第七十三話 あの日の夜と宝玉の影 前編
お楽しみください。
半年前、リューネリスにある屋敷を後にしたライは現在夜道の中、西のほうを目指して走っていた。
ランがリューネリスで持ってきた情報、それはガリアント平原で敗走したエッジ王子が潜伏していると思われる場所だ。ライはそれを一人で解決するために動いている。
「ライ、本当によかったの?」
ライの隣で歩くエスティアは顔色を伺うように視線を向けてくる。
「あれでよかったんだと思う。エスティアも言ってたけどもう一つの宝玉があるんだろ?以前見た真帝の扉を見たとき、あといくつかの宝玉があるのは分かった。白帝の宝玉の周りにある三つの穴が何の宝玉か分からないけど、外側の六つは分かる。残りは風と雷、後一つはわからないけどね」
エスティアは言葉を聞いて驚く。
「どうしてわかったの?」
「わかったのは偶然というか、リューネリスに向かっている途中に王国の旗を見てなんとなくそうなんじゃないかなって」
「……なるほど、確かにあなたの言うとおり無関係ではないわね。あれわ」
「詳しく話してくれる。といっても時間がないからまた今度で良いや」
「ええ、だけどこれだけは言っておくわね。貴方が今言ったのは私の聞きたかった答えではないわ。私は貴方の心が大丈夫なのか聞いたのよ?」
「……」
ライとしては嘘でもここで大丈夫といえばよかったのかもしれない。しかし、本音ではつらい。あの場では必ず戻ってくると言ったがこの先確実に戻ってこれるのか判らないのだ。
「……エスティア。その話はやめてほしいかな。聞かなくても判ってるんだろ。今は……目の前のことに集中したい」
そしてライは無言になる。
エスティアはこの時どうしたものか迷ってしまった。ライの言うとおり相手に宝玉を保有している可能性は高い。なので宝玉を持っているライが戦ったほうが『戦力』という観点のみで見れば無難かもしれない。でも、人の精神、心というものは壊れたり傷つくと修復が難しい。外傷は治療できても心の傷は治りにくいのだ。しかもライは宝玉により記憶が曖昧になっている。
ただ、懸念事項はそれだけではない。記憶障害のことは昔から知っているが今回、ライには他の障害が出ている気がするのだ。
それは時々する、冷たい目に冷酷な雰囲気。いわゆる冷徹なライが出てくる。
最初はこれがもう一つのライなのかと思っていた。だけどティアやエミルの反応を見ておかしいと考える。ライはあの別れた部屋でランに言っていたではないか。恐怖を持った目で見られるのが怖いと。ということはそういう目で見られたと少なくとも感じたと。慣れていないと。
今のところはまだ理性があり、大きく常軌を逸脱した行動は見ない。だからまだ安全だと思っていて記憶が戻ればそれも収まると考えていた。だが記憶を取り戻すきっかけを与える人を遠ざけてしまったのだ。これでは、記憶が戻らず悪化するだけ。
「……ティア。……スティア。エスティア!」
「え?」
色々と考えていたところにライが呼んでいることにようやく気がつくエスティア。一度だけ咳をすると、ライに向き直る。
「ごめんなさい、考えことをしていたは。それで何かあったのかしら?」
「しっかりしてくれよ相棒。それで、ランが言っていた場所はこの先らしいけど気配はある?」
現在ライは多い茂る森の先を見ながら言うと、エスティアも視線を前に向けて意識を集中させる。
「……ええ、いるわね」
エスティアに確認が取れたライは剣を握り音を立てないように進んでいく。そしてしばらくするとかがり火が見えてきた。
「あれか」
目の前には多くのかがり火が炊かれており、見張りも十数人いるようだ。
ライはその様子を見て首をかしげる。確かにエッジ王子は敗走したため国から、追っ手からの脅威に怯え警戒するのはわかる。でもいつ来るかもしれない敵とはいえ厳重過ぎないだろうかと。
それに不可解なことがもう一つ。エッジ王子はどうしてここに隠れていたのか。こんなに警戒するならさっさと亡命するなり逃亡して、少しでも離れればいいはず。なのになぜしないのか。
その答えは突如聞こえてきた少女の声で理解する。
「離すですのー!この、きゃあ!誰ですの!こーのー!」
こんな場所にそぐわない声が聞こえてきてそちらを見ると、兵士数人に囲まれて両腕を後ろ側に拘束され、縄で引っ張られている緑髪の少女が陣地に連れられているところであった。
どうしてあんな少女が連れられると思いつつ、しばらく様子を見ながら考えていたところでエスティアが話しかけてくる。
「ライ、あの子おそらく宝玉を持っているわよ」
「え?あの子が?」
「ええ、でもおかしいわね。あの子が持っているのは確実だけどやっぱり他の宝玉の力も感じるのよ……」
「うーん。でもまあ。いくつかは謎が解けたね。エッジ王子たちがここにいたのはあの子を捕まえるためと考えたほうがいいよね」
「それで良いと思うわ。で?」
「ん?」
「貴方のことだから助けるのでしょう?」
「もちろん」
「それでどうやって助けるつもりなのか聞いているのよ」
「あー、うん。正攻法で」
「正攻法?」
ニヤリと笑ったライの表情を見てエスティアは嫌な予感しかしなかった。
そして次の瞬間ライの周りには新しく身につけた力、炎帝の力を纏わせ手を目の前の陣地に向ける。
すると炎は前へと飛んでいき着弾。暗い夜にもかかわらず遠くからでも見渡せるような火柱が上がるのであった。まるで戦いの狼煙としての合図のように。
ライが陣地に攻撃する少し前、緑髪の少女、レーシアは自分の過信をこれほど呪った事はなかった。
(うっー、まさかあんなことに引っかかるなんて一生の不覚ですの)
レーシアは昔両親からもらった形見の宝玉を使い、今までほとんど敵無しであった。どんな敵がいてもなぎ払い、寄せ付けず弓も剣もすべてをなぎ払う。
しかし、それは戦っていた場合の話。
今回レーシアは戦わずに捕まってしまったのだ。強力な人間に戦わずして勝つ方法、それは例外を除けば計略のほかならず、レーシアも例外の漏れず捕まってしまったのだ。
捕まった理由はなんともあっけない。道端に落ちていた物を拾おうとして近づいたら罠が働いて逆さ吊りにされたのだ。普通ならすぐに縄を切れば済む話なのに一瞬だけ状況判断が遅れて、周りで待ち構えていた兵士たちに槍を突きつけられて投降した。
レーシアは後ろ手を縛られて暗い夜道を歩いている。レーシアはまだ十代半ば。捕まってしまい、一人で拘束され自由を奪われてこれからどうされるのか想像し恐怖を感じている。
そして、目的地と思われる場所について恐怖が押さえられなくなりレーシアは叫ぶ。
「うっー!離すですのー!この、きゃあ!誰ですの!こーのー!」
しかし拘束は解けることなく中に連れて行かれるレーシア。まず中に連れてこられたのは一番大きい天幕だった。
レーシアは拘束されたまま地面に膝をつかされ頭下げさせられる。
普通ならば抵抗しようとしただろう。実際先ほどまで暴れていたのだ。ここでも抵抗はしようとした。でもレーシアは抵抗しようともせず冷や汗を掻き、別の恐怖と戦っていた。
(な、なんなんですの……この人は)
レーシアの目の前には二人の人物がいた。天幕の中央左にいるのは身なりは良いが、なんだか粗暴な感じを受ける人物。
この人物だけならレーシアは恐怖を受けない。問題は中央にいる人物だ。
「あなたが噂の風の少女ですね?」
中央にいる人物が話しかけてくる。だけど答えられない。口調は礼儀正しいのに恐怖を感じる。すぐにでもここから逃げ出したい。
こちらが何も言わないからか中央の人物の隣にいた男が怒鳴ってきた。
「おいお前!早く兄上の質問に答えないか!」
「エッジ、そんなに強く言ったら答えられないだろう?」
「む、兄上がそういうなら」
「すまないね。怖がらせて。でも答えてくれないと君にひどいことをしてでも聞かなくならないといけない。それはしたくないんだ」
「な、何をするですの?」
ようやく出た言葉で聞いてみると、エッジと呼ばれた人物から兄上と呼ばれた人物が困った声を上げる。
「ふむ、色々と手はあるが一番判りやすいのは君が女であり、この陣には男しかいないといえばわかるかな?年齢は若いみたいだが想像はつくはずだ。捕まった女がどうなるかは。でも素直に話してくれるならそんなことはしない」
「話すことなんて」
「あるだろう?君が風の少女と呼ばれるのはそういう宝玉を持っているからではないのかな?そしてその宝玉をどこに持っているのか今の私にはわからない。だから素直にいってくれないか」
レーシアは心が折れそうになる。目の前の男はおそらく脅迫するだけではなく、本当に有言実行するのだろうと感じた。もし殺せといったら躊躇なく殺すのだろう。
でも、そうだとしても
(両親からの形見を渡すことはできないですの!)
レーシアは折れそうになる心を奮い立たせ瞳に意志を宿し男を睨みつける。
その様子を見て男はため息をつくと、周りにいる兵士に指示した。
「どうやらそこにいるお嬢さんは意地でも口を割りたくないらしい。なら宣言通りにさせてもらおうかな。そのお嬢さんを丁重におもてなししてあげなさい。方法は任せます」
周りにいた兵士たちはその時いやらしい笑みを浮かべつつ、頭を下げるとレーシアを連れて天幕を出て行く。天幕を出て少しはなれたところに連れてこられると乱暴に床に倒された。
「な、何をするのですの!」
「わかってんだろう?覚悟の上でああいってたんだからよ」
数人の男が見下しながら色々と言ってくるがレーシアには徐々に聞こえなくなってくる。これから自分は汚されてしまうと判ってしまったから。なら考えることをやめれば良いと考えてしまうのだ。
ついに、レーシアの体に兵士の手が体に触れようとしたとき、救いの手は現れる。夜空に赤く、真っ赤に光る紅蓮の炎と共に。
「なんだよあれは!」「知るか!」「敵襲か!」
と陣地は混乱が襲っていた。
紅蓮の炎と満点の星空、暗い森林に覆われた一角で行われる、ほとんどの人間が知らず、語られることもない事件。その事件が今起ころうとしていた。
こんばんわ、いかがでしたでしょうか?
本当は一話で終わらせるつもりでしたが二話になることになりました。
ライがリューネリスでなぜ仲間から別れたのかそれは少し描写しましたが、なぜ王都に戻らなかったのかは、はい。一つ前で書いていますね。なので今回はライとレーシアがどうやって出会ったのかというのがメインのお話になるんでしょうか。
あと少しだけ言うと、レーシアはどこに宝玉を持っているのでしょう?という問いかけをして見ます。
とここで次回予告。
一体黒幕は誰なんでしょう!(もうばれていますが)そしてそして、レーシアとライの運命はいかに!宝玉の影とは?
ということで今日はこの辺でまたお会いしましょう!




