第百六十四話 怒らせると怖い氷姫と次の爆弾
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ユレイヌとの意味深な会話をしたあと、ライは現在朝食をとるために食堂や部屋の中でエスティアと話をしながらゆっくりとしている
はずだった。
「まったくもう!皆さんいきなり何をしているんですか!」
部屋の中で一人の少女による説教が行われていた。
少女の前では複数のこれまた少女たちが正座をさせられ、無言で俯いている。
ライといえば、この部屋、医務室といわれる場所で軽い手当てを受けており、腰掛けているベッドからその光景を眺めている。
この前までのライならば、すぐにこの部屋を出て行くかそれとも仲介にはいるかしていただろう。しかし、ライにとっても意外な状況で呆気にとられていたのだ。
説教を行っている少女、マリーがいつもの自信がなさそうな態度ではなく毅然と責め立てている光景に。
「本当に!皆さんの事情もわかりますし、私にも同じ思いはあります!ですが、それを暴走させてライ様に怪我をさせるなど言語道断です!」
そういわれた、正座をしている少女たち、左からティア、リエル、レーシア、フィルである。
どうしてこのような状況を生み出してしまったのか。
それは、先ほどマリーが言ったとおりライに怪我をさせてしまったことが原因である。だが、当然怪我を負わせようとした訳ではないのだ。
あの時井戸の近くでユレイヌがいなくなったとたんに、寝室から追いかけてきたのかティアとリエルが抱擁についてのことを問いただすためか正面から二人が突撃してきた。文字通り。
そのときティアが足がもつれリエルも巻き込まれ体制を崩しライに倒れこんできた。
一応このとき、ライにとって色々な戦いの経験をしてきたことで避ける事も受け止めることも簡単だったのだ。だから、ライは正面から転ばないように受け止めようとした。そして、それは何もなければ予定通りに今度はティアとライが抱擁することになっていたはずだ。
ただ、ライはこのとき忘れていた。ユレイヌが最後に言っていた後ろにいる人物たちについて。
「ライー!今のは一体どういくことなのー!」
「え、ちょっと、レーシアさん!?」
後ろからレーシアが勢いよく突撃し、フィルも腕をとられて走ってきていた。
ここまでくると、第三者から見たら悲惨な光景しか生まれないことを予期できたであろう。
前から迫る力と、後ろから迫る力。二つのベクトルが衝突する中間。この場合ライにどのような衝撃が訪れるかなど。
レーシアとフィルが壁役となり。ティアとリエルの二人による砲弾。
結果、緩衝材となるライ。
幸い、後ろから思い切り突撃したわけでないレーシアのおかげか、壁役は柔く前からのベクトルのみで捻挫をするだけとなったのだが。
ただ、これだけで終わればティア達が謝り、ライが許せば終わっていたのだ。
「……」
全員がもつれて倒れるまでの光景を一人の少女、マリーが見ていなければ。
その後、ライを医務室に連れて行き軽い治療を受けさせるまでマリーは無言であった。周りにいた少女四人も無言。ライも無言だった状況は異質であっただろう。
しかし無理もない。
考えてみてほしい。
いつもおどおどとした口調で、時々毅然とした主張をしていた少女だったとしてもだ。
満面の笑みで、作業を転々として、無言で視線を向けてきて、話しかけても笑顔だけ。とめようとしても笑顔だけ。一言も喋らず、作業をしていく。しかも、そのときも笑顔だけ。
笑顔とは誰かがみなを幸せにするといっていた。ただし、ライは今その人物の言葉を疑わなければならないだろう。現にライとしてはいち早くこの笑顔から離れたいと思ってしまっていたのだから。
そこから、治療を終えたあと笑顔を浮かべながらライに背を向け一言無言で様子を伺っていた少女たちにマリーは言ったのだ。
「皆さん正座してください」
そして現在に至る。
「まったく!そもそもフィルさん、あなたという冷静な人がいながら何をしているのですか!レーシアさんに引っ張られて被害者だとしても視野が広いあなたなら、すでに正面にティアさんとリエルさんたちの存在に気がついていたのではないですか?」
「それは、その。確かに気がついてましたけど」
「ならばせめて力で勝たなくても、言葉でレーシアさんをうまく誘導することもできたでしょう!次に、レーシアさん。確かにライ様に何かしらの理由を聞きたいのだとしてももっと視野を広く持ってから行動しないとだめです!」
「ご、ごめんなさいなの……」
レーシアはしょんぼりしたように俯いてしまう。やはり責任は感じているのだろう。
反省をみれたのか次に標的にしたのはリエルとティアだ。
「二人とも、私がいいたいことはわかりますね?」
マリーは二人に対しては色々ということはせず、代わりにとびっきりの笑顔を向けて問いかけた。
するとティアは何度も首を縦に振り頷いている。
しかし
一人だけ、首を一度だけ縦に振ったが今度は何を思ったのか首を横に傾げた行動をしていた人物がいた。
「……どうしたのです、リエルさん。一度頷いたということはわかってもらえたのでは?」
それに対してリエルは
「(コク)」
一度頷く。
「ならなぜ首を傾げるのですか?もしかして私が何か間違っていましたか?」
「(フルフル)」
今度は横に首を振る。
この行動に先ほど勢いをつけていたマリーは少しだけ困ってしまった。マリーとリエルは仲間だと思っているが普段、無口なのと出会ってから間もないことからすべての意思疎通ができるには時間が足りていない。
なので、マリーも首をかしげるがリエルの一言で今度は形勢が逆転するとは思っても見なかった。
「マリー、少し聞きたい」
「何でしょうか」
「マリーはどうして、あそこにいたの?」
リエルが聞くと、その瞬間笑顔だったマリーの頬がピクリと動いた。
「ど、どうしてですか?」
「まだ起きるには早い。しかも、あそこの井戸は、一般の兵士や家事に使う井戸ではなく、限られた人間が使う井戸。しかも、マリーがいた部屋から離れてる場所。なのに、あそこにいた。なぜ?」
銀色の髪を揺らしながらマリーに問いかける。
「そ、それは。ちょっと目が早く覚めて、散歩に」
「散歩なのに、施設の奥にあるいてきた?」
「えっと、あの」
「この付近はライの部屋以外に、使っているのはキャサリンぐらい。私たちは少しだけ離れた場所にある部屋。キャサリンに用事がある?」
「えっと、そうで……」
「でもキャサリンは今、昨日の会議で話したことで部屋を移動したよ?」
マリーはこのときしまったという顔をした。リエルは、わざと目の前に糸を垂らし、それに自分は見事に引っかかってしまった。
ただ、このときリエルとしては別にマリーを追い詰めようとしていたわけではない。もちろん、昨日の会議の影響があり言葉の罠を仕掛けたがそれは、貶めるという理由ではなく逆にマリーの行動をはっきりとさせたかったからだ。
しかし、マリーは口篭りいつもどおりの自信なさの顔が出てくると、なんともいえない空気が医務室に流れる。
この空気に、さすがに後ろから観察、傍観していたライは指で頬を掻きながら助け舟を出す。
「あー、その。マリー。俺はこのとおり軽症だったんだし、マリーの言うことはティア達も反省しているんだからもういいんじゃないか。なあ、そうだろうみんな」
ライが視線を向けると四人はコクリと頷いた。
頷くのを確認したライは、次にマリーに向かって話し始めた。
「後、マリー。俺のために怒ってくれてありがとう」
この言葉に、マリーは驚いた表情を浮かべていた。仲裁、または注意に関する言葉を投げかけると思っていたのに、まさかお礼を言われるとは思ってもみなかったのだ。
しかも、マリーとライにはまだ少しだけわだかまりがある。マリーは再三気にするなと、ライも乗り越えようとする意思はある。しかしそれでもどうしても、心の奥底では完全に乗り越えたかと問われれば無理だろう。人の死に関わり、ライには罪悪感があるのだから。
一応ここでいえばマリーの方はある程度、気持ちの整理はついている。しかし、ライにはまだ完全に気持ちの整理がついていない。マリーはそう思っていたからこそ、空気がどこかぎこちないのだろうと思っていた。
そんな相手がお礼を言ってきたのだ。驚かないわけがない。
マリーの様子に気がつくことなく、ライは言葉を続けた。
「俺だとたぶん、いつも曖昧なことしか言えないから。代わりに怒ってくれる人ってのはありがたいんだ。……俺らの状況や俺の状況も知ってると思うけど、そんな人ならば安心できるとなんとなく思う。だから、もう一度いうよ。ありがとう。……ただ、まあ。こんなことを言った後に甘いと思われるかも知れなけどさ、ティアたちのことも許してやってくれ。別に悪気があったわけじゃないんだしさ」
苦笑しながら、ライが話しかけるとマリーは固まったまま何とか首を縦に振り、了承するのであった。
それを見て、ライはティア達のほうに視線を向けて頷くと、全員が正座から立ち上がる。ただ、マリーの説教が効いたのか、いきなり突撃などという手段をとる人物はいなかったが。
ただ、この次の空気も問題であった。
説教された手前四人は気まずい空気。説教をしたマリーはマリーで、先ほどの勢いはどこへやら、挙動不審。ライはライでどうするか悩んでいる。
とここで
「……あっー!まったくもう!まどろっこしいわね!あんた達何をしているの!」
見かねたのかここでエスティアの登場だ。
「エスティアいきなりどうしたんだ」
いきなりの登場で理由を問いただすが、エスティアはジロリとライに視線を向けながら言い放つ。
「いきなりとか関係ないわよ!なんだか傍から見てて、いらいらするのよ!あんた達も状況はわかってるんでしょう!こんな空気をかもし出してどうする気!」
全員が無言になる。マリーに続いていつも冷静なエスティアがいつもと雰囲気が違うのだ。それもしょうがないだろう。
だけど無言という行動がさらにエスティアにとって気に入らなかったのだろう。
「まったくもう!ああーいいわ。決めたわよ。全員今から散策に出なさい」
「「「……え?」」」
怒っていたと思っていたら突然の提案。いや、命令か。
「弁当を作って、森林浴でもしてきなさい。といってもあまり遠くまではいけないでしょうけどね。護衛もいるみたいだし、万が一があってもあなた達なら問題ないでしょう」
誰の反論も受け付けないように。すでに決定事項であるように言い放つエスティア。
エスティアはこのまま最後の止めといわんばかりに。
「ちなみに拒否権はないからそのつもりで。ラン、あなたもだからね?」
地面に視線を向けたエスティアの先には影があり、少しだけ影が揺らいだようだ。
影が揺らいだのを了承と受け取ったエスティアは最後の駄目出しに
「なら、出発は二刻後。その間に調理場に頼んでおきなさい」
そこまでいうと、姿を消そうとしたエスティア。しかし、何を思ったのか少しだけ動きを止めると視線をライ……にではなくチラリとティア達に向けて。
「……ちなみに独り言だけど、お洒落な格好をすれば喜ばれるかもね?」
そういって、今度こそエスティアはいなくなってしまった。
残されたのはライと、ティア達……と思っていたライだったが
「……」
すでに、ティア達の姿はなかった。開いた扉の先からはどこかに走り去る複数の足音が聞こえるだけ。
ライは最後になんとなく
「……どうすればいいと思う?ラン」
そう地面にいると思われるランに問いかけるも
「……」
いないのか返事が返ってくることはなかったのであった。
さて、こんにちはお久しぶりです。遅れた理由は活動報告に書いていますので割愛します。
そして!
……最近スランプです。この先どうしようかすっごく迷います。またここでティア達との絡みをそれぞれ書いても、それはエンリデンヌみたいに長くなってしまうでしょう。かといって、すぐに戦争もなーと思ったので一応数話の絡みにしようかなと思い。
だけど、ならどうすればいいのかと色々と考えてしまっている状態です。
まあがんばります!




