダンデは……あくまで冷静であった。
バチンッ!
辺りにそのような音が響くとともにティアの武器はダンデの目の前で弾かれ攻撃を通してくれない。その光景はまるでライの使う白帝の壁のように。ただ、少し違うとすればティアの攻撃が当たったところが、削れたということだろうか。
ダンデは目の前に圧縮された氷の壁を作り出し防いだのだ。傭兵団の名前の通り氷壁の砦の如く、こうなれば守りは絶対的なものとなる。
だが。ティアとしてはそんなことすでに承知であった。オデガ山脈で敵の傭兵団長とダンデが戦っているときに、強大な氷の壁を作り押しつぶすようにしていたのを見たのだから。
ならば次にとるティアの行動としては氷を破壊できるぐらいの炎を生み出せばいいのだ。
「……ッ!」
でもそう思い炎を出そうとした瞬間地面から何かの音を立てたのを確かに聞いた。そして、いつの間にかダンデが右手とは別に左手に槍を持ち突き出していた。その光景を見た瞬間今度こそティアは後ろに下がり、作りかけていた炎をダンデにではなく地面に放つ。すると、放つと同時に氷の槍が地面から突き出し、ティアの炎と衝突水蒸気を編み出す。
(危ない危ない)
ティアはそう考えつつ次の行動に移っていた。あの槍には見覚えがあった。ダンデが戦った相手の団長の武器、確か名前は千本氷槍だったか。となると、この後相手は…
ここまで考えたときティアが予測したとおり地面から再び氷槍が突き出てくる。名前の通りならば千本出されるかもしれない。そうなればいくらティアでも苦しいだろう。ならば!
ティアは地面から突き出てくる氷槍を避けつつ再び炎を地面にたたきつける。すると、炎のほうが火力が強いのか槍が出てくるのが若干遅くなる。そして、ティアには若干の時間で十分であった。
「いっくよ!」
今まで後ろに下がっていたティアは走りながら前進を開始、手始めに最初の不意打ちのときに使った、魔法を再び使用し、炎の塊をダンデに投げつける。それを難なくダンデは防ぎ左手の槍を突き出す……が、ダンデの手はすぐに止まってしまう。
別に攻撃を受けたわけではないしダメージももちろんないのだ。ならばなぜ動きが止まってしまったのか。それは、氷と炎、相反する二つの物質が衝突したときに起こる水蒸気これが大量に発生したために、見えなくなってしまったのだ。ティアの狙いとしても目隠しをすることが一番の目的であった。現に数歩先もほとんど見えない状態だ
「なるほど、確かにこれでは攻撃はできんが……それは素人の考えだ!」
右手に持っていた剣を右前に振りぬくようにする。もちろん剣の腹でだ。これは殺し合いではなく試合ということをダンデは忘れていなかった。そして、ダンデの読みは当たっており確かにティアはその方向その場所にいたのだ。ダンデは水蒸気となった霧の流れを感じ取り、ティアが起す風圧によって微細な変化を見抜き居場所を特定したのだ。
だが
(……手ごたえがないだと?)
自分の読みは完璧だと思っていた。というのに剣の先から伝わってくる手からは何も感触が現れない。でも、ダンデはすぐに頭を切り替える。今は戦闘中、自分の攻撃が外れたということは相手の攻撃が来ることと同義!
ダンデはすぐさま氷の壁を四方に展開、ティアの攻撃に備える。
そしてこの一瞬の判断がティアの攻撃を防いだ。
ジュゥという音が聞こえてきたのは後ろから。後ろの氷壁を見ればまるで鉄の棒か何かを氷の壁に押し付けたような後が付いていた。あの鞭のようなもので再び攻撃してきたのだろうとダンデは推測するが今回はそれだけではなく
「武器に付与するとはな」
ティアは魔法武具に炎を纏わしていた。先ほどは、炎を纏わせつつ、鞭を振るったのだ。しかしその攻撃も防がれてしまった。隙を突くような攻撃をだ。
ティアは内心あせっていた。
(さすが団長という人ね。傭兵団の名前みたいに砦のような人だよ。……あれをするしかないかな)
冷静に判断して自分は普通のままでは勝てないだろうと思う。まだこの団長には気持ちで負けなくても経験で負けていると思う。だがら今回はその経験を覆すような攻撃をやればいい。
攻撃を止められたというのにすぐに攻撃に移るわけでもなく、深呼吸をするティア。戦場ではありえないことだが、ここは交流試合。それに、試すことができるならばやりたいし、この対戦相手であるダンデならば防ぎきるか、無事だろうとなんとなく思う。根拠はないけどそう感じたのだ。
水蒸気が徐々に晴れてきて、視界が良好になったときダンデのほうもあたりを見渡すことができるようになる。
そこで最初に見たのは、ティアが立ってこちらを見ている姿だった。あれほど、不意打ちや強襲をして来たというのに、今更なぜ攻撃してこなかったかが謎である。しかし、次の言葉で理解する。
「ダンデ団長、構えてください」
「構えろとな。今まで攻撃を通せなかったティア殿だったが、次は違うとゆうことだろうか」
「です。この攻撃は普通の人なら死んでしまうでしょうから。ダンデ団長ほどの人でも油断していたら危ないです」
「なるほど、分かり申した。最初はこちらが非礼を働いた。ならば償いとして私が及ばずながら実験台になるとしよう」
ダンデはそのように答える。ティアが今から行うことは初めてであり、実験台にしようとは思っていたが、まさか相手に気づかれるとは思っていなかったティア。だが、ダンデからすれば武器を構えろやら、最初からその攻撃をしなかったというだけで予測できた。まだ接してから数日しか接していないが、ティアがむやみに人を殺す人物ではないと分かっていたというのも大きい。
実験台になると宣言したダンデに対してティアは試合をして、初めて笑みを浮かべる。
「有難う、ダンデ団長」
「わっはっは、このような歳を食った大人は後から来る若者の未来のために役に立てれば本望、それが命のやり取りではなく実験台というのなら断る必要もない。それどころかこれで将来の糧になるなるのならばお安い御用だ!」
ティアは思う、やっぱりこの人は団長なんだなと。こういう人柄だからこそ人の上に立って人が付いてくるんだろうと。自分が慕う幼馴染であるライに少しだけ似てるのかなとこんなときに考えてしまう。
でも、そんな考えもすぐにやめる。今は戦いの場であり自分にとっては貴重な訓練の場。ならば全力でやらなければと。
意思を固めたティアを見てダンデも真剣になり構える。
そしてティアは魔法を発動させる。炎帝の魔法を解放する。すると、周りには大熱量の炎が出現した。近くの地面や草木がそれによって燃えたり、炭になり遠くで見守っている兵士たちも炎の熱に顔を背けるものもいた。
しかし、ティアはそんなことお構いなしに動作を続けた。次は槍蛇鞭を上に掲げ鞭にしつつ振り回す。すると周りの炎が振り回す炎に集まり、集中していく。周りはこう思っただろう。おそらくあの炎をダンデにぶつけるだろうと。でもそうはならなかった。
ティアは左手から取り出した何かを空中に放り投げるとその何かは光を放ち始めた。その光は数瞬ほど光を放つが、徐々に光を失い再び手に戻る。同時に今まで大熱量であった炎が、半分ほど消失していた。
不思議に思うダンデであるが、その問いを問うことはできない。先にティアが質問してきたからだ。
「ならそろそろいくね」
言葉を聞いて、これからが本番だと自分に言い聞かせ頷く。
「ふむ、こちらとしても全力で対応させてもらおう」
「なら……いくよ!」
ティアはそういうと同時に回転していた鞭をたたきつけるように前方に振るった。すると鞭に集めらた炎は火花が飛び散るように無数の塊や放物線を描きダンデに襲い掛かる。
これに対しダンデも全力で答えた。
「うをおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
幾度もの氷の壁を前に展開、千本氷槍も攻撃ではなく防御に回す。強大な壁と槍を炎を遮るようにして眼前に広がった。それはまるで砦ではなく氷の要塞といっても良いぐらいの防御壁だ。
放たれた炎は要塞を溶かしつくさん、壊しつくさんというように要塞に襲い掛かる。
だが、この時の軍配は氷の要塞に上がる。単純に威力が足りなかったのだ。ところどころ氷が削れたり溶かされたりと、こちらも要塞が無傷ではない。でも相手の攻撃が通らなかったということはこちらの勝ちであろう。そう思い一瞬だけ気が緩んだ。
だからであろう次に起きたことに棒立ちしてしまったのは。
ピシッ
最初は何かがひび割れるような音だった。その音が聞こえた次の瞬間、あの激しい攻撃にも耐えた氷の要塞は音を立てて崩れる。その時近くから飛んできた氷の塊を防ぐが、すべてを防ぐことはできず何発か食らってしまう。また、崩れた要塞の後には何かを焼くような音と煙が立ち込め再び水蒸気が立ち込める。
一体なぜと思い原因を探すとそこにいたのは……真っ赤に燃える猫であった。
状況が読み込めないダンデ。そんな折、フィルの声が響いた。
「この戦いダンデ団長に被弾をしたのを確認したので、勝利はティアさんになります!」
フィルはこの試合の行方を宣言したのであった。ダンデが氷を食らったのが判定となったのだろう。
でもダンデはそんなことよりも気になることがあった。それはあの氷の要塞を壊したと思える、生き物?にだ。
目を丸くしてみていると、見られた赤く燃える猫は
「ニャー」
そんなに驚くなよーというように一鳴きするのであった。
こんばんわ!予定通り八時に出せました。約束の時間一分前に……ってあとがき書いているうちに過ぎそう!
さて、今回のお話はティアとダンデによる戦いです。片方は傭兵団のトップ、片方は宝玉もちのティアです。今回はティアが勝ちましたね。しかし、殺し合いという名の戦場ではまだダンデのほうに有利があり、勝負はどうなるか分かりませんが。
次は、三戦目。誰が出るんでしょうかー後残っているのはレーシア、ラン、リエル、ライの四人ですね。
といいつつ、これからの予告という名のちょっとした問いかけを。
最近の話にヒロインである一人が出てきてません。いえ、二人でしょうか。あの二人は今どこで何をしているんでしょうか。……重要な用件で動いてもらっているとは考えています。
あと、これは問いかけではないのですが、一つ思い出していただきたいことが。
ティアのことなんですが……本当の名前はティアリスですからね!ティアリスを短くした愛称をティアと使っているのです。周りがティアというから全員が使っているわけで……このことを覚えている方はどのくらいいるんでしょうか。
とさて、このようなことを書いているうちに三分オーバーしてしまいました。また更新するときにお会いしましょう。




