第九十七話 力の中にある技
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フィルの開始とともに自分の武器を構える国盾の砦代表のラッシュと氷壁の砦代表の大男。
それぞれの武器の種類はラッシュが斧、大男が巨木のような槍。二人は構えるだけで相手の様子をうかがっていた。その状態のまま、大男が話しかけてくる。
「ごのだだがいはー、一撃いれれば勝ちだー。最初に、そっちかがら攻撃してきてもいいんぞー」
大男はラッシュにそういう。大胆にも先手を譲り尚且つ防ぐと言ってきたのだ。その言葉にラッシュが黙っているはずもない。
「ほう、舐めたことを言ってくれるじゃねえか。ならお言葉に甘えてやらして貰うぜ?」
「いいぞー」
了承を得たラッシュは思い切り飛び出す。斧を掲げ力いっぱい叩きつけるように上段から振り上げた。
「オラァ!」
振り上げた斧は大男の頭上に振ってきたがその攻撃は槍を横にすることで、難なく防いだがすべての衝撃を受けきれなかったのか、大男の体は後ろに滑りながら後退してしまう。それに周りからどよめきが両方の陣営から上がる。
ライ達の方からはラッシュの攻撃を受け止めたこと。ダンデ達の陣営からはラッシュが大男を後退させたことからだ。
攻撃を受けた大男は少し驚いたような表情をしつつ、言葉を発する。
「お前、すごいなー」
その言葉に、ラッシュは顔をしかめた。
「いや、あんたな、一応怪我をさせないようにって手加減はしたけどそれでも武器を弾くぐらいでやったんだぜ?それを難なく防がれて焦りも持たせられないって、結構へこんでるぜ?」
「ぞうかー、でもー、驚いたのはほんどだー。なら次はおらからいくぞー?」
「ん、おう。来てくれて構わないぜ?」
二人は言葉を交わしつつ今度は大男が槍を突き出した。
突き出された槍は巨木の大きさというのに、どうしたらあんなに早く繰り出せるのか不思議なくらい早かった。威力も巨体から繰り出される力により申し分もない。正直氷壁の砦のメンバーはこれで終わったと思った人物もいたからだ。
しかし、逆のライ達は心配はしていなかった。
ガキィン!
甲高い音が上がると同時に槍が横に弾き飛ばされる。弾き飛ばしたといっても進路方向を変化させた程度だ。
「腕が痺れるな畜生!」
そういいつつ、笑みを浮かべてすぐさまラッシュがお返しにと反撃をし始める。大男は反撃をしてきたラッシュに突き出した槍をすぐさま横に薙いで斧ごと吹き飛ばそうとした。それに対しラッシュはこちらの斧が届くより大男の槍の方が自分に当たるのが早いと判断。大男を標的にするのではなく、槍にぶつけるように叩きつけた。それによって衝撃を発生させ飛ばされるように後方に避難する。槍は斧を何ともせずに振りぬかされラッシュがまたショックを少し受けたことは内緒だ。
それからは大男が猛攻をかけ始めた。吹き飛んだところをすぐに距離を詰めて槍を繰り出したのだ。
槍の一番の利点は武器の長さである。敵よりも早く攻撃ができ、敵が剣や斧などの短い武器ならば、こちらに届くよりも早く倒せばいいのだ。欠点としてリーチが長くなり槍の棒の部分が狙われやすく切断されやすい。でも、先ほどのようにラッシュが槍をたたきつけても切断どころか傷しかつけられなかったのだ。では接近すればとも思うが、それでも薙ぎ払われたりして難しいだろう。
ラッシュは槍を捌きつつ、頭の中で色々と考えていた。
(さて、どうしたもんかねぇ。宝玉の力を使ってもいいんだろうが、ライに言われた制約もあるんだ。おいそれと使えねえし)
ライが課している制約とは宝玉の力の使用制限だ。この戦いの目的は互いの交流、力の確認。しかし、実はほかの理由もある。だからこそ、あまり力を見られないようにと宝玉の力を試合に三度だけ使うという制限が課せられていた。
といっても、使ったとしてレーシアやティアがライにより強化された魔法を使うことができるので、それを見られなければいいはずなのだ。でももちろんそれにもある条件下でしか使えない。
以上のことからラッシュは基本自分の力で戦うしかなかった。
「おらー!どうじたんだー!」
大男はラッシュが防戦一方になっていることに攻撃を仕掛けて来いと挑発をする。それを聞いてラッシュは苦笑した。
(だよな、俺に考えることは性に合わねえわ。やっぱり勘でその時にやった方がいい!)
「ご要望に応えて反撃してやるぜ!」
今まで防戦一方だったラッシュが突如繰り出された槍を半身で避けると前に飛び出した。懐に潜り込もうとしたのだ。
「甘いー!」
しかし、それに対して大男は槍を素早く引き戻しつつ斜めに動かした。そうすることで、前進してくるラッシュの行動を制限、けん制をしたのだ。でもそれはラッシュも読んでいる。
正面から攻撃するために突撃して来たと思わせて、ラッシュは斜めに走り始めたのだ。大男の横を通り過ぎるように。槍は縦の戦いには強いとしても横からの攻撃には弱いと判断。
でも
「そういうのは、ほかにもいたんだぞー!」
傭兵をしている間、相手がそう考え脇腹を攻撃してくる敵もいたのだ。そして、そういう相手に対応するために大男はある対策を持っていた。
突如、ジャキ!という音が聞こえた途端槍の取っ手部分が分離したのだ。正確には鎖で繋がれていた。どこかの国で鎖鎌と言われるものだ。槍の取っ手に鎌がつけられていた。
そして、鎌で見事ラッシュの攻撃を防ぐ。
「おいおい、そんな隠し玉を隠していたのかよ」
「それだけじゃないぞー!」
ラッシュが話しかけ、大男が答えた瞬間に何やら大男は槍に力を込めた。すると、
「ぐを!」
ラッシュは電流を浴びたように体が痺れる。否、本当に電流が流れたのだ。雷の魔法で。大男の切り札とは、鎌の部分に雷の魔法を付与している雷槍鎌。体から力だけが自慢と思われがちだが、こういう強かな面もあるからこそ彼は生きてこられたのだ。
雷撃をまともに受けたラッシュに周りには勝負がついたと感じただろう。現に氷壁の砦メンバーから歓声が上がったのだ。
しかし
「おい、まだ安心するのは早いぜ?」
雷撃を受けたはずのラッシュは痺れる体を動かし、斧を再び振り下ろした。これには大男は驚き、鎌で再び防護しようとするが、その二人を分け隔てるように突如地面から壁が現れる。この時ラッシュは『二回目』の土帝の魔法を使った。これにより視界を奪われた二人。大男ならばすぐに後方に下がるか豪槍を突出し壁を壊せばいいだろう。でも、このことを予想できなかったことで少しだけ反応が遅れてしまう。
その反応が遅れたことにより、勝敗は決する。
「おらよ!」
ラッシュは斧を大男にではなく壁に打ちつけたのだ。すると、視界を覆っていた壁が突如石礫という武器に変化し大男を襲う。至近距離で襲われては一溜まりもない。数発受けつつ後方に飛び移るが、この時間でラッシュならば追い詰め、体制を崩した大男を追い詰めるのは簡単だろう。
「ぐうー!」
唸りつつ、次の攻撃に備えていた大男は左手に鎌を、右手に槍を持ち悪あがきと構えたが……ラッシュは予想とは違い追い詰めてこなかった。これにはなぜだという疑問詞が浮かんだがその答えを求めるために、ラッシュがフィルに問いかける。
「なあフィル。あのよ、少し聞いてもいいか?」
「どうしたんですか?」
「あのよ、この勝負って一撃食らったら終わりなんだよな?」
「はい、そうですけど」
「なら俺が雷撃を受けたことは一撃に入るか?」
「うーん……難しい判断ですけど、雷撃と言っている時点でラッシュさんは一撃と思ってるみたいですね」
「ああ……ふと思ったんだがよ。あれで俺の負けなんじゃねえかって」
「ふむ、確かに私としても負傷、または手傷を負わせることを一撃とするならば有効ですね。あまりの攻防に止めるタイミングを逃してたみたいです……この勝負、氷壁の砦側の勝ちとします!」
そのフィルの言葉に周りの見学の反応としては……困惑であった。
それもそうだろう、確かにラッシュが言うことは正しい。しかし、結果を見ればラッシュが有利だったのだ。釈然としないものがあっても仕方がない。
大男もラッシュに近寄りつつ、言った。
「あんだー、あのままやっでればー勝ってだー。なのに、どうしでだー?」
「まあ、ルールに従ったまでだ。あれがもし本当に戦場だったらこっちが勝ちでもルールでは負けだ」
斧を肩に担ぎ手をプラプラとさせるラッシュ。
「……」
その様子を見ていた大男だったが、何かを思ったのかこういった。
「……次は負ねでえど?」
勝者の言葉ではない発言に対し、ラッシュは頷きながら
「ああ、わかったよ」
と言いながら二人は握手するのだった。そこで ようやく両陣営から歓声が上がるのであった。
そのまま二人が握手をやめ後ろに下がると、フィルが声を張り上げる。
「では次の戦いを始めようと思います!次の代表者は前へ!」
「うーんっ!っと。よーし、なら次は私だね!張り切っていくぞー!おー!」
高いテンションで前へと進みティア、その様子に首をかしげているものがいた。
「……エスティア」
ライがそう呼ぶと近くに突如エスティアが現れつつ、返事を返す。
「どうかしたのかしら」
「ティアのあの様子が少し気になって何か知らないか?昨日ティアと少し話をしたと言ってただろ?」
「ええ、でも彼女とは炎帝の宝玉について話しただけよ?あと初めてライを媒介にしたあれを行ったでしょ?そのことについて不調がないかを確認しに行ってたのよ」
「それで、不調はなかったんだよな?」
「そのとおりね。まったくの健康体だったわ」
「だったらあのテンションはなんなんだろうな……まるで何かを考えないように無理やり振舞っているようにも見えるんだよ」
「……」
この問いにエスティアは何も答えなかった。昨日話したことはライに伝えるつもりは今はまだない。だから、余計なことをしゃべるつもりはない。
エスティアは前に進んでいるティアの後姿を見つつ、思う。
(昨日あの子は一応の納得は示していたけど、心のどこかでは何かを感じ取っているかもしれないわね。自覚はないのかもしれないけど……女の勘ってやつかしら?)
ライのことについてはティアだけではなくほかの少女たちも敏感なのだ。このままではほかの少女たちも、ティアが薄々感づいたように同じ疑問を持つだろう。
(……また女子会というやつを開かないといけないのかしらね)
またライを抜きにして将来について話し合わないといけないだろうと考えるエスティア。しかし、それはまだ先のことだと思い、前を見る。
「……とにかく、今は全力で戦うことね」
「ん?何か言ったか?」
ライが聞いてきたことに対してエスティアは首を横に振る。
「いいえ、彼女、ティアは戦いに勝てるかしらと言ったのよ」
「ああ、なるほどね。でも相手しだいでしょ」
「ええ、そうね。……でもあの人が二番手に出てくるとはライも予想外だったんじゃないかしら?」
そういわれてライも前を見るとそこにはなんと……氷壁の砦団長であるダンデが槍を持って立っていた。このことに周りにはざわめきが起こっていた。
ティアも同じ感想を抱きつつダンデに話しかけた。
「まさかダンデ団長がでてくるとは思ってませんでした」
「はっはっは、まあだろうな。私としても本当は最後にライ軍師と戦いたいとは思っていたんだが……こっちのじゃじゃ馬がどうしても戦わせろとうるさくってな。だが誰が戦うかは自由。ライ殿!もちろん構わないであろう!」
了承を得る声に対して、一度だけティアの方を見る。するとこちらに視線を向けていたティアはニコッと笑みを浮かべた。問題はないようだ。
ライはダンデ団長に向かって頷くと隣にいた、フィルが確認の声を出した。
「お互いの合意が得られたところで第二試合を行いたいと思います!氷壁の砦からは団長であるダンデ様!国盾の砦からはティアさん!二人とも準備はいいですね!」
二人に確認を取ると、二人は頷いた。
それを見てフィルは開始の合図を言うのであった。
「では、両者はじめてください!」
この声を機に第二試合が幕を開けるのであった。
こんばんわ、更新が深夜になってしまい申し訳ありません。
今回は、ついに始まった交流試合。番外編とか言いつつ十話ほど消費しそうな勢いでございます……理由はここいらで戦争の中で戦っていたキャラクターたちを一対一で戦わしたらどうなるのかなと思い、書きたくなったので書いております。
いきなり出てきたダンデに驚いた人もいるでしょうが、実はこの謎の女をどうしてもライにぶつけたかったのです。もう一人、ライを知る弓使いもどこかに出すつもりですが……。あ、ちなみに謎の女ですが描写だけ?で一度だけ出てきております。さて、誰でしょうか!。
というところで、これから徹夜作業なので頑張ってきます!
ではまたお会いしましょう。




