第九十四話 戦いの戦果
お楽しみください。
二人の団長が戦い決着が決した後ライはダンデに話しかけた。
「決着はついたからできればすぐに次の作戦に移行したいんだけど……どうすればいい?」
ライはダンデに問うた。ダンデの行動について質問したのももちろんだが、もう一つ氷漬けなったダートのことについての問いかけでもある。氷漬けになったダートはこのままだと後からやってくるジュアン帝国本隊に姿をさらされることになる。ライにしたら敵のことであり正直どうでもいいと考えている。しかし、この件はダンデとの約束もあり問いかけたのだ。
そして、ダンデは答える。
「……どのような人物であれ死んでからも辱めを受けることはないだろう」
そういって、ダンデは撤去を望んだ。それはある意味残酷で、ある意味優しさである。前者は凍りついたものを動かすことすなわち死んでまで体を砕く又は、引きちぎる行為。後者はのちに本隊に晒されることを回避する意味で。
ライは意志を確認してダートの方に近づくと手をかざし、炎帝の魔法を発現、砕く思いで炎を飛ばした。すると、よほど密度が高い氷だったのかダートの体は砕かれ地面に落ちていく。
しかし、一つだけ形を失わずに落ちるものがあった。それはダートが使っていた千本氷槍。主を失っても姿を保ち周りに氷を纏わせても砕けることはない。それが、氷の武具であるのか頑丈かはわからない。
落ちた槍を見て、ダンデはライの方を向いた。
「……ライ殿、頼みがあるのだが」
「なんとなくわかります。ダート団長については約束通りあなたに任せたはず。ならばダート団長にまつわるものはダンデ団長、あなたの判断でいいですよ」
最後までダンデが言う前に何を言いたいかを察して言う。おそらく槍を回収したいというのだろう。正直、ライとしては魅力的な魔法武具だと感じていた。力づくで所有を主張することもできる。でもライには主張する気が起きない。この戦いは神聖なものだと思ったのだ。ならば勝者であるダンデが敗者の戦利品を使うことは正しく権利である。それを否定することはしてはならない。
千本氷槍をライは手に持ち周りを覆っていた氷を炎帝の力で溶かしてダンデに渡すと、ダンデは左手で槍を受け取る。しばらく何かを思うように槍を見ていたが、納得したのかダンデはライの方を向いた。
「申し訳ない、私はもう大丈夫だ」
「わかりました、では後処理と工作が終えたら険しいですが上の峡谷を通りフェレス王国に行きます。
フィル……あちらの仲間の指揮官が分断を終えた敵傭兵部隊を殲滅後は峡谷の出口付近で待機してくれているので、そこで合流これからのことを話しましょう」
「わかった」
了承を得たライは頷いて、まずは後処理を始める。後処理とはダートが結果的に命を懸けて守った部下の処遇についてだ。敵に容赦をしないライ。しかし今回は別の意図もあるためその考えを告げた。
「お前たち、解放してやるから後方に待機している本隊に伝えろ。お前たちジュアン帝国が侵略をしてくるなら、ライ・ジュリアール率いる兵士約五万が相手をすると。その先兵である傭兵部隊と思われる部隊は壊滅、あるいは投降したと。いいな?」
ダートの部下たちは無言で様々な感情を表情に浮かべつつ頷いた。
「なら行け」
それだけ言うとダートの部下たちは脱兎のごとく走り出す。団長がやられたこともそうだが、氷壁の砦離反と、先遣部隊壊滅、そして五万もの兵士を持っているという情報。これは後方に伝えなければ滅亡する危険性に繋がる。傭兵になったとしても傭兵達はジュアン帝国の人間なのだ。国の滅亡はイコール自分たちの破滅にもつながる可能性が高かった。
ライは傭兵達が走り去ったのを確認した後氷壁の砦メンバーを見渡し、目的の人物を見つける。
その人物はフードを深くかぶっており姿は見えなかったがライにはすぐに分かった。
「チャイ、このまま俺らがダンデ団長を誘導するからチャイはあることを頼まれてくれないか」
すると、チャイはフードをはずし、ようやく素顔を氷壁の壁メンバーに晒しライに尋ねた。
「頼まれてほしいって何をですかぁ~?」
「すでに各町や村に入っている間諜たちに連絡を取って次のように連絡を入れてほしい。内容は、ライ・ジュリアールが生きていた、そしてジュアン帝国に対して約五万の兵力を用意して敵対していると」
チャイは首を傾げつつ頷く。
「う~ん、自分一人では限度がありますけどぉ」
「もちろんここから行ける距離でいいよ。できればトルボ都市付近を重点的に頼むよ。別の都市には遠風の書で連絡を取ってもらい噂を流してもらう」
「なるほどぉーそれならば了解ですよぉ」
チャイはこちらの意図に気が付いて頷くと経路や時期を聞いてすぐさま去って行った。
これで半分は終わった。問題なのはここの現状だよな。
「エスティア、例の宝玉の反応こちらに近づいてきてる?」
エスティアにライは尋ねると頭の中に響くような声で返ってくる。
【戦闘が終わっても動く様子はなかったわ。あなたが言っていた例のトルボ都市かしら?そこから動いていないのでしょう。どうやら相手も本気だから慎重にしたいんでしょうけど、他にも理由はありそうね】
エスティアは含んだ言葉を返してきたが、ライにはその意味が分かっていた。
「……先遣隊を最初から捨て駒にする気だったんだろうね」
【ええ、おそらく。一番効果的なのは先遣隊の後ろを四万もの大軍を進行させとけば壊滅することなく援軍に駆け付けられたはずだから】
「……」
ライは思う。考えではフェレス王国に敵対した時点で慈悲をかけるつもりはない。しかし、感情では同情しなくもない。それを承知で頼みを受けていたのかもしれない。でもそれでも捨て駒とするなど、仲間と呼ばれる人物たちとしては決してしてはいけないことだろう。
考えを聞きライは一度だけ目を閉じてから指示した。
「ティア、雪崩を起こした時は指示通りにしてくれたんだよね?」
「うん、雪崩を起こす際は昨日のうちに用意した木材や岩を大量に巻き込んだ形で起こしたよ」
「そっか、ならしばらくは兵士はともかく補給隊は動けないだろうね」
ライ達が雪崩を起こした理由には兵を壊滅される他に一か月足止めさせる意味もあったのだ。
普通に雪崩を起こしたとしても密度が高くなった氷だけで魔法で溶かしたり、削ったりとすれば撤去はしやすい。だが、その中に氷ではなく岩や石、木材という不純物があればそう簡単にはいかないのだ。仮に炎ですべての氷を溶かしても、次に現れるのは木材と岩の山となる。なればいくら四万いようとしても数日間は足止めをできるはずだ。
「ライ殿、確かにこれで補給隊は動けないでしょう。しかし、前衛隊が先遣してきた場合防ぐことができる兵力はいるのですか?」
少しだけ不安になったのかダンデ団長が来たのでライは答えを返した。
「ああ、それはいないですよ。峡谷前にいる兵士たちは約二千ぐらいの軍勢ですからね。もし正面から戦ったら負けるでしょう」
「に、二千!?」
少なくとも万は超えているのかと考えていたのか、ダンデは驚いていた。すると、驚いたダンデにライではなく代わりにティアが話を返す。
「そんなに驚かなくても大丈夫ですよー。私たちが何とかしますから」
「な、なんとかと言ってもそれは少し無謀ではないのですかな?」
「まあ、私もそちらの立場だったらもっと声を荒げてるでしょうし。兵力だけ見ればそうでしょうねー。でも兵力だけではなく質を見れば勝ってますよ」
余裕を持ち落ち着いたティアを見てダンデは考える。どう判断したものか、この目の前のティアという少女はライという軍師を信頼している。しかも、四万という相手に怖気づくこともしていない。
ダンデ自身ライ・ジュリアールの名前くらい聞いたことがある。でも三十倍もの相手をしたことは聞いたことがない。果たしてこのままついて行っていいのか。確かにライは敵陣の中に一人で舞い降り見事生き延びた。実力は疑うことはないが、万を相手にできるほどには到底思えなかった。
その考えが表情に出て、ライは感じ取りここにいる時間もあまりないことから提案する。
「ダンデ団長、これから共に動くことが多くなるならお互いの実力を見るのもいい機会。今すぐというわけにもいきませんが、一段落したら腕を試しても構いませんよ?そちらの信用が得られないようでしたら共闘を無かったことにしてもいい。その場合はこちらが最後まで面倒を見ます。それでどうでしょうか?」
ダンデの半分も生きていない少年に言われ顔をしかめるダンデ。でもライの瞳に冗談を言っているような感じはなかった。それだけ自信はあるのだろう。それに今回で相手の実力が分かればどのくらい信用できるのか、判断材料にもなる。やらない手はない。
「わかった。ならば落ち着いたときは相手を願おう」
「わかりました。それではとにかくここから移動しましょう。峡谷の上を兵士ならば通れますが鎧を装備していたり、逆に軽装だったとしても足場は安定しません。一応魔法で足場を作りますけど楽ではないですよ」
「うむ、聞いたな皆!ライ殿と共にこれから峡谷の上を通りフェレス王国へと入る!いいな!」
「「「「「おう!」」」」」
全員が了解の意思を伝え、歩いていく。
そんな中ライは考えていた。
(一応雪崩を起こして妨害はできたけど……一か月は結構苦しいかな)
周りが不安がることを恐れて表情には出さないが、心情的に不安なことはいくつかあった。
一つは補給を置き去りにして短期決戦を挑み数万が砦を襲うこと。
これについては一応対策をするにはできる。対策方法としては峡谷の上にこちらの兵士を配置、宝玉を持っている、ライ、ティア、リエル、ラッシュ、レーシアの中で二人を使って妨害をしてもらう。理想は炎と水のティアとリエル、土のラッシュが望ましい。レーシアは風であり雪山ではあまり効果を発揮できないだろうし、ライもすべてを使えるので適任だろうが、万が一のためにできれば動きたくない。
だから、無理をせず仲間に妨害をしてもらう。こうすれば二か月は無理でも少なくとも小競り合いで数日、良くて数十日防ぐことができるかもしれない。
ただ、フェレス王国のジギル国王とたくさんの将軍や文官の前で言ったのだ。約一か月間足止めをしてみせると。その間に準備を進め西に対応してくれて構わないと。
なので十数日でも十分といえない。さらに倍以上の数日を防がなければならない。
その下準備を行っているためそれもうまくいけば防ぐことはできる。
ただ、一つだけ一か月守り切れるかが不安なのだ。
それは、相手にも宝玉もちがいること。宝玉の力をどこで操れるのかによるが、もし氷を自在に操れるのならば雪崩で道を塞いでいる氷はすぐに取り除かれ、そんな敵がいようものなら圧縮された氷がそのまま武器にもなる。よほどのことがない限り前線には出てこないと思うが……出てきた場合困ったことになるのだ。
そんな不安を抱きつつ、ライは峡谷を超えるために歩いていくのであった。
それから数日後、トルボ都市に傭兵隊が壊滅、率いていたダート団長戦死、そして敵にフェレス王国で目覚しい活躍をしたというライ・ジュリアールという人物が現れたことが伝わった。
その噂はトルボだけではなく様々な村にも伝わり、不安を煽ることになる。
さらに追い討ちをかけるように、今度はオデガ山脈にある道が雪崩により封鎖されたという情報まで伝わった。その結果、兵の動揺を抑えることと慎重論を唱えるものがジュアン帝国内に出てくることになり、出発に遅れが出始めていた。それに加え噂を聞いたまだ合流していない部隊の到着も遅れることになる。先遣隊が壊滅したと聞いて怖気づく部隊も出たのだ。まだ合流していなければ巻き込まれないと。
もろもろの事情によってライの思惑通り約十八日もの時間が空くことになる。それはトルボ都市にいるガドイ・バソル将軍が沈静させることに奔走したからだ。
約三万から四万の兵士の動揺を抑えるのは困難であった。そこで、少し離れた場所にいたある人物を連れてくることにより、動揺を収めたのだ。
その人物は氷の巫女、ジュアンの切り札である少女を投入した。
それからさらに数日後、ライはついに戦争という本番を迎えることになる。
いかがでしたでしょうか。一人の団長が死にその後、ライたちはフェレス国王との約束を守るために、一ヶ月防ぐことをがんばることになります。ですがジュアン帝国もついに切り札を出してきました。これに対してライたちはどうやって動くのでしょうが、お楽しみに。
ではまたお会いしましょう。




