第百六十二話 主人公がいない会議室
ライとエスティア、ストラがそれぞれ話している間、もう一箇所でも同時に話し合いが行われようとしていた。。
場所は作戦会議室。集まっているのはほぼ主要な人物。でも空気は重く、誰も言葉を発しようとはしない。
しかし、いつまでも静かにしているわけには行かない。ライがいなくなりしばらくした後に最初に口を開いたのはエスティアがばら撒いた、解決策である情報の種を渡した人物。ティアであった。
「……皆、少し聞いてほしいんだ。ライが完全にいなくなるのを確認してから喋るようにと言われたから、今になっちゃうんだけど」
全員の視線がティアに集まる。ティアの言葉に最初に反応したのはフィルだ。
「言われた……ですか?ということは状況を考えるにエスティアさんから何かティアさんだけに伝えられたということですか?」
ティアは頷く。
「うん」
肯定をするティアに次はキャサリンが口をはさむ。
「それで、一体何を聞かされたのかな?」
「エスティアはこういってたよ。[イプスのお墓の前で言ったことはまだ有効だから、その意味を考えて話し合いなさい]って。聞いた感じ何かエスティアにも考えがあるみたいだけど」
「む……少しいいか?その言われたことという内容は私らにも当てはまるということでいいのだな?」
エミルが発言しティアに聞く。それを再び肯定するティア。
「……ラン。どうやら全員が共通の内容を共有しているか不安だからあなたから先日報告した内容を説明しなさい。その際エスティア様から実際に聞かれた方々は修正があればそのつど訂正をしてください」
ランにユレイヌが命令し、ランは頷いてティアから聞いた話を説明し始める。
ランの説明が始まってからしばらくして、終わるまでにティア達が少しだけ訂正する以外はそのままの内容であった。
すべての説明を終わらせてから最初に発言をしたのはフィルだ。
「……情報をまとめますと、エスティアさんから言われたことはお兄ちゃんの負担を減らすこと。お兄ちゃんの感情を刺激し絶望させないこと、信頼、信用ができていないお兄ちゃんに再び信用してらうことですね」
「フィルちゃん、それだけじゃないと思うわよ。特に三番目。ここに来る途中にライ君が指揮せずヴェトリアちゃんが指揮した戦いでは最後の最後で自分から魔法を使うのではなく、助言という形で助けたってことでしょ?なら信用信頼だけでエスティアちゃんがあんなことを言う理由にはならない。どうせエスティアちゃんが助言してライ君が動いたんだろうし」
「キャサリン先生……ならエスティアさんが言いたいこととは?」
「そうね……」
キャサリンは悩むように呟いていた。しかし、実は少しだけ考え付く答えがあるにはあった。でもこれが本当に正しいのかわからない。まず根拠がないし、この推測をいって結果ライとの関係が複雑になってしまうのもよろしくない。
しかし
(といってもここで何も言わなければ言わないでほかにヒントがあるわけじゃないし、停滞するわよねー。時間も無限ではなく有限なんだから。さて、どうしたものでしょうねー)
言うべきか、言わざるべきか迷うキャサリン。でも最終的には不安を抱えつつも話すことを選ぶ。
「これはあえて推測になるんだけど、エスティアちゃんはおそらくライ君との間に何かを作ろうとしているんだと思うわ。理由にエスティアちゃんはこう言っていたのでしょう?片時もライ君と離れずに監視しておくようにと。それってよく考えればおかしなことよね?監視をするならばエスティアちゃんという監視に適した精霊がいるのに。ストラちゃんだっけ?その子でもいいでしょう?」
そう、別にエスティアだけでことは足りる。ストラからでも。
だけどエスティアとして一番都合がいいのはライと自分たちの信頼関係を復元すること。ならそもそもなぜ復元をしなければならないのか。しかも復元だけならば今回ヴェトリアに助言しただけでもある程度信頼関係の構築は成立している。にもかかわらず再び混乱させるようなことを言ってきたエスティア。
ここに意味があるとするならばまだ信頼関係が足りないのか。それとも、また別の効果を期待しているるか。あるいは両方か。
とここで、キャサリンはあることを思い出す。それはストラのことである。
「……そういえばサチちゃんに聞きたいことがあるのだけど」
「ん、一体何を聞きたいのでしょうか?」
「サチちゃんの持っている宝玉にストラちゃんがいるわけでしょ?そして宝玉は光の属性があると。なら逆に闇の宝玉がある可能性はある?」
キャサリンの問いにサチは頷く。
「確かにあります。以前ストラにも対となる属性はあると聞かされていましたので。ですがどうしてそんなことを?」
「いえ、なんでもないわ。ただ気になっただけだから」
口上はそういいつつ、キャサリンの考えは疑問から推測の域まで上がる。正確には確信にも近い気持ちを持ちつつあった。
ストラは以前見たことがある。何かしらのイベントだっただろうか。実況のようなまねをしていたところに乱入して喋っていたが、その格好はその場にそぐわない仮面を被った人物だった。でもその仮面は笑っているような仮面であり、ストラの性格も人を笑わせようとする正確のように思える。
もしその性格というものが属性と関係しているならば……対となる闇とは人の気持ちを暗くする要因があるのではないだろうか?そして、負の要因とは人の気持ちを混乱させ人を誘導しやすくなる。もし、人をそれで操ることができるなんてなれば……いや、そういえば一回だけ似たようなことがあった。ライに毒を飲ませた兵士。あの人物像が性格に合っていない。
でも逆に操られていたというならば納得は行く。
そして今回のこと、人の負の要因とは逆に正の要因とも対である。となれば監視員の件はライに信頼を戻すだけではなく依存させるため?それとも絆と強く作るため?
ひとつの道筋を作り考えを作り上げていったキャサリン。あくまでまだキャサリンにとって推測ではある。でも、さすがライの師匠というべき人物か推測だけで正解に近づいていた。
だが、正解に近づいたからこそひとつキャサリンは悩まなければならなくなってしまう。
(……もし絆を作るためなら発破をかけることはできる。けれど、喋ったことによって関係が拗れても困るわね)
この推論を言うべきか悩んでいるが、やはり先ほどの時間が有限ということも考えきっかけだけを与えることにした。
「ぶっちゃけ聞いちゃうけど、ここにいる女の子でライ君を好きな人ってどれだけいるの?」
大量の爆発物を投下するという形で。
先ほどまでどこか重い空気で真剣な議論で、自分の考えが正しいのかを考えていたメンバー。けれど、キャサリンは止まらない。
「あ、もちろん兄弟とか、友達とかそういう意味じゃないわよ?男女として一人の男としてどうなのかって質問だから。友達で好きだーと本当に思ってるなら正直に言ってもらってもいいんだけどね。……別に男子でもいいからね?」
最後に付け加えた言葉にラッシュが「何言ってんだよ!」と講義していたが、キャサリンは目線をラッシュにではなく質問を投げかけられた女性陣に向けられていた。
質問を投げかけられた人物は様々なリアクションをとっている。でも誰も嫌そうにしていない。どちらかというと、いきなりの質問に戸惑いつつ何を想像したのかライと何をしている場面を想像したのか、顔を少し赤らめている。
でもここでいつもならもっと真剣にという言葉が投げかけられてくるだろう。
「キャ、キャサリン先生!いきなり何をいってるんですか!」
「そうだぞ、キャサリン。なぜそこでライをその、す、好きかなどという問いかけが出てくるのだ」
フィルとエミルが抗議してくる。けれどこれは想定済みだ。
「あら、なら二人はライ君に対して何にも感情を持っていないということでいいのね?ライ君とは別に好きではなくて、ただの友達。これから死ぬまで友達として付き合っていく。ほかの感情なんて何もないと皆の前で宣言できるのね?」
この言葉に黙る二人。
キャサリンはこの二人が少なくとも好意以上のものを持っていることは知っている。じゃなければ王女という立場で平民であったライを近くに置かないし、お兄ちゃんとも呼ばないだろう。いなくなっただけであれだけ慌てるはずもない。
でも意外なところから反撃がきた。
「な、ならキャサリンさんはライのことどう思ってるなの?」
レーシアからだ。ほかにも
「そういえばそうですね。他人に質問するということは自分の意見を持っているからこそ質問していると判断もできますわ。ということでお答えしていただくことはできるのでしょうか?」
ユレイヌからも問いかけられる。
(おっとっと。まさか私から言えと言われるとは。……というか質問されて始めて気がついたけど結構勇気いるわね。こりゃ他人のことをいえないかも)
自分の顔が今どうなっているのかわからない。けど必要なことではある。なのでいわなければならない。エスティアのおそらくの狙い。自分の気持ちを固めるためにも。
「私は……そうねぇ。ならこうしましょう。私から言っていくわ。だから皆順番に言っていきましょうか。あ、もちろんラッシュ君。あなたにも言ってもらうわよ?」
「はぁ!?」
「あ、けどあなたの場合は男女とかのことは聞かないから。ライ君のことをどう思っているかだけを問うからそのつもりで。……もちろん本当にそういう気持ちがあるな「絶対にそれだけはないからな!」」
絶対といいつつ否定しているラッシュの声が場に流れる微妙な空気を緩和してくれて先ほどよりは、ましな空気になった。
これならば、言いやすくなっただろう。……一番最初に言わされる自分の心臓がうるさいが。
「じゃあ、言いだしっぺである私から言っていくわね。それで私はライ君のことを―――」
それから会議室では一人ひとりが自分の思いを答えていく。全員の顔が様々な顔に変化しつつも。それぞれの気持ちと他人の気持ちを聞き、自分の感情を整理するために。
場所は変わり、ライが案内された休憩室。
ここにはストラとエスティア、話題にされているライの姿があった。
ライは今ベッドの中で眠っている。先ほどまでは元気にしていたが、やはり疲れがたまっていたのだろう。
そのそばにストラもふわふわと浮きながらライの寝顔を見ていた。……先ほど悪戯をしようとしてエスティアに折檻されそうになっていたが。
そしてエスティアは
(……そう)
ティアが飛ばしてきた言葉を聴いて頷いていた。
どうやらあちらは全員の気持ちを整理することができたようだと。
そして同時に思う。
これならまだ『最悪の事態』は乗り切れるのではないだろうかと。




