第百六十話 状況整理とエスティアの突然の提案
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フィル達の軍と合流したライ達は負傷者の手当てや移動の準備をすべて終わらせるとフィルの軍に護衛される形で移動を開始した。
といっても、孤児院の位置はさほど開いてはいなく目的地に到着するのにあまり時間はかからなかった。孤児院までの道のりは森の奥深くのため、突如襲われることもなくすんなりと進軍できたのだ。
先頭はフィルが率いる約五百の兵士、その後ろをライ達が率いる約千五百の兵士たち。その後ろをレーシア、ラッシュ率いる四千の部隊が護衛している。
何事もなく進軍したライ達は無事に孤児院の姿を発見した。
発見したライの目に映ったのは以前来た時とはまったく違っていた。
まず、最初に目に入るのは当然というべきか孤児院の入り口建物なのだがこれは変わっていない。変わっているのはその後ろ。元は運動場のような訓練場だった場所。
そこが、なんと何倍もの広さになっているのだ。
もともと孤児院はあまり人に知られないように作られたもの。だから、大きくすればその分発見される危険性が増える。
今回も変わらないのだろうが、おそらくエンリデンヌから率いてきた兵力を駐留させることができないために、木を切り開いて広々とさせたのだろう。
……そこくらいは、ライにも理解できた。数万の兵力を駐留させるのに孤児院では狭すぎるのだから。
問題はなぜか孤児院を囲むように、木を使った城壁ができていること。敵がいつ攻めてくるか分からないからに違いない。わからないでもないが、わざわざ労力を使ってここに城壁を作らなくても近くにある城を奪う、または協力を取り付ければいいというのに。
不思議に思いつつ、視線を向けるライにフィルは話しかけてくる。
「このようになったのは、周辺の協力を取り付けるというほかにいくつかの理由があるんですよ。まあ、兵力を駐留させるために切り開いた木を有効活用しようというのもあったんですけど、それよりももっと意味あることなんです」
「意味とは?」
「まあ、それは中に入ってから説明しましょう。お兄ちゃんたちの兵士さんたちをまずは休ませないといけないでしょうから。レーシアさんとラッシュさんは兵士さんたちに指示を。お兄ちゃんの兵士さんたちもこの後軍に組み込まないといけないですから。それが終わったらとりあえず作戦室に来てください。そこでこれからのことを話しましょう」
ライの問いにはごまかしフィルはレーシアとラッシュに指示を終わらせると、ライ達主要人物に振り返る。
「それでは皆さんついてきてください。作戦会議室に案内します。そこでエミル王女などがお待ちです」
そういって歩き始めたフィル。その後ろをライ含めティア、リエル、ヴェトリア、サチは付いていく。
孤児院の入り口をくぐるとそこには、まったく外の景観とぜんぜん違うつくりに変わっていた。以前は入り口に近くには守衛室などの部屋があったり、広間があったりと人の生活を思わせる空間があった。だが、今では通路が侵入した場合の対策なのか狭くなり、守衛室と思われたところは戦いのために鉄板が張られ、弓兵用の覗き穴も作られていた。
通路に関しても鉄板や石造りなど頑丈となっており、大規模な改修をされていたようだ。中庭と思われるとこには、現在新しい?兵器のようなものが置かれている。
兵士たちもライ達が到着したから、それとも別の用事があるのか通路の行き来が多くたくさんの兵士の鎧を鳴らしながらすれ違っていった。
そんな中をライ達は歩いていたが、ついにとある部屋の前まで歩いてきた。フィルが扉の前にいる数人お兵士たちに話しかけると敬礼をしてから、扉を開く。
そして扉を開いた先には
「おお!ライ!」
フェレス王国の王女であるエミルが第一声を上げて駆け寄ってきて……懐に飛び込んだ。ライはそのまま受け入れる。
「ライ!この馬鹿者が!何でもっと早く来ないのだ!」
この馬鹿者と何度もいいつつエミルは目の端に涙を浮かべながらライの胸を叩いていた。
そのことにライは困った顔をするが、近くに数人が近寄ってくる気配がある。
そこを見ればユレイヌ、キャサリン、ランがいた。
「……ライ様よくご無事でお帰りになりました」
「ライ君久しぶりね。なんか色々と大変なことがあったみたいだけど、とりあえずは再開を喜ばないといけないよね」
「ライ様、ご無事で何よりです」
一人ひとり表情や言葉もそれぞれだが、ひとつだけあるとすればライ達が帰ってきたことを考え慰しているようだ。
ライはそれに対して何かを言おうとしたところでユレイヌが先に言葉を発する。
「今は何も仰らないでも構いませんライ様。概ねのことはランから聞いております。あとフィル様からの伝令から。ですが、今はキャサリン様が言いましたように再開を喜びませんか」
先制をされて発言の機会を逃す。
ライは後ろを見れば、レーシアとラッシュがティアやリエル、マリー、サチ、ヴェトリアと再会を喜び笑顔を浮かべていた。
それを見てライは再び視線をユレイヌに向けて頷く。
「わかった」
返事を返したことによってユレイヌは微笑を浮かべる。
そこでようやく落ち着いたのかライの胸の中にいたエミルが体を離してからわざとらしく咳をしつつ、話し始めた。
「コ、コホン。そ、それでは皆もそろったようなのでこれからの話をしようか」
顔を少しだけ赤くしつつも言ったエミルに誰も異議をあげるものはおらず、全員が用意された椅子に座っていった。
ライの場所は本来軍師という立場からエミルに近い場所が座る場所なのだが、今回ライは一番遠い場所に座った。
このことに全員が気づいたが誰も指摘はしない。ちなみにライの両隣に座ったのはマリーとヴェトリアである。
「さて、それでは話し合いをしよう。……と思うが、これからの話をする前に到着組みとしてはどうしてエンリデンヌが落ちたのかも気になるだろう。そして私らも報告で聞いただけだ。なのでまずは情報を共有しようと思う。まずはそちらから話を始めてもらってもよいか?」
エミルは視線をライに向けて喋り、ライはしばらくして頷いた。
それから、ライは語った。エンリデンヌを出発して敵部隊を撃退し後エンリデンヌに帰還したこと。しかし、そこではすでに襲撃されマリーとイプスが窮地に陥っていたこと。マリーを救い出した後エンリデンヌから離れ、進軍していたところランと出会い孤児院に出発したこと。それから敵を退けつつ最終的にフィル達と合流したところまでを説明した。
ライが語ったことは、実はところどころを省いたものだった。エスティアと交わした約束やエンリデンヌで魔法を使ったことなど。ライがどう思い、どう考えたかの個人的思考を説明しなかった。
しかし、エミル達は静かに聴いて誰も何も言わない。
それからしばらくして、話を聞いたエミルは真剣に聞いていたのか目を閉じていたが、話すためかゆっくりと開いて話し始める。
「……そうか、わかった。では次はこちらのことを説明しなければな。だが、まずはどこから話していいものか。なのでライ、おぬしが聞きたいことを説明していこう。最初は何が聞きたい?」
こちらは説明をしたのに、なぜあっちは質問式なのか。このことに少しだけ疑問に思いつつもライは答え始める。
「なら、まずはひとつ。エンリデンヌがなぜ落ちたのかが気になってる。確かにエンリデンヌ内にいた人物複数にどこか怪しい人物がいた。だから俺はフィルにいくつかの注意と、策を教えたんだが……」
最後に小さく(まあ俺の考えのせいで窮地に貶めたのかもな)と呟くが、精霊以外には誰にも聞こえなかったようだ。
質問に対して、エミルはフィルに視線を向け、フィルは頷き話し始める。
「あの時私は確かにお兄ちゃんに指示を受けました。内容は内部に潜む怪しい人物の監視と摘発、処理。そして……周辺貴族たちの兵力を抱きこみ追撃に当たらせること。最後に篭城戦に備え攻撃をしないことなど」
フィルは一息つきつつ再び話し始める。
「お兄ちゃんたちが出撃した後、指示通りにランさんと連携をとって不穏分子を処理していきました。順調に。周辺の貴族たちもなぞの部隊に怯え協力を申し出るという報告をもらいましたから」
でも、という。
「でも……いくつか予想外のことが起こったのです」
「予想外のこと?」
「それは、周辺の貴族が裏切り合流した兵力を招きいれた瞬間……敵部隊と連携してエンリデンヌを攻撃したのです」
「なに?」
ライは思わず眉を曲げる。どうして周辺の貴族が裏切ったのかわからないが、もっとわからないのが敵のなぞ部隊と貴族がなぜ連携したのかが解せない。
「お兄ちゃんが思っていることはなんとなくわかります。ですが、そのときは突如の攻撃に対し、残存兵力でことに当たるしかありませんでした。ただ、このときはまだ皆さんの力で防ぐことができたんです。このまま追い出すことできればと。しかし、もっと意外なことがおきました」
一度フィルは言葉を切り、決定的な敗因を話した。
「それは、内部に兵力が紛れ込んでいたんです。敵兵力が」
「まさか」
「はい、敵兵力は王都に派遣していた国盾の砦の兵士だったんです。少数だったようですが重要な部署に所属していたようで、対応をしようとしたんですが手が回らなくなって」
そこでフィルは視線をマリーに一度だけ向けて続きを話す。
「私たちは全滅も覚悟しなければなりませんでした。そんなときでした、ある部隊が撤退までの時間を稼ぐということで時間稼ぎを申し出た部隊があったんです」
「……義勇軍か」
「はい、主にイプスさんが隊長として。マリーさんも非難させようとしたようですがマリーさんも一緒に。それからは……無事私たちの軍は脱出できましたが」
その後はフィルは言葉を出さなかった。
ライ達はすでにその理由がわかっているから。ここにマリーがいてイプスがいないということは、理由がわからないはずがない。
ある程度の説明を終わったフィルは椅子に座る。
全員が無言でいる中、最初に言葉を発したのは意外な人物であった。
「さて、大体の状況整理が終わったところで、私からも話があるわ」
その人物とはエスティアだ。
全員の視線がエスティアに向かう。それから最初の言葉に全員が驚くことになる。
「話というのは簡単なこと。ライにこの軍に駐留することを禁止するわ。守護精霊という立場からね。だから、戦闘、戦略、戦術、計略何についても関わらせないつもりだから」
そう言いきったエスティアの言葉に全員が言葉を失った。それもそうだろう、今までライの行動指針についてあまり言ってこなかったエスティア。なのに全員の前ではっきりと行動制限することを言ったのはあまりない。しかも、ライの意思と関係なく言い切ったことはないだろう。
誰かが最初に理由を問おうとしたところで、まず最初に聞いたのは意思を無視されたライ自身であった。
「エスティアどういうつもりだ?」
ライの問いかけにエスティアは黒い髪を書き上げながら視線を背ける。
「あなたのことを考えていっているの。今まで私が見てきてそう判断したの」
「……」
ライは思う。戦いの最中やマリーのことについて、ティア達のことを仲間だと思うなら助けろといったのはエスティアなのだ。なのに、いきなり仲間を見捨てろとも取れる言葉に何かあるのかと思い静かにすることに決めた。
全員が無言の中エスティアは集まった人を見渡しながら再び口を開く。
「……ただ、私もいきなりこれはひどいと思うわ。ティア達にも色々言ったし、フィル達の思いもなんとなくわかる。だから条件つきで戦いに関わらせない。関わらせるときはライの意思によっての場合のみと条件をするわ。あと、そうね。ライの信頼を取り戻したらにしましょうか。心から……のね」
エスティアはそこで言葉を切って視線を横に向ける。正確にはもう一人の精霊に。
「ねえ、ストラ。私はそう考えているんだけどどうかしら?」
いきなり話を振られたストラは驚きつつも頷く。
「わ、私もそれでいいと思うですよー。確かに私はサチっちの守護精霊ですけど、大もとの主人はライになりますです。なので、主のためなら依存はないですよー」
「そう。なら二人の精霊の了承が得られたからもうひとつ制約をつけましょうか」
そういって、エスティアが空に指を掲げ回す仕草をした後、主に宝玉もちの面々に話す。
「今宝玉を持っている子の力を制限させてもらったわ。もともとはライに集中している力だから。でも、さすがに私も鬼ではないから全てではないけど。もちろん大事があれば戻すかもしれないけど、それまでは護身程度の出力になると思うからそのつもりで」
誰の質問も受けずにいきなり話を進めるエスティア。
誰もそれに異論を挟めない。
それをいいことに、まだこれからの話をしていないというのにエスティアはライの手をとり扉に歩き出す。
手をとられたライは驚きながら扉に誘導されていった。
「なら私たちはこれで席をはずすわね。どうなったかは後で教えて頂戴じゃあ」
そういって、ライ、エスティア、ストラは部屋の外に出て行くのであった。
そんな中、エスティアは意識を集中してティアに一言伝えると、そのまま近くにいた兵士に休めるところがないかを聞いた
兵士はライの姿を確認すると急いで案内をするのであった。国盾の砦でライのことを知らない兵士はいないだろう。
そんな感じで、ライがいなくなった後残された面々はどうすればいいのか少しの間沈黙したままだったという。
こんばんわ、少し時間があいてしまいました。申し訳ありません。
今回は、ほとんど状況整理のお話となりました。久しぶりのキャラクターも出てきたので好きなキャラクターがいた方にはお待たせしましたというべきでしょうか。
さてさて、今回のお話の中で一番の注目はエスティアの提案ですよね。
仲間だから助けろといったり、信用できなければ力を貸さないといいつつ条件を出したりと。何を考えているのか。
この状況、少し前のとある状況に似ているんですが。今回はどうなることやらです。ライは心を?取り戻すことはできるんでしょうか。
次回をお待ちください。ではまたお会いしましょう!




