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第百五十九話 援軍の合流、フィルの推論

お楽しみください

 フィルたちによる援軍到着により勝利を収めた国盾の砦。


 さすがに敵軍も挟撃には耐えられず、さらに援軍による数の暴力によってまず敵軍左翼が崩壊。中央軍も強襲され結果、敵軍は崩壊した。


 今は、フィルの軍と合流して比較的無事なフィル達の軍からレーシアとラッシュが兵を率いて追撃戦を展開していた。もちろんフィルたちは人を殺したくて戦っているわけではない。なので普段なら追撃の必要はないのだが、今回の敵は補給線や出現箇所がばらばらで不明のことが多く、調査と敵軍の指揮系統を崩壊させる二つの目的があった。


 レーシアとラッシュが動いている間、フィルはライ達の分隊と合流。今では戦いで傷を負った兵士たちの手当を行っている。食事の配給もやるべきかもしれないが、いつ敵は攻めてくるかわからないためそれはできない。


 だが、兵士たちはそんなことで不満を言うことはなかった。今は生き残ったことと味方の兵士たちと合流できたことで安堵に包まれている。


 そして


 合流したことにより安堵を抱いた人物の中にはフィルも入っていた。


 「お兄ちゃん!」


 合流後ライの姿を確認したフィルは大声でライのことを呼び駆け寄って飛びついた。飛びつかれたライは視線を向けて……困ったような表情を浮かべる。抱きついたフィルは目の端に涙を浮かべ嬉涙を浮かべていた。


 「お兄ちゃん!よくご無事で……っ!」


 しかし、その表情に気がつかないフィル。それもそうだろう。あれだけ慕っていたライが無事で会えたのだから。しかも窮地に近い状況に間に合ったのだから。


 だが


 「ああ」


 ただライの言葉は一言だった。


 言葉を聴いたライは一瞬だけピクリと肩を震わせるが目に浮かぶ涙を拭き話す。


 「……お兄ちゃんの状況はランさんから聞いています。そして何を考えているかも。今回の指揮もお兄ちゃんがやられていない理由も察しがつきます。でも、今だけは……無事を喜んじゃだめですか?」


 その言葉にライは面食らったような表情を浮かべ、考えに考えた末に


 「だめじゃ……ない」


 「やった!」


 そういって先ほどよりも強く熱い抱擁をするフィル。


 でもその行為をとめる声が複数個所から上がる。


 「んんっ!」「コホン!コホン!「じっー」「ふふっ~」「ライ様……」


 ティア、サチ、リエル、ヴェトリア、マリーだ。


 さらに


 「まったく、人の目を憚(はばか)らずちょっとくっつきすぎなんじゃないかしら?」


 「そうだそうだですよー!というかエスティア、もしかしてその言葉って嫉妬してるです?」


 「なっ!何を馬鹿なことを言っているの!」


 と二人?の精霊の声が聞こえてきた。


 さすがにそのことに気がつき顔を真っ赤にしてライから離れるフィル。


 「コ、コホン」


 いまさら体裁を取り繕うように咳をわざとするが、フィルの威厳は真っ赤な顔をしている時点でないにも等しかった。


 しかし、そのまま続けるしかないフィル。


 「えっと、皆さん良くぞご無事でした。これからつれてきた兵士たちが護衛して孤児院に案内します。必要なものはいってください。後からレーシアさんとラッシュさんも追討作戦が終わば合流します。孤児院ではエミル王女やキャサリン先生もお待ちです」


 すらすらと現在の状況と目的地を告げ、さらにこれからのことを説明していくフィル。


 「それと、サチさんと光帝隊には余力があれば敵に発見させないために魔法を使ってください。範囲は両翼の外周に。余力がなければ結構ですが」


 「そのぐらいは少しならできるはず。時間にもよるが」


 「少しでも結構です。すでに孤児院に三千もの兵力が向かっていたという時点で大体の位置は敵につかまれていたということでしょうから。ただの時間稼ぎなんです。ですから見つかっても最悪大丈夫です。

……あと、マリーさん」


 「ひゃ、ひゃい!」


 フィルから名前を呼ばれるとは思っていなかったのだろう。驚いて声が裏返ってしまったマリー。でも、フィルはそんなことを気にすることもなくいきなり頭を下げた。


 「……ランさんから事情は聞きました。あのとき撤退を促したのは私です。ですからすべては私の責任です。本当に、本当にごめんなさい……っっ!」


 フィルはマリーに向かって頭を下げた。フィルが言っていることはイプスのことである。


 そんなフィルにマリーはフィルの肩に手を置き首を横に振る。


 「……いいえ、あれはフィルさんのせいではないです。あれは私と兄様が決めたことです。……正直まだ心の整理はついてはいないんだと思います。けど、私は前を向くことを決めたんです。それをすれば兄様も喜んでくれると思うから]


しっかりとした口調で喋るマリーの顔をフィルは見る。そこにはしっかりとした意思を持った人の表情であった。これ以上は自分が何かを言ってしまったら、気持ちを踏みにじるだろうと考えフィルはうなずく。


 「これ以上は私がいうことはないと考えます。ですが、最後に本当にありがとうございます」


 「いいえ、大丈夫です」


 マリーはそう返事した。周りも静かに見守っていたが、すぐに表情を切り替えてフィルは次の指示を出し始める。


 「ではそろそろ、準備を始めましょう。いつでも移動できるように。ただ……お兄ちゃんは私と一緒に来てくれませんか?お話があるので」


 「話?」


 「はい、できれば二人きりで。……もちろん先ほどみたいに抱きついたりしないのでご安心を」


 前のは本当に必要な要求。後半は周りから突き刺さる視線への説明を含んでいた。


 ライはそんなことにも気がつかずに頷く。


 「わかった」


 フィルは了承を取ったことを確認して自分の引き連れてきた軍のほうに歩き出す。その後をライと政令である二人がついていき始めた。最初チラリと二人を見たようだったが何もいわない。この二人に関しては精霊ということもあって容認しているのだろう。


 皆と離れて兵士たちが陣地の中を動き回る中、フィル達は歩いていたがフィルからライに対して質問を始めた。


 「歩きながらで申し訳ないですがお兄ちゃん人気がいなくなる場所に行く前まで聞いてもいいですか?」


 「ああ」


 「現在のお兄ちゃんはどこまで自分のことを、私たちのことを信じていられるのですか?」


 「……どういうことだ?」


 「……先ほども言ったとおり、ある程度のことはランさんに聞きました。エンリデンヌの町の状況や人が変わったようなお兄ちゃんの状況などを。私たちが無事だと聞いてもあまり感情が動かなかったらしいですよね?」


 「……」


 「別に責めているんではないんです。ただ話を聞いた限りでは私は推測して誰も信用できない状態に、疑心暗鬼に陥って誰も信用できなくなったんじゃないかと考えたんです。こうして会ってみて実際に指揮をしていないのを見て合っているみたいですね。……ただ半分はってところでしょうか?」


 フィルは感情を読もうとしたのか一度止まってライのほうを見る。周りは輜重隊が運んできた物資が多くあり周りには現在あまり人がいない。


 フィルの問いに対してライは少しだけ険しい顔をしつつ答える。


 「だからどうした?二人で話すほどのことか?」


 「ええ、そうです。これから話すことは私の推測であり人にはおいそれと話せませんから。後理由を挙げれば、ショックをリエルさん達に与えないためです」


 言葉を聴いてライは無言になる。無言になったライを見フィルは持論を披露し始めた。国の根底を覆す話を。


 「まず私がこの推測に至ったのはお兄ちゃんが毒を飲まされたとき、毒を入れたと思われた人物の話を聞いてからです。お兄ちゃんもおそらく聞いていると思いますがあの兵士は普段勤勉でとてもそんなことをする人間ではなかったと複数の兵士たちから言われていたらしいです。というのに、犯行に及んだ」


 「上手く隠れられていたんだろう」

 

 「……(本当に深い疑心暗鬼に陥っているみたいですね……。いつもなら気づくはずなのに、それよりも人を疑い信じないからこそ根拠もなく用意に結論を出そうとする)」


 ライの問いにフィルは内心ライの状態を考えていたがそこで、エスティアから助け舟が出される。


 「ライ、もう少し聞いてあげなさないな。フィルは最初から推論といっているのだから聞くだけならいいでしょう?彼女もあなたの仲間なのだから。違う?」

 

 エスティアの言葉にライは反論をしなかった。エスティアはそれを確認して視線でフィルに続きを促すよう伝える。


 フィルはそれに答えて、推論の続きを言い始めた。


 「お兄ちゃんの言い分も考えられるんですが、一人、二人ならいざ知らず十数人から同じ証言を聞いているんです。ですから、何かおかしいと考えていました。なら何がおかしいのか。それはなぜあのタイミングで、そしてなぜあの時だけしか行われなかったのか」


 「それは再び警戒したからじゃないのか?」


 「そうですね。確かに警戒したら容易に行動を起こせないでしょう。けれど、ではどうして真面目と言われている彼はあの時に行動に及んだのか。今まではジュアン帝国の刺客かと思ってました。けど最近のお兄ちゃんの行動、心情を考えて本当の目的はお兄ちゃんを追い込むことではないかと」


 ライにとって、突拍子な言葉に首を横に振る。


 「いや、それはおかしい。もしそうならなぜ俺は今ここにいる?もし俺が敵だったらもっと策略を仕掛けるぞ」


 「ですね。本来なら私もそう考えます。でも私の考えている条件が当てはまると納得がいくんです」


 「条件?」


 「はい、それは。真面目だった人物を操るほどの魔法があったとし、その魔法は条件がいるものだと」



 ライは確かにフィルの言うとおりに魔法が有ったなら推論の可能性として成り立つと考えるが、そもそも前提条件が確立していない。


 「何を言ってるんだフィル。そんな都合がいい魔法なんて」


 しかし


 「……いいえ、ライ。あるわ」


 待ったをかけたのはエスティアであった。


 「エスティア?どういうことだ?」


 「人の心や考えを変える魔法はあるといったの。一応あまり知られていないんだけど。しかも……なるほどね、あの子ならこっちの状況や心情もわかる。効率的なことも考えるかもしれない。でも……」


 (こんなことをする子じゃなかったはずだけど)


 途中から考え事をしていたが、ライの説明を求める視線に気が付いて顔を上げる。


 「ああ、ごめんなさい。ただ教える前にフィルに聞きたいことがあるのだけど」


 「なんですか?」


 「わかればいいのだけど、もしかしてその真面目な兵士はフェレス王国の王都から来た兵士じゃない?」

 

 「え、よくわかりましたね。色々と身辺調査をした結果、彼は城下町生まれらしく元は第三歩兵大隊に所属、その後国盾の砦に引き抜きしたそうです。あの前までは城下町生まれということで王都のスパイとして潜入任務に従事していました」


 「そう、ライ。一応説明をするけど、人を惑わせる魔法は闇魔法にあるわ。ほとんどは禁忌の魔法されているけど」


 そこでようやくライはエスティアの言いたいことに気付く。


 「なんとなくわかったよ。エスティアは兵士が闇魔法を使われて暗示か催眠術を掛けられ、俺に毒を施した。俺の疑心暗鬼の種を埋めるために」


 「そうね。ほかにもよく考えれば多くの布石があるわ。例えばマリーとイプスのこと。もし本当に確実に処刑しようとしたならばもっと多くの兵士と、町の中心で行われるはず。少なくとも強力な魔法士のマリーと幹部であるイプスが数人の兵士たちで処刑するなんておかしいわ」


 エスティアの言葉に、フィルも補足をしていく。


 「私の推論もそう考えます。しかもまだあります。それはここでなぜ三千もの敵がいるのかということです。先ほど聞いた限りでは追っ手はエンリデンヌから来ていたが今まで孤児院方面にはいなかった。なのに、疲弊したところに都合よく敵兵は現れた。疲弊した軍、圧倒的な兵力。これを目の前にしたらエンリデンヌの町のことを聞く限りお兄ちゃんは一人で無理して行動してましたね?」


 「……」


 「でも敵にはいくつかの誤算があったんです。私たちには有利なことが。一つは今回のことに言えばヴェトリアさんがお兄ちゃんを止めてくれたこと。これによって魔法の使用を抑えられた。次に、マリーさんとお兄ちゃんが決別しなかったこと。最後に、これが一番大きいのですが……さっき言ってくれたように私たちをまだ仲間と思ってくれていたことです」


 「俺が仲間じゃないと考えるとでも?」


 「強力な力を持った人物は力に溺れ、心が壊れ、破滅に向かう。過去に多くの例があるんです。お兄ちゃんは条件を十分に満たす下地はあった。けれど、最悪な状況にはなっていない。……ですからお兄ちゃんまだ私たちを信用しろと、自信をすぐに取り戻せとは言いません。けど仲間と思っているならあまり時間をあげれませんが、考えてください。私たちを見てください。感じてください」


 最後にフィルはふと笑みを浮かべて告げた。


 「私にとってはお兄ちゃんはずっと憧れで、尊敬する人で、仲間で好きな……大好きな人なんですから」


 そういって、フィルは告げるのだった。


 ここまで言われてもライは何も即答できないが、フィルも想定はしていたらしい。


 「……今は言葉はもらわなくてもいいです。けど、いつかは何か言ってください。……なら、今後のことは孤児院についてからにしましょう。先ほどすでに状況を孤児院に向けて伝えるため兵士を向かわせてます。そこで私たちの状況、《エスティアさんとお兄ちゃんの情報》を交えて話し合いましょう」


 そういってフィルは来た道を戻り始めた。


 フィルの後ろ姿見ながらエスティアは言葉を綴る。


 「あら、あの子もやっぱり孤児院育ちということかしら。しっかりと見る目があるみたいね」


 「エスティア」


 「なにかしら?」


 「俺もお前の情報を聞きたいんだが」


 「ええ、別に隠しているわけではないから話すわ。でもまずはここから動くために準備をしましょ?」


 「わかった」


 そういって ライも歩き出す。


 そんなライを見て、エスティアは思う。


 (これは喜ぶべき、なのよね。まだティアなどを完全に信用しているのかわからないけど、なぜか私のことに関しては信じているようだから。けど)


 それは自分が人ではなく精霊、違うものだから。


 そう考えてしまう自分もいていやになる。純粋には喜ぶ気になれなかった。


 だけど今はライを支えようと考えていた。


 ちなみに


 ずっと話をしている間一緒についてきたストラが何をしていたかというと


 「な、何か扱いが空気なのですよー……」


 会話についていけずに呆然しつつ、ライたちの後をトボトボと歩いていくのであった。

こんばんわ。

さてさて、なんだか少しずつ状況が見えはじめて?きました。

しかもエスティアがなんだか原因をわかっているような。いないような言動を繰り返しています。いったい何を知っているんでしょうか。

次回を待ちください!ではまたです!

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