第百四十八話 衝突
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「第一騎兵隊 突撃ー!」
ついに、戦いは始まった。
お互いに対峙したライと謎の軍は陣営を整えつつあった。これにより、少なくとも相手には指揮系統が存在することを示している。
ちなみに、戦う前に使者は送った。しかし、使者が敵陣営に到達する前に弓矢を放たれ交渉の余地はなかったのだ。
よって、すぐに使者が退避したと同時に第一騎兵隊三百騎が突撃を開始する。
「みんな行くよ!私の後についてきて、弓を携行している人は合図とともに撃って当てなくてもいいから頼むよ!」
この騎兵隊を率いているのはティアだ。エンリデンヌ攻防戦からずっと戦いに身を投じていたティアならば経験も十分に積み、臨機応変に動けることを見込み騎兵隊の指揮を頼んでいたのだ。
国盾の砦陣営が突撃を開始すると、謎の軍勢からも行動の変化があった。
軍勢が割れたと思いきや後ろから騎兵隊が突撃してきたのだ。ティア達の騎兵隊にぶつけるつもりだろう。相手の数はおそらく七百ほどだ。約二倍の兵数ではティア達には分が悪い。
しかし、それは衝突すればの話である。
「全軍右に迂回して騎射開始!その後全力で後ろに走り抜けるよ!」
ティアはそういって手を騎兵前に掲げ意識を集中する。すると、敵騎兵の目の前で突如小さな爆発がおき数騎が転倒を起こしていた。そのせいで後列も転倒をしている。
小さな魔法使っても地面のちょっとした変化で馬は体勢を崩す。これで体勢が崩れた敵兵は突撃の勢いが弱まるだろう。
そして、それこそがティア達の狙った策のひとつだ。
「いまだよ!一斉正射!」
国盾の砦、騎兵部隊から弓が放物線、または直線を描き敵騎兵に降り注ぐ。馬に乗る騎兵には鎧を着ているからかあまり効果がないようだが、馬に関すれば例外であった。
馬に弓が刺さって馬が暴れ、または倒れ被害が広がっている。
「よし、なら皆いっせいに後方に走るよ!」
ある程度距離が詰められていることもあって、完全に衝突する前に騎兵隊は後方に走る。最初の威嚇射撃では国盾の砦の完勝だろう。
しかし、問題はここからだ。
「第二、第三騎兵隊前へ、味方騎兵と交差後左右に別れ後方に後退せよ」
「第二、第三騎兵突撃!」
ライが次の指示の合図をすると、事前に話を受けていた第二、第三の指揮官が指示通り突撃を開始した。
馬の後ろに木をくくりつける事によって機動力が落ち、戦闘はできないだろうがそれ以上の重要な役割を持った二つの部隊だ。
第一騎兵隊が予定通り左右の第二、第三の間を駆け抜けていくと第二、第三騎兵は行動を開始した。
左右に一度膨らむと、次に二つの騎兵隊は左右に交差をした。第二騎兵隊は外を大回りするように、第三騎兵隊は内側を走るように。
もし少しでも技術がなければお互いの騎兵隊は衝突しあい自滅しただろう。けれど、彼ら騎兵隊はフェレス王国の精鋭部隊にも引けをとらない。それだけの激戦を潜り抜けたのだ。
無事二つの騎兵隊が交差した後、予想通り土ぼこりが舞い上がり敵からの視界を悪くすることに成功する。
ーーーーーーー敵軍ーーーーーーーーーー
ここで、敵が取る策は二つ。危険を覚悟で土ぼこりに飛び込むか、それとも突撃をやめ迂回し自陣に帰るか。
でも後者の場合横側を敵にさらすことになり、攻撃を受けてしまったら被害は甚大だ。
そして、予想通り敵軍は土埃が舞う中を突撃してきた。
敵騎兵は一心不乱に突撃をする。先ほど逃げていった騎兵隊に痛撃を与えるために。本陣を食い破るために。
ヒュン
土ぼこりが舞う中いきなり左右前後から弓矢による攻撃を受けたのだ。先頭にいる指揮官は左右に敵が展開しこちらをいい様に攻撃していると判断した。これを脱するためには最速で駆け抜けるしかない。
さらに速度を早くし、疾走する。馬にも無理を強いるが死んでは元も子もない。
それが功を奏してか土ぼこり地帯を抜けて七百の敵騎兵はついに敵本陣の兵士を視界に入れる。弓矢攻撃などという奇襲を受けたが本陣を壊滅させればこの戦いは勝ちなのだ。
ついに、騎兵隊たちは突撃をし蹂躙する。そう確信した。
が
それは実現しなかった。
兵士達にぶつかったと思ったら、敵騎兵達が相手にしていたはずの本陣の兵士達が消えたのだ。蜃気楼が消えるように。
これには指揮官だけではなく後ろにいる兵士達も驚く。なぜ消えたのか。自分達が見ていたのは何なのかと。
ここで先頭の指揮官は気づく。罠にかかったのだと。
焦った指揮官は急遽方向転換をし、本陣へと帰還しようと視線を本陣に向けるがそこには
何もなかった。本陣も、戦っていた兵士達も、生き物も何も。
あるのは平原と太陽、それだけであった。
ーーーーーーーーーライ本陣ーーーーーーーーー
ライ達は本当の本陣で敵が突撃した場所に視線を向ける。
それから、サチに話しかけた。
「調子は大丈夫か?」
今回、サチは最初から魔法を使っていた。敵にこちらの部隊が細くする前から。内容は陣を置いている場所から離れたところに幻が見えるようにしたこと。
しかも、そこから騎兵を突撃させたことから本陣であることは疑われなかっただろう。でも本当は幻の本陣だったのだ。敵は幻の本陣に突撃し、幻が消えたことで面食らっていることだろう。
その後振り返ってももう遅い。後ろを振り返っても光の屈折率を強めて先を認識できないようにする。何も見えない。見えるのは何もない平原。それから徐々に方向感覚を狂わせていくのだ。
サチの返事を聞いて頷きながら。
「ええ、大丈夫です。さっきライ様とあの子の間に何かあったのは聞きました。それで反省したらしく大人しく……いえ、とても頑張ってくれてます」
「そっか」
と返事を返した。
正直先ほどは言い過ぎたかもしれないと思っていたが、判ってくれたようだ。これは何か後で頑張ってくれたことに対して、お礼をしないとな。
そう考えていると、隣にいるサチがクスリと笑う。
「何かおかしかった?」
「いえ、でも私が言うのもなんですが本当にあの子もちゃんと一人の人間、女の子として扱ってくれるんですね」
「ん、なんかおかしいことかな」
「いいえ、とても素晴らしいことだと思います。そして、前にもまして妾として誇らしいです」
「いや、その、それはだから誤解なんだって」
リエルやティア達が見ていたらまたイチャイチャしてと文句を言うところだろう。
けれど二人はいない。
サチがここにいるのは魔法を使い、調子が悪かったり不測の事態が起こった場合にライがすぐに介入できるためだ。
その心配もいらないようだが。
「ライ様~」
二人で話しているとそんな声が聞こえてくる。
後ろを振り向くとその人物は笑みを浮かべて、ライの体に抱きついてきた。
「ライ様~ただいまです~」
「はぁ、ヴェトリア。ここでどうしたんだよ。自分の隊があるだろう?」
「問題ないですよー。サチがほとんどやってくれてますし、中にいる騎兵隊は士気が落ちて呆然としてます。最初は所かまわず走ってましたけど完全に方向感覚が狂ったみたいでぐるぐる回ってますよー」
ここで説明するとなぜヴェトリアがいるかというと、これは完全に成り行きとしか言いようがない。本当はサチ、リエル、ティアだけの予定だった。けれど、出発直前になってヴェトリアが同行することになった。
とある部隊の副官としてサチに同行するためだ。
「まあいいよ。ちゃんと指示通りにしてくれるなら」
「はいー、ただ私はもうひとつ進言しに来たんですよー」
「何を?」
「サチの能力を弱めてほしいと、結構負担がかかるんではないですか?」
少しだけ真剣になってライを見て、サチは顔を顰める。もう、作戦の半分は成功したんだから手を抜こうといっているのだ。
けど
「心配してくれるのはありがたいよ。でも全力でやろう。半分で成功といはいえない。突撃部隊、ティアとリエルが上手く行動してくれた考えるよ」
「……わかりましたー、でも本当にご自愛くださいねー?」
「気をつけるよ」
そういって、ヴェトリアは背中を向けて走っていった。
ライは何かしら視線を、サチの何か言いたそうな顔に気がついていたが無視した。それから目線を先に向ける。
ーーーーーーー前線ーーーーーーーーー
作戦通りティアは最初後方に下がった後に再び方向転換、右翼から敵本陣へと突撃していた。
敵は騎兵が止められなかったことに動揺するが、それでも歩兵で槍衾を形成し防ごうとしていた。
「全軍弓を放てー!その後突撃するよ!」
槍衾を形成している兵士達に向けて弓を射掛ける。それに加えてティアは火球を打ち込んだ。
弓だけではなく魔法を使われては相手もたまったものではない。そして、ティア達はたった一箇所を崩せばそれでいいのだ。そこを全力で蹴散らせばいいのだから。
「突撃!」
たった三百の騎兵だったがついに突撃を果たし、右翼に食らいついた。
でもそれだけでは終わらない。
左翼には木をくくりつけた二百の騎兵が突撃。
これにより敵軍は、両翼が不利に陥る。数はまだ有利だったとしても勢いで負けていた。軍の指揮系統も混乱を始め動揺が広がっている。
だからか敵軍は中央の部隊から両翼に援軍として振り分けた。前方を見ても敵軍はおらず正面の敵軍は土ぼこりが収まったあとでも『動く様子』がない。
中央から約五百ずつ両翼に向かわせ援護させる。これによって国盾の砦の騎兵は勢いが無くなり始める。
でも、それが作戦であった。
中央戦線に突如国盾の砦陣営の、歩兵千二百が突撃をしたのだ。この部隊を率いるのは先頭で走る銀色の髪をした少女である。
「本陣まで突き抜ける」
そういってから戦場を疾走し一番最初に中央戦線へと切り込んだ。
普通なら一番死亡確率が高い先頭、指揮官ならなおさらだ。
しかし、リエルは構えられた中途半端な槍衾ではとまらず上を飛び越え敵の少し奥へと切り込むと、周りにいる兵士を次々と血祭りに上げた。
その後に残り千二百の歩兵が襲い掛かる。
謎の軍勢が用意していた中央部隊は約千五百。しかし先ほど合計千の兵士を移動させてしまった。
そこに倍以上の兵と一騎当千のリエルが乗り込んだのだ。
最後に止めとばかりに空から光が降り注ぐ。
その光は最初まぶしいだけだったが、一筋の光と収縮され敵陣奥深くに落ちていく。
光の筋に打ち抜かれた兵士は絶叫を浴び燃えて絶命する。それが空から数本落ちるだけ。でも効果はてき面であった。
戦いはあまりにも一方的な戦いで終結した。
しかし、これはあくまで局地戦である。
まだまだ終息には程遠かったのだった。
こんばんわ、更新いたします。
久しぶりに戦争編を書いた気がします。最近いちゃいちゃを書いていたせいか、結構時間がかかってしまいました。
けど、少しはできたかと思いますので楽しんでいただければと思います。
これから、睡眠時間があまり取れていませんでしたので寝ます。
これからもよろしくお願いします。ではまた次回お会いしましょう。




