第八十話 ギャンギムント孤児院
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女性陣のみの会議?も終わり、翌日ライ達はフィルの組織と合流するためにギャンギムントへと出発した。ちなみに、リューミルはローレンス砦の城主ということなのでここで別れることになる。
アトイン村から孤児院までの距離は歩いて約三日ほどのところで、位置で言えばエンリデンヌとローレンス砦の中間を北西に行ったところにある。
そして移動をし始めて約二日ほど過ぎた頃、目的地に近づいたときにライにティアとリエル、フィルが近づいてきて話しかけてきた。
「ライ、私は途中でいなくなったけど孤児院ってどうなってたの?」
右側から話しかけてきたティアに返事を返す。
「どうなっていたというか、経営困難になって閉めたみたいだよ。俺が孤児院を出るときには変わっていなかったけど、数年たった今はもう廃れていると思う。わざわざあそこに立ち寄ろうとする人もいないだろうしね」
「うーん、でも話を聞く限りでは施設がちゃんとしているみたいに言ってたよね。フィル」
ティアに振られてフィルが返事をする。
「はい、連絡では聞いてますけど……実際には行ったことないんです。聞いた話によると重要拠点の一つにされているらしくて、今回三百の兵士が中に入ることができるのも整備していたからだと」
「ちょっと待てよ。俺が孤児院を出るときには本当に経営ぎりぎりで設備もボロボロだったんだ。キャサリン先生はそのあと戻ってきて勝手に使ったということか?」
「そこらへんは……キャサリン先生から聞いた方が確実だと思います。なので私からは言えませんごめんなさい」
フィルが謝ってくると慌ててライが言う。
「ああ、ごめん。色々と聞くために向かっているんだもんな」
少しだけライにとって気まずくなるような空気が流れようとしたときに、リエルが口を開く。
「ライ」
「ん?どうした?」
「ライも秘密にしていることがある」
「秘密にしていること?」
「そう、孤児院のこととアトイン村にいたこと」
「そのことか」
リエルが言いたいことをライは勘づくがティアは判らなかったらしい。
「え?え?どういうこと?」
「フィルが言いかけたことを止めた」
リエルが言うとここでようやくティアも思い出したようだ。
「そういえばフィルがなぜライがアトイン村にいるか説明しようとしたときに止めたよね。今まで忘れていたけど何で」
ライはその質問に声を低くしてティアに告げる。
「ティア、あそこでも言えなかったことなんだからこんな人が多いところで話すことなんてできないよ」
「あ、そっか」
「その話はキャサリン先生が来たら話すね」
「わかったよ」
と喋っていると前からレーシアの声が聞こえた。
「ライー!前に来るなのー!ランが呼んでるなの!」
前を見てみるとレーシアが馬に乗りながら手を左右に大きく振っていた。
それを聞いてライたちは話はまた後でということになり前方に行く。
前に言ったライ達はランの傍に行くとすぐに話しかけられた。
「何か変化でもあったのか?」
「正確にはないのですが……ここから先に建物を発見することはできました」
「ん、建物を発見できたのに俺達を呼んだってことは何か問題があったのか」
「あ、いえ。そういうわけではありません。ないのですが……ライ様少しお聞きしたいのですが孤児院は数年前に破棄されているのですよね?」
「うん、俺が孤児院を離れているときは外見はぼろぼろだったよ?」
「そうですか。ならばここに兵をおいて少人数でまず施設へと向かいましょう」
「どうして?」
「フィル様を疑うわけではありませんが、私達は組織と接触するのは初めてなのです。それに数百人で向かったら相手に無用な警戒を与えるでしょう。ならば少数精鋭で行ってみて代表者にこちらの人数をお伝えしたほうがいいかと」
ランがライの瞳を見つめながら言ってくる。その瞳にライは何か別の意図が見え、指摘はしないが頷いた。
「判った。なら施設には俺とフィル、ティア、リエル、ランで行こうか。レーシアとラッシュは兵の指揮を頼むよ。それと、万が一のためにこれを渡しておく」
そういってライはラッシュにとある物を渡す。
ラッシュは渡されたものを見て驚愕していた。
「なあ、本当に俺が持ってもいいのかよ?」
「いいよ。こんな事を言ってもまだ信じてもらえるかもしれないけどさ、リューネリスで別れたあの日あの場所にいた人たちは大切な仲間だ。すでにリエルには水帝の宝玉、ティアには土帝の宝玉を渡してるからラッシュには炎帝の宝玉をと思ってたんだけど、さてどうしようかな」
自分で喋っていて考えてみるライ。本当はこのままラッシュに炎帝の宝玉を渡しても良いが、それはなんだか違うような気がする。違うと思うのはラッシュが炎帝の宝玉を持つべきではないかもしれないと思ったからだ。
ラッシュはどちらかというと力で押すタイプであり技術には頼らない。
逆にティアは力ではなく技術を使った戦い方だ。ならば技術を要する炎帝をティアに、土帝をラッシュにやっても良いのではないかと考えた。
でも今までティアが使い慣れているので渡すというのもひけるというのが正直な気持ち。
そう思いながらティアのほうをなんとなく見ると、こちらの考えを汲み取ったのかどうか判らないが、ラッシュの近くに歩いていき炎帝の宝玉をヒョイと取ってしまった。替わりに懐から出した土帝の宝玉をラッシュの手の平に置く。
「これでいいの?ライ」
「ああ、うん。ティアがそれで良いならいいんだけど、よくわかったね?」
「なんとなくかな」
なんとなくでこちらの考えを読まれるのは別の意味で恐ろしいな。
「おい、それで結局俺はどうすればいいんだ?」
ラッシュが推移についていけてなくてライに聞くとライが苦笑しつつ話す。
「えっと、これからラッシュは土帝の宝玉を使って戦ってほしい。宝玉の使い方としては魔法を使うのと同じでどこにどうしてどういう風にやるかを考えて。ただ、その命令や条件、威力が大きくなるほど精神力を使うから気おつけてね」
「おう、わかった」
ライの説明を聞きながらラッシュは頷く。
「よし、なら俺達は孤児院へと向かおうか」
後ろを振り返りながら言うと、ティア、リエル、ラン、フィルが頷いて同意してくれた。
それからしばらくして、先行したライ達はついに到着する。
「(懐かしいな……けどランがなぜ少人数で来ようとしたのかおかげで理解できた)」
ランの眼前には昔と変わらず、道の両端に木々が多い茂っている。そして目的地であるギャンギムント孤児院も回りに木を囲みつつ健在している。
……そう、木々や道、建物が昔から『変わらずに』あるのだ。
「(ラン、これはやっぱりおかしいと思うか?)」
「(はい)」
道から外れた林の中から建物の様子を伺っていると、ティアが近づいてきて話に加わる。
「(どうしておかしいの?)
(建物が整備されすぎてるんだよ。数年前に俺はこの目で見たのにあの頃より綺麗になってる」)
「(でもそれは組織の重要拠点だからじゃないのかな)」
「(そうかもしれないね。建物だけを見れば。でもさ、こんな誰が来るのか判らない所の道まで整備されているのはおかしい。街道や道というものは馬車や人が通るために作られてるけど、そこには当然草が生えてくる。でもそんな雑草でも上から踏まれたり、刈り取っていったら生えない」)
「(当たり前なことだよね?)」
ここまでも言って判らないティアを見かねたのか小声でフィルが説明してくる。
「(ティアさん、問題は私達がやってきた街道の地面に草が生えていないことが問題なんです。ずっと歩いてきましたが草一本生えていないなんて、しかも長い距離をです。孤児院がお兄ちゃんが言うとおり破棄されたというなら行き止まりなんですから整備する必要はありません)」
「(あ、なるほど)」
「(あと付け加えると、フィルの組織は何かの理由があって存在を隠しているんだ。なのにわざわざ道に草が生えないぐらい馬車か馬が通っているということは、存在を隠すという理由と相反する)」
「(確かに、私なら道が荒れたままのほうが見つかりにくいと思うしそうするかも)」
「(だろうな。まあ、あえてしていない可能性もあるが警戒することに越したこと)!全員避けろ!」
ヒソヒソ声で話していたところ突如ライの声が響く。そしてライ自身はフィルを押し倒しながら飛びのいた。ランは後方に飛び、ティアは街道に転げ、リエルは左に飛びのく。
すると数瞬してからライ達がいた所にナイフが刺さる音がした。
ライはフィルに多い被さりながら辺りを警戒、襲撃者の姿を探すと施設のほうからナイフを投げたと思われる人物がたっていた。
発見したライは何かを言うとした瞬間すでにリエルが目にも留まらぬ速さで走り出していた。おそらく敵と判断し瞬風の双剣を使ったのだろう。
これで相手はひとたまりもないだろうと見ていたが信じられないことが起こる。
なんと、地面から網が飛び出してきたのだ。
それに驚いたリエルはすぐに右に回避しようとしたが、そこに避けることを見切っていたように右の地面からも網が投げ出される。
瞬風の双剣の魔法を使って早さを強化しているが、面制圧に優れている網に対して避けるより破ったほうがいいと判断したのだろう。双剣を構えてリエルは網に切りかかる。
バチッ!
リエルは目を見開きその場に硬直する。いや、硬直してしまった。
剣を切り裂こうと思ったのに剣を当てた瞬間体に電流が走ったのだ。まるで雷に打たれたように。
電撃のせいで体が硬直し剣を落としてしまう。だがその瞬間も網は襲い掛かってきている。もしこのまま網に巻かれれば先ほどの電撃が体に衝撃を与えるのだろう。
リエルはすでにあきらめ目を瞑る。
……しかし、次の瞬間目の前に暗い影ができたと思い目を開けると網の変わりに大きな背中があった。ライだ。
ライは何とか間に合ったことに安堵していた。
リエルが走り出した後に施設の前に建っている人物の髪をみて急いでリエルの後を追ったのだ。もしあの人なのならそんな敵の前に姿をさらすなど軽率なことはしないと。
そして実際に追いかけてみると、やはり相手は巧妙な罠を張っていたようでリエルが網を斬ろうして剣を網に当てた瞬間はじけるような音がしたと思ったら、リエルが硬直し動けなくなっていた。多分音と網という関連から雷の魔法が付与されていたのかもしれない。
ライはリエルを守るためにすぐに宝玉の力を使った。リエルを巻き込まずすぐに使えて敵の攻撃を押し返す方法を。
「……っ!」
そしてライは現在も使っている風帝の宝玉の力を速度強化から、突風を飛ばすように前方へと押し出した。炎は周りに影響がありすぎて雷が付与しているのなら水は使えない。土という選択もあるが間に合わないだろう。白帝の壁はできるだけ使いたくない。
よってライは風帝の宝玉の魔法で網を吹き飛ばすという選択をした。
網を見事吹き飛ばしたライは後ろを見るとリエルは目をぱちぱちさせながらこちらを見ていた。
どうやら雷の魔法は一瞬で麻痺をしているかもしれいないが、それほど強力なものではないようだ。まあそうだろう。まさかこれから会う相手に強力な攻撃をする馬鹿はいないだろう。特に目の前の人物なら。
そう思いライが施設の前に建っている人物に視線を向けると、その人物は両手を叩いて拍手した。
「いやー、色々と噂を聞いていたけどまさかここまでとは思っても見なかったわ。本当ならその銀髪の子を捕まえて人質にして、それから色々と説教をしようかなと思ってたんだけど。まさか力技で守るなんて規格外だわ」
施設の近くに建っている人物の目を見てライはため息をしながら話しかける。
「はぁ、ちょっとしゃれにならない歓迎ですよね。キャサリン先生」
キャサリン先生と呼ばれた人物は数年前と変わらない笑顔を浮かべて頷く。
「フィルちゃんに強くなったと聞いていたから状況判断と柔軟性とか試したくなったのよ。そして、一応合格だけどそこの銀髪、多分リエルちゃんね?貴方はもう少し周りの見なさい。もしライ君が助けてくれなかったら雷が付与された網で不利になってたわよ?」
それを聞いて、推移についていけていないリエルだったがシュンと落ち込んでしまう。
だが、そんな様子を見つつライは言った。
「キャサリン先生。とある事情をフィルからも聞いているかもしれませんけど……もし殺気を持っていたら危ないので今度からはふざけるとかやめてください」
ライはキャサリンの目を見ながらいうとキャサリンは頷いた。
「悪かったわ。それにフィルちゃんからは少し話を聞いてる。宝玉の力についてね。まあここの立ち話はなんだし中で話しましょう。そっちの林にいる貴方達も来なさいな。あ、それと影に隠れてる子。できれば汚れたくないから襲ってこないでね?」
それを聞いて全員が驚く。どうして影に隠れているんだろうランのことを知っているのかと。
そんな様子を知らないかのようにキャサリンは孤児院へと歩いていき後ろを向いていった。
「はじめましての人はようこそ!そして、久しぶりの人はお帰りなさい。キャンギムント孤児院へ」
ついにライ達はキャサリンというライの恩師に会うことになったのだった。
お疲れ様です。何とか出せました!
さて、今回ですがキャサリン先生が出てきましたね。いや、というかランの魔法といい、リエルの攻撃を防ぐといい何者なんでしょうね。というかどれだけ強いんでしょうね。
まあ、ライ、エミル、ティア、フィルの恩師になりますから……。
というところで次回予告を
次回はキャサリンと話し合うついでに組織について、その仲で国の情勢を説明していこうと思います。
ではまた明日お会いしましょう。




