第百五十二話 小さな糸
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ライはイプスの墓を訪れたが、その後マリー達が現れたことによりその場を後にした。
自分自身ではあのままいても決して問題はなかったと思う。けれど……そのような気にはなれなかった。
明日も早い。といっても、国盾の砦が崩壊した状態ではどうすればいいのか。兵站の担当である文官がこの部隊にはいない。フィルが……フィルがいればまだ各地に貯蓄しているはずの食料を回収することもできるかもしれない。
一応ライ自身も場所は大体覚えていた。このような状況も少しは予期していたから。けどこのまま向かったとして、フィルたち相手に勝利してしまう敵が貯蓄場所を制圧している場合もある。危険にさらすことはできない。
悪く言えば優柔不断、決断ができないという悪循環になってしまい結局何も頭の中がまとまらないでその日は寝てしまった。
次の日。
朝日が昇ると同時にライは目が覚める。
ほとんど寝ていないが、少しでも寝れたならそれでいいと考えていた。
この状況は予期していなかったが。
「んっ……むにゃ」
赤色の髪が被っている布からチラチラと覗いている。その赤い髪は規則正しい寝息をたて、熟睡しているようだ。
「……」
といってもこの部隊で赤い髪をした人物なんて一人しかいない。
「ティア、お前は何をしているんだよ」
小さい声で言ってもティアは起きない。……おおよその理由はつくが。
(昨日のことを気にして気を使わせたってところか)
でもなぜかそれ以上の感情は出てこなかった。ただただ合理的に考えるしかできない。
一応起こさないようにしながらライは毛布から出て、天幕の外にでる。
外を出るとほとんどの兵士は寝ているのか人影はない。音といえば時々聞こえる葉が擦れる音や、鳥の鳴き声。霧も少しあり顔を出した朝日はぼんやりとだが地面を照らしている。
だからだろう。ぼんやりとした光を見たとき影が揺れたように見えたのは。
一度だけライは首をかしげた。
あるはずがない。あの人物は崩壊時にいなくなったのだから。
けれどもう一度見るとやはり影は揺れる。
光が揺れればサチの可能性はあった。ゆれるというか眩しく光るというほうが正しいかもしれない。
しばらくその場所を見ていると、ゆれる影から人が飛び出してきてライの懐に入り込んだ。
(敵か!?)
魔法を使う用意をして、迎撃しようとするがすぐにやめる。胸に輝く黒い宝石が見えただからだ。
体に軽い衝撃を覚えるとともに、飛び掛ってきた人物が名前を呼んだ。
「ライ様……っ!」
「ラン。無事だったんだね」
必死にしがみついてくるラン。よほど心配をかけたのか、目には涙を浮かべている。
ランはしばらくしがみついていたが、涙を手で拭きつつ、一歩だけ下がった。
それからライを見て頭を下げる。
「ライ様、よくご無事で」
「そっちも。それよりもランがここにいるということは?」
このときランは、少しだけ違和感を感じた。感じたが、何かわからず聞かれた内容に返答する。
「はっ、実はエミル様、ユレイヌ様の命を受けお迎えに伺いました」
「へぇ、無事だったんだ」
「はい……え?」
「ん、どうしたの?」
「い、いいえ」
「そう、エミル達は今どこにいるわけ」
「あ、え、あの」
ライの態度に戸惑うラン。いつものライとは思えなかっただ。だからこそ、このまま話していいのか、ありえない考えなのにこの人物が……ライではないのではないかとも感じてしまう。
「いえないのか?」
「いえ、ですがこれは他言無用で誘導するように指示を受けましたので」
だからこそ、折衷案としていわずに誘導するという行動をとった。
「わかった。なら後少ししたら兵士は起きるからそのときに誘導を頼む。じゃあ、俺は少し散歩してくる」
そういってライはすぐにいなくなってしまった。
残されたランは首をかしげる。一体どうしてしまったのだろうかと。
「ラン!」
ライがいなくなった逆のほうから呼ばれる声があった。そこには
「ティア様!」
ランは返事をしてティアを呼ぶと、ティアはこちらに近づいて来て抱擁する。
「ラン、よく無事で!ここにランが来たってことはほかの皆も無事だってこと!」
「ティア様もご無事で。そして国盾の組織というものは被害は受けましたが、壊滅はしておりません。主要な方々は無事です。私は命を受けてライ様たちを誘導すること。そして……囮となった義勇軍のイプス様、マリー様を可能ならば救出する任を受けました」
この言葉にティアは一瞬動揺する。
その動揺を見逃すランではなかった。
「……私はここに来るよりも先にエンリデンヌのほうへと向かいました。ですが、訪れてみると何か嵐が通ったような惨状で駐屯している敵部隊も混乱しているようです。もしやと思って追いかけてきたのです。お二人を探し出すことができなかったのが残念ですが、保護されている可能性も考えています……しかし、ティア様の反応をみるにやはり……」
「……うん。イプスさんは間に合わなかった。そしてマリーはぎりぎりで助けることができたんだよ。今も一緒にいるよ。ショックでまだ立ち直れてはいないだろうけど、それどころじゃなくなってきてるからね」
「それは戦況だけではなく、ライ様のことにも関係しますか?」
「……どうしてそう思うの?」
そういわれて、ランは先ほどの報告したときの状況を話した。ランが現れ、エミル、ユレイヌが無事だとわかっても何も感情を出さなかったこと。名前を出せば組織がまだ生きている可能性もあるのに、それすら質問してこなかったことなどをだ。あと、雰囲気が変わってしまったことも。
「私はライ様があのように変わってしまったのは初めて……いえ、二度目でしょうか」
「あの間諜のときだよね」
「はい。あのときほどではないですが、すべてに興味をなくされた目をなされていたように見えました」
「そっか……私達のほうの状況を伝えるね」
そういって、ティアはこれまでの話をしていった。もちろんライの状況。エンリデンヌにできていたガラクタの山の惨状について。エスティアにいわれたことなど。
話を聞き終えたランは一度目を閉じ、開いた次の瞬間には頷いて何かを決意した瞳を持ってティアに話す。
「……わかりました。そのような状況になっているとは……私達はライ軍師に負担をかけすぎたのかもしれません。……しかし、そんな軍師のことを敵が放っておくことはない」
「今はもうライはこの組織に必要な人物だからね……仮に職務放棄してしまったら瓦解するだろうね」
「決してそれだけはだめです」
「だね。だからこそ、私達はライを支えないと」
「ティア様。ただそれをするなら誰か一人ずっと傍にいるという名目を果たすため、早く追いかけたほうがいいのでは?」
「……あっ。あ、でも。たぶんリエルが外で待ってたけどいないから追いかけたんだよ。うん、そうだよ」
「……そうですか。だといいのですが」
「あはは……」
「ティア様、私はこれからエミル様に報告のために帰還しようと思います」
「え、うん。それはいいと思うけど、場所を私達知らないよ?」
「ティア様にお伝えしますので、先導をしてください」
「この国を全部訪れたというわけではないけど」
「大丈夫です。一度訪れたことはあるはずですから」
「そっか。それで、どこなの?」
「私達の元本拠地の孤児院に」
「あそこなんだ。でも確かにあそこなら、もともと私達が合流する前にも使っていたから隠れるには都合がいいのかもね。だけど、大部隊だと発見しやすくない?」
「ご安心を!そこはキャサリン様の作戦で、各部隊を百の小隊をできるだけわけ、各自目的地に向かうようにしました。選任は居場所を知っている人物を」
「だとしたら発見の確率は少なくなるね。私達はこのまま向かっていいの?逃げた方向も見られているだろうから、エンリデンヌから追っ手が来るかもしれないよ?」
「そこは私が途中から風影隊を連れて戻ってきます。ですが、できればここにいる兵士達で駆逐していただけるとありがたいのですが」
「うーん……確かにサチさんやリエル、ヴェトリアさんなんかは得意そうにも思えるけど」
「できればいいです。もともといつまでも隠れることができるとは思っていませんから。それに、今連絡を取って、応援を要請してもいますし」
「応援を?でも応援に応じてくれる人なんているのかな?」
「どうなったかはわかりかねますが、とにかくご安心を。ライ様には実は目的地をお話していません。態度の変化の理由がわからなかったので用心のために……ですが、本人であることがわかった以上、伝えてもかまいません。先導すると説明をしていたのですが、私は報告のために先駆けで帰ったとお伝えください」
「わかった」
「では私はこれで。ご武運を」
「ランも気をつけてね」
ランはニコリと笑いつつ頷く。
そして、最後に首にかけている黒い宝石を握り、ライがいなくなった方向を一度だけ見た後に地面の影に落ちていき、姿を消した。
ランは誰にも聞こえない声で呟く。
「……どうかライ様のことよろしくお願いします」
声が聞こえたかわからない。しかし、いち早く情報を持ち帰ることに意識を集中しランは帰宅に急ぐのであった。
いなくなったランを見てティアも呟いた。実は呟きは聞こえていたのだ。
「うん、皆でライを支えるよ。だからそっちもがんばって」
もちろんティアの問いに返事はなかった。
こんばんわ、少しあとがきを今回お休みさせてください。
よろしくお願いします。




