第八十三話 エミルの状況
お楽しみください
ライ達がギャンギムント孤児院で状況報告をしながらエミル救出を決意してからしばらくたったあくる日の午後。
時間は情勢に何があろうとも進んでいき、ここフェレス王国王都でもそれは変わらなかった。
王城にいる国王であるジギル国王は今目の前の報告を聞いて愕然としていた。
「……それはまことか?クレイ副将軍」
「間違いありませぬ。何度も斥候を放ちましたゆえ」
ジギルの目の前にいるのはクレイ・アスライド副将軍。現在は第三師団の代理総括者である。元々の第三師団将軍、ギリエス・エストリア将軍が病状が芳しくないために代理という形で第三師団を率いていた。
そしてこのクレイ副将軍は、ライが王都に来ることになったきっかけである人物であった。
「まだ信じられぬが」
「私めも信じたくはありません。ですが噂は確実にあり、火が無い所に煙はたちません。陛下からガリアント平原の戦いの前に国の西と東に分散し現状を把握せよという命に従い、その折西のドリアド帝国がなにやら不穏な動きをしているという報告がありました」
「確かに、西では村が何度も襲われているという話も聞く。おそらくそれとも関係があるかもしれぬが」
「確実にありましょう。それともう一つ、北のジュアン帝国のほうでもやはり動きがあるようです。こちらは山を隔てているために詳しくは判りませんが、斥候からは注意されたしという報を聞いております」
「……副将軍。おぬしは二つの国が我がフェレス王国に攻めてくると思うか?」
「なんともいえませんですが最悪の状況を想定していたほうが良いかと」
「ふむ」
ジギルは考え込む。フェレス王国はまだ先の内乱で傷が癒えていない。数千という死傷者があの戦いでは出たのだ。物資も消費されたはず。なのに今度は二つの国から宣戦布告される可能性があるなど夢にも思わなかった。
と、ジギルは隣のほうをなんとなく見る。
いつもは隣には自分の自慢の娘が座っているはずなのだ。しかし、今はある事情からいない。
「そういえば陛下、今日はエミル王女様はおられないのでしょうか」
ジギルの視線を追っていき疑問をクレイは言うとジギルは頷く。
「うむ、そうなのだ。何でも何かしらの病を患ったとかで現在自室で休養しておる」
「なんと!一大事ではございませぬか!」
「いや、心配には及ばん。病が発覚したおり偶然我が息子であるステイルが近くにおってな。あやつは医療にも長けておる。診療した結果安静にしていれば命に別状はないということだ。ただ、うつる可能性があるため最近会うこともできぬが」
「なるほど、ですが安静にしておられれば命に別状はないということは喜ばしいことではありませぬか」
「うむ。我も一人の親であるのだ。我が子が可愛くて敵わぬ。……エッジの奴もあのような馬鹿な真似をしなければな」
ジギルの息子であるエッジがリューネリスで謀反を起したことはすでに周知のことであり、国王であるジギルは見逃すことはできなかった。
ただ、現在そのエッジは行方不明でありどこにいるのか判らない。何でもいいから生きていることを喜ぶべきか、それとも大罪人であるものが見つからないこともあるからか、複雑な心情である。
独り言を言うジギルに対してクレイ副将軍は何も言えない。
クレイから見ればエッジは国の王族であり忠誠を誓う相手でもある。しかし、今回エッジは民に被害を及ぼしていた山賊や海賊を率いて戦を起した。これは許されることではない。
しかしそれをジギルに言えば心証が悪くなるのもだが、心を痛めることになることが一番の懸念だった。
クレイは久しぶりに王都に戻ってきたためにその頃どうなっていたか判らない。だが、自分の息子があのような大胆なことをして罪人になったのだから、心底心労が溜まっているに違いない。もしかしたらエミル王女が病にかかったのも心労からではないだろうか。
そう思いつつ静かに無言を貫くクレイであった。
場所は変わり王城の一室、ここで現在ベッドの上で手足をバタバタさせている少女が一人いた。
「むぅー!暇だ、暇だ、暇なのだ!」
駄々っ子のようにわめく少女を近くで困り果てた表情で見守るメイドが言う。
「エミル様、はしたないですよ。このような所を他の者に見られたらどうする気です?」
駄々っ子のように喚いているのはこの国の王女であるエミルだった。もしこの場面だけを見ていたら誰も目の前の人物が王女とは信じないだろう。
エミルはメイドに視線を向けながら反論する。
「ユレイヌ。お主はそう言うが誰が私を見に来るというのだ?私は病を患っており、この病は映る可能性があるのだろう?わざわざうつされくるような物好きなどおらぬわ」
そういって再び視線を背けてしまうエミルにユレイヌはため息をつく。エミルがステイル王子に病と診断されたのは一月前からであり、丁度ティア達が出発した後ぐらいだ。
この部屋に監禁され始めた頃は毎日遠風の書で送られてくるフィルからの情報に食いつくように見ていた。しかし、エミルがこの部屋に詰められて数日後に違和感を感じ始めてあれほど楽しみにしていた情報交換をやめるように指示したようなのだ。その後、遠風の書は次の日ステイル王子の使いのものに引き渡されることになり現在は手元にない。曰く、西の襲撃に対応するために貸してほしいということだった。
最後にあった情報はこれから二人組に会うため策を用いるということであったらしい。しかし、それから今日までどうなったのかはわからずじまい。
それからはずっと部屋の中ですごさなければならなくなってしまったエミル。だからストレスが溜り普段ならはしたないことをしないエミルが、駄々っ子のような真似をしてもユレイヌとしては強く注意することはしなかった。
「エミル様、どうにかなされないのですか?」
「できるならとうにやっておる。だが兄上はよほど私を外に出したくないのであろう。ユレイヌも向かいにある待機部屋でここ最近過ごしているのであろう?しかも扉の外には監視の兵がいるというお墨付きで。さすがのお主でも自由に動けないであろう」
「……」
手痛いことを言われるがまさしくその通りだった。最初に疑問を感じたときどうにかして情報収集をしようとしたが、部屋から出るにも兵士の護衛という名の監視役が付いてきて、しかも世間的にはエミルの世話をするユレイヌが、エミルから病をもらう可能性もあるからといい、他のメイド仲間にも会えない。これでは、情報の集めようがない。
黙りこくってしまったユレイヌを見てエミルは少しだけ慌てて言う。
「いや、そちを責めている訳ではない。このような場所にずっと辛抱強くともにいてくれるというのは心強いのだ。一人だったら正直腐っておっただろうからな」
ユレイヌはその言葉を聞いて自分の心を奮い立たせる。メイドとして仕えているはずの主人を励ますどころか、気遣いをされるなどなんということか。
「お気遣い有難うございます。ですがご安心ください。私はどのようになってもエミル様の味方でございますから」
「うむ、そういってもらえると助かる」
二人がそういい、部屋の空気が少しだけ和む。
ユレイヌはステイル王子がなぜこの部屋にエミルを軟禁して、しかも外との接触を絶っているのか判らない。エミルも同様であった。最初は病を信じていたが、一ヶ月も薬だけ飲む生活には疑問を感じずにはいられない。
だが、一人ではないことがお互いとても心強いことには変わらなかった。
「エミル様、紅茶でも用意しましょうか」
「うむ、頼む」
ユレイヌはとりあえずエミルに紅茶を用意しようと動こうとしたとき、部屋に異変が起きる。
いや、正確には『影』に異変がだろうか。
「ユレイヌ様、エミル様、ご無事で何よりです」
部屋の中に小さいが、少女の声が響く。外には聞こえないように発したのだろう。動こうとしたユレイヌは一瞬反応が遅れた。しかし、その声は前までよく聞いていたのだから気づかないはずない。
「ランね?」
「はい」
紅茶の用意をしつつ、視線を地面には向けないでランは影の中から返事を返す。
「ここにはいつ帰ってきたの?」
「今着いたばかりです」
「そう、なら少し待って頂戴。紅茶をエミル様に持っていってから情報を一緒に聞かせて」
「わかりました」
ユレイヌとランはそれで会話を一度終わらせる。そして、再び会話が始まったのはユレイヌが紅茶をエミルに渡してからであった。
「ならラン、エミル様に報告をそれと姿を現しても構わないわ。この部屋には誰もいないだろうし」
「……ユレイヌ様、できればこのままでお願いいたします」
この返事にユレイヌは少し驚きを覚える。昔までだったら不服な命令であってもすぐに肯定の返事をしてきたのに、命令に強くではないが背いたことはないのだ。
ユレイヌが驚いた様子をエミルは気がついていたが、エミルは紅茶を飲みつつ言う。
「よい、ランそのまま話すがよい。万が一にでも姿を見られたらまずいということであろう」
「……判りました。なら改めてそのままで良いから報告をお願いします」
「はい」
そして、ランはこれまでのことを話して言った。
ティア達とローレンス砦で合流し、ローレンス砦の領主であるリューミルと共に近隣の村を警戒していると、賊の集団がアトイン村に来るという情報を受けたということ。
だがアトイン村に行くと驚くことに村人は対抗策を持っていて数十人にも上る賊を撃退したこと。そして、その対抗策は最近噂になっていた村を助けまわっている男女二人組みの仕業だったということを。
「ふむ、そしてその男女二人組みがライである可能性がという話でティア達は向かったのであったな。それで、結果はどうだったのだ?」
「はい、予想通りライ様でした」
それからランは話を続けた。後から村に再び本隊と思われる百以上の賊が来たがそれをほとんどライ一人で撃退したこと。そこにラン達も背後から攻撃をして全滅させた後、ライと接触した。しかし、ライがあまり再会することを望んでいないことが判明したが、強引にリューネリスのあの夜以降どうしていたのかを話させることに成功したということを。
ただ、ここでエミルは驚かずにはいられなかった。リューネリスの話をしている時に思いもよらない人物が出てきたのだから。
「兄上達が……まさか……」
エミルは半ば放心状態になってしまう。たがその様子を見ていたユレイヌはしょうがないと思う。だって、自分ですら放心状態になっているのだからと。
だけど、そういう事情ならば現在の状況に説明がつく。ステイル王子が本当にそのようにしたのなら、傷をつけたライを警戒するだろう。そして、警戒するライはエミルの騎士であり、エミルはライの為だったら協力を全力でするはず。逆もまたしかり。
そして今回は、エミルが軟禁状態になっていることをライがもし生きていたら救出に来るかもしれないとステイル王子が考えたのかもしれない。一番の目的はエミルに自由に政治や国の方針に口を出せなくするのが目的だろうが。
二人の状態を確認しながらもランは話を続けはじめる。
その後大怪我を負ったライだったが、レーシアに助けられ一命を取り留めた。その後怪我が治った後は、賊が現れるところを周り撃退していたらしい。
その話を聞いてエミルは何とか少しだけ平常を保ちつつ小さくこぼす。
「なんというか、あやつらしいな」
「まったくその通りですね。ですが、リューネリスの夜私とエミル様を置いていったことについて、まだ私は許しておりませんのでそれは後日、言うとして、ラン肝心なことを教えてください。ライ様は結局どうなされたのですか?」
それについて、ランは答えていく。あの夜の話を終えた後、賭けをしたこと。そして、見事ティア達が勝ち行動を共にすることを約束させた。
ここまでランが話したが
「ただ申し訳ありません。ここから後は言うことはできません」
「言うことはできない?エミル様にもですか?」
「恐れながら」
「ふむ……なるほどの。ラン、その話はまた後日でよい。だから次の言葉をいうのだ。私はどうすればいい?」
ユレイヌはその言葉の意味がわからず、エミルのほうを見るとそこにはここ一月見ることはなかった、知的に光る瞳を持ったこの国の王女の姿があった。
エミルがこちらの意図に気がついたことが判ったランは話す。
「二日後の夜に。ですが、まずはエミル様の意思を確認するように言われております」
「ふむ、あやつも大胆な手を打つようになったものだ。いや、それは元々か」
「それで返答はどうしましょう」
「それならばあやつに頼むと伝えるのだ。すでに心は決めておる。こちらもこの二日で色々な工作はしておく。父上にも働きかけねば……ラン、今日の夜もう一度ここに来ることは可能か?父上に渡してほしいものがあるのだ。秘密にな」
「判りました。ではお返事をお伝えします。ではまた夜に来ますのでそれでは」
そしてランがいなくなった後に、楽しそうに笑みを浮かべるエミル。しかし、ユレイヌは現状についていけない。そのことに気がついたエミルがユレイヌに言う。
「ユレイヌ、まだわからぬか?」
「はい、なにを仰っているのか」
「簡単なことよ。わらわの騎士が舞い戻ってきたということだ」
「な、ライ様が王都に!」
先ほどの話が事実ならばステイル王子がいる王都はライにとって敵城に等しいはずだ。
「これ、声を落とさぬか」
「す、すいません……ですがライ様が王都に?仮にそうだとして、エミル様は何を頼んだのでしょうか」
ここまで話されてユレイヌはおそらくライに何かを頼んだのは判る。だが、その内容まではわからなかった。……正直後から考えれば、何度同じ状況に直面したとしても判らないものだっただろう。目の前の王族である少女がこんな事を言い出したのだから。
「うむ、ユレイヌ旅の支度をこっそりするのだ。二日後に一緒に家出をするぞ」
ユレイヌはしばらく思考が停止してしまったのであった。
こんばんわ。何とか間に合いました。
さて今回は、王都の状況とエミルの状況をお伝えしました。
久しぶりなんじゃないでしょうか主人公抜きの話は。
……すみません、よく思えば女子会やエミルの番外編とかいくつか例外がありありましたね。
さて、ここで次回予告です。
次回はついに救出大作戦!という名の家出?を決行することになると思います。ですが、仮にもエミルは王族であり、ジギル国王のところには北と西が
侵略する可能性があるということを知っております。エミルはこっそりとジギル国王にも話すつもりですがさてどうなることやら。
また、ライは一体どうやって城内に入るステイル王子が用意したエミルたちの監視役を掻い潜るのでしょうか。ご期待ください。
ではまた明日お会いしましょう。




