第九十五話 出会いによる結束と欠陥と
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オデガ山脈を越え、ライ達は無事にフェレス王国領土に入ることに成功した。ライ達がフィルたちがいるであろう峡谷出口まで上のほうを歩いてきたのだが、雪崩で分断されフェレス側に取り残された傭兵達は予想通り矢の嵐にさらされたのだろう。多くの死体が転がっている。最初の推測では二千ほどと思っていたが、さすがにそれほどの死体はないようだ。おそらく投降をして捕虜になったのだろう。
しばらく峡谷の上を渡り麓に歩いていくと、とある兵士集団に遭遇した。
「誰だ!」
兵士集団はこちらの様子を見るなり大声を上げて威嚇してくる。どうやら、傭兵の残党かと警戒しているのだ。なのでライは先頭に出て話しかけた。
「ライ・ジュリアールって言うんだけど、知ってるよね?」
確かめるように聞くと怒鳴ってきた兵士は目を丸くして急いで敬礼をしつつ、挨拶をして来た。
「こ、これはライ・ジュリアール軍師!知っているに決まっているのであります!ですが、フィル隊長からは男女二人、多くても十数人と聞いておりましたので」
「ああ、予想より味方になる人数が多かったんだ。思わぬ僥倖だよ。さてと、ここで話しているのも良いんだけど、できればフィル達の所に案内してくれ」
「了解しました!」
兵士はライの要望にすぐに返事を返し、ライ達に背を向けて歩き始めた。それに氷壁の砦を含めた人物達は歩いていく。
その時に隣に氷壁の砦団長であるダンデが横に並んで質問してきた。
「どうやら噂どおりライ殿は有名のようだな」
「まあ、運よく今まで勝てたからそれの副産物みたいなものかな。それに多くの仲間が助けてくれたんで」
「おお、その仲間の話はライ殿と同様にジュアン帝国にも届いてきておりますぞ。軍師の周りには守護がいる。赤い悪魔、銀の死神、不屈の戦神。この三名は有名ですな」
ダンデが言ったとたんに、左に歩いていたティアがピクリと反応する。オデガ山脈で戦ったときに敵の傭兵から赤い悪魔と呼ばれショックを受けていたようだ。ちなみに銀の死神はリエル、不屈の戦神はラッシュだ。ラッシュは聞いたら笑い飛ばすだろう。リエルは気にしないだろう。だが、感情豊かなティアには無理だったようだ。
ライはティアが反応していることに気がついていたが反対側を歩くダンデは気がつかなかったようだ。そのまま話を続けてくる。
「その者達がどの程度の力なのか以前から手合わせを願いたいと思っていたのだ。なので、こちらから提案があるのだが、ライ殿だけの力を見るだけではなく噂の三人ともう二人を加えた計六人の勝負をしてもらえないだろうか?」
そうダンデは提案した。なぜ前に上がった三人とライをあわせた四人ではなく、六人と人を増やしたのか。それは、ライが所属している組織の人材の底を見極める意味もある。
噂の三人とライだけが強かっただけでは戦争には勝てない。戦争とは質が重要でもあるが基本量なのだ。よって、もし上位にいる実力者がいなくても後に実力者がいるのか調べるのだ。
ダンデの提案にライはどうしたものかと考えていると。
「……ダンデさん?その話受けたよ」
ティアがライの返事を聞かずに勝手に受けてしまう。
「む、おそらくあなたが赤い悪魔といわれている方ですな。ライ殿、そちらの赤い悪魔殿はどうやら了承しているようですが、返答はいかに?」
この言葉にライは内心どうしたものかとため息をついてしまう。
原因はティアが引きつった笑みを浮かべ、目が笑っていないのだ。どうやら赤い悪魔といわれることに免疫ができていないようだ。だから意地を張って了承したのだろう。っていうかここでもし了承して戦い、相手に勝てばますますそのあだ名が定着しそうな気がするが、今のティアには考えれないようだ。
「ライ、受ければ良いじゃない」
と考えているところで突如光が発生したと思いきや、目の前にエスティアが現れる。これにはダンデたちは驚いていたようだが、ライは気にせずに質問を返した。
「受ければ良いって、今一応戦争中だけど?」
「確かにそうね、でも殺し合いではなく手合わせでやればいいのよ。それにライ、あなた達の陣営と氷壁の砦の実力が分かればもっと運用しやすくなるわ。……あと、日ごろのストレスとかも発散できるだろうし、私が言わなくてもティアはやる気満々みたいよ?」
ライが再びティアのほうを見ると、先ほどの引きつった笑みではなく今では完全な笑みをしていた。ただ、完全の後に不気味なという文字がつくのだが。
「……それに、この団長相手はあなたにとっていい練習相手になるわよ。だから今回は制限して戦いなさないな。そうすればもっと魔法を使えるようになる」
エスティアはライに言うと、その言葉に今まで驚いていたダンデがようやく言葉を発する。
「そこの少女が誰だか知らぬが、私はこれでも腕には自信がある。魔法もだ。なのに、ライ殿に手加減をしろと?それはいささか言葉が過ぎませぬかな?」
「この程度が丁度いいわ。言葉がなっていない人にわね。年頃の娘に向かって悪魔や死神とか言って喜ぶと思うの?その程度の気遣いができなくて団長なんて笑わせるわ」
先ほどから挑発するようにエスティアが言っている本音の半分は実は今言ったように、ティアやリエルが不本意なあだ名で呼ばれたことに対する苛立ちだった。彼女らとは良好な関係を気づいている仲間だ。そんな仲間のことを悪く言われれば不愉快に思うのは当然だった。
ただ、ダンデ率いる氷壁の砦とは今後共闘していく仲で貴重な戦力だ。ここであまり不仲になるのは得策ではない。なのでライはエスティアを嗜めることにする。
「エスティア、自己紹介もしないで少し言いすぎだぞ」
「あら、それは確かに礼を失していたわね。私の名前はエスティアよ。これでいいかしら?あとライ、一つ言いたいことがあるんだけど彼女達をあんなふうに呼ばれて不愉快に思わないの?」
エスティアの矛先がこちらに向き始めたので、ライは素直に答えた。
「もちろん不愉快に思う。でもそのはけ口には武力にもって相手にすれば良いよ。どのくらい力を出すかはその時に考えるから」
と真摯に答えた。
ただ、答えたは良いとしてライのこの言い方ではダンデ団長、氷壁の砦が自分達より劣っているといっているのと同義。ライの返答を聞いて殺気までは逝かないが鋭い視線を向けられる。
「……こちらにも言葉が過ぎた面は認める。それは謝ろう。しかし、こちらは本職は傭兵で、傭兵とは腕に自信がなければやっていけない。しかも死線をいくつも潜り抜けている。にもかかわらず、手加減をするというか?」
氷壁の砦メンバーの言葉を代表したように言ってくるのに対し、ライも答える。
「本音を言えば、あなた達には非はないでしょう。ジュアン帝国で広まった噂を口にしただけなのだから。ですが、仲間を不愉快にしたことには遺憾だ。こちらが今手加減をするといってあなた達が不愉快に感じている事と同様に」
この言葉にダンデたちは言葉を出せずにいた。
「ですが、先ほど言ったように俺らは共闘する身、実力を測るにはいい機会。殺しあわないという条件を設けて手合わせをするなら互いの実力を見れる。このことには異論はなく、不満もそこで吐き出すなり、見極めるなりしてくれ。もし、そこまでして不満があれば抜けてもらってもかまわない。その場合存在や場所を秘匿してもらうけど。さて、そちらの返答はいかに?」
最初はダンデが質問していたというのに今ではライが質問する立場になっていた。
そして、この言葉にダンデは即答する。
「……なら見極めさせてもらいましょうか。そちらの実力を。その時そちらでもこちらの実力を見極めるとよろしかろう。手加減も自由にするといい、だがその時に痛い目にあったとしても知りませんぞ?」
「ご自由に、こちらには相手の実力を見極めることができないものはいませんので」
二人の代表者が約束を交わしたところで、前を歩いていた兵士がおずおずと話しかけてきた。
「あの、軍師様……」
「ん?」
「目的地の場所に着きましたが」
そういわれてライは正面を向くとそこには陣営が展開されていた。おそらくライ達の帰りを待つとともに傭兵部隊の敗残兵を捕縛、殲滅するためにここに敷いたのだろう。この目の前にいる兵士も見回りの任で偶然ライ達と遭遇したのだ。
ライは陣を確認して返事を返す。
「有難う、ここまでくれば後はこっちで何とかするから自分の持ち場に戻ってもらって構わないよ」
「わかりました」
そういって、兵士はそそくさと離れていった。おそらくライ達が険悪な空気を出していたので早々にいなくなったのだ。
「……あの兵士には悪いことしたかな」
「まあいいんじゃない?別に喧嘩をしているわけではないのだし、お互いが納得するための提案なのだから後ろめたいことはないんじゃないかしら」
あっけらかんと言うエスティアにそれもそうかと同意するライ。
「ならとりあえず、氷壁の砦の方々には代表者たちと会ってもらって、挨拶をしてから先ほどの提案をするってことでいいですね?」
「構わない」
「では、ようこそ国盾の砦へ」
ライは一度だけ頭を下げつついうと、体を反転させ陣へと歩き始めた。その後ろの他のメンバーたちが続くのであった。
国盾の砦、本陣大天幕。ここの主は現在国盾の砦の主要メンバーである一人、フィルが机で今回の戦いで出た被害と物資の損耗率、捕虜の処遇などに頭を悩ませていた。
お兄ちゃんの策が成功し、こちらの兵士の被害が千の内五十人いないと少なく、被害と言っても死傷者ではなく負傷者を含めた数だ。
だから兵力に対して、敵に与えた損害は大金星と言っても過言ではないだろう。
ならば、現在フィルが頭を悩ましている内容は何かというと、物資の輸送と捕虜の数だ。
物資は国盾の砦による蓄えがあるので問題ない。必要となれば王国に要求してもいいだろう。だが、問題はここまで持ってくる間のことだ。
国王には第三機関として国盾の砦を正式に認めるという言葉をお兄ちゃんが引き出したために、有利となったのだ。しかし、このことを快く思っていない人物は多くいるだろう。
そして、そんな人物が現状で最初にすることが恐らく補給妨害、現状で言えば後方にある国境砦を通ろうとする部隊を足止めするのだ。なにかと理由をつけて。
今はまだ妨害はない。国が無くなれば本末転倒のために北の敵を止めてもらわないといけないからか、動きはない。だからこの問題は一段落した後の為の対策となる。
次に、傭兵という捕虜の処遇について。
これが今一番厄介なのだ。
あの戦いで約五百という傭兵が捕虜となった。分断されたときにいた傭兵は約二千、そのうち百ほどは峡谷に登ったりして逃げたようだが、なにぶん両側は岩に囲まれていたため矢が降る中上るということはできない。六百を引いた千四百は戦死であった。よって残りの五百が捕虜の数だ。
ここで問題なのが、彼らをどうするべきか。
本来戦争中の捕虜にはその者の身分によって選択肢が変化する。一つは爵位持ちや官位持ちは身代金の要求など。二つ目、一般兵の場合奴隷として売り資金源とする。三つ目はこちらの戦力として組み込む。四つ目は解放、そして最後、五つ目は処刑だ。
今回捕まえたのは傭兵、爵位、官位持ちはいないので一つ目は消える。戦力と組み込むこともありかもしれないが、内包の敵を増やす恐れがあるので選べない。奴隷として売り払うなどフィルとしては個人的に選択したくない内容だ。
なれば解放か、処刑になる。
ただ、解放をするはするで、問題が出てきて周りの町を襲い被害を出す可能性もある。処刑は、全員を殺してしまえばその話をジュアン帝国に知られてしまった場合、捕まったら殺されると思われ死にもの狂いで戦うだろう。死を覚悟した兵士ほど恐ろしいものはない。
その時にふとフィルは考える。
(……お兄ちゃんがいればいい考えが浮かぶのかな?)
あの人なら上手く考え付くだろうなと考える。少なくとも自分よりはと。
そんな時に、どこかの神様がフィルの内情を察してくれたのか天幕に入ってきた兵士がフィルに伝えにきてくれた。
「フィル様、ライ軍師、ティア様がご帰還になられました。あと他に氷壁の砦という傭兵団も同行しておりますがいかがいたしましょう」
「お兄ちゃん達が帰ってきたんですね。ならすぐにでもここに通してください」
「わかりました」
そうして兵士がしばらくした後に、ライ、ティアにエスティア、そして一人の傭兵と思わしき人物を連れてきた。
「お兄ちゃん!ティアさん!」
フィルはそういうとすぐにライの傍に寄り無事を確認する。もし、フィルに犬のしっぽがあればパタパタ振っていただろう。
「ただいまフィル。そっちもうまくいったみたいでよかったよ」
でも、無事を知って安堵をするのも束の間、違和感を感じることになる。そして、その理由はすぐに気が付いた。エスティアの存在だ。
普通エスティアは用事がある時にしか姿を現さない。時々、仲のよくなった者たちには姿を現すようになっているようだが、基本的には重要な場面、重要な時など必要な時にしかいないのだ。
そして、今日おそらく初対面である傭兵と思わしき人物の前で姿を現しているということは、おそらく何かの問題が発生したと思ってもいいだろう。
すぐに頭を切り替えてライに質問する。
「お兄ちゃん、そちらの方が先ほど報告で同行しているという氷壁の砦の方ですか?」
「ああ、こちらは氷壁の砦の団長、ダンデ団長だ。ダンデ団長、この子はフィル、今はこの軍の総指揮官として動いてもらってる」
フィルの紹介にダンデが驚く。
「このような小さな子が総指揮官ですと?」
この言葉にフィルはむっとするが、すぐにライが補足する。
「そうですけど、フィルはとっても優秀ですよ。もっとも信頼できて優秀な仲間の一人です」
ライが補足してくれた内容にフィルは嬉しくなった。ライが認め仲間だと言ってくれたことが。ここでようやく、ライが嘘を言っていないことを感じ取ったダンデはフィルに向き直り、手を差し出す。
「これは申し訳なかった総指揮官殿。改めて、私の名はダンデ。氷壁の砦という傭兵団の団長をしている」
「どうもご丁寧に有難うございます。私も改めましてフィルといいます。この国盾の砦の分隊の指揮官代理をしてます。お兄ちゃん、ライ軍師が来た場合指揮権はライ軍師に移りますが」
そういって二人は挨拶を終えると、最初にフィルが先ほどの疑問を口にした。
「それでお兄ちゃん。何かあったんじゃないですか?」
「ん?どうしてそう思うの?」
「なんとなくです。ただ、必要な、少なくとも私に何かを提案するぐらいの案件が発生したのかなと」
この言葉に驚いたのはダンデだった。フィルはこちらが何も言っていないの何かを感じ取り聞いてくる頭の回転の速さと状況判断能力が高いことを知り、伊達に総指揮官をしていないと感じ取ったのだ。
「よく気が付いたね」
「お兄ちゃんのことは何でもお見通しです。それで、いったい内容はなんなんですか?」
「それはね」
それからライは先ほどこの陣に来るまでのやり取りや戦った後の状況を説明していった。そして最後まで聞いたフィルは頷いて返事を返す。
「それは構わないと思います。お兄ちゃんがとった策でしばらくは敵も来ないと思いますし、お互いの実力が分かればこれからの運用もうまくいくはず。何より、傭兵である氷壁の砦の方々が早く打ち解けることもできるでしょうし」
「なら日程はどのぐらいにすればいいと思う?」
「今日はもう疲れていると思いますし、傭兵の敗残兵が近くに潜んでいる可能性もあるのでその可能性をできるだけなくした後、三日後はどうでしょう?その期間があれば、離れているリエルさんやラッシュさんにも連絡を取れますし」
「うん、俺はそれでいいよ。ダンデ団長そちらはどうですか?」
「こちらもそれで構わない。前日までにはこちらの戦うメンバーは伝えよう。伝える相手はフィル殿でよろしいか?」
「はい、私は今回審判役に回るのでダンデ団長に教えられた方々をお兄ちゃんに言うことはしないと誓います。もちろん逆もしかりです。それでいいですか?」
「それで頼む」
二人から了承を得られて、フィルは頷き最後に締めるように言った。
「ではこれから三日後、氷壁の砦と国盾の砦の代表者による六対六の試合をします。詳しいルールは後で伝えます。意義がある場合は何か言ってください。そして両方から承諾された内容を採用するということで」
ここまで言っても両者から異論が出ないことを確認して三日後の試合は決まったのだった。
そして、三人は試合のことに耳を傾けていたからだろうか気が付いていない。
ティアとエスティアがこの場についてきたのに何も口を開かなかったことに。
こんばんわ、今日中に出せて安堵しております自分がおります。
前のお話ではジュアン帝国に動きがあるというような描写しましたが、今回は数話前?に書いた氷壁の砦とのやり取りで二つの実力がどの程度なのかを表す番外編、また久しぶりにレーシアやリエル、ティア、エミルなどのヒロインを交えた女子会、ライに関することを話し合うエスティア会議などを書こうかなと思いいたり(全部書くかはわかりませんが)とりあえず氷壁の砦との試合を書きました。ご了承ください。
実は作業場から今執筆しており家に帰れなさそうなのですが、今のぺースですが必ず更新しますのでどうか、温かい目で見守ってくださると幸いです。
ではまた次の更新の時にお会いしましょう。




