第六十二話 ライの記憶と過去
本編をお楽しみください
商人たちの一件が一段落ついた頃、ライは今カイに宛がわれた屋敷の部屋でベッドに横になっていた。
今は夕方ぐらいだ。
午前中は商人の処罰や整理、没収した財産の管理、五千の王国兵の警備などの警備体制、ライ自身も見回りなどをしていた。本来ならまだやることはあるが、今日は特別に時間を取り暇を見つけたのだ。
予定の時間は食後で入浴が終わった後なのでまだまだ時間はあるけどその前に一つやらなければならないものがある。
「……」
考えながらライは右手持つ赤い宝玉を持ち上げ覗き込む。
赤い宝玉、イウル伯爵が持っていた炎帝の宝玉。
これをガリアント平原で戦った後回収、ライが引き取っていたのだ。持っていたイウル伯爵は一応命を取り留めたようだ。ライ自身は殺したつもりだったがどうやら、思ったより魔法でライの魔法を相殺していたらしく見た目より軽く、重傷には代わらないが致命傷にはならなかったらしい。
ライは無言でこうしてどのくらいたったのか分からない。
以前ならば土帝、水帝の宝玉を白帝の宝玉に近づけて力を譲渡させることに躊躇はなかった。
でも最近宝玉に関する魔法を使うほどに自分の何かが変わっている気がする。
以前リエルにクッキーを貰った時に初めて美味しいと言った時、なぜかリエルは悲しそうな、衝撃を受けたような表情をした。
普段から表情に乏しいリエルだけどあれだけはっきりと表情を変えたのは珍しい。
その後、何か暇があったら会いにきてくれてお菓子などをくれるようになった。
だが変わったのはリエルだけではない。
ティアやフィル、エミルも最近前以上に関わりというか積極的に会いに来てくれている。
その切欠となったのは。
「多分ローレンス砦にいたときエスティアが言ったことだよな」
ライにも心当たりはあった。ローレンス砦で無理をして魔法を使った結果、記憶が改ざんされたらしい。だから、もしかしたら自分の記憶を思い出すように積極的に切っ掛けを作ろうと思っているのかもしれない。
しかしならば次の疑問が出てきてしまう。
「俺ってこんな人間だったっけ」
一人でに呟く。ライ自身最近なんと言うか自分を抑えることができなくなっているような気がする。別に誰でも襲うというわけではない。ある一つの事象が判明したら感情を抑えられなくなってしまうのだ。
その内容は、王族に対しての反逆行為。
自分としては間違ったことはしていないとは思っている。
でも自分が指示を出したとき、時々周りの仲間から恐怖の感情を向けられていた。そのせいで違和感を感じてしまったのだ。
そしてそれからだろうか、もっとローレンスの時より積極的になったのは。だから、こちらからもこのままじゃダメだと思いこの前エミルに相談に行ったのだ。過去の話などを聴いてこのもやもやとした感情を克服するために。
なので、今日ある用事というのは主なメンバーを集めて話を聴くためのものだ。エミルが約束を今日果たすといわれ早めに作業を切り上げた。
「……エスティア。少し良いか?」
宝玉をずっと眺めながらも相棒であるエスティアに話しかける。
すると突如目の前にエスティアが現れる。
「どうしたの?」
「以前エスティアは俺は記憶の改ざんがされているって言ってたよな?」
「ええ確かに言ってたわね」
「それ以外に何か不都合なことってあるのか?たとえば感情が以前より抑えられなくなるとか、理性が削られるとかのリスクが」
「……なるほどね。それで貴方はさっきから炎帝の宝玉を白帝の宝玉に力を譲渡するか迷っていたと」
「んー、ありていに言えばそうなるのかな?結局はやることには変わりないんだろうけど」
「貴方が聞いた内容だけど、リスクがないといえば嘘になるわね」
「やっぱり」
「でも私は以前言ったわよね?限界まで精神を酷使した人物がどうなるかと」
「言ったね。でもそれは精神を酷使した後遺症でなるんだろ?俺がした質問には答えてくれてないよね。俺はリスクが理性に作用するリスクがあるのか聞いたんだ」
「普通に使っていれば無いわ」
「なら無理すると何かしらあると」
「……」
エスティアは黙ってしまう。肯定はしているのだろうけどどうやら内容を言う気は無いらしい。
「わかった。一応無理しなければリスクが無いということが分かればいいや。じゃあやることはさっさとやろうかな」
そういってライは炎帝の宝玉を白帝の宝玉に近づける。
すると炎帝の宝玉から赤色の細い糸みたいなものが白帝の宝玉に流れていくがしばらくするとそれも収まってしまう。
「これでよしかな」
「ええ、炎帝もしっかりと譲渡されたわ」
「でもこの力も訓練しないといけないんでしょ?」
「もちろんね。いくら良い武器を貰っても使い慣れてないと宝の持ち腐れだもの」
「だよなー」
ライは宝玉を持ってベッドから立ち上がるとエスティアに視線を向けながら言葉を紡ぐ。
「あのさ、いつか話せるようになったらすべて話してくれないか」
「すべて?」
「ああ、例えばさっきで言えばリスクの話とかさ。あと気になっていることいえば……フェレス王国の国旗の紋章。あれってエスティアと関係ないような気がするんだ」
ライの言葉にエスティアは絶句していた。なぜその結論についてしまったのかと。
「表情を見るに何か知ってるんだね。だけどさっきも言ったようにいつかでいい。今はそれよりも過去を思い出すことが大切なんだから。なら俺は先に食堂で何か食べてくるよ。またね」
ライはエスティアにそういうと扉を開けて出て行ってしまった。
「……ガレック。あなたどれだけの化け物を育てたのよ」
誰も聞いたにもかかわらずエスティアは呟くと、なんだか遠くで
《化け物だと!うちの息子をそんな風に呼ぶな!》
と言われたような気がする。
エスティアはなんだかおかしくなって苦笑しながら、ここにいるはずも無いもう死んでいるはずのライの父親ガレックに向けて呟く。
「悪かったわよ。ライは貴方と約束したとおり必ず守る。だから貴方も無事を願ってて」
次は何も聞こえない。だが代わりに窓から吹き込んできた風が頬をなでた。それをエスティアは了承の意味かと考えてまた笑みを浮かべるのであった。
ライは夕食を食べ終え再び部屋に戻るがそこにはすでに誰もいなかった。おそらくエスティアもあのあと宝玉の中に戻ったのだろう。
といっても宝玉は自分が持っているのだから話しかければいつでも返事はしてくれるのだろうが。
そう考えつつ、ライは部屋の中に入り椅子に座る。
エミルの約束の時間はまだもう少しありライは食後の休憩をする意味で目を瞑りしばらくその状態でいると、いつの間にか意識を手放していた。
それから約一刻後にライがいる部屋の扉がノックされる。
しかし中からの返事も無くもう一度ノックするが返事は無い。
ノックをした人物、リエルは首を傾げる。先日エミル王女からライの記憶を呼び戻すために話し合うということで、今日の食後にライの部屋に集まるように言われたのだ。
だからおそらく部屋の中にライがいるはず。
しかしノックをしても返事が無い。
勝手に入ってもいいものか首を左右に動かし迷っていると廊下を誰かが近づいてくるのに気がつく。顔を上げてみるとそこには
「む?どうしたのだリエル?扉の前で首をかしげて」
「あれ?どうしたの?」
左右同時から声をかけられた。
右の通路からは王女であるエミルとそのメイドのユレイヌ。
左の通路からはティアとフィルが。
リエルは二つの方向を見て最後に扉に視線を向け。
「ノックしても返事が無い」
そういう。
それで集まった女性陣はリエルが何か言いたいか分かった。リエルがこのまま中に入っても良いのかと迷っていたのだと。
ティアも本当に返事が無いのか一度軽くノックしてみるが中からの返事は無い。
「本当に返事が無いね」
「一体どうしたんでしょうか?お兄ちゃんが約束を破るとは思えませんし、たまたまどこかに用事があっていなくなったとかでしょうか」
「いや、それは無いだろう。この用件はライから言ってきたのだ。あれほどまでに気にしていたのに用事ができたからといってすぐに出かけるはずも無い」
「では一体どうしたのでしょうかライ様は」
全員が話し合いどうしたのかと思っていると、リエルが一人ドアノブを握り回してみる。
ガチャリ。
そういう音を鳴らしドアが少しだけ開かれる。
リエルは周りを見てどうするか問いかけるとティアがわざとらしく。
「あーうん。開いちゃったものはしょうがないよね。リエルは用事があってもいなくならないとか言ってたけど、もしかしたら何かを取りに言ったのかもしれないし」
「そ、そうですね。お兄ちゃんがいないならばすれ違いにならないように中に入って待たせてもらうのもありかと」
「う、うむ。では早速中に入らせてもらうとするか。これは必要な行動であってやましいことは無いのだからな」
ティア、フィル、エミルはそれぞれ言い訳を言いながら頷いている。
本当にやましいことは無いので言い訳を言わなくてもいいのだが、そこは年頃の少女達。異性が寝泊りしている部屋に入ることに意識しないわけが無かった。
ユレイヌはそんな様子を楽しそうに笑みを浮かべて見守っている。
リエルは何も言わなかったが全員の意見が一致したと確認してドアを開けていった。
そして全員がゆっくりと中に入るとベッドには人はいなかったが窓側にある椅子に人が座っていた。
ライ本人である。
しかし、目は閉じられ規則正しい寝息が聞こえてくる。
どうやら待っている間に寝てしまったようだ。
その様子に少女達は全員が顔を見合わせる。ここでどうするべきか迷ってしまったのだ。
このままそっと出て行っても良いが、次にゆっくりと全員が話せる時間がいつ取れるか分からない。もしかしたら明日にでも問題が飛び込んでくるかもしれない。
だからこそ今日話し合いを設けたのに帰るのもはばかれる。かといって、最近精力的に仕事をしていたライを見ていたので疲れが溜まって寝てしまったのは推測がつく。
それで誰もどうするべきか言わなかったのだ。
でもその中で最初に動いたのはリエルだ。
リエルはライの寝ている椅子の近くに行くとライの正面側にすわりライの顔を見ていた。
それに全員が気づく。
もしかして今なら寝顔を見るチャンスなのではないかと。
この場にいる全員はそれぞれがライに対して特別な思いを持っているのは気がついている。このチャンスを逃すつもりもない。
少女達はゆっくりと歩きリエルのそばに来るとそれぞれベッドに椅子に座っていく。
そしてライの寝顔を眺める。
寝顔はとても穏やかで時々身じろぎをしている。
少女達はしばらくライの寝顔を見続けるのであった。
……?
ライは突如何か違和感を感じる。
違和感といってもなんだか人の気配を感じたというぐらいだが一体誰がいるんだろうと思い目を開けるとそこには
「「「「「…………」」」」」
五人の少女達がいた。
「……いつの間に?」
ライが聞き返すと八ッ!としたのかエミルが慌てて言う。
「あ、えと、そのだな。まだ来てからあまり経っていないから安心しろ」
「ん?あーうん。あまり来てから時間が経っていないなら良いけどさ。でもどうしてそこに?」
「あのお兄ちゃん。もしかして今日集まることを忘れていたということは無いですよね?」
「それはもちろん覚えてる。俺が聞きたいのは俺が寝ている顔が見える位置になぜ全員がいるのかってこと」
「あらあら、そんなことどうでも良いじゃないですかライさん。日ごろライさんが頑張っていると知っていたのですから、誰も起さないようにしていただけですよ」
「ユレイヌさん、それと座る位置とは関係ないような」
「まあまあ、ライもさ小さいことに囚われちゃだめだよ。もっと気軽にいこ?気にしない、気にしない」
「いや、そういう問題?」
「気にしない」
リエルにまで言われて黙るライ。
すると目の前にエスティアが出てきてリエルの横に座るとライに言う。
「小さいことを気にすることは、それだけ器が小さいということ。寛容な心で流しなさい」
「んー」
「それよりも今日は別のことで集まったのでしょう?時間は有限よ」
まだなんだか納得できないライだが確かにエスティアが言うように些細なことを気にしている場合ではないな。
そう思い、意識を切り替えると話を始める。
「なら本題に入ろう。今日はまずみんな集まってくれてありがとう。それで今日集まってもらったのはエミルからすでに聞いてるだろうけど、ここにいるメンバーに過去のことを聞こうと思ったんだ。だから頼むな」
ライが言うと全員が頷く。
「ならこれから話を始めよう」
そして、これから長い夜が始まるのであった。
いかがでしたでしょうか。
次回は過去の話。主に孤児院のことを書いていこうと思っております。
あとがき短いですが今回はこの辺でまた明日お会いしましょう。




