第五十八話 ガリアント平原の戦い 水帝隊編
こんばんわ!お楽しみください!
左翼でティアがエイブを討ち取った少し前、右翼の水帝隊を率いるリエル、十三大隊ラッシュ、後方弓兵隊フィルは新たなる局面を迎えていた。
「敵騎兵隊の後ろから敵歩兵部隊が来たぞ!お前ら全員敵なんかぶっ潰しちまえ!」
ラッシュが正面にやってきた部隊に突っ込み、相手もこちらに向かって突撃してくる。その数傭兵二千。ラッシュ達も前衛二千。ほぼ同数の戦いだ。しかし、王国軍にはフィルの弓兵隊が援護、リューネリス軍は山賊の海兵隊がおり外側の騎兵がやられたと知るや部隊を率いているビズは後ろからやってきた傭兵部隊の援護を始める。
その様子を本陣で見ていたライ。
左翼でもティアとトムが戦い始めていたのは知っていた。だからライも動き始める。
「ギルタ副将軍はいますか?」
「こちらにおります!」
後ろに控えていたこの第二師団の総指揮官代理をしている人物。本来この戦いを指揮するべき人物なのだが、なぜか自分よりライのほうが優れているだろうと言い出し、主な作戦と指揮をライに任せた人物。
ギルタ副将軍が無能というわけではなく、どちらかというと有能だ。本陣に流れ込んでくる情報を整理し指示するのはライだが、ギルタは自分の役割を理解し完全に裏方に回っていた。後方部隊に指示して治療、物資の警備、また弓隊に弓矢の補給など滞りなくやってくれていのだ。やはり彼は武力ではなく知力を使って戦う将官なのだろう。
そんなギルタ副将軍にライは言う。
「ギルタ副将軍、これから貴方に指揮を任せますね」
突如指揮を譲渡するといわれギルタ副将軍は慌てる。
「な、何を仰るのですか!ライ軍師の後に私が指揮をするなど」
「ですが今いる中で一番指揮をできる人物はギルタ副将軍貴方です」
エミルもある程度指揮ができるかもしれないが彼女は王女だ。やすやすと姿を現すべきではない。ならばギルタ以外いないだろう。ユレイヌが意外にできそうな気もしないでもないが、エミルから離れるとは思えない。
真剣な表情でライが返事を待っていると覚悟を決めたのかギルタは頷いた。
「……わかりました。微力ながらやらせてもらいます。ですがライ軍師はどうされるので?」
「俺は前線中央に行きますよ。今左翼と右翼が敵の主要部隊と当たった。なら最後に中央部隊に何かしらの策をとらせないとまずい」
「今のところ特にまずいところはないような」
「今のところはね。まずくならなければ別にいい。問題はまずくなったらだ」
「何か考えていることがあるんですね」
「ああ。あ、それとこちらの騎兵をいつでも動かせるように。左翼と右翼に分担して味方が劣勢、または押したら攻撃命令を。うまくいけば敵は瓦解するかと」
「分かりました」
騎兵の運用兵を聞いてギルタは頷く。
「では行って来るね」
「はい、軍師ご武運を」
「お互いにね」
そう挨拶するライは中央の岩から降り戦場である中央へと駆け始める。騎兵ではないので時間は少し掛かるだろうが、相手も同じぐらいに動くだろうと考えていた。
そして、兵士が多くいる群集の中へと姿を消していく。
右翼では激突した前線でラッシュが大立ち回りをしている。
大柄な体に似合い、巨大な斧を使用していた。その斧は敵に当たろうものなら鎧を着ていようが両断し、地面にまで大穴を空ける。
またラッシュの周りにいる十三大隊の兵士達や重歩兵もラッシュほどではないが善戦していた。敵が繰り出してきた槍を剣で払い、後ろにいた兵士がその隙に敵を屠る。
彼らは連携がとても精密だった。これは十五大隊が北の戦いで培った経験でありどう動けば相手が倒せ、どうすれば不利になるのか体験したからだ。重歩兵も敵が崩れたところを攻撃するか防御に徹すればよかった。
しかし、敵もそれに対して負けてはいなかった。
対するリューネリス軍が保有する傭兵隊も経験という観点で言えば様々な戦場を経験していたからだ。
中には参加して日が浅い者もいたが傭兵とは強くなければ成立しない。弱者などは存在せず、強兵といわれる部類の人間達だ。
そんな両軍の強兵達に紛れこの右翼で抜き出ているのが数人いる。現在中央で暴れているラッシュ。海賊の頭ビズ、水兵隊リエル。そして傭兵隊長ガーク・レンズだ。
「ぬおおおおおおおおおお!」
突如右翼に一部で大声が響いたと思ったら、王国兵数人が空を浮いていた。魔法とかではなく文字通り衝撃で空中に吹き飛ばされていたのだ。
「な、なんだあいつは!」
目の前の傭兵を相手にしていたラッシュは味方の王国兵を吹き飛ばしたと思われる人物を見るとそこには大剣を振り下ろした男がいた。
味方の兵士は少なからず鎧を着て体重が増えている。しかも近くにいるのは十五大隊だけではなく重歩兵隊もいるのだ。それを数人も吹き飛ばすなど並々ならぬ破壊力。
あの敵を相手できるのは自分しかいないだろうと考える。だからできればすぐに正面に行きたい。しかし間には多くの味方と敵が入り混じり、ラッシュのことを部隊長と分かって先ほどから何人もの敵兵が襲ってくる。
このままずっとあちらにいけなければ多くの兵士がやられる。歯噛みをしながらどうしようかと考えていた時、目の端に一瞬銀色の髪が見えたような気がした。
こんな多くの兵士達がいる中で見えるはずもないと思いつつも、ラッシュは先ほどの考えの間違いに気がつく。
今この戦場にあの敵を倒せる人物はもう一人、あの小さな隊長だ。
それならば自分がすることは決まった。こちらの戦線を維持しいち早く敵を瓦解すればいい。
「おらおらおら!どんどん行くぞ!」
ラッシュは先ほど以上に斧を振り回し前進していく。
「調子に乗るんじゃねえぞそこの巨漢よぉ!」
暴れていたラッシュの目の前に一人の男が叫びながら攻撃してきた。しかも何かしらの魔法を使ったのか水の刃が飛んでくる。それは前にいた味方をも巻き込み飛んできた。
「うぉ!」
だからこそ死角になり前進が止まる。
「誰だよ!味方もろとも攻撃してきた奴は!」
「俺だぁ!さっきからやりたいほう題しやがってぇ!でもこの俺様、海賊の頭ビズ・テンレ様が来たからにはすぐにはやらせねぇぞ?」
「はん、頭のご登場かよ。ならお前を倒してさっさと帰るとするかな!俺の名は王国軍第十三大隊所属のラッシュ・ガーリネックだ!冥土の土産に覚えとけ!」
ラッシュとビズは名乗りを上げた後ぶつかり合い、死闘を始めたのであった。
そこから少し離れた場所では兵士達の間を縫って疾走する銀色の髪を持った少女がいた。
「……」
水帝隊隊長リエルである。
といっても周りには現在水帝隊はおらず独断専行だ。部隊は後方で待機させた。
強敵がいると分かったからリエルが一人前へと疾走したのだ。
あの敵は自分が倒せるかも分からない。周りの味方に倒せるとは思えない。ラッシュならばいけるかもしれないが後ろから見るに距離がありすぎる。ならば自分が行くしかないと思ったのだ。
そう思い疾走している間にリエルは敵を発見し射程内に入ったことを悟って水帝の宝玉を使用した。
すると頭上に三つの水球が生まれ敵に飛んでいく。
これには敵も気がついたようだ。驚いた顔をしていたがすぐに対応する。なんと剣で三つの水球を斬ろうとしたのだ。
そして見事に切り裂き水球は見ずに戻る。
これを見てリエルは少しだけ驚いていた。
あの水球は岩を破壊できる程の威力はあったはずなのだ。なのにその水球を三つとも打ち払うなど尋常な力ではない。
水球では倒せないと判断したリエルだったがもう一度頭上に三つ作り飛ばす。この時相手との距離は十人ほどの距離。この距離ならば!
三つの水球を飛ばしたリエルはその後元々所有していた剣、瞬風の剣の魔法を使用した。それによりリエルは一気に加速した。
三つの水球が再び飛んできたことを見たガークは
「こんな攻撃私にはきかぬぞ!」
そう言いつつ水球を剣を横に払い水に戻してしまう。
とその時、ガークはゾクリッと悪寒が走った。そう感じたガークは剣を振り払ったまま引き戻さず横に飛ぶ。
その一瞬後、虚空に一筋の剣が通過していた。
あのままあそこにいたら自分は命を落としていたかもしれない。
一体誰がと思いつつ視線を向けるとそこには戦場に似合わない銀色の髪をした少女が立っていた。なぜここにとも思うが、剣を振りぬいていることからあの少女が今の攻撃をした以外に考えられない。
「少女よ。お前の名は?」
ガークは剣を持ち直すと襲ってきた少女に名前を聞く。すると少女の口から声が返ってきた。
「リエル」
無口なのだろうか、一言だけ名前を言うとそれ以上言うことはない。
ガークが名前を聞いたのは珍しい少女からというだけではない。傭兵とは倒した敵が大物ならばそれだけ箔が付く。今の攻撃もおそらくこの少女、リエルが繰り出したものなら名のある人物だと思ったのだ。
しかし所属部隊すら明かさず名前だけ言ってきたリエルにガークは戦場なのに苦笑する。もし傭兵仲間が見たら驚くだろう。いつも無口でほとんど笑わないガークが苦笑とはいえ笑ったのだから。
ガークが苦笑し、リエルは可愛らしく首を横にかしげるがガークはそんなリエルに対して言う。
「すまない。そんな不思議そうな顔をしないでほしい。本来ならば子供に手を出したくはない。だが戦場に現れたなら覚悟の上だろうすまないが覚悟してくれ」
柄を握り構えて宣言する。
「俺の名はガーク・レンズ。傭兵の隊長をやっている。全力で行くぞ!」
ガークから覇気があふれ出し威圧感が強まる。この時隙を狙い攻撃しようとしていた王国兵は突如のプレッシャーに後ずさり、傭兵達はガークを避けて周りの王国兵達を攻撃していく。
戦場というのに一種の不思議な空間が生まれていた。今ガークとリエルの間には一つの空間が小さいながらも生まれたのだ。
対してリエルもガークが本気なのだろうと感じ取り双剣である剣を握りなおす。この戦いはすぐに終わる可能性が高い。力が強い戦士同士が戦えば、それぞれ攻撃手段も限られ防御にも対応し時には長く戦闘は続くだろう。
しかし、リエルは速さ、ガークは力だ。ガークの一撃をリエルが受けたら一発で重傷を負うだろう。だからといってリエルの攻撃を一撃ならず二撃三撃を食らったら危ない。
緊張した空気が二人に流れお互い少しも動かない。
だがもちろんいつまでも動かないわけにはいかない。
切欠はリューネリス軍が放ってきたのであろう弓矢が二人の間に落ちてきた時だ。
最初に動いたのはガークだ。
ガークは大剣を振り上げ剣を地面にぶつけていく。
するとリエルはすぐに瞬風の剣の魔法で横に避けて一気にガークの懐にもぐりこむ。
初撃が外れたとしても事前の策をガークは取っていた。
両手で握った大剣を振り下ろした時片手だけで振り下ろしたのだ。
もう片方の手にはすでに短剣を持っている。
普通ならばリエルが持っている双剣を防げるものではない。
しかしガークが持つ剣は魔法が付与している切り札。
剣が伸び敵に襲い掛かるにも防ぐにも使える。これは不意に攻撃するのにも便利なのだ。
懐に飛び込んできたリエルにガークは短剣をリエルの体に向けて突き刺した。
すると至近距離から攻撃され不意を突かれたリエルはとっさに避けつつ剣を突き出し交差する!
ドゴォ!ザシュ!
二つの音が辺りに鳴り響く。
その途端リエルの肩から血が流れている。ガークの短剣があたったのだ。
傷の痛みに顔をしかめるリエル。
左手にある剣を下げるとその場に立つ。
交差したもう一人ガークはというと
「ぐっ!」
膝をつき剣を話すガーク。
ガークは肩で息をしてなぜ自分がこうなっているのかわからなかった。
交差したとき周りの兵士達は一瞬だけ戦いを止めてしまった。リエルとガークこの二人の戦いがここの場所の勝敗を分けると思っていたからだ。
そして、結果は怪我を負ったとはいえリエルの勝ち。ガークが死んでいるわけではないが剣を放したということはダメージを食らったのはガークなのだ。
とその時遠くから歓声が上がった。そちらを見るとラッシュが剣を頭上に掲げている。ラッシュの方もビズに勝ったのだ。
それを聞いたガークは剣を杖にしながら立ち上がる。
「どうして殺さなかった?」
ガークは目の前の少女に聞く。
ガークがなぜ倒れたのかは分かっていた。自分は確かに短剣を突き刺し攻撃を当てた。しかし、この少女には早く動ける以外に魔法を持っていたのだ。
最初に放ってきた水球。
あの魔法をこの少女は正面から攻撃するとともに後方から水球で攻撃したのだ。
しかしガークには分からなかった。後ろから頭を狙えば殺せていたのになぜ狙わなかったのか。
今ガークが意識を持っているのは水球を受けたのが背中だったからだ。
その問いにリエルは答える。
「笑ったから」
一言だけリエルは理由を言う。そして次に
「引いて、私が勝ったから」
ガークは顔をしかめる。
この少女は自分が勝ったから戦場から立ち退けといっているのだ。
そんなことすれば傭兵隊はこの戦いをリューネリス軍が勝った場合に敵前逃亡として処理されるだろう。
ガークはしばらく少女の瞳を見て意図を探っていた。
「……」
リエルもずっと見ていたが先に視線を逸らし苦笑したのはガークであった。
「……わかった。ここで俺らは引く。戦っても勝てそうにないしな。全員聞いたな!傭兵隊退却だ!戦場から離脱するぞ!」
突如響き渡った声に傭兵隊は驚き動揺するが、自分達の中で一番強いガークの指示なのだ。それはガークほどの実力者が苦戦を強いられた敵がいるということ。このまま戦えば自分が死ぬ可能性が高いということ。
ガークの声を聴いた傭兵の内一人が後退する。するとまた一人と退却し始めた。
それを王国兵が追撃しようとしたが
「全員、追撃はダメ。それよりも体勢を立て直して他の援護に行く」
リエルがいつも以上の声を出して王国兵を制止する。ラッシュもその声に驚くが何かしらの意図があると感じ
「あの部隊は追撃するな!それよりも他の味方の援護を優先するぞ!」
そういって、部隊は追撃をせずに部隊を整えることになる。
こうして右翼の戦いは王国軍の優勢で一段楽する。
右翼、左翼の主な隊長級がやられすでにボロボロのリューネリス軍。
そんな中一人本陣から動き始める。
その名はイウル・ダリアンド。
ガリアント平原の戦いはついに佳境にはいるのであった。
少し忙しいので今回あとがきはなしにします報告のほうもお休みしますが申し訳ありません。
ではまた明日お会いしましょう。




