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第九十話 ジュアン帝国、傭兵先遣部隊

お楽しみください

 トルボ都市から三日ほど南下した場所。フェレス王国北国境砦まで約一日付近のところに、砦を目指して進軍している部隊がいた。


 この部隊は現在まだ兵力の召集を待っている本隊とは別なので、総司令であるガドイ将軍が率いているわけではない。


 確かに今回のことは金を払って先遣隊として派遣したことから形ではガドイ将軍の部下とはなるが、実質先遣隊は独立した部隊として扱われていた。そのようなことになった一番の理由。それはこの部隊が一枚岩ではないからだ。


 部隊を見渡すと防具の質も種類も、武器の形も様々で統一されていない。しかも数人同士でにらみ合っている者たちもいるのだ。


 それもそのはず、この前まで互いの利益のために敵になったり、その戦いの結果仲間を殺された傭兵や部隊がいるのだ。溝は大きくそう簡単に仲良くなどできようもない。しかし、そんないくつもの傭兵が集まったのには溝を上回るほどの利益が見込めるからだ。侵略した金品や、食料、女を自由にしていいという餌をジュアン帝国がちらつかせたため。だからこそ一番損害がでると言われる先鋒を買って出た傭兵たち。


 ただ、そんな傭兵たちの集団を纏める存在はあった。


 先遣傭兵部隊の中腹にある赤い鎧と旗を持ち、おそらくいくつもの傭兵部隊がある中で一番兵力が大きい傭兵集団だ。しかも、周りの傭兵たちの集団と比べて武器、防具の質も格段によかった。


 この傭兵団の名前は『氷山の槍』と呼ばれる傭兵団。赤い甲冑や赤い旗なのは返り血を浴びすぎて赤くなったとも周りからは噂が出るほどに好戦的で、残虐性という観点からも群を抜いていた。


 氷山の槍を率いている男の名前はシュリベル・ダート。好戦的で残虐性を好み、また冷静さと経験、頭が回ることから始末が悪く、将軍であるガドイですらダートについては警戒をしていたほどだ。


 そんなダートはこれから進行するフェレス王国国境砦、コメロ砦へを見つつこれからどうやって人を殺し苦しめてやろうかと考えていたところに一人の傭兵がダートの下にやってきた。


 「ダート団長。少しよろしいか」


 ダートが声をしたほうを見るとそこには青い鎧を装備している老齢の人物がいた。ただ、老齢の見た目に惑わされ油断するとすぐに痛い報復が来ることはダート自身体験している。それで一度負けたこともあるからだ。油断しなければ数の多さのおかげでこちらの勝率がよかった。


 「これは、『氷壁の砦』の傭兵団団長、ダンデ殿。今回はどのようなご用件で?」


 老齢の男、ダンデと呼ばれた人物が率いる氷壁の砦。この傭兵団は少数精鋭部隊であり好戦的なダートであっても先ほど説明したとおり、手痛い経験をしていたため、できるだけ戦いたくない相手。ライバル的存在だった。だからこそダートが珍しく敬語を使っている。


 ダンデのほうはダートの残忍性を知っているために、言葉使いに違和感があったが気にせずに用件を切り出した。


 「ああ、実は少し先遣部隊のまとめ役であるダート団長に相談がありましてな」


 「はぁ、相談ねぇ。どういったご用件で?」


 「ここまで順調に来て喜ばしいところなのだが、我々は集団を抜けさせてもらえないだろうか」


 「……なんだと?」


 ダートの空気がすぐに変化した。言葉のトーンは低くなり目元も鋭くする。


 そんなダートに対してダンデは気にせず話し続けた。


 「そう怒らないでいただきたい。この先遣隊のまとめ役はダート団長、そなただ。だからこそこうやって相談に来ておるのではないか」


 ダンデの言葉を聴いてダートは無言のまま考える。


 確かに、ダンデは規律を重んじて律儀にもここにやってきた。だから本当に何かしらの理由があってなのだろう。だが、はいそうですかといって許可を出してしまっては自分たちと同等の戦力である氷壁の砦がいなくなり、戦力に不安が残る。そしてなにより、ダートが周りの傭兵団や部下にダンデを恐れていると思われてしまう。そんなことプライドが許さないし、何より面白くなかった。


 「まずは理由を言ってみてはくださいませんかねぇ」


 最初の敬語からだいぶ地が出てきたダート、しかしもはやそんなこと気にするダートではなかった。


 「理由は集団で動くよりこちらだけで動いたほうが都合がよい」


 「……ここに集まった俺らの傭兵団を含め、足でまといになるとでも言ってるのかよ?」


 次にダートはダンデに向けて殺気を向ける。周りにいた傭兵たちもただならぬ様子に距離を開けていた。有名な二人が戦えば被害が及ぶ可能性があるからだ。


 殺気を向けられたダンデは首を横に振りつつ答える。


 「いいや、すべての傭兵団がそうというわけではない。実際にお主たち氷山の槍と戦っておるでの、傭兵団でも有数の実力派だろう。他の傭兵団も力があるところは多い。じゃが、ここ数日ともに行軍してきて集団を見ておったが、互いがけん制しあい喧嘩が絶えぬ。そんな状態で戦い仮に勝ったとして絶対に戦利品や利益でもめるだろう。そうなると、必ず殺し合いが起こる可能性がある。そんなところに所属するよりは一つの集団で行動したほうがいいだろう」


 ダートはダンデの言葉に対して否定はしない。この前まで殺しあっていたもの同士だからこれから言われたことが起こる可能性は決して低くない。


 「じゃあ、お前ら氷壁の砦は別行動を取ったとしてどうするってぇんだ?まさかお前らだけでフェレス王国相手にできると?それともまさか後ろにいて敵と俺らが戦ったところを攻撃、手柄を横取りしようとでもいうのか?」


 ダートの言葉に今度は周りの傭兵たちの殺意に似た視線を向けられるダンデ。ダートはそれを見て内心ほそく笑んでいた。この問いは実はとても意地が悪い質問なのだ。仮に本当にダンデが別行動を選択をしたとして、手柄を横取りしなかったとしても、ここでのやりとりを聞いた物たちはダンデ達に不信感を持つだろう。また、ここに残ることを選んでもどの道手柄を横取りすると追求されて図星を突かれて引き下がったと思われるはず。


 なのでこの問いは、ダンデの氷壁の砦を貶める問いであり、同時にけん制する内容だった。


 だからだろう、まさか第三の提案をダンデがしてくるとは思ってもなかった。


 「ふむ、なるほどの。これはどちらを選んでもこちらとしては悪いことしかない。なればこっちも少し頭を働かせようか。ダート団長、もし我ら氷壁の砦が敵領フェレス王国の所有地、村や町、都市を制圧した場合は、手をつけずにダート団長貴方に知らせることをお約束しよう。どうかな?」


 話を聴いてダートは目を丸くした。ダンデは町を襲ったときの略奪権を放棄してダートに譲るといってきたのだ。確かにジュアン帝国からも雇う折に金をもらっていた。だが、その金はあまり多くはなく、一番の魅力は略奪による資金源の調達になるのだから。


 「どういうつもりだ?」


 「どういうつもりも何も言ったとおりだがの、我らは別に略奪をしたくてこの戦いに参加したのではない。『ジュアン帝国』の民のことを思い参加しておるのだ。利益には興味がない」


 ダートはダンデを注意深く観察していた。確かに、ダンデの言葉には説得力がある。なぜダンデの傭兵団がダートの氷山の槍というように、相手を殺す武器の名前や狼など肉食系の名前ではなく、殺すというのに直結しにくい氷壁の砦と名乗っているか。それはダンデ達の戦い方が物語っていた。


 ダンデ達は自分たちから侵略はしないが、依頼があった場合山賊や盗賊、または好戦的な傭兵たちから村や町から守るため戦っていたのだ。しかも名前の通り守りが堅く用意に突破できない。ダート達が勝った事はあるにはあるが、その時は隙を突いた形で勝利したのだ。正面から戦えばどうなるか分からない。


 そんなダンデ達が侵略という名目を持った今回の作戦にやってきたのには驚いたが、話を聴いて結果的に納得する。


 「わかった、その話を飲もうじゃねえか。ただもし約束を破棄して略奪を先行したり制圧をしたのに報告しなかったら、それ相応の罰は受けてもらうぜ?」


 「承知した。では我らは別行動を取らせてもらう。よろしいな?」


 「ああ、好きにしな」


 ダートが了承するとダンデは現地を取ったとばかりに頷いて後方にある陣地へと帰っていく。ダンデの後ろを姿を見つつ考えていた。


 (本来ならば守りが堅いダンデらを先行させてその間に守りの薄いところを突いて美味しい所をいただこうと思ってたが……代わりの傭兵団にやらせるか。なに、代わりなんていくらでもいるんだしな)


 ダートはこれからの展開を想像し、ダンデが抜けた場所をどの傭兵団に担当させるか、そして、どうやって横取りするかに思慮を向けていた。


 そんなダートの元を去ったダンデは自分が率いる傭兵団へと戻り了解を取ったということを伝えた。その言葉に誰も異論をすることはなく頷いた。


 ダンデ達は約五十人の傭兵団だ。大手になると五百などもいるため少数といわざるえない。だが、実力は全員が普通の兵士よりもあり、たったこの人数で五百以上いる氷山の槍と渡り合えていることから実力を疑うことはできない。


 全員が了承した中、一人の傭兵がダンデに聞いてくる。


 「それにしても団長、本当に信用できるんですか?確かに本当の話ならば私たちが動く理由もあります。けど、罠という可能性も」


 話してくる傭兵はまだ不安をぬぐいきれていないようだ。異論や反論はなくとも、不安を口にしてしまうのは状況的にみても仕方ないかとダンデは思っていた。なので安心させるように傭兵に対して説明する。


 「安心しろ、といってもすぐには無理だろうな。だが、前にも話した通り本当ならば動く価値がある。我らの『信念』と同調し、また二人の人柄と話を聴いて納得できたのだ。もしだまされたのならワシに人を見る目がなかったのだろう。その時は見捨てて逃げてもよい」


 そこまで言うと、何も言わなくなり新たに気合が入ったのか目に迷いがなくなっていた。傭兵を見て迷いがなくなったことを分かったダンデは一度安心し、次に先頭に立ちつつもフードを深く被り姿が分からない小柄な人物に話しかけた。


 「それで、話は通したがこれでよかったのかの?」


 「これで大丈夫ですよぉ。後はこっちが何とかしますんでぇ。でも本当に助かりましたぁ」


 声からして少女か女性か、どちらにしろ女ということだけはわかっていた。


 「助かったというのは信じてもらえたという意味かな?正直に言うとわしはお主を信用したわけではない。それはこの先で分かることだがの。話に乗ってみようと思ったのは、かの人物の名前とそれに、傭兵団員のジェイクの話を聞いていたからだ。だから礼を言うならジェイクに言うといい」


 「でも、貴方が団長なんでお礼を一応言っておこうかなぁーと思ってぇ」


 「ふむ、なら素直に受け取るとしよう。……ジェイク!こっちに来るのだ、このお嬢ちゃんがお礼を言いたいらしい」


 すると、集団の中から一人の傭兵が前にできてきた。出てきた傭兵の姿は細く、だが引き締まった筋肉がつき、肌は少し暗かった。寒い地域であるジュアン帝国の住人はどちらかというと白い肌だ。だからジェイクが他国の人物ということは明らかだった。


 ジェイクは自分の武器である『弓』を左手に持ちながらダンデの前に出てきた。それを見てフードの女はジェイクに向き直ると少しだけ、フードを前に傾けお礼を言う。


 「この度はどうもありがとうございましたぁ」


 言葉だけを聴けば、最後の部分で馬鹿にしているか軽い言葉だけの礼に聞こえるかもしれない。だが数日間ともに行動していたためこれが癖がある喋り方であり、馬鹿にする人物ではないということは分かっていたので素直に聞いていた。


 「いや、別に大したことはない。……それにもしお礼を言うならこっちこそ彼に言いたいしな。直接話したことはないが……ある戦いの後放浪し、彼の活躍を聞いてそれまでの自分が恥ずかしくなった。だから少しでも彼の役に立ち、近づけられるならば、お礼を俺に言う必要はない。これはおれ自身のことでもあるからな」


「いえいえぇそれでもありがとうございますぅ」


 本心を聞かせても未だにお礼を言ってきたフードの女に困ってしまったジェイク、それにダンデは助け舟を出す。


 「お嬢ちゃん、それくらいにしてあげなさいな。ジェイクはまだ結婚をしておらぬ、しかも女子と浮いた話も聞かないからお嬢ちゃんみたいなのと話すのが照れくさくて、かっこつけようとしているのだよ」


 「なっ!ちょ、団長!?」


 「ああ、そうなのですかぁ?でもぉー会ったばかりですし、ごめんなさい」


 「おうおう、ジェイク振られてしまいおったか」


 「何もいってないじゃないか!」


 漫才のようなやり取りに周りの傭兵から笑い声が上がる。それにジェイクは俯いた。


 それからしばらく笑い声が響き、収まるころにようやくダンデは指示を出した。


 「よし、ならそろそろ行動を開始する。順次移動を開始する。目的地は街道から外れた場所、オデガ山脈だ」


 その掛け声に「「「「おう!」」」」という言葉がかかり、氷壁の砦は街道を外れていった。


 これから一日後、ジュアン帝国の戦いは始まる。

日付が変わる二時間前でした……遅れてごめんなさい。

まだこの調子が続くと思いますのでご了承を。更新するときは活動報告のほうで書き始めと更新予想時間を出すと思いますのでよろしくお願いします。

次は最後に記載したとおり戦いが起こります。

あと、ちょっとだけ久しぶりになぞかけ?をジェイクって実は一度だけ出てきたことがあるのです。ただ、その時はすぐに退場したのですが……。

そのことも考えつつお楽しみに。

ではまたの更新のときにお会いしましょう

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