第九十九話 謎の女傭兵
お楽しみください
ダンデにとってあまりにも不可解な決着となった戦い。その原因と思われる猫?が暢気そうにニャーニャー泣きながらこちらを見ていた。しかし、その猫は普通の猫とは全く違っていた。何が違うかというと、そこの体が燃えているのだ。
結果の推移を見ていた、ライとエスティア。最初に口を開いたのはエスティアであった。
「あの子、やってのけたわね」
「だね、よくダンデ団長に勝てたと思うよ」
ライがエスティアの言葉に返事を返すがエスティアは心の中で否定する。
(確かに勝利したこともそうだけど、どれだけすごいことをしたのか解ってないわね)
いつもは何でも悟っているようなライ。だが今は表情から察するに純粋にティアが勝ったことを喜んでいるようだった。
その表情を見つつ、エスティアは自分の目の前で起こった、あり得ないことと、新たなる可能性について猫のそばに寄っていくティアの姿を見つつ考える。
(だけど、どういうことかしらね。あの槍に炎を纏わせるまではわかる。それはライが宝玉を持っている子達に力を譲渡することと同じで、武器に付与したのだから)
でも
(……なぜ、あの魔法道具、気ままな猫は自立動作をしている?)
そう、ただものに付与するだけならまだわかる。しかし、付与されたものが意志を持ったように行動をとったのだ。主人であるティアの命令を受け取ったように。元々気ままな猫の魔法は自身を猫に変化させるという簡単な魔法道具。実質的な攻撃力や防御力は持っていない。よって、あのダンデの要塞のような氷壁を壊せるはずもない。本来ならば。
だが目の前では、火を宿した猫を作り出し砕いてしまった。これにより、新たなる可能性が考えるようになってしまった。それがいいことかわからない。
「エスティア?どうしたんだ、そんな難しい顔して」
すると、今まで真剣に考えて途中から喋らなくなっていたエスティアを心配してライが覗き込んできた。
いきなり目の前に顔をあったので驚いたが、冷静に表情を変化させず答える。
「な、何でもないわ。ただダンデ団長とかいう人があちらの最高戦力ならばこの後は楽になるでしょうねと思ってただけ」
「んー、かな。でもティアは制限をなくした時点で、こっちは制限つくでしょ?本当はティアにも制限してほしかったけど……相手が相手だからしょうがないと思うしかないね」
結論をつけたライにエスティアは視線を向ける。
(言っておくけどライ、今自分は関係ないみたいに言っているけどあの子が強力な魔法を使えばそれだけ負担がかかること自覚しているの?)
心の中で問いかけてみるも、もちろん返事はない。相手に聞こえていないので当然だ。エスティアは新たな可能性とライについて、今後のことを本気で検討し始めたとき、戦っていたはずのティアとダンデの間で何やら動きがあった。いや、正確にはティアと氷壁の砦メンバーと言った方が正しいか。
ティア達は何やらかを話すとダンデと数人とともにこちらにやってくる。
そして、ライ……にではなくライの近くにいた審判役であるフィルに話しかけ始めた。
「フィル、今話していたんだけどあっちから要望があるんから聞いてもらいたいだって」
「要望ですか?」
不思議そうに首をかしげるフィル。
「うん、内容は」
「ティア殿、その先は私から話そう」
ティアが内容を話そうとしたとき、後ろにいたダンデ団長が割り込んできた。それに、ティアは素直にフィルの正面を開ける。
「それでダンデ団長、一体要望とはなんですか?」
「実は、次の戦いの形式を変えてもらいたいのだ」
「形式を?」
「そうだ、今の戦いで分かったが本気を出されたときのそちらの力は判った。おそらく、後ろに控えているそちらの仲間はティア殿と同等かそれ以上の実力を持っているのだろう。なれば、一対一はこちらとしてきつい。なら、一対一ではなく集団戦をすることで今度は連携力を勝負しようと思ってな」
「……なるほど、確かに連携は大切ですからね。ではこの後に控えていた四対四の部隊戦ということですね?」
ダンデの要望を聞いて確認するフィル。あちらから提案したのですぐに肯定が返ってくると思っていたのだが。
「あー、いや。そこは三対三にしてくれないか」
これに疑問を投げかけたのはフィルではなくライだった。
「三対三?それでは残りは一対一になるけど、それでいいのか?」
「いいのかと言われれば、まあいいんだろうな。こっちのじゃじゃ馬の要望でどうしても一対一で」
「誰がじゃじゃ馬ですかー?」
ダンデが言っている途中に後ろで誰かの声がする。その人物は代表者が集まるというところだというのに、気に怖気づくこともなく出てくる。前に出てきた人物は少女というには歳を過ぎ、女性というには、まだあどけない。おそらくその中間、ライ達と同じぐらいの年齢だろうか。ピンクの髪を肩まで伸ばして歩くほどにフサフサと揺れている、目はライと同じ黒い色をして活き活き輝いていた。背はライと同じぐらいだろうか。雰囲気はほんわかとしているような気がする。けれど、傭兵団というのだから彼女も立派な兵士だろう。
そんな女の子が出てきたのに対しダンデが説明を始めた。
「お、おお。ヴェトリア。今な、お前とライ殿との一対一だけは確実にやってもらえるようにだな」
「あら、それはどうもありがとうございますー。……ですがじゃじゃ馬という件は試合が終わった後にじっくりとお話を聞かせてもらいますのでいいですね」
ヴェトリアと呼ばれた人物はとてもいい笑顔でダンデに言うが、その笑顔を見てライは悟る。あれと同等の笑顔を何度も見たことがあるのだから。あの笑顔は怒っている、または不機嫌な時のもの。口調と表情が柔らかくても怒りを表していない分最も怖い状態であるというのはティアやエミル達のおかげで十分に経験していた。
現に、ダンデも冷汗を流しているような気がする。
と、その時ヴェトリアはライの視線に気がついたのか、今度は本当の笑顔を向けてきた。とここで、少しだけ違和感を感じる。別に命を狙われたとか不自然な空気を感じ取ったとかではない。ただ、彼女の目元、黒い瞳と笑顔が一瞬昔にどこかで出会ったことがあるような気がしたのだ。
「あの、お兄ちゃん?」
違和感を感じて思考を深くしようとしたところで隣から、フィルに話しかける。
「ん、ああ。ええとなんだっけ」
「あの、相手の提案を受けるのかを決めてほしいんです。私は審判役なので、それに両方の合意の下であることを前提としているので」
「ああー、うん。こっちとしては良いよ」
「あ、私との一対一のほうも了承してもらったと思って良いんですかー?」
ヴェトリアが話しかけてきてライは違和感が拭えないながらも頷いた。
「いいですよ、ヴェトリアさんでいいんですよね?」
ヴェトリアは頷きずつ
「ライ君ならヴェトリアでも良いけどねー」
「え?」
ぼそりと呟いた。しかし、それを聞いたライが追求するよりも早くフィルが声を張り上げる。
「長くお待たせしてしまってすみません!氷壁の砦の方々から要望がありました、内容は三対三の部隊戦を一回、ライ軍師とヴェトリアさんの一対一による戦いをとのことです。そして、ライ軍師が了承したことにより、氷壁の砦側の要望を受理、これから三対三の部隊戦をすることになります!」
フィルが説明をすると、了承したように周りから歓声が上がる。
「ライ軍師陣営からはランさん、レーシアさん、リエルさんです!」
そこで、メンバーを発表した後今度はダンデがフィルの代わりに名前を言う。
「こちらからは、シーズ、マイス、ジェイクの三人を出す!」
そう言われて、氷壁の砦からは、それぞれ武器に剣、槍、弓を持った連携に適しているであろう男三人が前に出る。弓を持ったジェイクは一度だけライに視線を向けるが、今は目の前のことに集中しようと逸らす。ライはこの時視線には気がついていなかった。
ライ陣営のほうからもレーシアとリエルが前に出ようとしたとき、ランが二人を引き止めてライのところにやってきた。
「ん、どうしたの三人とも」
すると先頭にいたランが話しかけてくる。
「ライ様、実はお願いがあります」
「こんなときに?」
「はい、実は例の制限を取り外してほしいのです」
ランが言っている例の制限とは宝玉を持っている者は三回だけしか使わないようにというものだ。
「あれの意味はランも知っていると思うけど?」
「もちろんです」
「……何か状況に動きがあった?」
それにランは頷く。
「先ほどから遠風の書で確認していたら、あちらから連絡がありました。もうすぐ東と会われるようです。なのでこの試合を早く終わらせて少しでも相手側に信用させることが重要かと」
ランに言われてライは様々なことを天秤にかけ始める。元々制限を欠けている理由とは、言ってしまえば氷壁の砦の信頼を得るというほかに、おそらく紛れ込んでいるであろう間諜にこちらの実力を知らせるためだ。
実力を知らしめるだけなら、強力な攻撃をすればいいと思うかもしれないが、強大な力は時として脅威と映る。敵対関係である相手ならば威嚇や牽制にもなるだろうが、敵でない相手にも警戒させては本当にフェレス王国というものが消滅するきっかけになる可能性があるのだ。
だが、ランはこちらの考えを詠んでいたのかクスリッと笑い話しかけてきた。
「やはり、こうなりましたね。ライ様、実はこうなった場合エミル様から伝言を預かっています」
「エミルから?」
「はい、伝言の内容は《ライ、お主のことだから沢山のことを考えているんだろうがそんなのすぐに捨てろ!思いっきり力を示せ!その尻拭いぐらい私のほうでしてやる!》といわれてました。その後、ユレイヌ様がエミル様を叱っていましたけどね。ですが、私もエミル様と同じようにもっと自由に思ったままに行動しても良いと思いますよ?」
ランに言われて、ライは最初驚くが次には苦笑する。なんだか、そんなことを言われると考えているのが馬鹿らしくなってきたのだ。そして、たまには勘というものに委ねてもいいのかもしれない。もちろん、重要なところはしっかりと考える。しかし、どちらに転ぶか突き詰めても分からなければ最後は勘になるのだ。
「わかった。なら制限はなしで良いよ。思いっきりやってきて。あとラッシュ、悪いけど信用できる部下を率いて兵士で怪しい奴を監視、陣の周りを強化してくれ」
「おう、それは別に良いが監視だけでいいのか?」
「もちろん条件はあるよ。北と東に逃げる間諜は逃がしてもかまわない。けど、西には絶対に逃がさないでくれ」
「西の奴だけか」
「西のドリアドの様子を聞きたいというのもあるけど、その人数を知りたいんだ。どれほどの規模で国盾の砦に介入されているのかの目安にもなる」
「なるほどな。よっしゃ、こっちのことは任せとけ」
「頼むよ。ただ、行動を開始するのはリエル達が戦ってる最中に頼むね?」
「おいおい、少しは俺を信用してくれよ。そんな初歩的なことなんて分かってるに決まってるだろ?」
「それは悪かったな」
ラッシュに指示を出し終えると先ほど戦いを終えたばかりのティアが聞いてくる。
「ライ、私は何かないの?」
「ティアはここで待機」
「いいの?」
「こっちの幹部が二人もいなくなったら間諜に怪しまれるよ、一人でも微妙なところだし、あとティアもなれないことをしたから思ったより消耗しているはずだよ。結構無理してるだろ?」
目を細め真剣に言うと、ティアは視線を逸らしつつ
「あははー……やっぱりわかる?」
「当たり前だ。というか全力でやったのに消耗しないはずがない」
ばれてしまったというように乾いた笑いをするティア。それにライは休むようにいい、これにはティアは素直に従った。
それからライはこれから戦うラン、リエル、レーシアにがんばれというと
「分かりました」「がんばる」「頑張るなの!」
とそれぞれ返事をして次こそ戦いの場となる中央へと進んでいった。二つの陣営の代表者がここに集い、フィルの合図で戦いが開始された。
しかし、実際に蓋を開けてみればこの部隊戦は結果で言えば瞬きを二十ほどするぐらいで終わってしまう。
氷壁の砦代表者もつわものではあったが、宝玉の力を使ったレーシアの風魔法、リエルの水魔法、そして影を移動し、攻撃する影魔法を制限なしで使われたらひとたまりもなかったのだ。
レーシアは風を使いカマイタチや突風を起し相手の体制を崩し、リエルは水を放ち足元を不安定にしつつ、瞬風の双剣の魔法を使い加速、正面から切りかかる。氷壁メンバーの前衛は突然の攻撃に驚きつつも対応する。すかさず後ろにいた弓使いのジェイクも援護をしようとするが、突風が吹いているため簡単には攻撃できづにいた。
その間に影を移動したランが相手の背後を取り打撃を与え、一人を戦闘不能にすると後はリエルの突進も加わり瞬く間に終わってしまったのだ。
この戦いに氷壁の砦メンバーは呆然としていた。大して国盾の砦メンバーはさすがというように歓声を上げる。
戦ったラン達は息も乱さず、敗れた三人であるジェイク達は苦笑しかできずそれぞれの陣営に帰っていった。
そして、今日最後となる戦いが幕を開けようとしていた。
「では今日の交流試合も最後になります!国盾の砦からはライ・ジュリアール軍師!大して氷壁の砦からはヴェトリアさんです!両者前に出てきてください!」
二人の名前を出すと再び周囲は歓声に包まれるのであった。
こんばんわ、少し遅れてしまい申し訳ない。
遅れた理由としては最後、集団戦の描写をしっかりかくか、それとも早めに終わらせて進めるかを考えていたからです。自分としては戦う描写をすれば良いと思いましたが、それではあまりに長くなってしまい、世界情勢がどんなものだったか忘れそうなぐらいこの交流戦が長くなっているような気がしたので、次のヴェトリア戦が終わり次第場所を動かそうと思います。
予定ではおそらく次でヴェトリアとの戦いと関係、もしかしたらジェイクも出てくるかもですね。
その次には皆さんお気づきでしょうが、王女であるエミルが今どうしているかです。別に遊んでいるわけではありませんよ!
それが終わればついに北の国ジュアン帝国とのオデガ山脈での戦い再びという感じだとおもいます。
以上の形でよろしくお願いいたします!
ではまた次回お会いしましょう!




