第百六十三話 気持ちの整理後、女性陣の覚悟(暴走?)
お楽しみください
「……」
ライは無言で天井を見上げていた。
「……」
先ほど周りを見回してここがどこかは確認していた。
自分たちは昨日孤児院にエンリデンヌから移動してきて、途中戦いもあったが合流できた。その後、作戦を考えるために会議室に集まったのだが、エスティアの提案である条件の下、俺は作戦関係に口を出すことができなくなり、状況もわからない。
なので、昨日は与えられた部屋で連日の疲れもあったということから休んでいたんだが、ベッドで横になっているといつの間にか意識がなくなり、先ほど目を覚ました。
自分の体に毛布がかけられていたからおそらくエスティアかストラまたは別の人が、掛けてくれたんだろうなというのはわかる。
よってここまでは問題ない。
まったくもって。
「……」
さて、ここで問題である。
自分は誰かの親切で布団に横になって安眠ができていた。おかげで疲れが取れて、気分的には快調なのだ。
なのになぜか体が動かない。
もっと詳しく言うならば頭は動く。頭は動くのだ。ただ手や足が動かないだけなのだ。
しかもそれだけではない。
異常なことに自分が被っているはずの毛布というか布団がこんもり盛り上がっている。
「……」
さてどうしたものか。
いつもの自分なら驚いてわめいていたんだろうが、ある一種の予感はあった。
その理由も昨日エスティアに言われたこと。
〔人に依存すること、精神を強くすることが目的なのよ〕
この言葉から、絆を作ろうと誰かがやってくるかもという予感があった。まさか朝のベッドに忍び込んでくるというのは予想外だったけど。
しかし
いつまでも横になっているわけにも行かない。腕と足が動かないのは左右に抱きこまれているからか。誰かの柔らかい感触が直接伝わってくる。
…………
あれ、なんか今自分でもおかしいことをいっていたような気がする。
なぜ直接と思えるのだろうか。
天井に向けていた視線を下に向け何とか口で毛布を少しだけ広げてみた。
すると
「やっほーライ。いい朝フギャ!」
誰かがいたような気がするが気のせいだろう。赤い髪と明るい声や顔が見えたけどさ。今一瞬緩んだ隙に左手を動かし毛布を再び被り何かを押さえつけたが、問題ない。問題ないだろう。だって、自分の体を押さえつけただけなのだから。
しかし、自分の体のはずなのに声が聞こえ暴れている不思議なことがあるものだ。
と、言いつつんなことがないかとまだ寝ぼけている頭を冴えさせもう一度毛布を広げると
「……」
銀髪を左右に結わえ、上目遣いで見てくる小動物がいた。目はウルウルしているし無言で何かを訴えている。
けれどライはそっと何もなかったように毛布を直す。こちらは赤い髪の何かよりはおとなしいが、猫がじゃれ合ってくる様に裾を引っ張ったり腕に体を寄せてくる。
二人の行動にため息をつき、諦めながら布団を開けた。
すると左右から二つの目がこちらを見ていた。赤い髪のほうは拗ねた様に、銀髪のほうは首をかしげるように。
「それで何をしてるんだ?」
ちょっとした諦めを含めて聞くと、赤い髪のほう、ティアがまず話してきた。
「何って、添い寝だよ?」
「……そうか。リエルは何をしてるんだ?」
「……抱き枕」
何てことだろう。あのリエルが俺を抱き枕として所望らしい。しかし、わざわざここに来ることはないだろう。
「俺は抱き枕じゃないからな?」
否定の言葉を伝えるがしかし
「(フルフル)」
「ん?」
首を横に振ってリエルから否定していた。
何が違うのだろうかと思ったのだが、次にようやくわかる。
「私が、ライの抱き枕」
あーなるほど。確かに俺の抱き枕ならここにいても間違いないな。
よし、まったく問題あるだろ。
しかもだ、二人の格好もおかしかった。なんというか……少しだけ露出が大きいのだ。ティアは上に赤いワンピースを着て下はミニのスカートをはいているのだろう。大してリエルは白を基調とした服をきているがこちらも、ティアと同じく肩から先は素肌をさらし、足もスカート部分が短いからか足や手に柔らかさというか、体温が伝わってくるのだ。
ここまで考えて、ライはどうするべきか考えていた。絆を作るということは、こんなことをする必要があるのだろうか。
……とりあえずの無難な答えを出すことにした。
「ふにゃ!?」「にゅう」
左右に寝転ぶティアとリエルの首根っこを取り持ち上げベッドの床に下ろした。
リエルはちゃんと着地できたようだが、ティアは少しだけ失敗したのかなんか奇妙な声を出していた。
「まあ、なんとなく理由はわかるけど、まだ早いからな。俺は顔を洗ってくるからじゃあ」
そそくさと部屋を出て顔を洗うべく部屋を出て行くライ。後ろからじっとした視線と「まてー!」という声が聞こえたが、振り向くことはなかったのだった。
しばらく歩き、顔を洗うため外に設置されていた井戸の近くに行くとまだ朝で早いからか誰もいなかった。ちょうどいいかなと思い桶から水を汲み顔を洗っていると
「これをどうぞ」
そういわれて、布を出される。
「あ、ありがとう」
ライも自然に出された布を受け取り顔を拭いていくが、ふと気がつくことがある。
一体誰がと振り向くとそこには
「おはようございます。ライ様」
すでに行動を開始していたのか、きっちりとメイド服を着こなしたユレイヌさんがいた。
「あ、ああ。おはようございます。ユレイヌさん」
「……まあ、いいでしょう。前の約束を覚えているのかわかりませんので」
前の約束といわれて、一体なんだろうと思っていたがひとつだけ思い当たることがあった。それは、二人きりの時にはユレイヌと呼び捨てで言うことを約束していたような気がする。
そして、今回エスティアにも言われたが、絆を作ることはこの先のことで重要なことだ。よって、ライは少しだけ考えを改め、名前を呼ぶことにした。
「ごめん、ユレイヌ。こう呼んだほうがよかったんだよね?」
ライがそう呼ぶとユレイヌは目を見開き少しだけ驚いたような表情をするが、すぐに笑顔を浮かべた。
「はい、それでよろしいですよ」
そういう返事をくれた。それと同時に
「ですが、約束を覚えているとは思われませんでした。もうずいぶん前のことだと思いますし」
「確かに、すっごく前のことなんだよね。確か王都でエミルと出かけたときに約束したんだよね?デートをするとか何とかいって」
「はい、あの時がとても懐かしくそして……色々なことが変わってしまいました。立場や、居場所も。近くにいる人も」
そういってこちらに向けてくるユレイヌの表情はどこか、少しだけ悲しそうな顔をしていた。
それに対してライも頷く。
「確かに……ね。俺もまさかこんなことになるとは思ってなかったかな。だってまさか孤児院から出て、小さな村に住んでて、ティアをきっかけに王都で優勝して、ティアとラッシュに出会って、グリム伯とエンリデンヌで戦って」
「そして、今では国盾の砦のトップですものね」
「一番上はエミルだと思うけど」
「ですが、ライ様がいなければ成り立たないでしょう。キャサリン様も一流の人物ですがライ様はそのうえだと思っていますから」
「そういわれても、困るけど」
二人は朝誰もいない場所で静かに顔を合わせる。しかし、そこで会話は途切れてしまった。別に気まずい雰囲気があるわけではない。ただ、お互いそれぞれ聞きたいことがあるが気を遣って言い出せないだけなのだ。
とここで、埒が明かないと思ったのか最初に動いたのはユレイヌだった。……しかも、意外な形で。
「!?」
突如ユレイヌが抱きついてきた。正確には頭を胸に抱え込むように。ライの頬にはやわらかい感触と、甘い匂いが漂ってくる。
突然の行動に戸惑いながらも、とある理由から素直に喜べないライ。だから、この行動自体の理由を聞かなければならなかった。
「一体、どうしたんですか?」
ユレイヌに質問するがユレイヌはしばらくして話し始めた。
「私は、エミル様のメイドです。ですからティアさまほどにずっとそばにいるということはありませんでした。けれど、お話はよく聞いていたんですよ?」
「それとこの行動が一致しないんですが」
「まあ、そうでしょうね。ですから私が言えることは、今は甘えてもいいんですよ?あまり周りの状況もあって甘えることができなかったんでしょうから」
「……」
「それとも私だと素直に甘えることはできませんか?」
どこか、どこか何かを察しているように言ってくるユレイヌ。その問いにライは答える。
「……いくつか聞きたいんだけど。だから離れてもいいか?」
「ダメです」
「どうしてだ」
「さっきはああ言いましたけど私がしたいだけなんです。ですから、これは私の勝手ですので」
少し質問をしにくいことだが、拒否するならばしょうがないのだろう。
「なら、ユレイヌ。君は一体誰の味方なの?」
ピクリッ
と少しだけ動揺を見せたユレイヌ。でもライは言葉を続けた。
「エミルのことをずっと見守ってくれた。これには感謝してる。ほかにも様々なことを手伝ってくれたり、ランのことも紹介してくれたりもね。でもさ……どうしてランのことも含めてそんな力を持ってる?」
「力ですか……それは私の家が将軍家だから」
「うん、それも最初は考えてたよ。ランのことを紹介するだけならまだそう考えられたんだよ。けど、一番気になったのが、命令している件がひとつ」
普通、紹介ならば問題ない。しかし命令というと、それは確実な指揮系統、上下関係が確立していることになる。となれば、なぜそのような力を持っているのか。
「ひとつ、と申し上げるということはまだほかにも何かが?」
「ああ、以前エミルを城から脱出させるときユレイヌだけ別部屋にいるだけだっただろ?それはなぜなんだろうなと思ってさ」
「……」
「色々な童話でも王女様を逃がすためにメイドが何かを仕掛けるということはよく聞く話。しかも一番の側近となれば、もし何かの有事があった場合秘密の抜け道みたいなのを教えられてもおかしくない。なのに、あの皇子が何もしないなんておかしい。そこが引っかかってさ」
ライの考えを告げ、聞かされたユレイヌはしばらく無言だった。
けどしばらくすると、どこか力が抜けたのか、苦笑したのか一度肩が上下する。そのライの顔に左右の手を添えて上に向かせて、ライとユレイヌの視線と互いの顔はもう少しでキスできるぐらいの至近距離に接近していた。
「私が話をすることができません。それをしてしまったら大変なことになりますので。ですけどこれだけは言えます。……私の主はエミル様だけです」
いつもの笑顔を浮かべているのではなくどこまでも真剣な表情でライを見つめるユレイヌ。それに対してライは頷いた。
「……わかった。それなら何も言わないよ。何もいえないならば。けどエミルのことこれからもよろしく頼むよ」
「私が言うのもなんですが、信じてもらえるのですか?」
「これがもし昨日、今日会ったばかりの人だったら信じないだろうね。けど、ユレイヌのことは昔から知ってる。……だからこれは信じる信じないじゃなくて、俺からの頼みしているだけなんだ」
「もし私が裏切ったとしてもいいのですか?」
「裏切るの?」
「……」
また再び無言になってしまうユレイヌ。
しかし、ライは気にしないように話す。
「ユレイヌは俺の状況を理解はしてるんだよね?」
「……はい、ライ様が疑心暗鬼に陥ってることは」
言いにくいことをきっぱりというユレイヌ。
「疑心暗鬼、になるんだろうねやっぱり。エスティアにも似たようなことを言われた。そしてこの先戦っていくにはこの疑心暗鬼を克服しないといけないんだ。だから前よりは、エンリデンヌから逃げていくよりも少しは自分からも変わらないといけないと思ってる。だからその第一歩にユレイヌを信じる……と思いつつ、頼みを言ってみたんだ」
「そうですか……」
「さっきティアとリエルも布団の中にいてびっくりしたよ。……さすがにあれは何もなくても平常心でいることはできないだろうけどね」
ティアとリエルのことを告げると、少しだけ驚き、そして面白そうに手を口に当てながら笑うユレイヌ。
「あらあら、あの二人も大胆なことをされたんですね?」
「本当にびっくりしたよ」
「だからですか?先ほどから視線を感じていた理由は」
そういって、ユレイヌが後ろを見ると、二人の、計四つの目がこちらを見ていた。
「ライ様、ひとつ質問です」
「何?」
「あの二人が添い寝をしていたのに、何も感じなかったのですか?」
「……平常心でいることは結構大変だった」
「なら私がこうやって抱きついたり、口付けができるぐらいに接近していることに関しては、何も感じていないのですか?」
ユレイヌは顔を少しだけ赤くし、微笑みながら尋ねてくる。それに対して、ライは視線を横に向けていった。
「……平常心になるために必死だ」
その一言でユレイヌは満足したのかライの拘束?をはずしすぐに後ろを向いていしまう。
「そうですか。では私は満足しましたので行かせていただきますね。……それと、どうか頑張ってください。あちらの二人ではなくあなたの後ろにもいくつかの目がありますので。ご武運を」
そういってユレイヌは去っていってしまった。
ライは自分の顔が赤くなっているかわからないが、少なくともドキドキはしていると思う。けど、すぐにそのどきどきは恥ずかしいという思いではなく、恐怖という形に変化するとは思ってもいなかっただろうが。
それと同時に隠れていた獅子たちはライに突撃を開始するのであった。
こんばんわ、少しだけコメントを。
今回は自分の新しい試みでライと女の子たちの少ししたスキンシップを題材に書いてみました。自分で書いていて少しだけ恥ずかしくなっていたのですが、こんな感じで良いのでしょうか。
とまあ、そんな感じです。さて最後に獅子として突撃したのはティアとリエル以外の誰だったんでしょうか。
次回またお会いしましょう。




