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第百四十九話 思慮

お楽しみください

 遠征に来ていたライだったが、無事敵不明部隊は撃退。敗走したものたちは無視しすぐにエンリデンヌへ帰還しようとしていた。


 このことについて、ティア、リエル、サチ、ヴェトリア達は何を急いでいるのかわからなかった。少なくとも敵を倒したのだから普通なら一日ほど駐屯し、兵たちの疲れをとるのが常道だ。


 しかし、あのライが言うのだからと指示には全員が従った。


 急いでのことでそれぞれライに話を聞くことはできなかった。


 でも、しばらくしてからエンリデンヌに行軍を開始したころライが乗る馬に少女達は集まり、ライに質問していた。


 「どうして急いで帰るか?」


 少女たちの問いにライは確認するように聞く。


 代表してティアが頷いた。


 「うん、こんな強行軍無茶が過ぎるような気がするんだけど。ライのことを知っている兵たちばかりだから、信用して従ってくれているけどこれから先はわからないよ?士気が下がる危険性もあるし。そんなリスクを犯してでも急ぐ必要が?」


 「必要があるよ」


 きっぱりとライは断言した。


 「理由を聞いてもいい?」


 「まあいいよ。だけど、ほかの兵士たちにはまだ内緒にしてくれ。今夜伝えるつもりだけど、まだ戦いが終わって時間がたっていないから水を差したくないんだ」


 「わかった」


 「実は……おそらくエンリデンヌには別働隊がいるかもしれない」


 「別働隊ですか~?」


 「そうだよヴェトリア。今回の相手はこちらの倍の人数がいた。なのに相手は指揮官の人数が二人ぐらいしかいなかった。少なくとも三千人規模で装備が複数あると考えればもっと指揮できる人間は多いはずなんだ」


 「そういえば騎兵と本陣が相手の主流でしたね。それで二人と判断したのでしょうか?」


 「それだけじゃないけど、とりあえず少ないってことは確かなんだ」


 「けどそれだけじゃ、別働隊の根拠にはなりえない」


 「リエルの言うとおりだね。でもさ、ちょっと考え方を変えればわかるんだよ」


 「考え方?」


 「そう、国の色々なところで発見されている謎の部隊。これについて俺もランに頼んで情報を集めてもらってるけど……たった一箇所だけ出現する部隊が少ないところがある」


 「どこなの?」


 「王都だよ。そして、王都の防衛は兵士の巡回強化をしていても攻勢にはでない。篭城するのが強いのはわかるけど、まだ包囲されていないときに威力偵察もしないのはおかしいんだ。ではなぜこのようなことになっているか。理由は王都は絶対に攻め込まれない、少なくとも今は攻め込まれないことを知っている人物がいる。そして、そんなことを知っている人物は動かしている黒幕しかありえない」


 「黒幕……ライのことを悪くは言いたくないけど考えすぎじゃないかな」


 「ティア、俺もそうだったらと思うよ。だけどさっき言った指揮官が少ないってのも理由のひとつなんだ。相手にとって指揮官が少なくても三千人もの兵士をまとめるだけの組織力はあるってこと。ある程度信頼と訓練をされていなければ無理だよ」


 本当はもうひとつ、ライには根拠があった。その理由は宝玉の存在が王都に二つあるからだ。ひとつの所有者はわかる。もうひとつは同じ人物か、別の人物かわからない。


 話をとぎらせてライ達は静かに行軍を始めたとき、やはりというか静かな行軍はすぐに打ち破られた。


 「ライ軍師」


 馬で行軍していたが馬の近くにいつの間にか一人の兵士が平行して歩いていた。けれど目線は合わせようとせずまっすぐ向いていた。周りに目立たないようにという配慮だろう。そして、周りに聞かれて視線を集められたくない話があるということだ。


 「何か新しい情報、たとえばエンリデンヌに兵が向かっているって情報でもあった?」


 「……予想はされておられたようで。そのとおりです。ライ軍師が出立して三日後、エンリデンヌに向かう謎の部隊が発見されました。数は五千」


 「発見した時点でエンリデンヌとの距離は?」


 「徒歩で約四日の場所に。相手の装備が歩兵中心でしたので行軍速度は遅く、連絡が間に合って幸いでしたが」


 「出発してから三日後、エンリデンヌ敵到着までがその時点で四日。ってことは残り二日で着かないといけないかな」


 「ライ、別にフィルたちだったら五千ぐらいの敵なら大丈夫だと思うけど……」


 「普通の条件で五千なら……ね。まあいいよ。とりあえず行こう。君はすぐに向かうって事をフィルに伝えてくれ」


 「了解しました」


 二人の会話を聞いていたティア達はこの時点でもまだ楽観視していた。厳しい戦いにも耐えてきた仲間であるフィル達がエンリデンヌにはいるからだ。軍略ならキャサリン先生。攻撃にはマッシュなどの宝玉もち、内政・軍需方面ならフィルで磐石のはず。


 けれど、この日からさらに二日後


 ティア達はライが急ぐ理由がわかり、焦りを覚えていた。



 引き返し始めて二日後の夜。


 話を聞いた少女達がライの天幕に走りこんできた。


 「なんで!情報は本当なのライ!」


 「本当だよ」


 「どうして周りの貴族が謎の部隊に加担するわけ!」


 移動開始して二日後に届いた情報は、エンリデンヌの周りに領地を持ち兵を保有する貴族達が謎の部隊に、兵や物資を融資したということだ。


 その話を聞いたからこそ、ティアは憤慨しているのだ。


 「落ち着けティア。これは予想できたことだよ。二日前に話しただろ。王都に出現する部隊が少ないことからおそらく黒幕は王都にいる。しかも、その人物は兵士を多く動かせる人物だ。前は話さなかったけど、今回のことでおそらく相手がどういう規模かわかったよ」


 「規模ですか~?」


 「敵は、いや、敵の規模は国自体。貴族を動かせる規模だ」


 下手したらドリアド王国を加えた二国とは言わなかった。絶望を与えるのは確定したときだけでいい。まだ予測の時点で絶望を与えて、心に余裕をなくさせるのは得策ではない。


 「だから、貴族が裏切るのもわかる。幸いというか命令が不明慮だったらしく援軍を送るのを辞める慎重派、反発する人もいたらしいからそれほど絶望的な兵力になっていないらしいよ」


 「ライ様、兵数はいくらなのでしょうか?最初は五千と聞いておりましたが」


 「サチが言うとおり前までは五千だった。けど今は推定になるけど八千になる。しかも相手は重歩兵部隊を有しているみたいなんだ。歩数は本来ドリアドとの戦いのために必要数の兵士を送っていたらしいから、少ないけど装備が脅威だね」


 「エンリデンヌ……みんなは大丈夫だよね?」


 「大丈夫だとは思う。……思いたい。キャサリン先生達がいるから」


 しかし、なぜだろう。今回は嫌な予感がする。


 「エスティア、宝玉の位置は移動してないか?」


 【宝玉が移動した気配はないわね】


 なら危険は少ないはず。対してこちらは宝玉を使える。心配することはないはずなのに。


 「(クイクイ)……ライ?」


 リエルがいつの間にかそばにやってきて、心配するように聞いてくる。


 「あ、ああ。大丈夫。明日行軍を早めれば戦闘が始まった一日目の途中に介入できるはず」


 最初は説明するように。後半は自分に言い聞かせるように呟く。


 「こういうときにランがいれば連絡に事欠かないんだけどな……遠風の書をイプスから返してもらってなかったのも痛かったかな。でも無い物ねだりしても意味ないか。ティア、一人伝令を呼んできて。この軍に従軍している風影隊の兵士が三人いただろう。その中でも早い人物を」


 「わかった」


 ティアに頼むと、一度ティアは天幕の外に出て行きそれからしばらくして一人の兵士を連れてきた。


 「どのような伝令をお伝えすればよろしいでしょうか」


 「伝える内容はできるだけ防戦をメインに戦うようにすること、キャサリン先生達の現場判断に任せるけど基本そう戦うように伝えてほしい。あともうひとつ、敵は外側のみにあらず。中にも注意しろと」


 「了解しました。ですが、どなたに連絡すればよろしいでしょうか」


 「フィルに……そうだった。ランにも君を昇進できるように伝えててくれていいよ。今から手紙を書くから。ブレイ」


 ブレイと呼ばれた兵士は少しだけ驚いていた。


 「覚えておられたのですか?」


 「覚えていたってまだたった数日間のことだろう?」


 「確かにそうですが……あれはただの口約束で本気ではなかったと思っておりました。冷静に考えてライ軍師は権力はあっても人事権については軍需、内政担当のフィル様か王女であるエミル様、元トップであったキャサリン様しかおられなかったので」


 「あーまあ、確かに人事に関してはね。じゃあフィルに送っておくからいっしょに見せてくれればいいから」


 「……本当にありがとうございます!」


 「気にしないで。でもできればその手紙は早く送ってほしい。それが昇進試験かな」


 「了解しました!最速で届けて見せます!」


 「頼むよ」


 そういってブレイはやる気に満ちた顔で天幕をでて行った。


 指示を出し終えて一息つくライだったが、いくつもの視線が集まっていることに気がついて、ライは顔を上げる。


 「どうした?」


 「あのさ、さっきから思っていたんだけど何でフィルばかりに指示が行くようにしているの?わからないこともないけど……」


 「まあ特に気にしなくていいよ」


 「本当になんでもないの?」


 「うん」


 笑顔を浮かべて答えると、少しだけ空気が緩んだような気がする。


 その後は少しだけ喋った後ティア達も外に出ていった。


 皆の後ろ姿を見送ったライは用意された椅子に深く座り、ため息をつきながらエスティアに話しかけた。


 「エスティアからみてもフィルに迷惑をかけてる?」

 

 【そんなことわからないわよ。自分で考えなさい。でも皆同様に愛していあげないとだめよ?】



 「愛してって……」


 【あら、嫌っているの?】



 「そんなことない」


 【なら頑張りなさい】


 それからエスティアは返事を返してくれなくなった。


 「エスティア?」


 と問いかけても頭に声は響かない。


 「忙しいのかな?」


 首をかしげるが、すぐにこれからのことを考え始めていた。


 先ほどはエンリデンヌで戦いが始まって途中で参入できるといったが、戦場とはどういうことが起きるかわからない。


 問題は


 「戦いが終わっていないかが問題だな」

 

 一人ライは呟くのであった。


 


 


 

 

こんばんわ、そして時間がかかりましたこと申し訳ない。

色々と作業を続け、時間がとれず更新できていませんでした。

これからも忙しくなってくるとこういうことがあるかもしれません。

ですが、やめることはありませんのでご心配なく。基本的には三日で更新していくつもりです。何かありましたら活動報告に書きますのでよろしくお願いします。

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