第百五十話 突然の死と敗北
オタノシミクダサイ
ライ達遠征組が報告を受けて数日後、予定通りエンリデンヌ近郊に接近した謎連合部隊の情報がキャサリンの下へと入ってくる。
「キャサリン様、ついに敵部隊はここから一日先の場所へ姿を現したようです」
「ありがとうランちゃん。予想通り遅いわねー。ライ君からの報告はあれから来てる?」
「報告は私の隊が持ってきた手紙のみです。急いで戻るとは聞いておりましたが、やはり戦の序盤には間に合わないでしょう」
「……そっか。ライ君にはいっぱい負担かけたんだから時にはお姉さんが頑張りましょうか。けど、気になるのはライ君が言っていた最後の言葉よねぇ~。少数の人以外に言ってはないわよね?」
「もちろんです。ラッシュ様などの幹部と報告に来た私の部下、そして私以外には通達しておりません」
「『敵は外敵ではなく内側にいる』か、まるで誰が敵なのかわかっているような言い方よね。でも、明言しないということは漏洩を恐れて?、いや、まだわかっていないのかな?」
一人思考し、呟くように吟味し始めたキャサリンに対して、ランは静かに待っていた。
それに気がついたキャサリンは一度ため息をつき、肩を落とす。
「ごめんなさい、今やることは判らないことをあれこれ考えるより少しでも確率をあげることよね」
「私はどうすればよろしいでしょうか?」
「そうね、まずは内通者をできるだけ探して。でも無理はしないでいいわ。相手に気づかれたらまずいからできればでいいわ。その次は門の付近の警備を少しだけ増やすのように手配を。謎の敵部隊が接近しているから警戒するためといっておけば大丈夫でしょ」
「この内容を通達する人選は?」
「人選はライ君と親しい人ね。マリーちゃんとイプス君も加えてもいいわよ」
「他の各関係部署には通達しないでよろしいのですか?」
「他のってたとえばドール伯爵のこと?」
「はい」
「ドール伯爵には連絡しないほうがいいと思うわよ」
「なぜ……まさか、キャサリン様はドール伯爵が内通者だと?」
「さあ、わからないわよ。けど念には念を押さないと。それに本人がよくても周りはどう動くかわからないから、用心よ」
「はぁ、わかりました。では親しいものという定義で連絡していきます」
「お願いね」
そういってランは影に潜り込みいなくなった。
いなくなったのを確認してからキャサリンはため息を大きくつきながら椅子にもたれかける。
それから色々と頭で近況を考えていた。それは先ほど伝える人選をした相手のことだ。
エミル、ユレイヌ、この二人は最近あまり元気がない。いや、元気がないというよりかは落ち着きがなく何かをよく考え込んでいる節がある。
フィルは普段の政務に関しては問題ないとしても、何か無理をしているような気がする。まるで何か焦っているような、心配があるようなそんな感じだ。
上の余裕がなくなると下も余裕がなくなるとは言ったもので、ラッシュやレーシア、マリー、イプスですら、余裕がなくなり始めているのかどこかピリピリしている。
「……」
どうも、ライがいなくなってから全員がどこか一体感がない。よく考えるとライが戦場にいない戦いは初めてなのだ。ジュアン帝国との戦いのときも前日まではおり、作戦はある程度固まっていたが最初から予定がないのは初めてだ。
「あの子一人がいるだけでどれだけ、心強かったのかよくわかるわねぇ~」
一人呟くキャサリン。
けどいない人物のことを思っても仕方がない。それに今回はお互いの兵数が互角なのだ。悲観することはない。
「私はいつもどおりにやればいいのよね」
窓から差し込む光を浴びながらキャサリンは呟くのであった。
その日から二日後。
ライはついにエンリデンヌ郊外へと到着することに成功する。
だが、予想とは違う光景を見ることになるのであった。
「……どういうこと?」
隣で同じ光景を見ているティアがそう呟いた。
それもそうだろう。
エンリデンヌでは戦いが終わり死体が地面に多く横たわっているのだ。黒煙も出ていることから、まだ戦いが終わってから時間がだっていないのだろう。
リエル、サチ、ヴェトリアですら絶句していた。
しかしただ一人、ライは別の方向を見ていた。いや、別の一点といえばいいだろう。
そこには、数人の兵士と女の子が何かを喚いていた。それを誰か拘束されているのか一人の男がなだめるように言って、それから
何かが振り下ろされた。
その男の首が飛んだんだろう。女の子は絶叫していた。
光景を見てしまった。
周りの音が消える。
光が消える。
声が消える。
時間が止まり。
ライの何かが切れてしまった。
【!?、待ちなさいライ!落ち着いて!】
頭の中に響く声があるが、それでもライはとまらない。いや、そもそも声が聞こえているのかもわからない。
絶句している仲間たちの中一人ライは飛び出した。
「ライ!」
一番最初に気がついたのはリエルだ。一番近くにいたからか、けれどそれでもライに声は聞こえない。
ライが向かう先では、泣き喚く少女が先ほど首を落とされた男子の場所へと移動させられ、跪いていた。この後に起こることなど、容易に想像できる。
ライは宝玉の魔法を使った。土で足場を作り、風で爆発させ加速する。
ライは別の魔法を使う。火と水を使い水蒸気を発生させた。
ライは魔法を使う。氷と光を使い氷の礫を作り、光を屈折させ相手の視界をさえぎる。
そして、壁の魔法を使い少女を魔法から守る。
「何してんだああああああああああああ!」
ほとんど叫んだことはないだろう。いつも冷静で、軍師と呼ばれ、国一番と呼ばれた知恵者。このことも少ない可能性として考えていたこともあった。
しかし、実際に目にして。
何かが切れてしまった。
【ライ、待ちなさい!とりあえず落ち着くのよ!】
何度も声が聞こえるが今のライには関係なかった。
最優先事項は少女を助けることだ。
少女を拘束し、武器を持ち、今まさに少女に命を奪おうとしていたとき、水蒸気、氷の礫、光の爆発。嵐とも呼べる状態が目の前でおき、兵士たちは混乱した。
けれどすぐに、考えることはできなくなる。
首と胴体が永遠に別れてしまったからだ。
四人もいた兵士たちの首が空中に舞った。何か鋭いもので切られたように。
首を失った死体からは血が噴出し、辺りを赤く染める。
少女は視線を伏せて、それから何がおきたのかわからなかった。でも、一番最初にとあるものに近寄る。
「お兄様!お兄様あああああああ!」
少女が向かう先は先ほど自分より先に首を落とされて絶命した肉親の元だ。今この少女は目の前に起きたことに頭を働かせないといけないというのに、そんなことより肉親のことが頭の中でいっぱいになってしまった。
「……ごめん」
一言、ライは呟いた。
「ごめん、マリー、……イプス」
そう、死体となってしまった人物はイプス、今まさに殺されようとした人物はマリーだったのだ。
名前を呼ばれ、ようやく少女、マリーは顔を上げ、何も声を出せなかった。
見上げたそこには、体や顔、すべてに鮮血を浴び視線には何もなかった。声をかければ自分が死んでしまうような視線を。
その視線に気がついて、ライは何も言わずに視線をエンリデンヌのほうに向ける。
「ちょっと、ライ!いきなりどうした……!?、マリー!どうしたの!それにそれはイプスさんじゃ!」
ライとマリー、体が冷たくなったイプスを見て話しかけてくるのは、ライを追いかけてきたティア達だ。
でもライはそれに答えず。
「ごめん、ここは頼む」
ライはそれだけを答えると魔法を使いエンリデンヌの中へと進んだ。
「ライ、だめ!待って!ライ!」
リエルはそれを必死に止める。あの目は危険だった。このまま行かせてしまっては何かが変わってしまう。リューネリスの時のように嫌な予感がしたのだ。
リエルはすぐにライを追いかけた。
他の者、ヴェトリアとサチは状況をすぐには飲み込めずどうするべきか混乱していたが、後方に待機している兵士たちに周囲の警戒を指示する。一番最初に声を発言したティアはリエルと共に追いかけたが、けれど動くことはできなかった。目の前には肉親を殺されたマリーがいたのだ。誰かがついてやらないといけない。
ライとリエル。二人がエンリデンヌの中に入っていった。
後から入ったリエルが見た光景。
それは一言で言えば地獄絵図。といえばいいだろう。
火柱が舞い上がり、空からは氷の礫が、風が吹き、火は燃えあがる。投石のように岩が飛び津波にように水が人を飲み込んでいく。
「ライ!」
声を叫ぶが肝心の人物が見つからなかった。
そんな中、ライは現在敵軍のど真ん中に姿を現していた。
【……ライ、あなた今は私の声を聞くぐらいの理性はあるかしら】
「……ああ」
【そう、なら言わせてもらうけどいい?】
「もし抑えろといわれても今は無理だ。エンリデンヌの兵士すべてを、国の悪を排除しないと収まらない」
【私は様々な所有者を見てきた。そして、力に溺れた者は未来がないわよ?】
「けど、俺に未来がなくても周りに未来は作ることにはなるだろ?それに、いきなり死ぬわけではない。生きる可能性もあるんだろ」
【確かにそうだけど……副作用は確実にくるわよ。今までのすべてを使うほど。それは周りに影響を及ぼすわ】
「……」
少しだけ黙ったライだったが、すぐに首を横に振る。
「副作用を恐れるつもりはない。この様子を見ると軍は、国盾の砦は全滅した。……エミル達がどこにいるかもわからない。死んでしまったかもしれない。仮に生きているとしても、もう力を抑えて勝つなんて考えられない。全力で利用していくよ」
【……そう。……ライ、ひとつ賭けをしましょう】
「こんなときに」
【これは友人としてでもあり、守護者としてでもあるわよ】
ライは首を傾げつつ、槍の切っ先を突き出してきた敵兵に炎を撃ち出し火達磨にしていた。ほかにも攻撃がきたのは白壁で防いでいく。
「内容は?」
【国盾の砦が全滅したかしていないか】
「この状況を見て全滅していないと?」
【別にいいでしょ?信じられないならそれでもいい。でももし私の言うことが正しいのなら……全力で魔法を使うのは抑えなさい。最後の一線は越えてはだめよ。水の宝玉の守護者を見たでしょ。廃人になるわ。少なくとも私は……見たくない】
最後は心細そうに声が小さくなるエスティア。
ライはその話を聞いて、少しだけ冷静になる。
「……わかった」
【……ありがとう。ならとりあえずここは引きなさい】
「それとこれはべ」
【いいえ、違わないわ。それにあなただけの事を言っているわけじゃないの。あの子も危険だから】
あの子といわれ首を傾げつつも振り返るとそこには
「ラ……イ!」
嵐となっているライの元にそれでも、徐々に近づき敵兵と切り結ぶ人物の銀色の髪が見えた。
「リエル!?」
「ライ!」
ついにリエルはライに合流する。
そして叫んだ。
「ライ、だめ!またいなくなっちゃだめ!」
敵の攻撃を防ぎながら叫ぶリエル。
「……」
だが、その返事にいつものライなら答えるのに答えない。
この甘さが、思考が今回の事につながったのではないかと思ってしまった。
ライは、自分の思考能力、考え方に疑問、正しいのかわからなくなってしまっていた。
【ライ早く引きなさい。敵は少なくとも数千はいるわ。何も考えずにやれば殲滅できるかもしれないけど、そのときあなたは廃人に、リエルも命を失う可能性は高い。時間をかければ外にいるティア達も危ないわ】
外にいる仲間、それを聞いてライは色々と考える事を放棄しうなずいた。
「……わかった」
そういって、ライは周りに対して水蒸気を発生させて視界をくらませる。そのときリエルも一緒に掲げ風に乗ってエンリデンヌ郊外へと逃げていった。
その後、ティア達と合流しエンリデンヌを離れる事になる。
離れた後、周りの安全を確認した後、ティア達数人は森の奥でイプスの死体を埋葬した。このとき参列したのは、マリー、ティア、サチ、ヴェトリアだけである。
ライは参列しなかった。
その日は行軍時間もちょうどよかったので、その付近で野宿する事になり、本軍壊滅という危機に対して、日ごろの強行軍もあってか兵士たちは早めの就寝をしていた。
けれど、そんな陣地の中ひとつの天幕から影が動く。
その影は森のほうに歩いていき、とあるところでとまった。
そこは土が盛り上がり、手作りされた十字架が立っていた。
影とはライであった。
ライはイプスの正面に座り頭を下げる。
「間に合わなくてすまなかった」
一人言葉をかけても当然言葉は返ってこない。死体が喋る事はないのだから。
ガサッ
突如森の一部から音がした。
そこから出てきたのは
こんばんわ。更新できました。
そして……初めて、物語を作っていて初めて味方陣営となり近しい人物を殺してしまいました。
結構キャラクターを殺してしまうのは心が痛みます。
そして、まさかのエンリデンヌ陥落。国盾の砦壊滅の可能性。
エミル達の生存がわからないと様々な急展開です。
一体一日前に何があったのでしょうか。
それは次回にわかるのか……わかりません。
この辺で次回お会いしましょう。




