第五十三話 ガリアント平原の戦い ①
エミル達がガリアント平原に到着した三日後。ついに敵戦力である二万の兵力が平原に現れた。
敵リューネリス軍は報告にあったように山賊や海賊を多く引き入れたようで装備がバラバラな兵たちが多い。また傭兵も雇ったみたいでその部隊を象徴するように沢山の旗が靡いている。
「これは改めてみるとすっげえ人数だな」
敵が陣を構築しているのを見ていたラッシュが一言感想を漏らした。ここでは現在エミルとユレイヌ、十三大隊のメンバーがいる。
「すごい人数だけど先日エミルが言ったように烏合の衆だったら負けないよ」
「まあ烏合の衆だったらいいんだけどな」
「そうだよねー、問題は烏合の衆じゃない部隊がどのくらいいるかが問題だよね」
ティアが心配事を口にするが、それは的を射ていた。
報告では急いで海賊と山賊まで徴兵していたときく。もちろん兵力の増加が早かったことから傭兵の存在も考慮していた。
しかし、いくら金にものを言わしたとしても山賊、海賊、傭兵だけで一万以上いるとは考えにくい。おそらく近隣の貴族がリューネリスにはせ参じたと考えるのが妥当であろう。
でだ、問題はティアが先ほど言ったとおり正規の訓練を受けた騎士と兵士がどのくらいの兵力を持っているかが問題になる。戦いなれているという点で傭兵たちが経験は積んでいるだろうが正規兵たちは戦術、戦略を想定した訓練を行っている。今回のような集団戦法を用いられる戦場では個人の力量より、戦術、戦略の采配とどれだけ忠実に動けるかが重要になる。
「フィル、二日前の軍義で頼んだことはもう分かってる?」
「何とか。遠風の書をお兄ちゃんから借りれたので私たちの組織から連絡を取れました」
フィルはライの質問に笑顔で返してくれる。
「ならその情報と前の軍義で決まったことを教えてくれ」
「はい。まず前後しますけど軍義のことを伝えますね」
ライが言った軍義のことというのは二日前王国陣地に到着したときに話し合った内容だ。
軍義では状況確認といくつかの方針を決めていた。
決めた方針は五つ。
一つ、敵兵力が来るのをここガリアント平原で迎え撃つ。
二つ、陣構築の変更と兵種の整理。
三つ、ガリアント平原に駐留した期間が長くそのために兵糧が心もとないので近隣貴族からの輸送要請 。
四つ、王国兵選りすぐりの偵察兵部隊を二百ほどの兵数で組織。敵兵力が到着するまでは斥候を担い情報収集、戦時は伝令としての役目を担う。
そして五つ目。これがライが推したとある部隊の編成案であった。
最初それをギルタ副将軍に提案したときは
「確かに可能かもしれませんが……彼らは各部隊で動くことに慣れております。何のにその部隊を編成してしまっては総合的に部隊の弱体化につながりませんか?」
といわれたものだ。
もちろんギルタ副将軍の言葉にも理がある。ライが作ろうとしている部隊は王国でも珍しいものである。そもそも、フェレス王国では一人の力より部隊戦術と人数差により戦いは決まると考えられている。
ギルタ副将軍はさらに
「あと、その場合は部隊が瓦解する可能性がありますが」
とも言っていた。
最後まで渋っていたギルタ副将軍だったが、最後にはエミルの一声とこの部隊を作る試みは百人舞台にするという言葉をライが付け加えたことで何とか納得してもらうことができた。
そして、ライは早速動いた五つの方針の状況をフィルに質問したのだ。
フィルは説明を始める。
「二つ目の兵種の移動と陣地構築などはすでに昨日のうちに終了しています。三つ目の補給についてですが伝令を飛ばしてからまだ日が経ってないので、芳しくないです。後三日あれば到着するかもしれないですがそれまでには勝敗はついているでしょう」
「わかった、なら遠風の書から届いた内容は?」
「お兄ちゃんに言われたとおり調べてもらったんですけど、どうやら大勢の貴族が敵にはいるらしいです。しかも一つの旗の下、団結しているような気もすると。そして兵糧ですが一万二千人分が一月持つぐらいらしいです。これは船がリューネリスに多く寄港するようになった一月前に調べたもので今ではもっと多いいだろうと」
「いいや、逆にその情報のほうがありがたいよ」
「え?そうなんですか?」
「ああ、一月前ってことはまだ一万そこらの兵力だったときのだろ?それで一万二千人分の食料を確保してたんなら、ここ最近で増えた兵力はすべて外の部隊、山賊、海賊、傭兵と思っていい。相手の正規兵は一万二千と考えとこう」
フィルはライに言われて納得する。兵糧を調べてくれといわれた時はこちらの兵糧を計算して長期戦する場合どのくらいかを想定するだけだと思っていた。しかし、ライはそれだけではなくもっと先を見越していたようだ。
ライは感嘆しているフィルに気がつくことはなく次はランに話しける。
「ラン、二日前に作ってもらった部隊の様子はどう?」
「私が担当する偵察部隊ですが早速半分は周辺への斥候として放ってます。後の半分は戦時のときと想定して伝令手順と指揮系統の確認中です」
「順調ってことか。何か斥候からの情報は?」
「一つだけあります。先ほど貴族が集まっているとのことでしたが貴族の数はおよそ五人を確認できたらしく、いずれも王都から姿を消した貴族の可能性が高いと」
「そういえば王都から貴族がいなくなっていたんだっけ。あれ、ならあの人もいるのかな?」
「はい。ライ様と因縁があるというんでしょうか。あの人、イウル伯爵も姿を確認したとのことです」
イウル伯爵の名前はライにとって嫌でも忘れられない人物だ。
一年前に課題として出されたゲームの最優秀者を選ぶため競った相手。不正をしてエミルの側近となり権力を拡大しようとした伯爵であり騎士だった人物。
まさかここで名前を聞くと思っていなかったがある意味嫌な縁があるんだなと思うライ。
でも今はそんなことを考えている暇はないと意識を切り替え正面を見た。
とここで、エミルが話しかけてきた。
「ライ、お前は先ほどから報告だけを聞いておるが肝心の五つ目の項目についてはお主の管轄だったはず。進捗はどうなのだ?」
「五つ目か。確かに俺の管轄ではあるけどそれはリエルに聞いたほうが良いかな。それで実際どうなのリエル?順調?」
「(コク)」
リエルは返事の変わりに首を動かすことで返してくる。
実際二日という短い期間でものになるのか心配していたが、元十三大隊隊長をしていたのだから見栄を張ったりはせずしっかりとした判断をしてくれたはず。
だからライはリエルが頷いたのを見てどこか安堵していた。
「ならよかったかな。後は敵が動くのを待つだけだね。……さて、相手は一体どういった行動を起すかな?」
ライは注意深く敵部隊。現在陣を構築しる場所を注視するのであった。
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リューネリス軍side
場所は移りリューネリス軍本陣の中央にいち早く建てられた大天幕。ここに現在この軍を動かすにあたって重要な人物が集まっていた。
大天幕に集まった将軍たちは『とある人物』が喋るのを待ち続けていたが、ついにその人物は喋り始めた。
「皆のものよく集まってくれた。私の声に賛同し協力してくれたことに感謝する」
「何を仰いますか。貴方様に声をかけられ断るものがおりましょうか。一声かければすべてのものが集まるのが道理。今回応じなかったものは貴方様の偉大さをしらない愚か者か踏ん切りが付かない者たちでしょう」
「そういってくれると嬉しいぞイウル軍師」
名前を呼ばれた人物はライとゲームの最優秀者を選ぶために競った相手イウル伯爵であった。彼は今回この軍の軍師を任されており、この軍では二番目の地位を確立していた。
「当然のことを申したまででございます」
二人がやり取りをしていると突如礼儀もあったものではない声が上がる。
「なあ、どうでもいいけどよぉ。さっさと会議を始めねえか?俺らの部隊は戦いたくてウズウズしてるんだ」
「同感だな。敵はもう目の前にいるんだぜ?さっさと会議を終わらせて相手をぶっ殺して俺らは見返りをもらえればいいんだ。早くすすめようぜ」
「……」
声の発生源を貴族である将軍たちや隊長、イウルも視線を向けた。だが、全員が顔をしかめて快くは思っていない。
彼らは正規の王国兵ではなく外から来たもの、いわゆる海賊、山賊、傭兵の部隊の代表者だった。王国に所属していた彼らにしたら今まで敵対していた相手。いくら仲間になったとしてもすぐに受け入れられるはずない。
しかし、今では彼らも貴重な戦力であるのだ。個々の強さは並大抵のものではないし狡賢さでは一枚上手であろう。だからこそ誰も表情を変えるだけで文句は言わない。
そんな中一人、この部隊の最高指揮官は表情崩さずに頷いた。
「そうだな、確かに相手はもうすでに目の前にいるのだ。時間を惜しむべきだな。早速軍義を始めよう。イウル軍師状況を説明してくれ」
「わかりました。説明させていただきます」
そういって、イウルは集まった面々に説明を始めた。
「現在わが軍は王国兵一万三千、山賊部隊二千、海賊部隊二千、傭兵部隊三千の計二万。敵側は三日前に入ってきた情報では一万五千の兵力とありました。ただ、こちらの計略が成功し王国第二師団総指揮官将軍、ダンド将軍に重症を負わせ士気を低下させることに成功しました。しかし、状況は変わったようです」
「状況はかわった?一体どうしたというんだい?」
「敵陣に約二千五百の援軍が到着したようなのです」
イウルが質問に答えると海賊ビズ・テンレは声を出す。
「はん!たった二千五百が増えたからってどうってんだ。総数ではこっちのほうが多いじゃねえか。さっさと蹴散らせばいいさ!」
イウルは内心無知者がと罵るが口には出さずビズの提案を却下する。
「それは無理です。確かにビズ殿の言うとおり総数ではあちらが劣っていますが、問題は兵力ではなく人物が問題なのです」
「人物だと?」
山賊代表エイブ・ジートが聞いてくる。
「そうです。やってきたのはこの国、フェレス王国 第一王女 エミル様が陣地の合流したということ。しかも、先の北で行われたエンリデンヌ攻防戦とローレンス砦攻城戦で勝利したライ・ジュリアールもいます。警戒して損はありません」
ここで天幕内にざわめきが起こる。山賊のエイブと海賊のビズも例外ではなかった。
まったく反対に位置するリューネリスにもとある噂は広がっていた。北に万もの計略を持つ軍師表れ、その戦術・戦略、まさに千変万化、そのものが指揮した戦場ではただの一度として敗北はなしと。
そう言われている軍師が敵にいるということで動揺していたのだ。
でもこちらの総指揮官が落ち着かせるように言う。
「みな落ち着くのだ。確かに敵に強大な軍師がいることが分かった。しかし、こちらにもイウル軍師がいる。彼は一年前に出されたゲームの最優秀者決定戦でその噂の軍師ライ・ジュリアールと凌ぎを削ったという」
「でもよぉ、そのライって奴が軍師ってことはそこのイウル軍師は負けたってことじゃねえのかい?」
負けたと強調されてイウルは頭に血が上りそうになるが、総指揮官は笑いながらいう。
「ビズ殿、確かにイウル軍師は負けた。しかし、それはあのライという人物が不正をしていたらしい。何でも模擬戦ではベテラン兵をライという者が集めイウル軍師は新兵ばかりを宛がわれたとか。一対一の戦いでは外から魔法の援護を使われやむなしで負けたそうだ」
「だが、それでも不安には変わりない」
「エイブ殿、貴殿は知らないかもしれないがこのイウル軍師はただ何も実績がなく軍師になったわけではない。先ほど言っていたが敵の第二師団のダンド将軍が重症を負ったといっただろう?」
「まさかイウル軍師が?」
「そうだ。彼は『たった一人』で敵陣の中に進入し任務を成功させた。一人の兵士としても強く、またこの国で一位、二位を争うほどの頭脳だ。これでも不安かい?」
「いいや、それを聞いたら文句をいえるはずねえよ。海の奴もそうだろ?」
「そおだなぁ。同じように一人で厳重に固められた敵陣に向かうなんて絶対にしたくねえよ」
この瞬間イウルはリューネリス軍での地位を確固たるものにした。
「さて、ではいつまでも話が進まないな。これからは方針を決めようか。そして陣地の方針はすでに決まっているから後は戦術だな」
「はっ、お任せください」
そういってからイウル伯が戦略の説明し、それぞれの代表者と将軍たちが指示を聞き質問も交えて話し合いを続ける。
その様子を話を聴きながら頷き満足そうに聞いている総指揮官。この軍の最高指揮官。
いや、さらには将来『この国の』指導者になる可能性を持ったものが座っていた。
最高指揮官の名前はエッジ・フェレス・ギリエル。
この国フェレス王国国王ジギル・フェレス・ギリエルの息子であり王位継承権第二位の位置にいる人物。
フェレス王国第二王子の正体であった。
いかがでしたでしょうか。
今日は時間が遅かったということもあり何も書いておりません。遅くなり申し訳ありませんでした。
前回お伝えしていたように、敵と味方の状況の状況を描写しました。戦いは次回から始まりますお楽しみに。
ではまた明日更新します。おやすみなさい。




