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第九十一話 オデガ山脈 前編 (国家間戦争開始)

お楽しみください。

 季節は秋、フェレス王国の北では寒さが加わってきた時期になる。だが、そのもっと北になればすでにフェレス王国で言う冬といっても過言ではないだろう。


 現在フェレス王国侵略軍先鋒、傭兵団がそのオデガ山脈の峡谷を進んでいた。この道がドリアド王国に隣した道では唯一フェレス王国に向かう道であり、ここ以外は険しい山脈に囲まれ馬車どころか馬などを進行させることは無理に等しい。


 だから傭兵団もここを進むしかなかった。峡谷には現在約五千の兵士たちがいる。オデガ山脈を抜ければ、フェレス王国の砦はすぐそこだ。


 峡谷を進んでいる傭兵団のまとめ役であるダートはだからこそ、警戒を強めている。すでに、フェレス王国もあのようにジュアン帝国が大規模に召集すれば情報は伝わっていると見てよい。ならば、もし相手が仕掛けてくるとすれば進入経路が限られ大部隊が展開しにくい峡谷だと思っていた。


 なので、ダートはいくつかの傭兵集団に指示を出し峡谷左右を警戒、または先行させて巡回させていた。これならば数百の相手がいれば発見できるだろうし、もしも攻撃してきたならば先行した傭兵集団の損害だけ済みゆっくりと追い詰めればいい。所詮自分たちの部下以外は捨て駒だと考えているからこそのダートの思考回路である。


 そして、ダートの推測は大よそ当たっていた。


 ただしかし、そんな経験豊富で慎重に行動をするダートをもってしても予想外な内容が二つある。


 一つは人数。現在ダートを襲おうとしているのはたったの二人ということ。


 後一つは、まさかたった二人で数十、数百の人間に勝ててしまうほど強力な人物だということであった。


 

 傭兵団がゆっくりと進んでくるのが峡谷の上付近で確認したティアが話しかける。


 「どうやら来たみたいだよ」


 「先行隊はどうやらもう来ないみたいだね」


 問いかけられた人物、ライはティアの報告に頷きながら後ろを見た。するとそこには剣や防具、そして男たちが倒れ気絶している。ライたちのところに来た先行部隊はライとティアですべて返り討ちにしていた。集団といっても二十ほどで、その数であったらな魔法ですぐに制圧するのは簡単なのだ。どちらかというと、どうやって傭兵部隊にばれないように戦うかのほうが心配で、自分達が負けることなど露にも考えていなかったのだった。


 ティアの問いえかけにライも先のほうを見て頷く。


 「うん、それでどんな感じになってる?」


 「情報どおり先頭は装備的にも劣っている傭兵達みたいだよ。後ろのほうは見えないけど、おそらく本隊は後ろに展開しているんだと思う」


 「うーん、やっぱりそうなるかー。なら、予定通り頼んでいい?」


 「いいけど……本当に大丈夫なの?確かに効率的だとは思うけど」


 「ある程度無茶しないと四万の兵士を足止めなんてできないよ。まあ、今回はたった五千以下の兵士を足止め、できれば蹴散らせればいいんだ。それよりも俺としては『向こう側』がどうなっているか気になるかな。情報が分からないから無事だと良いんだけど」

 

 「それは私としても分からないかな。でも大丈夫なんじゃない?酷い事を言えばもしあっちが失敗しても私達が無理やりやれば何とかなるでしょ?」


 「本当にひどい言い方だな。でも、まああっちが逃げるくらいの混乱はできるはずだから間違っていないんだけどな」


 「だねー。それよりも私としては宝玉の新しい運用方法のほうが心配だよ」


 「心配はないよ。実際に二件の例があるんだからさ」


 「んー……」


 「とりあえずできなかったらできなかったで、俺が何とかするからさ。やれるだけやってみてよ」


 ティアとしてはライが負担にならないように来たのに、ここでも失敗してライに負担をかけ無理をさせるなど本末転倒などと考えていた。だからもしも、失敗しても自分のできる範囲でライを助けようと意思を硬くしつつ頷いた。


 「わかった。全力を尽くすよ」


 「頼むね。なら早速行動しようか、俺も移動しないといけないから」


 そういってライはティアに近づき手を肩に置こうとすると、なぜかティアに避けられてしまった。そんなティアに少しだけ驚いたライ。


 「ティア?」


 「あのさ、その方法って肩じゃないとできないの?」


 ティアの意図を察することができないが、首をかしげながら説明する。


 「基本的に直接触れればどこでもできるけど……肩だと不都合があるのか?」


 「ううん、でもどうせなら希望があるというか、うん。ここでお願い」


 そういって差し出された?のはティア自身の頭だった。戸惑っているライにティアが説明する。


 「半年前から思ってたんだけど、本来私が頭を撫でられてたんだよね。でもリエルとかフィルとかしかしてくれないでしょ?だからこういうときぐらいたまにはしてくれない?たまにだったら罰も当たらないんだと思うんだ……それにこういうときにやらないと最近はライバルが多いし」


 ライの表情を伺うように上目遣いに見てくるティア。赤い瞳がライの瞳を捉えて離さない。最後のほうは聞き取れなかったが。


 その言葉を聴いて、そういえばティアを二人きりのときに頭を撫でたのはもしかしたらエミルに出会う前、ライが孤児院を出て村に移り住み、その村で再会したときだけかもしれない。


 ライは苦笑しつつティアという幼馴染の頭に手を乗っけて頭を撫でてやる。すると気持ちよさそうに、まるで猫のように目を細めて撫でられ続けていた。そして、時間がたつほどにもう一つ変化が訪れる。ティアの体にライの体を伝って何かが入ってくる感覚だ。冬の山で周りには雪が積もり、息もすれば白くなる気温。なのに、体に入ってくる何かのおかげでティアは寒さを感じることはなく、逆に暑いぐらいだ。


 「はい、終わり」


 準備が終わったのかライが手を離すと名残惜しそうな瞳をしつつ引いていくライの手に視線を向けていた。


 それに気がつかないようにしながらライは問いかける。もう時間があまりないのだ。


 「体のほうはどう?」


 切り出しで時間がないのだろうと察したティアはあきらめつつ、返事を返した。


 「うん、なんだか体の中からぽかぽかとした感じかな。でも不愉快な感じはしないよ」


 「そっか。なら大丈夫かな。エスティア、ティアの様子は何か異常はない?」


 ここに姿を現していないエスティアに問いかけると頭に声が響く。


 【ええ、特に揺らぎを感じることはないわ。安定してる。だから安心しなさい】


 エスティアは現在姿を隠している。理由は姿を現しているときより、宝玉にいたほうが他の宝玉を感じ取れるからだ。


 「エスティアも大丈夫だってさ。なら予定通り頼むよ。俺もそろそろ行くから」


 「分かった。くれぐれも気をつけてよ?ライ」


 「ああ」


 そういってライはティアと別れ峡谷を北に走りつつ独り言のように言う。


 「さて、ジュアン帝国。戦争の始まりだ」


 ライは峡谷の上を通りつつ傭兵団のほうへと走っていくのだった。



 ジュアン帝国侵略軍、傭兵先行部隊のまとめ役であるダートは先ほどから表情を鋭くし、片足を貧乏ゆすりしつつ今現在報告に来た部下に問いかけた。


 「お前は伝令の役目もできないのか?」


 ダートの言葉に報告をしにきた兵士は身を縮める。


 報告に来た傭兵が問われている問題は、先行した傭兵集団の連絡役をしていたのだ。使い捨てとして扱っても情報というものは正確性を持たなければならない。なので連絡役はほぼダートの部下が担っていた。


 そんな部下からの報告に今苛立っている理由は次の報告のせいだった。


 「おめぇ、自分が何を言ってるか分かってんのか?あぁ?その口からもう一度正確に一言一句間違わずに言ってみろ?」


 ダートに言われ怯えつつ傭兵は伝えた。


 「へ、へい。その、氷壁の砦が壊滅、後ろにすでに敵がこちらに向かっているという……」


 傭兵は最後のほうになると声がどんどん小さくなっていった。それだけダートが恐ろしいのだ。そんな傭兵を見つつダートは考える。どうやらこの傭兵が言っていることは本当のようだと。だが、もしそうなれば由々しき事態だ。


 確かに別行動をして壊滅したのは自業自得だろう、それだけなればダートも気にしなかった。だが、壊滅したというのが自分達を苦しめた氷壁の砦だ。ダート自身悔しいが実力は認めている。だからこそそんな部隊を壊滅させられる敵が背後にいるのならば挟撃される可能性がある。


 しかし、ダートはさらに悩まされることになる。


 「報告します!」


 後ろから突如走ってきた一人の兵士がいた。あれは先行させている部下の一人だ。


 「次はどうしたんだ!」


 「はい!峡谷を先行していた偵察隊の一人が帰還、現在戦闘中のようです!」


 「なんだとぉ!?襲ってきた人数はどうなんだ!」


 「数は五百以上ということです!すでに峡谷の左側にいるのを発見、生き残りの一人が私に報告をしてきました!」


 意外に伏兵が多かったことに舌打ちする。


 「その兵士はどこだ?詳しい情報を聞きたい。ここに連れて来い!」


 「はい!」


 兵士はすぐに後ろのほうに引いていくとすぐに一人の若い傭兵と思われる人物がやってきた。顔は鉄のヘルメットをしているようで素顔は見えない。


 「おい、詳しい話を聞かせろ。おめえらの部隊がやられたようだが、五百もいたのは本当だろうなぁ?嘘をついてたらただじゃおかねえぞ?」


 「嘘じゃありません。この目で見ました。五百の兵にも勝る兵が待機しているのを」


 ダートは考える。敵が本当に五百いるのであればすぐにでも撃退しなければ上から弓を撃たれ、良い的になってしまうと。


 だがここで違和感に気がつく。


 「おい、おめえまてよ。今五百の兵ではなく勝るっていったか?」


 部下から聞いた話では五百の兵だったはず、なのにこいつは五百の兵に勝るといった。そこに矛盾を感じたのだ。


 しかも今気がついたがこいつは、態度が普通なのだ。何もおかしいところはなく報告はしっかりと果たした。まだ一言だったとしても確実な情報を伝えるだけで十分だ。しかし、それがおかしい。自慢じゃないがダートは傭兵達の間では恐れられている。だからこそ不機嫌なダートの前に立った奴らは、報告に来た傭兵達のように畏縮したり、怯えたりするものだ。


 なのにこいつには何もないのだ。恐れというものが。


 ダートは警戒を最高にしつつ、お前は何者だと言おうとしたところでその若い傭兵が口を開いた。


 「……どうやらばれたようだな。ならさっさとするか」


 そういって目の前の兵士は手を上に上げて、そして岩と水を頭上に上げ、岩を水の塊で破壊してしまった。周りにいた傭兵達は突如響いた音に驚き、また次に襲われる石の雨に手を覆い顔を守る。だが、運が悪い兵士は頭に直撃し、数名が死んでいた。死んだものに共通していたものは兵装が十分ではなく頭を守れなかったものだった。


 石の雨を避けつつダートは右手の腰に下げていた剣を握り目の前の傭兵に斬りかかる。すでに目の前まで強襲されたのだと判断して。すぐに判断できるからこそ、ダートは今まで生き延びてきた。だからこそ、ダートは即座に反撃するが剣は空中で何かに当たり弾かれる。


 「てめえ、誰なんだ!」


 剣が弾かれて問いかけるも、返事を聞くよりも早く異変が起きる。地鳴りが起こったのだ。


 何事だと思いつつ目を離さず待っていると一人の傭兵が悲鳴を上げた。悲鳴を上げた傭兵のほうを見ると、なんと雪の塊が振ってきたのだった。



 ライは、現在ジュアンの傭兵部隊の司令官の前に立っていた。合図のために水弾を放ち空で岩を砕いた後、いきなり目の前の男が斬りかかったのには驚いた。人間まずは状況を知ろうとすぐには動けない、なのにこの司令官はすぐに動き最善の行動をしたのだ。どうやら司令官は伊達じゃないらしい。


 だが、さすがに次のことには対応できないだろうとライは考えていた。先ほど放った水弾は合図。その合図を受け取った仲間であるティアが行動を起してくれた。起した行動とは、積もった雪に対して炎帝の魔法を使い雪崩を中腹に起してもらった。こうすればなすすべもなく混乱が起きる。そして、前か後ろに逃げるはずだ。


 ライは一言だけ目の前の男に告げた。


 「なら、頑張って逃げろよ。それとも雪崩に立ち向かうか?」


 そういいつつ、ライは風帝の魔法を使い風を纏って後ろに下がっていく。それにダートも何か言おうとはしたが、言うことはできない。ここにいれば雪崩に襲われるのだからと。


 そしてしばらくして雪崩は峡谷を埋めてしまい、傭兵部隊は二部に分断される。でも雪崩だけでは終わらない。


 前方に分断された兵士達は次に弓の脅威にさらされるのだ。弓を放つのは峡谷の出口付近で待機していたフィルの部隊だ。彼女らが分断された敵に対して攻撃を開始した。


 そんな状況で傭兵達はなす術もなく殺されていく。中には反撃を試みる傭兵もいたが、個人の動きは大勢の動きに飲み込まれるとおり、混乱に飲み込まれてしまう。前方はすでに決着がついたとも言ってよかった。


 でも、まだ戦いは終わらない。分断された傭兵団だが後方には約1千の兵力が残っていた。混乱はしても後方にはフィル達はいない。最初の策で約三千を無力化したライ達。


 ここから第二戦が始まる。


 

こんにちは、更新が三日間になりすいません。

また少しずつ書いていきますのでよろしくお願いします。(三日は過ぎないと思います)

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