第八十九話 南進、ジュアン帝国侵攻軍
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ライ達がタージュ村で計画を話し合い、計画を詰めた頃ジュアン帝国領土であるディリク国境に一番近い都市、トルボ都市にフェレス王国侵攻軍は集結していた。
トルボの人口は約二万、都市というだけあって経済なども盛んでありフェレスの国境付近ということもあり、フェレス方面から来る商人がジュアン帝国で一番よるであろう町なのだ。
そんな場所に現在は商人が来ない代わりに国の全土から兵たちが集まってきており、トボルの人口の約二倍もの人間が集まってくるのだ。だが、侵攻作戦をたてたとしても通常ならばフェレス王国も大国であり武力には力を入れている国。四万という兵力でも油断してはならない。
しかし、運が向いてきたのか約半年前には内乱が起きて国力を低下させ、これを機にとドリアド王国がジュアン帝国に共同戦線の同盟を結ぶことになる。
こうなるとフェレス王国の兵がいくら強かろうがひとたまりもないだろう。
西と北から来るということは二つの軍を相手にすることになる。なれば自然に武力分散に繋がり勝率が上がる。東のアスティール王国も参加すれば確実なものになっていたが、あそこは表明を明らかにしていないので今回はドリアドとの同盟になる。
トルボ都市にある領主屋敷の一室で書斎の椅子に座りつつ考えている人物がいた。
ジュアン帝国侵攻軍、総司令官ガドイ・バソル大将軍は目を閉じこれまでのことを頭の中で整理していた。やはり何度考えてもフェレス王国はドリアドとジュアン帝国に飲み込まれる窮地に立たされているとしか思えない。
「……」
目を開けて机の上にある報告書の方を見る。それは最近入手したものではない。報告書の内容は約半年前のものだ。そして、その報告書にはフェレス王国における重要人物の情報が載っているものがほとんどであったがその中の一枚を取り上げる。
報告書の題名はフェレス王国初の軍師の名前が書いていた。
ライ・ジュリアール。
歳は約十六歳ほど、約とつくのはこの人物が孤児であるからと報告書である。ただ、孤児であるということだけで、どこの施設にいたかは不明、また両親も不明という謎が多い人物だ。
だが、謎が多い人物でも実績は輝かしいものばかりだ。
最初の功績はフェレス王国全土で行われたゲームの内容で最優秀を得たこと。これだけならばまだ、知識だけがあるものだとガドイも気にはしない。経験がなければいざ戦場に出たときに役に立たないことを、新米兵士を見て知っており、また自分も経験をしたことある。
なのにこの人物、ライ・ジュリアールは連戦連勝を重ね王国転覆の可能性があったリューネリスの反旗。反乱軍二万以上に対して王国軍約一万七千と数の少なさから王国軍が不利だと思われた戦い。
しかし実際に開いてみれば、反乱軍が潰走。結果だければそれでも十分な戦果。でも一番ガドイが注目したのは、内容であった。
万を超える戦いで王国軍にあまり被害が出ていない。言い換えれば少ない犠牲で勝ったことになる。この意味は隣国にとっても、フェレス王国にとっても大きな意味を持つ。
最初にフェレス王国は武力に力を入れていたと言っていたが、それは言い換えれば戦術、策略などの知識面では付け入る隙があったのだ。だから、軍師という知恵袋がついたことにより隣国にしれ見れば脅威としか映らなかった。
でも半年前の反乱軍の大戦の時にその軍師は行方不明、一説では暗殺されたという情報も届いている。だからこそ、再びそのような人物が出てくる前に倒してしまえという理論と、豊潤な土地を得るため帝国に最少防衛人数を残し全兵力で決戦で挑むのだ。
なので問題は
「ドリアド王国の動向によるものだな。報告ではまだ準備段階であり侵攻する時期は同時にあるということだったが」
兵数が二万という動員数に焦っていた。
兵力が多ければ多いほど突破力制圧力は増す。今回の相手は大国のフェレス王国。この兵力でも不安だ。だから兵力は多いにこしたことない。
でも多いとその分不利なことが出てくる。
まずは速度。侵攻準備はドリアド王国よりも早く開始したにも関わらずこちらが遅いのは倍の兵力を集めたため。
兵力を集めれば次に武器や食料の物資が多くなり、速度が遅くなる原因である輜重隊が多くなるのだ。なのでジュアン帝国が力に傾け多分、ドリアドは速度を重視した結果なのだ。この戦いは勝つ前提で考えるならば、フェレス王国の戦いであるとともにドリアド王国との戦いでもあった。
「……まあ過ぎたことは考えても致し方ないか」
そこでガドイは思考をやめる。この先のことを考えるより、今のことを考えなければと。それに万が一窮地に追い込まれるならばあの氷の巫女に頑張ってもらえばいい。
と思ったところで書斎の扉がノックをされた。
「入れ」
そういって許可を出すと扉が開かれ兵士の一人が入ってくる。
「何の報告があるのだ今回は、またどこかで不満を言ってくる奴が出たのか?」
嫌そうな顔をして兵士に言う。毎度毎度こうやって報告を上げてきたときの九割は兵士たちのいざこざや、貴族間の争いの報告が多いのだ。最初は士気を向上させるために対応していたが日数が経つにつれて、辟易としていたのだった。とはいっても、対応をしなければならないことには変わりないので追い返すことはしないが。
でも今回の報告はガドイにとって最近でもっとも不安になる報告であった。
「それも連日あるらしいですが……今回はフェレス王国内部についての報告でございます」
兵士の言葉を聞いてガドイは表情を引き締め空気を変える。大将軍と呼ばれる人物にふさわしい威厳をまとって。
「それで内容は?」
「その、正確な確認情報ではないのですが一つの懸念報告がありまして」
「だからその内容はなんなのだイプス。簡潔に話せ」
イプスと呼ばれた兵士は促され報告をした。
「はっ、実は未確認情報ですが王都でちょっとした騒ぎがありまして」
「騒ぎ?ドリアドとジュアン帝国の侵攻を察知して騒ぎが起こるのは自然な流れだと思うが?」
「どうやらそれだけではなく、とある一団が王都に現れその後王都を離れたのですが、それを謎の集団が追撃したそうなのです」
「ドリアドの暗殺者の可能性ではないのか」
「ならば現れではなく、失敗や成功を織り交ぜて報告しますよ。問題は現れた一団がある人物ではないかと報告が来たのです」
「ある人物?」
「はい、軍師ライ・ジュリアールという噂が流れております」
「なに!?」
ガドイは椅子から思わず立ち上がり声を上げた。最大の懸念事項が一つ現れたのだから。
「それは確定情報なのか!?」
「落ち着いてくださいガドイ大将軍。先ほども言いました通り噂です。あと、その一行は王都から姿を消したそうですからライ・ジュリアールの可能性は低いと現地のものは報告してきました」
「どういうことだ?」
「現地の者の証言によりますと、王都を抜けた一団は集団の襲撃を受けてどこかに隠れたそうです。さすがに追うことはできなかったらしいですが。普通に考えて輝かしい功績をあげた軍師が襲われるでしょうか?それに、王都からいなくなる意味が分かりません」
「ふむ……お前の言いたいことが分からない。ならばなぜお前は私に報告に来たのだ?可能性が低いというのに」
ここでイプスは内心、嘲笑をしていた。可能性が低いといっても最悪の事態を想定して動かなければならない地位にいながら、そのような愚問を問いかけるのかと。
でも表には出さずにイプスは言葉を続ける。
「ライ・ジュリアールの可能性と他にその侵入者がドリアド王国の者という可能性もあるから念のためにと。アスティールも協力を明確にしていなく軍を動かす兆候は見えまえんが、警戒しなければならないために」
そういわれてガドイは考える。このイプスというものはフェレス王国で言うライ軍師と同じ立場であるのだ。ジュアン帝国の知恵袋。それがイプスであった。立場的にはガドイが上司であり、イプスは軍師として動くため、ライ・ジュリアールに対抗する場合イプスの戦いになる。
話に聞くところによると、最初は軍に加わるのを拒否していたらしいが軍部が(ガドイは直接かかわっていない)ある手段を用いて強引に引き入れたらしい。方法は知らないが、結果だけを見ればどういう手段かは想像に難くない。
報告がひと段落したからだろうか、それともライ・ジュリアールという人物の可能性が低いと言われたからだろうか、ガドイは興味本位で聞いてしまった。
「そういえば、お前の妹はどうしておるのだ?」
それをガドイが口にした途端今まで嘲笑などを内心でするだけで表情を変化させなかったイプスが、表情を変化させた。表情には誰でも見てもわかるような憤怒の表情だ。
イプスはガドイの目を見つつ話す。
「……あんたは調べた限り手をくだしていないらしいな。だから、答えてやるよ。妹は今日もたった一人で部屋に閉じこもってるよ。『自主的に』な!でも本当はお前らが強要しているのは判ってるんだ!あんたがもし黒幕なら俺はすぐにでも殺してる!だが、俺がしないのは妹の為だ!でも次に軽々しくそのことを聞けば俺は容赦はしない」
突如態度を激変させてきたイプスに対してガドイは無言で、いや沈黙を保つしかできなかった。何があったかはわからないが想像よりも強引に上部がしたのがイプスの表情を見てわかるからだ。
「……興味本位だったが、済まなかった。逆の立場ならば私も激怒していただろう」
上にいるものにしてはすぐに謝ったガドイ大将軍。
謝られたイプスは一度息を整えると表情を戻し、最初に来た時と同じ表情を保つ。
「いえ、次から気を付けていただければ。警告もしたので聡明なガドイ大将軍ならば対応を間違わないはずです。……あと、あなたはやはり上の軍部の人とは違うようですね。できればあなたが軍部の上にいれば結果は変わったのかもしれませんが、言っても詮無きこと。私はこれで失礼させていただきます。これから妹の所に行きますので」
先ほどの激情は身を潜めイプスは背を向けると扉を開けて出て行った。
ガドイ将軍は見送った後ため息をつく。そのため息が安堵が少しだけ含まれていること自覚はないだろう。
「……あの者の妹を利用して、兄であるイプスを軍に組み込んだことを私が言っても力はないだろうな。だが上層部は判っているの、もしあやつの妹……氷の巫女がいなくなれば内部に強大な敵ができる可能性を」
この国の最大戦力であるイプスの妹、マリー。彼女は強力な魔法を操り、氷で攻撃するという。一説では数十匹の狼に町を襲われたとき、たった一人で撃退したという逸話もある。尾ひれがついたのか、もっと話が大きくなると雪崩を一人で食い止めたとかも。
だから国が軍に組み込むというのもわかる。負けられない戦いならばなおさら。
だがしかし、上層部は考えているのだろうか。その力がふとしたことから自分たちに向けられることを。
ガドイは書斎の窓から外を眺める。外では侵攻準備をするために忙しそうにする兵士たちや商人たちが大勢いた。それを見て思う。
どちらにしろ、相手には氷の巫女と同じように魔法を操る人物がフェレス王国にいる限り頼るほかないのだろうと。噂では、ライ・ジュリアール本人以外にも似たような力を扱えると聞いていたのだ。なら相手をするには巫女しか手段はない。
「……少し寒くなってきたな」
室内で現在の気候は秋に近い。だから寒さが加わってきたのだろうと思う。いや、思いたい。
ガドイとしてはこれから起こる戦に対して寒気に襲われたような気もした。しかし、総司令官を任命された手前弱気になることはできなかった。フェレス王国ほどにないにしろ、国の存亡と未来をかけた勝負には変わりないのだから。
こんにちは、更新をできてほっとしています。
……といいつつ三日に一回のペースになってしまっていますが、本当に研究が忙しくて申し訳ないと思ってはいるのですが、どうしても時間が取れないのです。
ちょくちょくと書いては入るんですが……
また時間を取れたら(四日開くことは絶対にしませんので)更新します。三日以内には絶対にしますのでよろしくお願いします。




