第八十二話 予兆と行動
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ライが言った衝撃的な内容にティアとリエル二人は固まってしまっていた。言葉が出ないといったほうが良いか。
その様子を見たキャサリンが肩を落としつつ言ってくる。
「やっぱりそういう反応するわよねー。ライ君彼女たちに言わないのが正解だったわ。おそらく平然といられないでしょうから」
「まあ、日常的なら大丈夫でしょうけど今まではどこに耳や目があったか分からなかったから」
ライとキャサリンが二人で話していると、後ろのほうで声が聞こえてきた。
「おう、待たせたな」
声がしたほうを見るとそこにはラッシュとレーシア、ランが立っている。どうやら追いついたようだ。
声をかけたらラッシュは中を見渡して気がつく。ティアとリエルがへんてこといったら怒られるか、なんというか開いた口が塞がらないという表情をしていた。
ティアはまだしもリエルのこの表情も意外だ。というかそれほどの内容があったというべきか。
「なあ、この二人は一体どうしたんだよ」
「ああ、うん。説明をするからその前に座ってくれる?」
ライが座ることを勧めるとラッシュとレーシア、ランは空いている席に座り一息つく。
それを確認してライは今まで話していたこと、そして西のドリアド王国と北のジュアン帝国がこのフェレス王国を侵略するということを告げた。
後から来て話を聞いた三人は
「「「……」」」
全員が無言だった。レーシアは目を見開き、ラッシュにいたってはティアやリエルより口を大きく開けて言葉を失っていたようだ。
でもランはというと動揺をしていないらしい。何かの情報をすでに察知していたのかとも考えるが、そういえばローレンス砦に先にフィルと合流していたからそこで話を聴いていたのかな?
「……」
とも考えたが、ライはランが知らなかったんだろうなと考えを改める。あの動揺していないと思われた表情はどちらかというと思考が停止した状態というほうが正しいような気がしたからだ。
部屋の空気が変な状態になっているところでキャサリンが手を叩いて全員を注目させる。
「はいはい、呆けている時間はないから次の話に移るわよ。今からここにいるチャイさんとセイブ君に話をしてもらうわ。じゃあ二人ははお願いね」
そう言われて、先に部屋の中におり孤児院出身者の二人がライ達のほうを向く。
「最初に始めましての人が多いから自己紹介を。俺の名前はセイブっていうだ。よろしくな」
「私の名前はチャイだよぉ」
二人の自己紹介に初めてあったラッシュたちは頭を下げる。
それを確認してセイブから話し始めた。
「さて、なら俺からの話をさせてもらうぜ。話の内容は西のドリアド王国の現状だ。さっきライが言った内容であるドリアド王国とジュアン帝国が侵略するというのは可能性が高い。理由は、ドリアド王国で現在大規模な徴兵や徴収、軍備の準備をしているという話が入ってきている」
「その情報はいつから入ってきた?」
「この情報は三月前だ。情報が入ってきた当時は誤報と思ったが何度も確認させたのと日が経つほど物資の搬入が増えているっていってたぜ」
「予想兵力は?」
「まだ現段階では二万と考えてもいいかもしれねえ。ただ予備部隊やガリアント平原であったリューネリス軍みたいにならず者を抜かした兵数になる。あといつ来るか判らないことからもっと増える可能性もあるな」
半月前に万という戦いが起こったというのに再び戦いが起こるというのか。しかも今度は内乱ではなく、完全な戦争。侵略戦争になる。負けてしまえばフェレス王国という名前が消えてしまうのだ。
とここでライは最近考えていたことをここで言うべきかと思ったが口には出さない。すべての状況を整理して、ある人物に確認してから行動しようと思う。それがアトイン村で約束したことがられもあるから。
セイブは話をしてから全員が何も言わないことを確認し視線を隣に移す。それに気がついたチャイが話し始めた。
「なら次はジュアン帝国だね、ジュアン帝国も四月前から準備はしているらしいけど規模がこっちのほうがまずいよぉ。予想兵力は約四万。この数はほぼジュアン帝国の全兵力に相当するよぉ」
「「「「「四万!?」」」」」
フィルやライを含めた孤児院に元々いた人物意外は驚きを隠せず叫んでしまう。
でもチャイは話を続けた。
「そうですねぇ、ただ幸いというべきか北は冬国ですから騎馬で編成される部隊が格段に少ないですよぉ。その分、厳しい環境下で鍛えられた兵士にはなるんですが」
「ちょっと待ってくださいチャイさん」
ここでフィルが質問する。
「どうしたのぉ?フィルちゃん」
「私は攻めてくるであろうということだけは聞いてました。でも四万という数は通常では考えられないはずです。もし他国に攻められたらどうするつもりなんですか?」
「さぁ?私にはわからないかなぁ。それはジュアン帝国の偉い人に聞いてもらわないとぉ」
そう言われてフィルは口を紡ぐ。確かに言われたとおりチャイは調べてきた報告を伝えているだけであって、敵の考えを的確に教えろというのは筋違いというものだ。
フィルが声を出さなくなったのを見てティアが今度は話しかける。
「あ、あのー、その情報が間違っているという可能性は?」
「低いと私は思うよぉ?セイブが言ったとおり何回も確認させたんだし、考えられることはジュアン帝国がそれほど何かに追い詰められているのか、それともそれだけ無茶してもこっちに着たいのかどっちだろうねぇ?」
「あはは……」
思わず苦笑いするティア。
「あの、少しよろしいでしょうか?」
沈黙をしていたランが手を上げた。
「はい、そこの黒い人ぉ」
「……えっと、私が思うに二つの国が軍備を整えているのはわかりました、兵力も集めているということですからどこかに攻めるのは可能性が高いのでしょう。ですが、それが必ずしもフェレス王国というわけではないのでは?ドリアド王国とジュアン帝国が争う可能性も」
「その可能性も考慮したよぉ。でも物資が搬入されているのがジュアンはドリアド王国寄りというより、フェレス王国に近いところに見えるのよねぇ」
「ドリアド王国のほうもジュアン帝国ではなくフェレス王国に近いところに動きがあったぜ?」
二人がそう説明したところでライも同意する。
「そのことについては俺もそう思うよ。兵力には驚いたけど……ラン達には言ってなかったけど俺とレーシアが村を襲ってくる賊を退治していたのは知ってるだろ?その時に一体誰が襲ってきてるのか気になって調べてたら、ドリアド特有の言葉と肌、訛り、ジュアン特有の肌と訛り、武器の特徴とかあったんだよ。リューネリス側ではドリアド人、エンリデンヌ方面ではジュアン人、アトイン村を襲ったのもジュアン人だったよ」
「ということはもう相手は攻めてきたってことか?」
ラッシュが質問してきたが、ライは首を横に振る。
「いいや、正確には攻めてきてないかな。表向きは。見た感じ正規兵ではなくならず者だったようだから、相手はおそらくドリアドとジュアンで活動していた山賊や海賊じゃないかな。それで国が雇うか追い出すようにして追い詰めた結果フェレス王国に仕向けられて襲うしかなかったと」
ライとしてはそう考えるしかなかった。何度も撃退しているのに懲りずに襲おうとするなど自殺行為でもある。なら襲うしかなくなれば納得できるのだ。
「ライの言っていることは間違いではないわ」
突如声がしたと思ったら、光が満ち、消えた後に一人の少女が現れる。
「エスティア、何かわかったの?」
「ええライ。なぜこんなに遠く離れているのに判るのか、不明だけどこの国に三つの力が近づいてきてるわ」
「三つ?」
「ええ、種類はわからない。でも、力だけなら」
エスティアが言うということは、それは宝玉関連の話としか考えられなかった。しかもその三つの力がこの国へと向かってきているという。
でも三つか……。確かに現在ライが持っていないのは四つの宝玉。そのうち一つは判っている。ステイル王子が持っている雷帝の宝玉だ。だが後三つはなんなのだろうか。
「ちなみにどちら方面から着ているか判るか?」
「ええ、一つは西から、もう一つは北から。東からも感じるけどそっちはわからない。西と北は少しずつね。東は近づいているというよりか、今は一定の場所にとどまっているというべきかもしれないわ」
「東っていうとアスティールか」
エスティアの話を聞いてライは考える。西と北は間違いなく近づいてきているのだから侵略するということ間違いなしだろう。でも東はどうなのだろうか。このまま東までフェレス王国を侵略してくることになれば防ぐことは無理であろう。絶望的だ。
「キャサリン先生、東の方はこちらに攻撃してくるような兆候は見られないんだよね?」
「あ、ええ。そうね。そういう情報はまだ入ってきてないわ」
質問したライだったが、少しだけ違和感を感じた。なんだか返事が歯切れが悪かったのだ。
「先生どうしたんですか?」
「うーん、いやまさかこんなにも久しぶりになる再会になるとは思わなくてね」
「再会?」
「そう、ってことでエスティア数年ぶり。元気してた?」
「おかげさまで……と言ってもライの手に渡るまでの数年はずっと埃っぽい倉庫で眠っていたから元気というのは正しいのかしら?」
「あー、判断は難しいかもしれないわ。でもさ、ライの手に渡った後はどうなわけ?」
キャサリンが質問してエスティアはライのほうを一度だけ見ると笑みを浮かべて答える。
「悪くないわよ。時々私の忠告を聴かずに無理して困らしてくれるけど、それなりに楽しくさせてもらってるわ?」
返事を聞いてキャサリンが目を見開いて驚いていた。
「へぇ、あのあなたが『楽しい』っていうとは思わなかったわ」
「時は流れるのよ?私も変わるわ」
「どうやらそのようね」
二人が話しているのを見てライは確信する。
「二人とも知り合いだったんだ?」
「ええそうよ。キャサリンとは貴方の父親であるガレックとの繋がりがあったのよ」
「そうね。フィルちゃんからはエスティアのことは聞いていたけど、昔と印象がぜんぜん違ったから驚いちゃった。……ってまあ、こう話しているけど今はそんな時間はないから、話を戻しましょうか。ライ君今度時間があったらまたエスティアを交えて話しましょう」
「そのほうが良いようね。ライにもやることがあるのだから。いえ、正確にはやりたいことかしら?」
エスティアの言葉にギクリッとしてしまうライ。
その反応を見てエスティアは面白そうに笑う。
「何を驚いているの?貴方をずっと見ていたのだから、ここ数日悩んでいたことをぐらい判ってるわよ。……ライ、以前誰かが言ってくれた覚えあるかしら?」
「以前?」
「ええ、選択をしようとするとき、後悔する選択はするな。って言っていたわ。貴方の心もわかっているんじゃない?」
その言葉を聴いてライは天啓を得たような思いだった。確かにそうだ。俺は元々孤児院から出て、田舎で過ごしていたのはただ住む場所を追い出されたという理由だけではない。それならば、軍略書や政治の本を毎夜寝る暇を惜しんでやるわけない。
理由は簡単、あの約束を守るためだ。
「……ありがとうエスティア」
「どういたしまして。さあ、さっさと言っちゃいなさいな」
「ああ」
エスティアに促されてライは視線をキャサリン……ではなくフィルに向けた。
視線を向けられたフィルは驚くがそれを無視してライは話し始める。
「フィル。正直に答えてほしいんだ。今王都はどうなってる?」
「お兄ちゃん……?どうしてそんなことを私に聞くんですか?私よりもキャサリン先生のほうが情勢を知っているはずですし……」
「頭が回るフィルがわかっていないわけないだろ?この質問の内容を。もっと詳しく質問しないとわからないなら言ってあげるよ。エミルの状況はどうなっている?」
そういうとフィルに動揺が走る。
「ライ?どういうこと?」
ティアが二人のやり取りに不安を感じ聞いてきた。
「言葉の通りだよ。ティアでもいいや、王都から俺を探しに来るときエミルには会ったんだろ?多分」
「うん、そこで首に縄をつけてでも連れて帰れとは言われていたけど」
「そんなこと言ってたのか……まあいいや。でも問題はさ、何でフィルは遠風の書を持っているのに俺にエミルと連絡を取るように言ってこないのかずっと考えてたんだ」
「え!?フィルちゃんこの前ライにエミルと連絡取らせるために言ってくるといってたよ!」
「そうか、ということだけどどういうこと?」
ライの問いかけにフィルは無言になる。
「フィル、俺はお前を疑うつもりはない。おそらく予想はついてるから。王都で何かあったんだろ?例えば『エミルが監禁されている』とか」
「……っ!」
予想として言うと、フィルは再び動揺が走ったようだ。
「やっぱりか」
「お、おい。ライ。俺達にもわかるように言ってくれ。そもそも王族を監禁できる人物って誰だよ?」
「監禁した人物はステイル王子だよ。多分俺が生きていると知ったからだと思う。元々エミルと親しいというのはジギル国王は知っていた。なら同じ王族であるステイル王子も知っていておかしくない。だから、ティア達がローレンス砦に向かった後にエミルをステイル王子が監禁したんだと思う。遠風の書を使わないのは、それが元々俺とエミルが連絡用として使っていたから。もし、あちらの遠風の書が没収されていた場合利用されるからね」
「けどよ、監禁してどうしたいっていうんだよ」
「もちろん俺が現れるのを待ってるんだよ。エミルを助けにね」
「まさか……」
「でもよく考えてみてよ。俺は宝玉の力をもってステイル王子の雷帝の宝玉と互角に戦った。そんな相手が生きていて、いつ襲ってくるか判らない。ならこちらからおびき寄せて準備を整えた上で始末すればいい。と考えたんでしょ」
ライが説明を終えると、キャサリンが真剣な声でライに言ってくる。
「ライ君。その話が事実だとして、今この場で話したってことはつまりそういうことと思っていいわけね?」
「いいですよ。最後はエスティアの後押しでしたけどもうすでに心中では決まっていたようですし」
「……そう、わかったわ。北と西が攻めてくるとしてもいつかわからない。でもそんなに余裕はないわ。その間に決着をつけてきなさい。迷いがないほうが良いでしょうしね」
「ありがとう先生」
キャサリンと話し終えて近くに座る仲間に話す。
「というわけで、俺は行って来るよエミルを迎えに。だから皆は」
ガシッ!
左右から服を掴まれる感触があった。
左右に座っているリエルとティアがライの服を掴んだのだ。
「ライ、確かに約束は守ってくれたのはわかるよ。何かをするとき教えてくれるようにって」
「うん、だから教えたんだから皆は」
「あれは最終手段、今回は他の人が手伝っても問題ない」
リエルがライが言い終わる前に反論する。
このまま振り切ることもできるが、どうしてだろうか人の、少女二人の手が決して振り切れないもののように感じてしまった。
「ライ、その二人も連れて行ってあげなさいな。貴方の元々の魔法は白帝の壁なのよ?本来は何かを守るときに絶大な力を発揮する。それに二人とも宝玉持ちなのだから足手まといにはならないはずよ」
エスティアが勧めてくると、ライは観念した。
「わかった、ならリエル、ティア。エミルを迎えにいくのを手伝ってくれ」
「任せて!(わかった)」
「ちょっと待つなの!」
といい空気で終わりそうなところでレーシアが話しに割り込んできた。
「宝玉持ちということなのならレーシアも持ってるなの!」
ライはレーシアの声に苦笑し頷く。否定しても絶対に意思を曲げないのは左右にいる少女と同じですごく意思が強いのだから。
「わかった、ならレーシアも。あとラン、君も一緒についてきてくれる?」
「わかりました」
即答で返事を返してきたランにライは頷いて、残りのフィルとラッシュのほうを見る。
「今回は潜入任務になるから、ラッシュとフィルはここでお留守番を頼むよ。何かあったらキャサリン先生の指揮下に入って。俺も負けるつもりはないけど部隊運営能力で勝負したら苦戦するぐらいの実力はあるよ」
「あらライ君。そこは苦戦するだけなんだ?」
「だから言っただろ?負けるつもりはないって」
キャサリンがすねたように唇を出していたが、ライはラッシュ達の方を見るとラッシュが頷いてくれた。
「任せとけ。ここまでついてきてくれた部下達もみっちり鍛えてやるからな!それにもらったこいつも使ってみてえしな」
そういってラッシュが持つのは土帝の宝玉であった。
子供がおもちゃをもらったように目を輝かせてるなーと思いつつ、最後にライはフィルのほうを向いた。
フィルはというと、先ほど遠風の書のことを聞いた辺りからずっと俯いていた。顔を上げずにずっと震えているのだ。
そんなフィルに近づいていき手を伸ばす。
手を伸ばされて何かをされるのだろうとびくっと反応したが、ライは気にせず伸ばしていって
ポン
フィルの頭の上に手を乗せて撫でていく。
何か責められるとでも思っていたのか、想定外の行動をされて涙目の顔をライに向けてきた。
ライはフィルに笑みを浮かべつつ言う。
「俺らはこれから王都にエミルを迎えに行ってくるからその間色々と頼むよ」
「お兄ちゃん……私のことを怒らないんですか?ずっと隠してたんですよ?」
「怒らないよ。というか、そもそもエミルのことだから俺に伝えるなとかいってたんだろ?罠だからとかさ。だからフィルが悪いわけじゃないよ。まあたとえフィルが悪くても怒らないだろうけどね」
そういいつつ頭を撫でるのを続けていると、フィルは目に浮かべた涙をゴシゴシと拭い花が咲いたように笑ってくれた。
「わかりました!私もがんばります!」
「頼むよ」
ライはフィルの笑顔を見てこれなら安心して王都にいけるなと確信したのであった。
お疲れ様です。さて、今回も出せて幸いです!
……何を書こうか迷った挙句、思いつかないという。
今回のお話は前回の続きで西と北の国が責めてくるということと、兵力の内容、そしてライが次にどうするのかを書いた話でした。
さて、皆さんここで一つ。
ついに次回エミルさんが出てきます!以前エミルがハーレム要因としての居場所がという指摘をいただきましたが、ついにまたエミルが来ますよ!
それと、ようやく題名である賢人軍師と聡明王女の意味と申しましょうか。なんと言えばいいのか纏められていないのですが、二人が呼ばれる由縁になる話が出るわけです。
私としては今まで賢人という言葉を少ししか使いませんでした。あくまでライのことは軍師と呼んでましたからね。王女であるエミルなんて聡明なんてどこが?と思われる方もいたでしょう。
でも、本当に言われる理由があるのはこれからなのです。
と何か気になることを言いつつ今日はこの辺で。
ではまた明日お会いしましょう。




