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第百話 ランディス村からのめぐり合わせ

お楽しみください

 国盾の砦と氷壁の砦による、交流試合も残すところあと一戦となった。


 国盾の砦からは組織の幹部であるライが、対して氷壁の砦からはライに何かしら含みがある女傭兵、ヴェトリアが進み出る。


 二人が会話ができるぐらいの位置に止まると、ヴェトリアは真剣な表情で武器を構え……ることはせずになぜか満面の笑みでこちらに視線を向けてきていた。


 ライはヴェトリアのことがどこかで引っかかってはいた。相手は傭兵なのだからどこか戦場で出会ったこともあるかと考えるも、笑顔を向けてくる理由にはならない。しかし、あの表情はまるで会いたかった人物に向け、再会を喜んでいるような笑顔に見える。


 困惑している所をどうやら察したのか少しだけ困ったような顔をしてヴェトリアは話し始めた


 「んー、表情を見るに完全には覚えていないけど、何かが引っかかるみたいな表情をしてますねー」


 「え、顔に出てる?」


 「なんとなくですよー。女の勘ってやつです。でもまあ覚えていらっしゃらないのもしょうがないかもですね。なんせ一回しか会った事ありませんし話したことはないですからね。……お礼はランディル村でほんの少しだけでもとさせてはもらったんですけど」


 ヴェトリアの言葉にライは驚く。今ヴェトリアが口にしたランディル村とはライがティアと出会うまで住んでいた村の名前だ。ヴェトリアがその名前を口にしたということは住んでいたときにヴェトリアともいる可能性が出てくる。


 しかし、とも思う。ライはランディル村では厄介者として扱われ(村長から話を聴くまでは)人との関わりは最小限にしていた。そんな中お礼をしてくれる人物がいたなら、覚えていてもよさそうなのだが。


 「ではダンデ団長から聞いた情報も鑑みて魔法ありの戦いとします!試合を始めてください!」


 考えていたライの耳にフィルの試合開始の声が聞こえてきた。どうやら、今は目の前の試合に集中するしかない。


 ヴェトリアも試合を優先すると判断したのか武器を構えた。ヴェトリアが構えた武器は小刀よりも小さいナイフである。


 「それが君の武器なの?」


 「そうですよー。ただ侮っているとすぐに終わりますからね?後々、さっきの問いかけはこれが終わった後で……ではいきますねー!」


 ヴェトリアが動き始めたと同時にライはガントレッドを構える。エミルからもらった愛剣は使用することはないと判断した。ライはどちらかというと遠距離・中距離の魔法攻撃が適している。もちろん接近戦もできるが、今回の試合では相手をできるだけ傷つけてはいけない。ならば、魔法で一撃当てて軽症にしようと考えたのだ。


 ライにしてはらしからぬ判断であった。


 「……侮ったら終わりといったはずですよー?」


 そう呟いたのを聞いた瞬間、ライは背筋につめたいのを感じ、魔法で最高の防御力を誇る白帝の壁を構築、しかも二重にして。そしてその判断は正しいことを見ていたものは全員が知る。


 パリンッ!


 ほとんど殺傷能力がないと思われたヴェトリアのナイフはライの壁にひびを入れたのだ。今までどのような攻撃にも対し防いできた絶対の魔法。それが今傷を入れられたことに周りの仲間はもちろん、ライ自身驚愕していた。


 驚愕をしているライの目の前でヴェトリアはニヤリと笑う。


 「やっぱり、ライさんはすごいですねー。私と対峙した相手はほとんど初見でやられているというのに」


 言葉を聴いてライは意識を引き締める。この試合は殺し合いではない。ないが、余裕を持って勝てる相手ではないと認識した。宝玉を持っていないにも関らずティア達に匹敵する実力を持っているかもしれない。おそらく、原因はヴェトリアが持っている短いナイフ。あれが魔法武具であることは間違いない。だがどういう魔法なのかそれが分からない。


 表情を真剣にして相手の行動を注意深く見て、観察すると、次の瞬間ライは再び驚くことになる。


 今対戦相手である、ヴェトリアはこちらが動揺している間に攻撃してこなかった。殺し合いではないから待ったのかも知れないが……ライが驚いたのはヴェトリアの表情だった。


 「はぁぁぁぁ~、ライさんの真剣な眼差し、きりっとした表情、突き刺さる視線……もう堪らないですー!」


 なんとヴェトリアは頬をピンク色に染め、体を抱きしめるようにクネクネとさせていた。


 そんな様子を見ていたティアは周りにいる人たちを代表して隣にいるダンデに聞いた。


 「あの、ダンデ団長。ヴェトリアさんはどうしたの?」


 質問をされたダンデはというと手を顔にやり頭を抱えていた。


 「あーやっぱり出てしまったか。……あいつはな以前ライ軍師に助けられたことがあって、それから軍師に熱を上げてるってわけだ。ヴェトリアが傭兵団に入ったのは約一年前になるが、軍師の話になると興奮してああなるんだよ。よほど憧れているというか崇拝しているというか、何とかは盲目とかは言うが」


 しかし、ティアは最後の言葉辺りは聞こえず別の言葉が気になっていた。


 「ヴェトリアさんってライに以前と会った事が?」


 「んん、ああ。ヴェトリアは正確には会ってないといってたな。確かある出来事で逃げている最中、村に立ち寄って確かええと、そうランディル村というところで追っ手が来たところを間接的に助けてもらったとか」


 「ランディル村は確かにライが住んでた所だったけど……あっ!」


 ここでティアはライよりも早く思い出す。ティアはヴェトリアに一度だけ会っている。それも直接的に。ほとんど会話はすることはなかったが、それでも顔は合わせたことはあった。


 先ほどのヴェトリアと立ち会ったときライはヴェトリアの反応に困惑していたが、それも仕方ないと思うのであった。


 ティアがそんなことを思っている時にも、二人の戦いは進んではいなかった。


 「ヴェトリアさん、これは攻撃をしてもいいのか?」


 「そんなライさん。いえ、ライ様私のことをヴェトリアさんなどと呼ばず、ヴェトリアと呼んでもらっていいんですよー?」


 「は、はあ。ならヴェトリア、攻撃をしても」


 「やったっ!ライ様に呼び捨てで名前を!」


 試合が進まない。進めたくてもどうすれば良いのかライには分からない。と思っていたところで業を煮やしたのか、ティアが叫ぶ。


 「ライ!早く終わらせてよ!もし負けたらお仕置きするからね!もちろん仲間全員で!」


 「おい!」


 「後、ヴェトリアさんにも手伝ってもらうからね!」


 この言葉を聴いたライはあせり、ヴェトリアはというと……先ほどの暴走気味のテンションから絶対零度のような空気をまとわせ、何事かを呟いていた。


 「ライ様を好きにできる。私だけのライ様にできる。私とライ様が結ばれるのですねー、ふふふ、うふふふふふー」


 ライは危機感を感じていた。色々な意味で。


 先ほどとはまた別の嫌な汗をかき始めたライに対してヴェトリアはゆらりと、まるで亡霊のように動き出す。


 「ライ様……申し訳ありませんがすぐに終わらせていただきますー。その後にお楽しみは……うふふふふふふふー」


 そう言ったとたん、ヴェトリアは


 「消えた!?」


 目の前から突如姿を消したヴェトリア。これにライはすぐに対応策に出る。白銀のガントレッドを両側に突き出して水帝魔法で水を大量に放水する。消えた相手でも物量を持つものを無差別に放てば高い確率でぶつかるはず。見えなくても存在自体が消えることはない。


 そしてライの予想通り斜め後ろで水が何かにぶつかる音がした。


 「そこか!」


 居場所を推測したライは水帝魔法をやめ、土帝魔法を使用し意思の礫を威力を抑えながら打ち込む。だが、その攻撃は弾く音が聞こえるとともに破砕音が聞こえてきたどうやら例のナイフですべて防いだらしい。


 攻撃が失敗と悟ると、次はそのまま土帝の魔法で地面に作用させていると思われる場所で岩壁を四方に展開、岩の牢獄を作ろうとした。


 「甘いですよー!」


 しかしどうやら一歩早く包囲網を突破、こちらにすばやく距離を縮めるために接近していた。それに対し、ライは次に炎の火柱を燃え上がらせる。最初に水を放水し周りは湿度が高く威力は低いがそれでも対策なしに飛び込めばやけどを負う程度の威力はある。そして、この戦いは一撃を食らえば負けでありすなわち、この炎にやすやすと飛び込むことはできない。ならば

 

 (飛び道具で倒せばいい!)


 飛び込めないならば遠距離攻撃で一撃を入れれば良いと判断、懐にしまっていた石礫を炎の壁に投げつけ、ライは彼女のいたと思われる場所に放り投げる。でもこれだけでは絶対に防がれるだろう。ならばこちらから不意打ちをすればいい!


 ヴェトリアは右に持っている魔法武器、『太陽の鏡』を握る。先ほどからライはこのナイフが短いと認識しているようだが、実際には違う。そう見えているだけなのである。最初ヴェトリアが告げた初見でほとんど相手がやられるということは事実で、殺し合いの場で短いナイフを出したヴェトリアを見て敵は油断してしまうのだ。本当は長い刀で、太陽があるうちは所有者以外には短いナイフに見えてしまう。


 この魔法武器の能力を使いこなすようになれば所有者の姿も太陽から来る光をわざと反射、屈折させて姿を見せなくさせることがでできる。ただこれも万能ではなくて、本当に純粋な太陽の光がなければ能力がふるえなくなるのだ。なので、太陽が出ない夜は力が弱くなるし今みたいに水状の霧が出た場合では、太陽の光が遮断されてしまい姿を隠すことはできない。幸い武器には魔法が働いている。


 ヴェトリアは武器を横に凪いだ。ライがいると思われる場所めがけてだ。


 そしてぶつかる少し前に石礫の弾かれる音がした。どうやら最初に防いだように魔法で弾いたのだろう。けれどこの攻撃は相手からしてみれば透明な刃で襲われていると同義。


 「私の勝ちですよっー!」


 カキンッ!


 凪いだ刀は立ち昇っていた炎の柱を切り裂き、もともと弱弱しい火柱は消えてしまった。そして、視界が良好になった先でヴェトリアが見たものは……人型をした岩の壁人形であった。


 「なっ!」


 先ほどの石礫が弾かれたのと、武器が甲高い音を立てたのはただ単に岩にぶつかったからだ。


 ならば、本人はどこに?


 すると最初のほうでヴェトリアを捕まえようと牢獄を作るべく地面からせり出した岩壁の向こう側から、ライの声がした。


 「恐ろしい魔法だけど、これで勝ちだよ」


 ライはそう呟くが、ヴェトリアもまだ戦えると闘志を燃やし攻撃に備えつつ、移動を開始しようとしたとき


 「はい、これで勝ちだね」


 コツンッ


 後ろから頭を軽く叩かれる感触があった。


 今から攻撃をと闘志を燃やしていたのに、なぜという思いとともに後ろを見るとそこには、今壁の先でヴェトリアに離しかけていたはずのライが後ろに立っていたのだ。


 「そこまで!ライ軍師の一撃を有効とみなしこの戦いはライ軍師の勝ちとします!」


 終了の合図を告げるとともに二人の健闘を称えるように歓声が上がった。


 しかし、ヴェトリアは今の不可思議な現状に呆然としていた。


 「ラ、ライ様。どうして後ろに……先ほどまで壁の後ろにいらしたのではないのですかー?」


 「あーいや。最初から開始位置を移動した覚えはないよ」


 「でも声が」


 「それはこれだよ」


 すると、ライが何かを呟くとその声は壁の後ろから聞こえてきた。


 「風の魔法で声をあっちに飛ばしているように見せかけたんだ。ヴェトリアの魔法は試合とはいえ刀身が見えないし、怖かったからだまし討ちみたいにしないと、安全に勝てなかったからね」


 説明を聞いたヴェトリアは最初は呆然としたが、しばらくしてから武器を下ろし話しかけてきた。


 「そうですかー。やっぱりさすがライ様ですね。ライ様に勝ったときの報酬は魅力的でしたけど今回は完敗ですねー」


 報酬というのは自分にお仕置きをすることなのか、それともぶつぶつと呟いていたことなのかをライは怖くて聞けなかったのは秘密だ。


 と、そういえばとライはヴェトリアに思い出した言葉を言う。


 「そういえばヴェトリア、あの時は有難う」


 突如お礼を言われたヴェトリア、それに対してライは言葉を続ける。


 「戦っているときに思い出したんだよ。ヴェトリアってライディル村から王都に出立する日に俺に弁当をくれただろ?あの時はティアが替わりにもらったし、見たのも遠くから手を降ってる姿だけだったから、今まで曖昧だったけど……そのピンク髪をみて思い出したよ」


 ランディル村にいたとき、確かに弁当をもらい話したことはないが手を振ってくれていることを思い出した。でもそれは思い出せたがなんに対してのお礼なのかは思い出せてはいない。これは無理もなく、完全に間接的要因であるので、知っているのは仕掛けた相手か、またはヴェトリアだけであった。


 「お、覚えていてくださったんですねー!」


 ヴェトリアはライが思い出したことに感動し飛び掛るように、否、抱きつくように飛びつき抱擁をする。


 「あ、ちょっとヴェトリア!いきなりどうしたんだよ!」


 突然のことに驚くライ


 「あまりの感激にヴェトリアは衝動が抑えられなくなったんですー!」


 「少し落ち着け!とりあえず離れるんだ!」


 女特有の柔らかい感触が体に伝わってくる。


 「嫌ですよー!誰も困らないんですしいいじゃないですかー!」


 「俺が困る!」


 特にこの後に!


 と言葉を続けようとしたところで、後ろに気配を感じた。


 「「「「「…………」」」」」


 ティアたちの鋭い視線だ。ああ、鋭い視線は当然ヴェトリアに向いているがライにも当然のように突き刺さってきた。


 「……ライ」


 突き刺してくる仲間達の中から珍しくリエルが最初にライの名前を読んできて


 「……この後、話がある。……数刻」


 普段話さないリエルからの説教宣告?と鋭い視線からこの後の光景がいくつも、頭の中に浮かぶのであった。もちろん、ろくなものが浮かばなかったのは言うまでもない。

こんばんわ。二時間ほど前に家に帰ってきて何とか執筆を終わらせることができました。徹夜なので、今、後書きを書きつつ何を描いているのかあまり分かっていない状態です。なので後書きはあまり書かないで、これから寝ます。

ではまたお会いしましょう。

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