第八十七話 追撃戦
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王都で第三機関をジギル国王の名で承認させたライ達は逃げるようにして王座の広間を後にした。いなくなったと同時に入ってきた兵士たちは、煙で状況把握ができずどうすればわからなかった。
煙が開けた後でもどうするか迷っている。
そこで最初に話したのはジギル国王だ。
「ステイル、これはどういうことだ?」
この広間に兵士を入れるなど限られた者しかいない。しかも、あの兵士たちは王城に常時している兵たちだ。命令には大臣、将軍、の命令ではなく基本的に王族直下の部隊ともいえる。現在エッジは行方をくらまし、エミルがやったのならば逃げるようにいなくなるはずもない。かといって自分が命令したわけでもない。
となると残るのは自動的にステイルしかいなかった。他にもある理由から疑っていたのだが
ステイルは父親であり王族であるジギルを向いて説明した。
「すみません父上。どうやら私の勘違いだったようです」
「勘違い?」
「はい、実は明朝私の部屋にとある報告があったのです。内容は娘であるエミルが誘拐されたと。しかもその誘拐した人物がライ・ジュリアール軍師と聞いて厳重体勢を強いていたのです」
「筋は通っておるか」
「最後に突入したのはなにやらライ軍師がする兆候が見えたため、結果的に早とちりでしたが」
「ふむ……」
ジギルは考えながら自分も息子を見る。
いつもの、何も知らないジギルだったならば話を聴いてそうかで済ませていただろう。息子を疑うなど親としてもしたくないからだ。
しかし、同じ娘であるエミルから二日前に密偵からもらった内容を見たら疑心を持ってしまうのもしょうがない。内容は
《ステイル兄上の動向や仕草、行動を逐一見ていてくださいお父様》
という簡単な一文であった。
たった一行、密偵に伝えれば済むこと。またはあって話すだけでも済む。
しかし、この内容は取りようによっては大事になるのだ。
すなわちステイルに謀反の疑いがありと。
だから密偵にも話せず、かといって密会しようともエミルの部屋は監視され病を理由に動けないという状況だった。ならば手紙でやり取りするしかないだろう。少なくとも伝令が信用できれば手紙の内容を知るのは書いた本人と呼んだ本人のみなのだから。
しばらく考えていたジギルはステイルに視線を向けていたがそれを外し、天井を見上げる。隣国からの侵略の可能性、第三機関設立、娘の行動に今度は息子の犯意の疑い。何の冗談だと失笑したくなる。でもそれはできない。自分は王なのだ。一挙一動で一人の命にかかわり、一つの命令で大勢の民が死ぬ危険性もあるのだ。
せめて今は万事上手くいくことを祈りながら正面を向き、これからのことを議論、または支持していくのであった。だからだろう、ステイル王子が一瞬表情を変化さえある男に怒りを覚えていたことと、またこのことも折込済みで保険をかけていたということに。
(果たして逃げ切れるかな?)
そう思いつつステイル王子は広間に集まっていた将軍や大臣たちの議論を聞いていくのであった。
広間から姿を消したライ達がどこに行ったのか。その答えは城下町にある馬の宿舎に向かったのであった。ライが魔法で水蒸気を発生させた後、王城の中を走り急いで王城につながる門から城下町へと向かった。
王女であるエミルやメイドであるユレイヌが走るのはどうかと思ったが、エミルは孤児院に仮にも所属し、ユレイヌも将軍家の令嬢、ライ達と比べるとあれだが、一般兵と比べると遜色ないものであった。
走りながら城下町に下りた後はそのまま一気に馬舎まで走りそこで少しだけ一息をつく。
「エミル、それにユレイヌさん。二人は馬には乗れる?」
荒い息をつきながらもエミルが答えた。
「ば、ばか、もの。そのような、こと。たしなみ、としてだな」
「エミル様は乗馬もできますわ。それと私も一通りのことはできます。いつどんなときに必要になるかわかりませんので」
エミルの様子とは違いぜんぜん息を切らせていないユレイヌ。結構早く走ったつもりだったのにまだ余裕がありそうだった。
ユレイヌが替わりに答え持ち歩いていたのか、ユレイヌは水を取り出しエミルに渡していた。エミルは受け取ると水を飲み息を整えている。
しばらくして息を整えるとエミルはまだ少々荒いがライに話す。
「そ、それで。これからどういう道順で待ち合わせに行くのだ?」
「二人が馬に乗れないなら誰かの後ろに乗ってもらうしかないかな。本当は馬車を用意したかったけど馬車は使わないほうが良いしね。補給は村や町にいる国盾の砦のメンバーが融通してくれるから心配は要らないよ」
「そうなのか。だが、なぜそれほどまでに急ぐのだ?お父様から第三機関の設立言質はとったのだ。慌てる必要はないだろう」
エミルが質問してきたところで馬舎の奥から馬を人数分、ティア、ラン、リエルが連れてきてくれた。
「ライ、鞍もつけたからいつでも行けるよ。エミルとユレイヌさんは乗れるの?」
「問題ないだって」
「そうなんだ、なら二人はこれね」
そういいつつティアは二つの手綱を渡す。
ライもリエルから貰いつつ先ほどのエミルの質問に答える。
「さっきの質問だけど、ほぼ確実に仕掛けてくるよ。ステイル王子がね」
「だが、もし王国の騎士団や近衛兵を動かし私たちに差し向ければいくら王族といえども、国王の決定を無視することになる。ただではすまないと思うぞ?」
「まあ、そうだろうね。それも後でわかるよ。だから今は王都をできるだけ早く抜けよう」
「う、うむ。わかった。ならば行くとするか」
そういってエミルも馬に乗り最後にユレイヌが馬に騎乗した。
そうしてライ達は馬を走らせキャサリン達との合流場所に急ぐのであった。
馬を走らせてしばらくし、大体半刻ほど走ったころエミルはライが言っていたことを理解する出来事が起こるのである。
一番最初に気がついたのはリエルだ。
「ライ」
その言葉を聴いて聞き返す。
「どのくらいいると思う?」
「多分五十」
「思ったより少ないな。それとも量より質ってことだろうか」
二人で交わされる話に後ろを走っているエミルが話しかける。
「一体何があるというのだ!」
結構速度を出しているので自然と声も張り上げないとならない。
「馬舎でいっていた追っ手だよ。騎士団を送らなくてもいいって言ってたけどならば、盗賊や野党に扮した騎士や直属の部下を差し向ければ良いってこと。ティア、ラン、レーシアはエミルとユレイヌさんを守りつつ先行して。俺とリエルは後方の敵を倒す。リエル頼める?」
「わかった」
リエルは頷きながら同意してくれる。
「よし、なら全員先に行って次の町で合流ってことでティア頼むよ」
「任せてよ、そっちも気をつけてね?」
「ああ」
二人で会話を終わらせるとライとリエルは速度を緩め踵を返す。
他のメンバーが道の先に行くのを確認してから止まる。
後ろから追いかけている土ぼこりを見つつ隣にいるリエルに話しかけた。
「そういえばさ、こうやって二人だけで敵に対峙するって始めてじゃないか?」
「多分」
「どのくらいの強さか分からないけど、あのステイル王子ならば弱い兵を差し向けるはずがない。そうなると厳しい戦いになるかもしれないけど、不安はない?」
「大丈夫。私もあれから強くなった。それにライもいる」
「……そっか」
今までは隣にレーシアという少女がいて一緒に戦っていた。だが今度はリエルがいる。リエルもまた大切な、そして頼りになる仲間。リエルが答えたようにライも負ける気はしなかった。
しばくして相手の集団が目視ではっきりと見えるころになった時、集団は速度を落としていた。どうやら二人道で止まっており、危ないから速度を落とした……ということは決してないように見える。
「ライ・ジュリアールだな?」
名前を聞いてきた先頭の男がすでに剣を抜いているからだ。
「名前を聞いて確認しつつ殺気を放ってるっておたくら馬鹿か?武器を構えてるってことはどういう人相か知ってるから油断なく構えてるんだろうが。向きからしても王都から慌てて追ってきたって所だろ」
約五十という集団が前におりこちらは二人。だというのにライはまったく動揺することなく対峙していた。
先頭にいる男が目を鋭くしながら手を上げる。
すでに言葉を交わすことは必要ないという合図だろう。手を上げられた瞬間後ろから十ほどの弓矢が放たれた。
放たれた弓矢はライ達に向かっていく。腕が良いのか狙いは確実だ。
そのまま一直線に向かっていく弓矢。
カキン
しかし、無常にも弓矢はそういう音を立てて地面に落ちていく。ライが白帝の壁で守ったのだ。
【ライ、右よ】
「わかってる」
エスティアが頭の中で忠告をしてきてライは手を右に伸ばし水弾を放つ。すると飛んでいった場所で二つの音がなり、何かが弾けとんだ。最初の弓矢では動揺がなかった先頭の男。だが右から来た攻撃に対し、手を伸ばすだけで防がれたことに動揺を隠せなかった。
今のは弓矢を劣りに使ったことはもちろんだが、他に魔法を使っていたのだ。
魔法の内容はおそらく物体の透明化だろうか。水弾があたった音からして人ではない。おそらく弓矢か石か何かだろう。
ではどうやって見抜いたのか、それは影だった。どうやら透明にはできるらしいが影は隠すことはできないようだった。
「それで終わり?」
ライは聞くと先頭の男の勘にさわったのか次に二列目の男達が馬に乗って突撃してくる。後ろからは弓矢が再び放たれ、そのほかは魔法持ちなのか水、火、土と三種類の魔法が襲い掛かってくる。これをみてライはなるほどと納得する。
これほどの戦力を有するならば五十人で差し向けてくるのも分かる。火、水、土のすべてに対応するにはおそらく白帝の壁を展開、他の魔法も併用しなければならないがこちらに向かってくる敵に対しては対処が難しい。それでも無理をすればできるかもしれないが、こんなところで無理しなくても今回はよさそうだった。
今回は隣に小さな相棒がいるのだから。
ライは左手を前に突き出し白帝の壁と土でできた壁を生成すると、右手でいきなりリエルの肩に手をおいた。
突如肩に手を置かれたことにはリエルはビクリッ!と驚いているが次の瞬間さらに別のことで驚くことになる。
ライが手を肩に置いたと単に何かが流れ込んできたのだ。そして次の瞬間、自分の周りに変化が訪れる。
淡く蒼色の光が体全体を覆っているのだ。以前この光景はリエルは見たことがあった。ライを半年に発見し、一緒に賊を討伐したときにレーシアに似たようなことをしていたのを。
リエルはあと瞬きを数回するぐらいの距離に迫っている敵を前にしたにもかかわらずライのほうを見る。
ライはそれに対して頷いた。
「思いっきり魔法を使ってみると良いよ。リエルが持っているのは水帝の宝玉。思い切り前に突き出して半分ぐらいの力を念じてみて。そうすればすぐに終わるよ」
リエルはライに言われて頷く。
今までリエルは半年前からもっと力をつけるために水帝の宝玉も使って武力だけではなく、魔法の鍛錬もしていた。そして分かったことが、リエルが全力で水帝の宝玉を使った場合の威力は十人程度を戦闘不能にするぐらいの威力。
これでも十分すごい威力だが、元々の威力からすれば見劣りしてしまうものだ。
だが、ライは半分を念じるだけですぐに終わるという。
首を傾げつつリエルは愛剣である双剣を引き抜きつつ片手を突き出した。そして念じる。目の前の敵を洗い流せと。
ゴオォ!
一瞬そのような音がしたかと思えばリエルはいきなり後ろに吹き飛ばされそうな衝撃を受けた。でも吹き飛ばされることはない。ライがそうなることを予想して手を背中に回してくれていたのだ。
後ろに回るライの手を感じながらリエルは前はどうなったと思い前を見るそこには……何もなかった。
いや、正確にはある。正しく言えば誰もいなかっただろう。よく見れば遠くに何かがあるようにも見える。
「うーん、思ったより威力が高かったみたいだね。リエルが今までずっと魔法も鍛錬した結果か。これからはもっと威力を抑えても良いみたいだなー。ただ方向と威力、規模をまだ上手く操れてないみたいだけど……まあそれは半分ぐらいと曖昧にしたからってことか」
ライは現状分析をするようにそんなことを言いつつ、目の前ではなく左脇にある林の中を見ていた。
リエルもその後を追っていくと……そこには水に濡れ、馬の下敷きになっている者や木に引っかかっているもの、または不自然に手足が曲がっているものもいた。まるで何かに押し流されたように。
何かを分かっているライに答えを聞こうと視線を向け、ここでようやく気づく。後ろの感触に。
「……っ!?」
ビクンッ!と震えるとライはどうしたのかと気づきリエルのほうを向いてきた。その時に後ろに回されていた手も離れていったために、安堵?と名残惜しさを覚えつつ顔を俯ける。
「ん?リエルどこか調子が悪い?魔法の後遺症とかはあれぐらいでは現れないだろうし、リエルに現れるはずないから大丈夫のはずだけど」
そういって顔を覗き込んでこようとするライに対してリエルは顔を俯きつつ馬に乗る。
「本当に大丈夫か?」
馬に騎乗したのを見て調子が悪いというわけではないと判断したのか、ライも馬に乗りつつもう一度最後に確認してきた。
「(コクコク)」
まだ顔を下に向けていたが、頷いたのを見てライは大丈夫と判断しティア達が走っていった方向に馬を歩かせ始める。ライとしてはリエルの耳が赤くなっていたことに気がついていたが、魔法使用時の衝撃に驚いていたので、それが原因だと思いリエルの内にある本当の気持ち(リエルの行動の意味)を気がつくことがなかった。
だがそれを言うとリエル自身もこの時決して逃してはいけない言葉を聞き逃してしまったのだ。ライが隠し、エスティアも黙っている、使っていたレーシアですら知らない秘密。
リエルが聞き逃した言葉、これをめぐってまたひと悶着あるのだがそれはまだまだ先での話しになる。
二人は将来起こる悶着があることを知らずに、ティア達を追って馬を走らせ始めるのであった。
こんばんわ、まず二日あけてしまいごめんなさい。活動報告にも書きましたが、一日の忙しさによってまた一日二日更新が開くかもしれませんがご了承ください。
さて、今回は王都から逃げ出すようにしたライですが、ステイル王子の追っ手が差し向けられました。
なんというか書いていた感じ、この話こそ王都脱出戦ではないだろうかと首を傾げつつ書いてました。
戦いもすぐ終わりましたが、伏線が増えましたね。今回実は新しい書き方を試してみたんですが、あえて強調せず何が伏線なのか曖昧にしてみたんですが、どうでしたでしょうか?といっても曖昧になってはいなくよく読めば、分かると思いますが。
さて、では今日はこのへんにさせていただきます。また明日できればお会いしましょう。




