第八十一話 キャサリン・マルベールの再会と予言
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キャサリンから手荒い歓迎を受けたライ達だったがその後は問題はなかった。
施設の中を案内する前にフィルがキャサリンに情報どおり兵二百を連れてきたというと、ここにそのまま連れてきていいと指示をする。
先ほどまで考えていた場所の隠蔽が必要なのではないかという質問にキャサリンは
「別にもう必要はないわ。これからそんな余裕王国にも近隣の貴族様もないでしょうしね」
と返事をする。
ティアには意味が分からないようだったが、ライやフィルには意味が判った。それこそがおそらくアトイン村にライが滞在しており、フィルが説明しようとした内容なのだから。
兵の迎えにはランが担当することとなり、ライ、ティア、フィル、リエルがキャサリンに施設内の中に入るように促された。
ライとティア、フィルにとっては数年ぶりの里帰りということにも相まって、ついていくが中を見た途端に驚くことになる。
別に内側の施設が昔と大幅に違ったからというわけでもない。むしろ昔とほとんど変わっていないといえるだろう。
ならどうして驚いたのか。
それは中には屈強な兵士達が訓練場で汗を流しながら戦ったり、ある一室では文官のような服装をしている人たちが一つの地図を見ながら何かしらを話し合っている。
施設は孤児院だったはずなのに、これではどこかの作戦参謀本部といわれても納得するだろう。
ライ達が施設ではなくいる人たちに驚いていると、キャサリンはいたずらが上手くいったというような笑みを浮かべつつ、説明してくれた。
「この孤児院はライ君が知っている通り、経営困難に陥って閉鎖したわ。誰かの策謀があったとしても事実がそうだった。でもね、私達孤児院の職員も何もしなかったわけではないのよ?」
「これを見れば一目瞭然だけど、一体いつそんなことしてたんだ?俺は前々気がつかなかった」
驚きつつライが聞くとキャサリンは言い続ける。
「もちろん、生徒達には一部を除いて言わなかったわ。私達にも余裕があまりなかったからね。だけどよく考えてみなさい。孤児院にはまだ二桁にも満たない年齢の子もいたのよ?そんな子をいきなり社会に出すわないじゃない」
「以前俺がそれを指摘したら別の孤児院に搬入するから大丈夫だと」
「よく言うじゃない、敵をだますにはまず味方からって」
悪びれないようにキャサリンは言うとライは苦笑する。まったく、この人はと。
「っと、着いたわね。まずは色々と聞きたいことや私達から教えたいこともあるから落ち着いたところで話しましょう。そういえば貴方達が連れてきたという後方の兵士達の中に中心メンバーはどのくらいいるの?貴方の考え方なら副官も合わせて二人ぐらいかしら?」
「正解、あとさっき呼びに言ったランもそうだよ」
「そう、なら後で話しておいて頂戴。エミルちゃんがいたら待とうかとも思ったけど、そう上手くはいかないわね」
最後のほうは声が小さくなり呟くようにだったが、すぐに気を取り直したように顔を上げて部屋に入る扉に手をつける。
「さて、なら中に入って頂戴」
そういって、キャサリンが最初に中に入りその後ろについていくと中にはキャサリン以外に数人の男女が立って待っていた。
先ほど私達といっていたので一人ではないとも思っていた。でもそのメンバーを見てライは驚く。
中にいる人物はライが入ってくると全員が笑顔を浮かべ手を振るものもいた。
「お前らも帰ってきていたのか?」
ライが尋ねるとその中の一人である少女が話しかけてきた。
「逆だよぉ、私達が先に帰って来ててライが後から帰ってきたんじゃん」
少女の隣にいる男子が同意しながら頷く。
「だな、それにしても俺らが裏で色々してるうちにすげえ有名になって聞いたときは驚いたぞ?王国一の軍師様?」
からかうように言う男子。もし誰も知らない人物から言われたら不愉快に思っただろう。でも違う、彼らは知っている人物だ。しかも自分より幼かったはずの孤児院の出身者だ。
「はいはい、数年ぶりの再開だろうけど今は少しの時間が惜しいの。後で時間が取れたら話しなさい」
キャサリンはそう注意すると少女と男子は了承し、頷く。
それを確認してキャサリンは視線をライたちに向け部屋の中心になる椅子に視線を向ける。
「ならさっさと話し合いを始めましょう。それぞれ好きに座りなさい」
そういってキャサリンが一番奥に座ると元孤児院生も座る。その後ライ達も座っていき最後に入ってきたフィルが座るのを確認してから、まず最初にライから話し始めた。
「キャサリン先生、色々と聞きたいことがあるけどまずはここがどうなっていて、どういう場所なのか教えてほしい」
ライがそう聞くとキャサリンは一度フィルを見る。
「まだお兄ちゃんには何も話していません。組織としか伝えていなくここも重要な場所としか」
フィルが意図を読み取り説明するとキャサリンも頷いた。
「なるほど、なら最初に説明しないといけないわね。まずここは私達が立ち上げた組織『国盾の砦』 の作戦本部って言うところね。支部は他にも沢山あるけど重要度では高い支部だわ」
「一番ではない?」
「ライ君貴方も私が貸してあげた本を沢山読んだのでしょ?だから知っているはず。一箇所に戦力を集中させた場合、そこを破壊されれば連絡通路が混乱し快走する可能性がある」
そういえばそんなことを呼んだ覚えがある。確かその後に続く言葉は
「だからこそそういう場合の備え、第二、第三の策を用意すべし。ですね。ってことは他にも本部扱いされている場所があると」
「まあそういうことね。でも基本ここが中心であることには変わりないんだけど一応納得してもらえた?」
「はい」
「よろしい。なら次に私達の役割を教えましょうか」
そう切り出したキャサリンは全員を見渡しながら話し始めた。
「私達の役目は独自の形態を作って人々を守るというのが大まかな信念ね。それで、もし争いが起こったなら正義があるほうに加担して支援する。その後、争いによって傷ついた村や町に援助したりしてるわ。」
「前々気がつかなかった……」
「当たり前よ。私達は普段裏で仕事をしているのよ?ばれない様に行商や傭兵の格好をしながら支援をしていたわ」
とここで一人手を上げる人物がいた。
「どうしたの?ティアちゃん」
「先生、どうして王国の人に協力要請を頼まなかったんですか?」
その言葉にキャサリンは苦笑する。
「ティアちゃん、あの頃も戦術や政治のことは勉強せずに鍛錬ばかりしていたけどどこかの貴族に行った後も勉強しなかったの?」
図星を差されて苦笑いするティア。
「あは、あはは……」
だめな生徒を見るような目で、教師のように説明をし始めるキャサリン。
「まったく、久しぶりに教師として説明してあげましょうか。ティアちゃん。この国を治めているのは誰だか判る?」
「え?そんなにジギル国王陛下以外に決まってるじゃないですか」
「そうね、ならここから東に行った場所にエンリデンヌという町があるけどそこを治めている人は誰だと思う?」
「それは確かドール・ヴァン伯爵だよ」
「ええ、ではここで問題です。エンリデンヌに住んでいる住民達にとって果たしてどちらが王様だと思う?ティアちゃん自身が住んでいたとして考えてもらってもいいわ」
「それはもちろんジギル国王だと思うんだけど……」
キャサリンは苦笑を再びしつつ今度は今まで黙っていた、リエルに目線を向ける。
「貴方はどう思う?リエルちゃん」
いきなり話を振られたリエルだが、即答で答えた。
「領民と考えるなら領主がある意味王」
その答えに対してキャサリンは頷くが、ティアが反論する。
「えー!リエルどうしてそう言うの?この国はジギル国王が所有してるんでしょ?」
このままでは埒が明かないと考えたライはキャサリンが言うより前に説明する。
「ティア、リエルも言ったけどある意味という言葉が重要なんだよ。根本的な国という枠組みで考えたらティアに言うとおりジギル国王が王様だ。でもね、町という枠組みで考えたらエンリデンヌという場所ではドール伯爵が王なんだ。税収を決めたり敵からの侵略がきたら守ったりするしね。もちろん王様がドール伯爵に支持を出せば、ドール伯爵は従わなければならない。でも、王様が支持をしなければ自由にっできるんだよ」
「うーん、でもこの話が王国に救援を求めないのとどういう話に繋がるの?」
「さっきキャサリン先生が言ったけど、伯爵の領土と外部からの敵が戦ったとする。そうなったら近隣の村が襲われたり徴兵で人口が減少したり村や町としては困ったことになるよね?もちろん税金も戦時徴収があるだろうし。そして、そのさじ加減も国王ではなく領主の判断でできる。ならここで圧政を強いても文句は言われないだろ?伯爵としては。負けたら論外だけどもし勝てば余った資金はそのまま自分のものにしても気づかれない」
「そんなことする領主がいるはずないよ!」
「うん、それが理想だけどね。でもさ、この国にはすくなくともそういう人がいるんだよ。そんな中先生達の組織が動いて村を助けたとするだろ?ティアが言うように王国にも問いかけてさ。すると、一番困るのは圧政を強いた領主だ。組織から圧政を強いたことが国王の耳に入るかもしれないし、領民達は国盾の砦を支持するだろうね」
ここまでいえばティアは気がついたように「あ」という声を上げながら言う。
「そっか、そうなったら王様がその領主を解任や懲罰する可能性があるから組織が危なくなったり、村が危険になる可能性があるんだ」
「行き過ぎたら口封じする可能性もある。でも、匿名で助ける分には領主としても手は出してこない。だって、勝手に支援してくれれば自分の懐は痛まないし後から自分達が支援したと勘違いすれば善政を働いたと思ってくれるかもしれない」
「なるほどー」
ティアが納得してくれたところでキャサリンが笑みを浮かべながらティアに言う。
「ティアちゃん。もうちょっとお勉強しなさい。そんなことしていると思い人に幻滅されるわよ?」
「うわー!わー!わー!先生!何てこと言うんですか!それにそんなこと絶対にないです!ないはずです!」
キャサリンがティアに言った途端、顔を真っ赤にして叫ぶようにいい、最後に不安そうな表情でちらりとこちらを見てきた。
「ん?」
「な、なんでもない!」
視線が合ったティアはすぐに視線を下に落として俯く。
首をかしげて何をと考えていると先生は小さな声で「ライ君は女性心を勉強したほうが良いわね」と言ったが判らなかった。
なんだか話し合いというよりか授業のような感じなっていたが、そこでフィルが咳をわざとらしくする。
「ゴホンッ、先生話を先に進めましょう。ここでの話が、決定がこの後を左右するんですから」
「ごめんなさい、ええそうね。そろそろ授業は終わり。真剣に話をしましょうか。ええと、確か私達が影で動いて支援したりしていて、大きな組織であることはわかってくれたと思う。フィルちゃんとライ君が昔考案した、分配型物流運搬式も運用は成功したから物流効率は上がってる。だからいつでも対応できるわね」
ここで先ほど話にも出なかった分配型物流運搬方式
「……先生、フィルの態度からもおそらくはと感じてましたし、自分達ももしかしたらとは思ってました。でもどこか信じられないんだ。本当にあると思うか?」
「確実にね、その情報を聞くために今日ここにいる二人には来てもらったの。その前にこっちとしても聞きたいのよ。どうしてライ君はそう考えたの?私自身としても悪夢としか考えられない事態だから、情報が入ってくるまで聞かされても冗談で済ましていたかもしれない。ライ君も何か根拠があるんでしょ?」
「俺が強襲してきた村をここにはいないんですけどレーシアっていう女の子と一緒に撃退してきたことは聞いてる?」
「ええ」
「それで知ったんだ。喋り方と戦い方、魔法、そして肌の色とか」
「なるほど」
これだけの会話だけで二人は共通の意思を共有するのであった。
と右側から裾を引かれていることに気がついてそちらに顔を向けると、二つのクリクリとした目と視線がぶつかる。
裾を引いていたのはリエルで二人の話を聴いて、さすがのリエルも判らなかったらしい。核心を教えて頂戴と目で訴えていた。
それに対してライはフィルとキャサリンに視線を送り二人とも頷いてくれたので、ついに話すことを決意する。
「わかったよ。ティア、リエル。後でラッシュにも伝えないといけないけど驚かないでほしい。あと、このことは他言無用で頼む。いいね?」
「うん(コク)」
ライは一拍置いて、そしてこの国、ガリアント平原の戦い以上の熾烈さと困難な戦いが起こるであろう、予言を告げる。しかも、高確率で実現するであろう予言を。
「俺達が言っているのは西のドリアド国と北のジュアン帝国が侵略してくるって話だよ」
ライの話を聴いて二人の思考は一瞬止まってしまうのであった。
こんばんわ、何とか間に合いました。
九時半から書き始めて間に合わないかなと思っていましたが、日をまたぐことなく出せたことに安堵しております。
さて、今回キャサリン先生がでてきて、フィルが出てきた頃にチラッと出てきた組織の全貌が明らかになってきました。
ですが、これは逆に言うと組織が出てきたということは王国に危機が迫ってきているという裏返しでもあるんです。
国盾の砦。
ある意味外敵から守るための砦という意味がありますが、それが国内に救う廃れた貴族に向けられたものか、それとも国の外にある敵に向けられたものか。
まあ二つの意味もあるかもしれませんけど。
さてここで次回予告です。
正直言って、まだこの会話パートは続きます。次回にはラッシュ、ラン、レーシアにも合流してもらって話を聴いてもらうつもりなのでそのつもりで。
あ、そういえば少し気になったんですが、今回登場した昔の孤児院の子供男女二人の名前をつけたほうが良いでしょうか?
一応つけようか迷っていたんですが……
案があったらよろしくお願いします。
ではまた明日お会いしましょう。




