第六十一話 領主代行 カイ・タグール
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リューネリスにライ達が到着した後、予想された抵抗はすでになく王国軍が近づくとリューネリスの門はあっけなく開けられた。
リューネリスに到着した部隊は約五千の王国兵のみ。残りは王都や王国に支援した貴族達の下に帰っていったのだ。
なので現在ライの手元に残ったのは第十三大隊と第五大隊、新たに組織した風影隊、水帝隊、土帝隊、土弓隊。フィルの義勇軍と騎兵五百の第八部隊、後は歩兵が約二千。
この戦いで被害は王国軍死傷者千五百、リューネリス軍は倍以上だろうが不明だ。両軍とも重症、軽症者を合わせればもっと人数は膨れ上がる。
本来ならばライ達も一度王都に戻ってゆっくりとさせたかったが、リューネリスの始末を放置してしまってはその間によからぬことが起きる可能があると思い五千を率いてリューネリスにきたのだ。
これから兵士達には表向きには残党の山賊と海賊が来る可能性があるので防衛任務につかせる。
だが本当の目的はエッジ王子達に支援をした商人の捕縛と人質をとられている場合の救出。そして港を調査してどういう船がどこから来てどこに行ったかを調べるため。
今回のエッジ王子の反乱軍約二万ということだが、その食料をすべてリューネリス近隣で補うことは到底無理なはず。ならばどこからか食料が運ばれたことになる。しかも戦争をするということは武器も運ばれていたと考えていい。普通に商人が買い付けて船で運んでいただけならば商人を処罰するだけでいい。
しかしもしライが考える最悪の可能性であったならば一刻も早く対処しなければならかった。
現在ライ達はリューネリスの門をくぐり領主の屋敷と思われる場所に来ていた。
何でも最近までは貴族と王族が使用していたらしいが、負けたと分かると部下などが逃げ出し、暫定的にこの町で信頼の置ける人物を代行領主として置いたらしい。
それが現在応接間に通されライ達と向き合っている男、カイ・タグール。
黒く短髪の髪を持ち、年も若くおそらくまだ三十も超えていないだろう。目が悪いのか眼鏡をかけており、現在もこちらをニコニコと笑ってみている。
パッと見て好青年とも思える表情だが、ティアたちは最初領主として勤まるのかと思った。
でもこのカイという青年。実は結構やり手の商人なのだ。
エッジ王子に今回商人たち何人かが集まり支援をしていたらしいが、カイは誘いを断り妨害などもされていたらしい。決して屈しなかったようだ。しかも海賊と山賊が町の中を徘徊するとどうしても諍いがおき治安が悪くなっていた。
そんな中率先して治安維持にも力を入れたらしいのだ。
なぜカイが商人連合の妨害にも耐え治安維持に努められたかというのはカイが運営している商売がリューネリスで一位二位を争う大商人だから。
ライバルであるもう一つの大商人が率先して王子を支援したため今回処罰されることにより、カイは現在リューネリスで不動の地位を築くことになったのだ。
「お主がリューネリスの治安を維持しまた支援を断ったカイ殿だな?」
応接間に集まって一番最初に喋り始めたのはこの国の王女エミルだった。
「一応私がそのカイで間違いありませんが」
「この度はよくリューネリスを守ることに尽力してくれたようだ。私がお父様、国王ジギルに変わってお礼を言わせてもらう。本当に感謝する」
そういってエミルはカイに向かって頭を下げた。
するとニコニコと笑みを浮かべていたカイはオロオロと慌てたような困った顔をする。
カイの認識では貴族や王族といった上の人物はプライドの塊であり、もし自分が悪かったとしてもなかなか頭を下げることがないと思っていた。現に先日までこの町にいたエッジという王子と貴族達は住民に手を出すなどやりたいほうだやり、自分のところに仲間になれと来たエッジに関しては頭を下げるどころか
「仲間に入れてやる光栄に思うといい」
と言わんばかりの態度だった。元々商人たちからも聞かされていたが山賊や海賊まで仲間に引き入れている軍に正義はないと感じて断ったのだ。
今回も先のガリアント平原の戦いに勝った王国軍がここに来ると聞いてカイは適当に聞き流していた。
エッジよりはマシかもしれないが、あの王子と血を分けた兄妹。たいして変わらないと思っていた。でもその血を分けた王女は自分が悪いわけでもないのに非を詫びて、さらに頭を下げてきた。
「……」
それを見てカイは先ほどのニコニコとしていた表情から困惑した表情を経て、真剣な表情をする。ライはリエルが座るソファーの後ろからカイの表情を見て何か決意した表情をしたなと思っていたが何もエミルに助言しない。
この王女はそんなのも見抜けないほど愚かではないのだから。
表情を変えた後カイは言う。
「いえいえ、私はほとんど何もしてませんよ。海賊と山賊を味方にする軍に肩入れするなど正気とは思えない。それにこの町の治安維持を指揮したのは否定しませんがほとんどは、協力してくれた住民や王子に協力しなかった商人達のおかげです」
「仮にカイ殿の言うとおりだったとしても、治安維持をしてくれたのには間違いない。しかも誰かがやろうといわなければもっと被害は大きくなっていたことは予想がつく。やはり貢献は大きい。ライ軍師もそう思うだろう?」
カイというこの町の代表者がいる場なのでエミルもライのことを軍師と呼ぶ。
軍師であるライも頷きながら。
「はい、エミル王女の仰られる通りカイ殿の貢献は大きいでしょう。誰かが率先して立ち上がらなければ動かない、そんな中影響力が大きい者が立ち上がれば後のものも続くのですから」
「うむ、ライ軍師の言うとおりだ。ならば貢献が大きいカイ殿には国から何かしらの褒美を出さなければならないがさてどうしたものか。何かカイ殿から要求はあるか?」
エミルはカイに対して要求を言うように促す。カイ自身の表情の変化には気づいており何かしらの要求をするため交渉をしようとしていたと考えたのだ。
だからカイはエミルから要求をといわれて驚くが言葉に間違いがないか聞きなおす。
「本当に要求を言ってもよろしいので?」
「さすがに無理な要求はできないぞ?私は王族であっても王女でありそんなにできることは少ないからな。範疇に収まることならば父上に頼むこともできなくはないが……」
「それで結構でございます。ならば私からお願いが一つ」
「言ってみよ」
「今回王子達に支援をしていた商人に温情をかけてやって貰えませんか?」
この言葉にピクリと眉をひそめるライ。悪い芽はすべて摘み取るつもりでいたのだ。そう動くようにランにも頼んで証拠なども押さえてもらっている。ある商人にも指示通り伝えてこちらに付くように言ったら即答で返事を返してきた。
だからこの後ライは話し合いが終わったら早速動こうと思っていたその矢先である。
このようなことを要求してきたのだ。
エミルは困ったような表情を浮かべながら気になったこと口にする。
「ふむ、その返事を返す前にいくつか質問をしてもいいかな?」
「はい」
「はっきり言って今回のことは、私から見えればカイ殿にとってとても利する状況であろう。ライバルである大商人を没落させればリューネリス一の大商人の地位に納まることもできる。それには人々の人望もなければならないだろうが、カイ殿がすでに領主代行の地位に納まっていることから問題はないだろう。ならばなぜ王国を裏切った者達を助け自分の利とする状況を少なくする?商人とは利益を追い求める人種ときいていたのだが」
「確かにエミル王女が言われるとおり私はこのままいけばリューネリスを牛耳ることも叶いましょう。ただそれには多くの犠牲や混乱を招きその混乱に乗じてよからぬことを考える者が来るはず」
「カイ殿、その商人たちを残したほうがよからぬ者がよってくると思わないか?」
「おそらくその者達はその時にはすでに財力や権力はあまり残されていないはず。なれば、さほどの問題にはならないかと」
「ふむ、ライ軍師そなたはどう考える?」
エミルはライに意見を求めるように言ってきた。王女であり最高決定権をこの場で持つリエルがライに意見を聞かなくてもいいが、この前自分の口で後始末をしっかり頼むと頼んだのだ。それはリューネリスの商人たちのことも含まれている。
だからライならば何かしら手を回しているとは察しはついていた。だがもしカイの提案を受ければ全部とは言わないが徒労を踏ませることになる。だからこそ聞いてみたのだ。
ライはエミルの言葉に返す。
「私としては反乱軍を支持したことを踏まえればこの先再びことを構える可能性、また温情を与え財を削ったとしてもそれを恨み叛意を持つ可能性もあるので、悪い芽は摘み取りたいですが」
「しかし、それではできる限りのことをするといった言葉が嘘になってしまう」
「ならば条件を出すといいでしょう」
「条件?」
「はい、商人たちの関った比率で裁くのです。ある一定の基準を超えたものには重い刑罰を、脅しや人質をとられていた者の場合は、軽い刑罰を受けてもらいましょう。それならば他に示しが付きますし、全員を処刑するということにはなりません」
「なろほど、カイ殿こちらの軍師はこう言っているがどうであろう?」
「……基準ですか。その基準とはどのくらいのことを言うのでしょうか?そして、重い刑罰とはどのようなものか、軽い刑罰についてもお聞かせ願いたい」
「ライ軍師、カイ殿もこう言われているのだ。すべて話すがよい」
「わかりました」
その後ライが説明した内容は以下の通りだ。
刑罰の基準は反乱軍にどの程度支援していたかの貢献度。食料だけならば刑罰。これはまだ兵を維持するため支援したとはいえ、他の貴族から要請されたといえば普通のことだからだ。これならば住民達にも言い訳ができ波は小さいだろう。
問題は重い刑罰を受ける者達の基準だが、それは兵力、武器などを支援していた商人とすることにしていた。
食料だけとは違い、兵力、武器などはいくら言い訳しようと反乱軍に渡した時点で支援ではなく、共闘になってしまうだろう。実際に戦わなくても後方予備部隊と断じても違いなかった。
だがこれにも例外を取り付ける。すなわち脅しや人質をとられていた場合だ。
食料を提供していた商人が脅されていた場合はほぼお咎めなし。
ならば武器、兵力を提供していた場合は数にもよるが軽めにすることを約束する。だが、自分の意思で提供していたのならば容赦はしないと伝えた。
ライとしてはかなり譲歩したつもりだった。人質や脅しに対しては罰を軽くすることも考えていたが自分の意思で協力した者は食料だけとはいえ許すつもりはなかった。
本来ならばカイが言ってきても突っぱねることはできたが、実は事前にここに到着する前エミルに後始末をといわれ処罰する商人に対する策と刑罰を伝えたがすべてのものを殺すことはやめろと言われた。
なぜそんなことを言うのかと聞くと、いくら反乱軍に支援したとしてもすべての商人を殺せば恐怖政治になってしまう。人に過度の恐怖を与えることは叛意をもたれることよりも厄介だぞ?
といわれたからだ。その言葉がやけに頭に響きライはリエルの提案を受け入れた。
だからこそ今目の前で譲歩できる条件を提示した。
しかし、すべてを聞いたカイはまだ表情を硬くしている。
「ん?カイ殿まだ条件に不満があるのかな?」
「……いえ、こちらが思っていた以上に譲歩しているとは思います」
「だが声音を聞くに納得しきれていいないようだが」
ライはなんとなくカイが表情を苦悶にしている理由の想像はついている。
商人の代表者を処罰することに反対はしていないがそれ以外のことで引っかかるのだろう。
ライはエミルのほうに視線を向けるとリエルがどうするか聞きたくてこちらに視線を向けてきていた。ライはエミルを見るとリエルは頷く。どうやらライの顔を見て何かしら考えがあると思ったのか話せと頷いたのだ。
「カイ殿。一ついいでしょうか?」
「なんでしょうか軍師殿」
「貴方が先ほどから顔が優れないのはもしや今回反乱軍に支援した商人の中の家族に気になる方からではないですか?」
「……」
カイは何も喋らない。しかし、質問に対して沈黙は何よりの肯定だろう。
ライは考えが当っていたことを確信して条件をさらに付け加えた。
「ならこうしましょう。重い刑罰になるであろう代表者の家族は実際に会ってみて、叛意がないことが確認できればお咎めなしにしましょう。ただ、財産をある程度没収することにはなるでしょうが、家族が路頭に迷う事にならないようにすべてを没収はしない。その後どうするかは本人たちしだいですね。商人だったものが財力を失っただけで、反乱軍に手を貸したということですから住みにくくなるでしょう。ですがそれからのことはカイ殿にお任せします。私たちは必要以上に口出しはしません」
「ほ、本当ですか!」
カイは椅子から身を乗り出すようにして確認してくる。
「自分はそう考えているんですが。どうでしょうか、エミル王女」
「うむ、私もそれでかまわない。今回のことで父親を亡くすことになる商人の家族もいるであろう。本当ならば父親を奪うことはしたくないが……。そうしたら先の戦場で散っていった兵士たちに申し訳ない。だが家族すべてを処刑するなど私にはできぬ。褒美として商人たちの温情をということだ、その家族たちにも配慮しなければな。しかし、その後はカイ殿が責任もって面倒を見るのだな?」
「それはもちろんです。私のすべてを使って後始末はするつもりです」
「そうか、ならば話は決まった。商人の扱いについては以上として、今後の町の方針と王国兵の警備、運営の話。あと、こちらの軍にも手伝ってほしいこともある。そのことについて話していってもよろしいか?」
「はい、非力な私ですが微力ながらお手伝いさせていただきます」
そういって今度は、リューネリス全体の今後の方針などをリエル達は話し合っていく。
余談だがこの数日後ここで話し合われた内容を元に商人の刑罰が執行されいくつもの嘆きと歓喜が聞こえたという。故意に提供していたものは処刑された者もいれば財産をほとんど没収された者もいる。軽い刑罰を受けるとしても人質が帰ってきたり脅しがなくなったと知って喜ぶものなども多かったらしい。
いかがでしたでしょうか。
今回は戦いや心理戦というより、町の戦後処理といいましょうか。商人達の処罰についての話でしたね。
最初はすべてを殺してしまおうかという物騒なことを思っていましたがそれでは恐怖政治となってしまい、今後の展開的にまずいかなと思い温情をかけることにしました。
今後の展開とは?と思われる方もいるかも知れませんがぼやけた構想なので、明記はしません。ご了承ください。
ではまた明日お会いしましょう。




