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第八十四話 王都脱出戦 (準備編)

お楽しみください

 王都に到着してから二日、ライは裏通りの目立たない宿屋に現在いた。


 王都といえば地方から見れば煌びやかな城下町を想像するかもしれないが、それは表だけのことであり、裏は地方より悪い状況かもしれない。


 別に国王が悪政を働いているわけではないが、その下に働く貴族たちが仕向けたり戦争で親が死んだり、または捨てられたりとしたものたちが少なくも存在した。


 ライがいるこの宿屋の店主も昔は孤児だったらしく、裏の現状を知り訳ありの人物も泊められるように、近くにいる孤児の世話をしようとして店を開いているということだ。


 さて、そんな場所にライは到着してから二日が経過していた。本当ならばその日にすぐエミルを迎えに行くつもりだった。しかし、現状が許してくれないことを知る。


 今のライは死んだことになっており、噂程度でもしかしたら生きているかも?という程度らしい。それは憶測の粋をでずに確信には至っていない様子。


 だから名前を名乗れば大騒ぎになり、すぐに王に面会することはできるだろう。


 しかし、それではステイル王子に認知されてしまうことになる。ライが生きている可能性をあの場で考えていたとしても、まさか噂段階で対策を取ってくるとは思っても見なかった。でもその対策はとても有効だ。

 

 現にライは監禁されていると知り王都にやってきたのだから。


 別の味方をすれば監禁だけならこちらが行かなくても無事で放置すればいいと思うかもしれない。


 だが、ステイル王子が医療の心得があり部屋に閉じ込めている理由が病という報告を二日前にエミルに会ってきたランに聞かされて、やはり戻ってきて正解だったと思った。


 ステイル王子はこの情報を聞いたライにこう伝えたかったのだろう。エミルの命は私が握っている。助けに来ないと不慮の病で命を落とす可能性があると。ランの情報だと城内ではエミルが病にかかって部屋で療養しているということだ。しかも感染の可能性もあるから人はほとんど会えない。そんな中、仮にステイル王子が毒殺を試みてエミルを殺しても、医療を担当しているのはステイル王子。病が悪化してエミルが病死したと言えば、他の医師は否定できないだろう。王族が言うことなのだから。


 よって、ライとしてはエミルを助け出すことは急務を要したわけだ。ステイル王子の思惑に踊らされているような気もするが……次の手はステイル王子にもよめないはずだ。


 二日前に現状を知り独断で(まだティア達には話していない)、キャサリン先生に連絡を取ったおりに遠風の書からの文章で少しだけお小言を言われるが、ライが王都に向かうといったときから覚悟はしていたらしくあることに承諾してくれた。


 なので後は準備が整うだけだが、さてティアとリエルは上手く行動してくれているだろうか。


 一人部屋でベッドに腰掛けながらそんなことを考えていると、扉を叩かれる音がしてきた。その音に対して開けるように指示するとそこにはレーシアがたっている。



 「ん、レーシアか。今戻ってきたの?」


 「そうなの。言われたとおり城壁の様子と警備状態の確認、あとついでに城下町の様子を見てきたの」


 「そっか、それでどんな感じ?」


 「城壁と警備状態は外から見た限りでは詳しくはやっぱり分からなかったけど、なんだかピリピリしてたなの。城下町の様子は変わった様子がないけど、ただ馬車が沢山走ってたぐらいなの」


 「馬車が?」


 ライは馬車のくだりを聞いて考える。

 

 警備状況は後で他の仲間に効けば良いが、馬車の行き来については少しだけ疑問に思う。


 「その馬車は城門と王城、どっちに向かっていってた?」


 「んー、どちらかというと中に向かっていってたと思うなの」


 「中にねえ」


 考えられることは二つ、北と西が侵略されることを聞いて軍備を整えさせているか。それとも、別の目的があってのものか。


 二人で話していると後ろから二人分の足音が聞こえてきた。


 「あ、レーシアもう戻ってたんだ」


 「ただいま」


 姿を現したのはリエルとティアだ。二人とも深めのフードを被っていたが宿屋ということで、すでに顔を隠すようなことはしていない。


 「お帰り二人とも。あとはランが帰ってくるだけだけど……あ、もう帰ってきてるのか」


 三人がキョトンとしていると、影の中から一人の少女、ランが姿を現した。


 「今戻りましたが……キャサリン様といいライ様といいなぜ私がいることがばれてしまっているのですか?」


 不思議そうにみてくるランに返事を返す。


 「ランの愚者の影人の魔法は確かに脅威だけど万能じゃないってこと。注意深く見れば分かるんだけどね。理由は影の濃さだよ」


 そう言われてランは気づいたようだ。


 「影の濃さ……ですか」


 「うん。普通人は影の色なんて気にしない。黒しかありえないんだから。さすがに影が赤色や青色のように変化したら気づくだろうけど、影の濃さが変化したとしても気づかないよ。太陽の光で濃さは変わるからね」


 「ならライ様は影の濃さを覚えていると?」


 「なんとなくかな。戦場では気づかなくても俺はずっとここにいたからさ、影の濃さを覚えていてもおかしくないだろ?」


 ライはそういうが実は別の理由からも分かったがそれは言わなかった、別に自分以外にできるとは思わないからである。


 ランが納得したのを確認してライは全員にそばによるように促す。


 全員がライの傍にやってきて向かいにある椅子に座る者、ライが座っているベッドの両端に座るもの、に分かれた。


 両隣に座ってきたのはリエルと、以外にもランであった。向かい側には何か不服そうな二人がこちらを見ている。


 ライが苦笑していると隣にいるリエルがお菓子を渡してきて、ライが受け取ると全員に配り、それから状況報告が始まった。


 「それで、まずはティアからだ。軍部のほうはどうなってた?」


 モグモグ食べていたお菓子を飲み込んでから喋りだす。


 「んぐ、えっとね軍部のほうはなんだか緊張した空気が流れてたよ。ライの元に行ったと思われているからさすがに中に入ってまでは様子は見れなかったけど、平常時より人の出入りが激しかったし」


 「そこに馬車は来てたか?」


 「馬車?うーん、一応何台か来てたかもだけど、そんな大量にはいなかったかな」


 「そっか、それ以外に変わったことは?」


 「変わったことというよりも噂…みたいなものが流れてたよ」


 「噂?」


 「うん、何でも他の国が侵略してくるんじゃないかとかさ」


 「……なんだって?それは本当だよね?」


 「そうだけどそれが何かおかしいの?」


 ティアが聞いてくるが、ライは返事を返さなかった。


 (他国が侵略してくるという噂が流れてきた、それは俺らも知っているから間違いはない。人の口には戸が立てられないからどこからか漏れたのも納得できる。でもそれならば、どうして城下町がいつも通りなんだ)


 「ライ?」


 名前を呼ばれてライは考えを中断した。


 「あ、ごめん。少し考えてた」


 「何を?」


 「いや、だって何で侵略されるかもしれないと分かっているのに王都はいつもどおりなのかと思ってさ。軍部の空気が変わったってことは噂は事実、そして軍部に身を置く兵士たちは町の住民でもあるんだ。ならその噂が町にも広がったはず。なのに町はいつも通りっておかしくないか?」


 「そういわれれば確かに」


 「ライ様、そのことに関して少しお耳に入れたいことが」


 「何か情報があるのラン?」


 「はい、私も城下町の様子を見たり城壁の一部の細工をしたりとしていましたが、その時ティア様が仰られたように噂を耳にしました。ですが、その噂は二つの噂がたっていることになっております」


 「二つ?」


 「一つは、先ほどの他国から侵略されるのではないかという噂。そしてもう一つは最初の噂が起こった後に起こった噂です」


 「内容は?」


 「いわく、フェレス王国軍師が此度も他国の侵略を防ぐであろう。という噂らしいです」


 「は?」


 自分は死んだとも思われ、行方不明の身のはず。なのになぜ。


 「噂の出所をたどっていったのですが、どうやらこの噂は故意に流されているようです……王城のほうから」


 「……そうか、ステイル王子の仕業か」


 王城の出所というのですぐに分かる。おそらくステイル王子は牽制を放ったのだ。二つの国から攻められてはフェレス王国は窮地にたたされる。だからライをあわよくば利用しようと噂を流し、住民を先導する。これでもしライが死んでいたり出てこなかったら住民は失望し、またライの主になるエミルに失望の先を向けることもできる。


 仮にライが出てきても侵略を止めさせるために扱き使い、後で始末すればいい話。相手は王族でありこちらは使える貴族、命令には従わなければならない。


 「あの王子もやってくれるなー。まあいいや」

 

 「え、いいの?」


 「いいよティア。後でこっちからも話すことがあるから。それよりも先に報告を済ませよう。リエル頼むよ」


 「わかった」


 そういって今度はリエルが話を始める。


 「王都にある店を歩き回ったけど見た限り物価が上がってる。主に食料が」


 「どこかが買占めを行い始めたか、それか住民が先を見越して動いたかか」


 「ある商人に聞いたら北と西の村や町は貴族を頼って移動をしてる地域もあるって」


 「まあだろうな。王都はやられるとして最後、それまでは安全だし」


 「ただ南のリューネリスは軍備を整えて西に向けるかもしれないって」


 「リューネリスが?」


 確か現在リューネリスを収めているのはあの豪商、カイ・タグールだったはず。ということはカイが西の住民を逃がすために兵を向かわせたか、それとも国境付近の防備を固めるためか。どちらかだろう。


 「周りの貴族はどうしているか分かるか?」


 「それはわからない……ごめんなさい」


 ほしい情報を調べられなかったからかシュンとしてしまうリエル。そのリエルに手を頭に載せ撫でる。


 「謝らなくて良いよ。それどころか王都以外の情報を知れたんだからお手柄だよ」


 「……んっ」


 撫でられるのが気持ちいいのか目を細めるリエル。


 そんな様子を見つつ正面に目を向けると六つの目が集中していた。


 「「「……」」」


 ライはなんだか気まずくなり撫でるのをやめると、名残惜しそうな瞳が二つ追加され八つの目に見られる。


 とりあえず空気を換えなければと思い咳をしつつ話を変えようとした。


 「ゴ、ゴホン!よし、なら次に俺の話を聴いてほしいんだけど」


 「逃げたね」


 「逃げましたね」


 「逃げたなの」


 リエル以外の三人の言ってくるが、強引に話を進める。


 「……それでな、話なんだけど実は」


 そういって、ライは二日前に考え付いたこと、そしてこれから起すこと、キャサリンには許可を取ったことなどを話していった。


 話を聞いていたティア達、最初は不機嫌そうにしていたが話を聞いていくにつれて驚いたりしており、最後には呆然としていた。


 「ってことなんだけど、ティア達はどうする?」


 ライの話を聞いて全員が無言でいた。この問いかけに出す答えによって、選ぶ選択によって未来が分かれるからだ。


 「……考えは変わらないんだよね?」


 声を落とし、確認してくるように言うティア。


 「変わらない、というかもうキャサリンには話したからあっちではそのつもりで動いているはず。なら後は俺らだけだよ。まあラッシュとフィルにも聞くようには言ってたけど、ラッシュは決めかねててフィルは了承してくれた。後はここにいるメンバーだね」


 「そっか……」


 そして再び無言になるティア。


 やっぱりいきなり言うのはずるいかなと思いつつまた後で言いと言おうとしたところで、レーシアが声を上げる。


 「わ、私はライに付いていくなの。元々半年前にライに付いていくと決めたときから覚悟はしてたから、これぐらいで離れるとか考えられないなの」


 強い意志を感じさせる言葉と瞳でライに言ってくる。


 すると呼応するように次にリエルが隣から服を引っ張ってきつつ言った。


 「私もライと一緒に行く。昔より今のほうが心地いいし好き」


 リエルも同意してくれた。最後の好きという言葉に少しドキリさせられたが居心地がいいということだろう。


 さて残るは二人。どうするべきかと思い様子を見ると、ランがこちらを向いていた。


 「ランはやっぱりすぐには決められない?」


 「私はもう決まっています。元々お嬢様……ユレイヌ様からライ様、貴方を全力で助けるように命を受けているのです。それから命令の解除も受けてないならば継続中なのです。それにこれからエミル様を迎えに行くのでしたら必ずユレイヌ様もいらっしゃるはず。ライ様はユレイヌ様も一緒に連れて行くおつもりなのですよね?」


 「もちろん、エミルも信頼しているし身の回りの世話も必要だろう。あと少しでも信用できる仲間は多いほうがいい」


 「なら公的にも『個人的』にも問題はありません。全力で助力します」


 「有難う」

 

 笑みを浮かべランに言うと、最後の一人ティアに言う。


 「それでティア、後はティアだけど」


 一度だけ区切ってライは言う。


 「ティア、引き返すなら今しかないよ」


 「……ライ?」


 「孤児院から引き取ってくれたフロレンス家、そこに恩があるんだろ?もし一緒に行動を起すことになるならば、被害はフロレンス家にも行くはず。もちろんジギル国王のことだから没落するまでは指示しないだろうけどステイル王子は分からない。それでもティア、一緒に来る?」


 こちらを見てくるティアは色々な感情がせめぎ合っている表情だ。一緒に行きたいけど家のことも気になると。


 それを知っているからこそライは何も言わなかった。この問題は自分で解決するべき、気持ちを整理するべきなのだ。こちらが何か気休めを言ってこんな大事な選択を選ばせてしまったら後でティアは後悔するかもしれない。


 他の三人は全員が自分の意思で決定した。ならばティアも自分の意思で決定しなければならない。


 他の三人も無言で成り行きを見守っていた。だが俯いていた顔をティアがついに上げてライに言ってくる。


 「私も……私も付いていく。やっぱり一緒に行きたい」


 「家に迷惑が掛かるかもしれないよ?」


 「それも考えた。でも、私たちがやることは結果的に国の為になる。ステイル王子がどういう人物かも知らない人が多いなら、知っている私たちがやらないともっと酷いことになるよ。それにもしこの作戦が成功したら悪いことにはならないと思うしね」


 最後は悲しそうに、でもしっかりと笑みを浮かべていってきた。


 それに対してライはリエルにしたように近くに近寄ってから頭を撫でてやる。


 「判ったよ。ごめんな、つらい選択を迫って」


 申し訳なさと感謝の気持ちを伝えるために撫で続けていたら、ティアは猫のように気持ちよさそうな表情を浮かべた。


 もっと撫でてと言わんばかりに頭を手のひらに押し返してくる。


 そんな光景を三人は今回何も言わずに見守っていた。普段なら不機嫌な視線を送るであろう。でも今回だけは見逃そうというように。


 しばらくそんな状態が続いた後に、ライは手をティアの頭からどけて全員を見回してから言った。


 「なら行動は今夜、そして作戦は明日の昼に。いいね?」


 全員がそれに頷いた。


 「さあ、戦争の始まりだ」


 情報、心理戦という名の戦争が今ここから始まったのであった。


 

昨日はお休みして申し訳ありませんでした。

さて、こんかいは王都脱出戦の準備編といたしました。

本当は王都脱出戦と名前どおりにしたかったんですが、ちょっと面白い案を思い浮かべたので今回は仕込みのための話にすることにしました。

ですがご安心?を。次回予告をすれば次こそタイトルどおりの展開になります。

そして、面白い案というものがライがなにやら思わせぶりに全員に話したことでございます。……まあティアのくだりで気づかれる方がいるかもしれませんが、結構大胆なことになると思います。

では今回はこの辺で、また明日お会いしましょう。

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