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第七十五話 あの日の夜と宝玉の影 後編 (カーク医師と二人の旅立ち)

 現在レーシアは全速力で森の中を疾走していた。本来ならば視界が悪いこのような夜に全力疾走をして危険な真似をすることはないが、今回は例外だ。


 レーシアは後ろにいる人物を見ると、ぐったりとしたままだった。


 それを確認して焦りつつも無駄な動きを省き目的のところに走っていく。目的地は近くにある村だ。人口は少なくてもとてもいい人たちが多く、村ではレーシアも良くしてもらっていた。そこに行けば、後ろで意識を失っている人の治療もできる。


 森を駆け抜けてしばらくすると、ついに目的の場所に到着する。


 普通ならば大の大人が走って、半刻から一刻かかってもいいところを驚異的な速度で到着したのだ。


 レーシアは、村に到着してからすぐに村で一番の医者の所に走って行った。


 時刻はもう深夜になっていて相手も寝ているだろうが関係ない。扉の前に着くと乱暴に扉をたたく。


 「おじさん起きてなの!助けてほしいの!」


 深夜にもかかわらず大声で助けを叫ぶレーシア。しばらくすると家の中で音がして扉が開かれる。


 「その声はレーシアちゃんだね、いったいどうしうわぁ!」


 扉が開かれるとレーシアはすぐに家の中に入り、近くにあった寝台にライを置く。


 突如家に入られたことに驚いた村医者だったが、レーシアが背負っていた人物を見て意識を切り替え、医者の顔をする。


 「お願いなの!はやく!はやくこの人を助けてなの……」


 半分取り乱し泣き顔で言ってくるレーシアをどかせて村医者は青年の体を診察していく。と言っても、この青年が意識を失った原因はすぐに分かった。後ろに受けた切傷だ。


 「レーシアちゃん、大量の布が奥の引き出しにあるから持ってきて、それと家内を起こしてくれ。ついでにお湯も頼むよ。頼めるかい?」


 「わかったなの!」


 すぐに飛び出していくレーシア。それを見送って医者はすぐに治療に取り掛かる。


 まず、医者は衣服を脱がしていく。切傷の場合血を止めることが第一だがこのような大きな傷では大量の布が必要になる。それはレーシアが持ってくるまでできない。ならば先に傷の深さや大きさ。縫合ほうごうができるのか、順番などを確かめなければならない。


 上半身を脱がした医者は体をうつ伏せにしてから傷の具合を見ていく。


 「持ってきたの!」


 「わかった。ならこっちに置いてそれから家内の方で何か手伝ってほしい。それでもし何もなければ今日は帰りなさい」


 レーシアに布を置いてもらいレーシアにはここから出て行ってもらうことにする。先ほど見た限りこれから治療するときに血が噴き出したりしたら冷静にはなれないはずだ。ならば、遠ざけなければならない。


 医者は帰るように促すがしかし何かを言いたそうな気配を感じて、時間もないことから帰らせることはあきらめ布を手に取りながら言う。


 「わかった。ならそこにいてもいい。けど何があっても邪魔をしないこと、声を上げないこと。レーシアちゃんが私の邪魔をしてしまって手元が狂ったらこの人の命に関わるから」


 レーシアは納得いったのかコクリと首を縦に振る。


 医者は納得したレーシアを確認してから背中の周りに飛び散っている血を拭いていく。とここで医者は患者の異変に気が付く。ここまで結構時間がかかっているのか、固まり始めたり血が黒く変色している部分があるのだ。

 

 どのくらい移動してきたのかはわからないが、血が固まるというのはあまりにも早すぎる。血が変色ならまだわかるのに。


 今も血は出てきているが、こちらの方が固まったり変色している血より断然多い印象を受ける。だが、これはある意味希望の光であった。


 治療中に人が死ぬ確率が高いのは出血多量の場合が多い。だから、医者は最初背中を見たとき助からないかと思った。


 でも何とかなるかもしれないとも感じ始めている。


 「あなた、お湯を持ってきたわ!」


 「よし、ならお湯はこっちにお前は出血部に布を当ててこれ以上の出血を抑えるんだ!」


 「はい!」


 お湯が運ばれてきたことにより、医者は治療を始め、医者の奥さんは指示通りにこれ以上少しでも出血が少なくなるように押さえつける。


 それからは、深夜長い格闘が始まることになる。出血部を奥さんが押さえつけても斬りつけられた範囲が大きくてすべての血を抑えることはできない。


 また偶然か傷は小さいことに気が付く。開いた傷口の両端に少しだけ焼かれたような跡があるのだ。もし峠を越えたとしてもこれでは傷が一生消えることはないだろう。でもこれのおかげで出血と治療箇所が少なくなったのは確かだ。


 医者は次々と治療していく。そんな様子をレーシアは神に祈るように腕を組み涙を浮かべているのであった。


 それから時間は経ち明朝。


 ついに医者は治療を完了させる。


 医者は最後の傷の縫合を終わらせると深い深呼吸をして額の汗を拭う。


 「おじさんその人はどうなったの?」


 ずっと一夜寝ずに様子を見守っていたレーシアが聞いてきて医者は笑みを浮かべながら頷く。


 「どうやら峠を越したようだよ。本当は最初運びこまれたとき助からないと思っていたけど……思ったより出血が少なくて助かったんだ。レーシアちゃんは理由を知らないかい?」


 「わからないの」


 この時二人は気が付いていないようだったが出血が少なかった理由は二つある。


 一つはレーシアが魔法を使っていたため。


 レーシアがここに運ぶために全力疾走したが普通の少女が人を一人背負いながら速く移動できるはずもない。しかし魔法を使えば話は別だ。彼女は風の魔法を使い、移動速度と背負う対象を運んだのだ。


 この時に一つ目の幸運が起こる。ライが戦っている際に最後ステイル王子に向けて炎帝の力を使ったことだ。


 突如後ろから背中を切られたライは反転して土帝の力を使った。この時、ライは少しでも刃から逃れるために前に突っ込むように避けた。そうすると傷は炎にさらされるがこの時傷口を焼いてしまうことになる。でもこれのおかげで傷口が焼かれ出血の勢いを弱める結果になる。


 もう一つの幸運は、風の魔法を全力で使い意識のない体を風に包んだが、この時体には風圧が掛ったのだ。レーシアが背負った際に後ろから速度を出すために追い風を起こしていて、その風圧が体の背中に当っていた。そのおかげで傷から漏れ出る血が風の風圧により勢いを弱める結果になった。運び込まれたときに血の塊と血が変色していたのは自然なものではなく風を背中に受け続けていたためだ。


 この二つの幸運がなければライは助かる確率は相当低くなっていただろう。


 

  「うん、なら運が良かったんだろうね。よし、ならこれから片づけをしようかな。レーシアちゃんは彼の様子を見ていて。そのあと朝食を一緒に取ろう。その時に話を聞かせておくれ」


 「はいなの」


 医者はそういうが、レーシアの様子を見て苦笑する。返事は返していたがすでに視線は運び込まれた青年の方に向けられているのだ。よほど大事な人物なのだろう。傷を負ったということは命の恩人なのかもしれない。まあ、詳しいことは後で聞くことにしよう。


 そう思い静かに部屋を後にして汚れた服を脱いでいく。窓から差し込む朝日は徹夜をした体には少しきつかったのであった。


 医者と奥さんは着替えを終えて朝食の準備が出来上がるとレーシアの様子を見にいった。そこではレーシアはずっと青年の寝ている顔を見ていたようだ。青年の方はというと死んでいるように横たわっているが、胸が上下していることからただ寝ているということがわかる。


 「レーシアちゃん、朝食の用意ができたからこっちにおいで」


 名前を呼ばれてレーシアは振り向くが、次に青年の方を向く。


 自分たちが離れている間に容体が急変することを気にしているのだろう。


 「安心しなさい。そんなに心配ならこの扉を開けておこう。そうすれば食べているところから見えるだろう?その間に何があったか教えてほしい」


 「……わかったなの」


 しぶしぶという感じで立ち上がり医者夫婦の後についていく。


 そしてレーシアに朝食を促してとぼとぼと食べ始めてしばらくしてからようやく詳細を聞くことができた。


 リューネリス方面に向かって歩いている途中、人が倒れているのを見て接近したら罠にかかりつかまってしまったこと。その後陣地に連れて行かれもう少しで襲われそうになった所に救われたこと。逃げろと言われたけどどうしても気になって魔法を使いながら隠れていたら斬られたのを見て、魔法を使い助け出してここまで運んできたことであった。


 夫婦たちは考えていたよりも重い内容に驚いていた。


 最近ガリアント平原で戦いがあったということは知っていた。だからそう遠くないここにも被害は来るかもしれないと警戒はしていたが、まさか馬で一日もしない場所に陣を敷いている部隊があったとは。しかも、隠れるようにということは負けた側の部隊になる。


 そして、その部隊にいた人物の名前を聞いて医者は驚いた。


 「エッジ王子だって!」


 あまりにも驚きすぎてその場に立ち上がったために奥さんとレーシアは目を見開いていた。


 その様子に気が付いて一度咳をすると何事もなかったように座り食事を続ける。


 でも医者にとっては内心穏やかではない。


 エッジ王子と言えばガリアント平原の戦いの首謀者であり国に弓を引いた人物だ。しかも、その人物がレーシアが大天幕で出会った時に立っていて、座っている人物に気を遣っていたとなれば、この状態では最悪の予想しかつかなかった。


 王族であるエッジ王子が気を遣わなければならない相手はやはり王族であり上にいる人物、国王と第一王子のみ。国王が不在など聞いたこともない。よって第一王子であるステイル王子だろう。


 そして、問題は連れてこられた彼だ。あの青年はどうやら相手がエッジ王子でありステイル王子であることを承知で戦いを挑んだという。ということは王国側の刺客だろう。しかも青年の名前はどうやらライというらしい。また土、水、炎、の魔法を使っていたとも聞いた。


 そんな一度に大量の魔法を使うライという人物は北の英雄と伝わってきた名前しか思いつかない。


 ライ・ジュリアール軍師。


 そんな国の英雄である人物と国の王族が争った。


 これは国家転覆の危険性もある。謀反を起こしたエッジ王子とステイル王子が内通しているのをジギル国王は知っているのだろうか。


 色々と考えていた医者は食事を止めてすぐに立ち上がり自分の部屋にある机に走っていく。昼食を食べている場合ではない。すぐに動かなければ。


 そして医者はある組織に手紙を出す。内容は国の危険性を訴えるものだ。本当はエッジ王子やステイル王子の内容、軍師がいることも伝えたかったがそれはできない。もしこの手紙が軍関係者に伝われば間違いなく揉み消されるだろう。そして流言を流したなどの罪を着せられライ軍師の場所も特定されもろとも殺されることになる。


 すべてを伝えられないことを歯がゆいと思いつつ手紙を書き終わると村の中を横切り、手紙を送ってもらうために業者に頼む。


 そして、業者に頼んだ後は医者はすぐに家に戻り残した二人のもとに行き今後のことについて話し合い始めた。しばらくこの家にいてどうするのか。レーシアとしてはどうしたいのかなどを。


 レーシアはその中でライという青年のことを助けたいといっていた。命の恩人で自分には幸い魔法が使える。あのような危険を冒しているならば自分の力は役に立つだろうからだと。


 医者はレーシアが風の少女と呼ばれるほど、強力な風の魔法を使うことを知っている。今回の誘拐事件もそれが目的で捕まったのだろう。


 レーシアが行くと決めたのなら医者は止めることはしない。自分の道は自分で切り開けばいいと思っていたからだ。なら自分はこれからどうするかを考える。しばらくはライの治療に専念するとして、そのあとどうするかを。


 事態は最悪の方向に行く可能性もある。それを回避させるために自分には何かできないのかと。


 この村、イダール村に住んでいた医者の行動が、後に状況を大きく動かすことになるなど誰もこの時には想像するらできなかったのであった。




 それから三日後、ついにライは目を覚ます。


 最初に見た光景は木目の天井だった。ライはいつも目覚めたら白い天井だったのに今回は違うんだなと場違いなことを考えながら、すぐにあることを思い出す。


 「なぜ俺はこ」


 急いで体を起こそうとしたが、背中に激痛を感じて動きが止まる。でも正直それどころではない。自分は確かあの夜、後ろから斬られて死にかけたはず。なのにどうして自分は生きているんだろうか。それに最後に緑髪を見たような……。


 【やっと起きたわね】


 「エスティア?」


 なんだか久しぶりに来た声に返事を返すと、エスティアは話してきた。


 【そうよ。それで気分はどう?】


 「体中が痛いのと体が重いかも」


 【それはそうでしょうね。あなた死にかけたのだから】


 「やっぱりそうなんだ……あれ、でもなら何で今回は俺あっちに行けなかったんだ?」


 あっちというのは真帝の門がありエスティアと初めて会った場所だ。


 【あっちは精神を消耗した場合や寝ている場合はいけるの。でもね、意識をあっちに持っていくということは身体を無防備にするってことなの。だから今回精神だけではなく外傷も受けていたためにもしあっちにいってたらそれだけ危なかったってわけよ。治療に専念してもらったってわけ】



 「なるほどな……それでここはどこ?」


 【詳しくは知らないけど、あの場所から近い村らしいわよ?ここに運ばれてあなたは一命を取り留めた。そして三日後目が覚めたってわけね。それとそこにいる子に感謝しなさいよ?その子が運んでくれたのだから】


 エスティアにそう言われて首だけを動かして視線を下に向けると、自分が寝ているすぐ近くで疲れていたのか寝息をたてて寝ている緑髪の少女がいた。


 印象に残る緑髪を見て思い出す。


 「この子が助けてくれたんだ」


 確か目の前の少女は陣地に連れてこられて乱暴をされそうになった所を助けたのだ。その後逃げるように言ったのだが、どうやら戻ってきて意識を失った自分を助けてくれたのだろう。


 「んぅ……」


 こちらがこれだけ独り言のように話しても起きないことから、疲労がよほど溜まっていたと見える。


 ライは笑みを浮かべて感謝の気持ちを伝えようと思わず右腕を動かし頭を撫でてみる。すると、寝ているのに撫でられるのが気持ちいのか気持ちよさそうな笑みを浮かべていた。


 「おや、目が覚めたようですね」


 そうしているときに突如声をかけられてそちらの方を見ると一人の男性が立っていた。白衣のようなものを着ていることから医者だろうと推測する。


 「はい、命を助けていただいたようでありがとうございます」


 「いえ、私は当然のことをしたまでのこと。お礼ならレーシアにいってください」


 そういって、男性は一度だけレーシアに視線を向けて起きていないことを確認すると、ライに視線を戻し声を落としながら質問する。


 「一つ質問をしてもよろしいかな?」


 「はい、大丈夫ですよ」


 「あなたはライ・ジュリアール軍師でいらっしゃいますね?」


 医者の人がそう聞いてきてライは驚く。このレーシアという子には名前しか教えていないがなぜ自分のことを知っているのか。それも相手の聞き方は質問ではなく確認だ。何かの確証があるのだろう。


 無言になってしまったライに対して、医者は苦笑しながら話す。


 「ご心配なく、気が付いたのは私だけですよ。ある場所に国に危機が訪れるかもしれないと手紙を出しましたが、王都には出してません。もちろん手紙には軍師の名前なども出していませんよ」


 「失礼ながらあなたのお名前は?」


 「私の名前はカーク・リード このイダール村で医者をやってます」


 「医者にしては頭が回るんですね」


 「幸いと言いますか、そうしないと昔は苦労しましたから。頭を無理にでも働かせていたんですよ」


 そういうカーク医師を観察していたが、ライは目を閉じ警戒をやめる。もし何かをしようとしていればしているだろう。自分は三日間寝ていたのだから。


 こちらが警戒をやめたのを確認してカークは笑みを浮かべる。


 「どうやら信用していただけたみたいですね」


 「信用しますよ。命の恩人であるあなたをね」


 そういっていたらさすがに会話がうるさかったのか、寝ていたレーシアの目がゆっくりと開かれる。そして、寝ぼけた眼を擦りながら起き上り、寝ているはずのライが起きているを確認して固まった。


 ライはそんな様子を見つつレーシアにいう。


 「助けてくれてありがとうね」


 お礼を言われたレーシアはいまだに固まっていたがしばらくして、目に涙を溜めたと思ったら涙は頬を流れ落ちていく。そしてレーシアはライに飛びかかり泣き始めた。


 「よかったのー!無事でよかったのー!」


 抱き着かれて傷が痛んだが我慢して堪える。


 「レーシア、まだ彼は病み上がりなんだから」


 そこでカークはたしなめるとレーシアはあわてて離れるが目元はまだ涙でぬれていた。


 その日からは、まずライは治療に専念することになる。治療に専念している間ずっとベッドにいたライだったが、毎日お見舞いにやってくるレーシアが話し相手になってくれたので退屈はしなかった。


 その会話の中でレーシア自身が風の少女と呼ばれていることを知り、ライから宝玉を持っているんじゃないかと言われると、素直に持っていると教えてくれた。なので、こちらも宝玉を持っていると伝え、ほかに水、土、炎の宝玉の力を持っていると教えるとレーシアが持つ宝玉、風帝の宝玉を貸してくれた。


 そして、力を白帝の宝玉に譲渡すると風帝の宝玉をレーシアに返す。


 その日からさらに二月が付いたころようやくベッドから起き上がり体を動かすことができるようになった。まだ激しい運動は禁止されていたが魔法を使う訓練を開始する。勘が鈍っていることを考慮してだ。

でも、その時期に一つだけショックな情報を聞くことになる。


 それはステイル王子がどうやら生きていると知ったからだ。これではライが王都に帰ることは不可能になった。


 ライはまだあの日の約束を破ったつもりはない。このイダール村で傷が完治したら戻ろうと思っていたのだから。


 でもそれができなくなってしまった。


 だが逆に考えたらよかったのかもしれないとも考え始める。宝玉を持った同士の戦いはやはり熾烈を極める。なら宝玉の魔法を持っている自分ならまだしも、宝玉を持っていないレイルやラッシュは戦いになったら危険だ。リエルとティアは持っているが、こちらに呼ぶよりもエミルに何かあった時のためにそばにいてくれた方がステイル王子が仕掛けてきたとしても安全だろう。


 そう考えて連絡を取らずにイダール村で療養していたライだったが三月立ってようやく完治したとカーク医師に言われてこの村から旅立つことにした。


 目的の場所は決まっていないが、ライは最近この近隣を襲っているという賊を討伐しながら情報を収集していこうと考えていた。その間に何かしらステイル王子に対して対策を考えようと。


 そして旅たち当日、ライはカーク医師とその奥さん、レーシアと向き合っていた。


 「長い間お世話になりました」


 「気にしないでください。私たちが安心して暮らせるのはあなたのような人のおかげなのです。それを今回お礼としてお返ししたのですから」

 

 カーク医師はそういいながら微笑んでくれた。奥さんも何も言わないが、笑みを浮かべていてそれだけで気持ちは伝わってきた。


 レーシアはというと地面をうつむいて何も言わない。どうしたんだろうと首をかしげてライが話しける。


 「どうしたの?」


 「……なの」


 「え?」


 「私も連れてったなの!」


 突如ライにレーシアは言ってきた。その言葉を聞いてライは困った顔をする。


 「レーシア。これから俺は危険なところに行くんだよ?もしかしたらあの時捕まった以上の怖いことに会うかもしれない。だからできればここにいてほしいんだけど」


 「いやですの!今度は私がライのお手伝いをするですの!」


 危険性を訴えても話を聞かないレーシアにどうするか悩んでいるとカーク医師が話しかけてくる。


 「ライさん、どうかレーシアを連れてってくれませんか?」


 「カークさん?」


 「彼女本人が危険を承知で行くといっているんです。しかもこの様子だと別れた後あなたを追いかけていきかねない。風の魔法があれば誰よりも早く移動できますからね。でもそうするとあなたが知らないうちにまた捕まってしまう可能性がある。ならば最初から一緒について行った方が丸く収まるのです」


 「いや、でも」


 「レーシアは戦力としても期待できますし自分の身は自分で守れるでしょう。だからどうかお願いできませんか?」


 ライは困りつつレーシアの方を見ると真剣な顔でライを見ている。


 その目を見て確かにこのままではこっそり後ろをついてきそうだと判断して頷く。


 「わかった。ならレーシア準備をしてきて。ただし着いてくる条件を一つだけ。絶対に言うことを聞いてほしい。逃げろと言ったら逃げるように。それでいいならいいよ」


 「はいなの!それに準備はすでに済ましてあるの!」


 そういってレーシアは一度家の中に入り、次に出てくるとリュックを持っていた。


 「これで準備万端なの!」


 用意の良さにライは苦笑しながら頷く。


 「なら行こうか。」


 「はいなの!」


 そういいつつ二人はカーク医師と奥さんに挨拶をもう一度すると三月お世話になったイダール村と別れることになる。


 ここから数か月後、村を襲撃する賊を男女二人組が撃退し続けているという噂が流れることになるのであった。




 

こんばんわ。

後書きなのですがこれから徹夜作業するために忙しいのでお休みします。活動報告も申し訳ありませんがお休みします。

ではまた明日お会いしましょう。

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