第百四十三話 西方
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ライ達にとって、すごく平凡だけれども限りなく尊い生活を満喫していた。
だけども、その幸福の時間にも少しずつ影がかかり始めていた。
その始まりはランが持ち帰ってきた情報から始まる。
「西方の情報がわからない?」
「はい」
報告を聞いたライが最初になげかけたのは、この言葉だった。
報告の内容はいたって単純明快なもの、故に何度も確認をするようにランに聞く。しかし、帰ってくる返答は肯定だけである。
「風影隊の隊員も導入してその結果なんだよね」
「はっ、正直身内の部隊が成果を挙げられないことは心苦しいものですが……事実には変わりありません」
「あ、いや。別に風影隊が頼りないとか責めてる訳じゃないんだ。ただ、逆に風影隊でも調べられなかったってことが重要な情報なんだから」
情報、隠密この言葉が似合う部隊はどこだと言われればそれは風影隊しかないであろう。もし風影隊がだめならばこの組織に、調べることは不可能だ。
頭の中で整理していく。
そのとき
「少しよろしいですか?報告することがあってきたのですが」
扉をゆっくりと開けて返事を伺う一人の男性がいた。
二人の視線は人物を認識してから一拍、間を空けてライが返事を返す。
「……うん、そうだ。彼にも聞こうか。いいですよ。中に入ってきてください」
そういって中に入ってきたのは、ジュアン帝国 元参謀、現在の義勇軍総司令官、そして、マリーの兄であるイプスだ。
「よろしかったので?どうやら重要な話だったようですが」
「確かに重要な話だったけど、参謀である貴方にも話を聞きたいんですよ」
「……私は新参者ですよ?」
この問いにランは少しだけ眉を歪めるが、ライは苦笑しつつ
「まあ、確かに新参ではあるのかもしれないし、この前まで敵国として戦っていたんですから警戒するのも無理はない。でもなら、国と役職を抜きで、マリーを仲間と思っている一人の戦友として話すとしたら、納得してもらえますか?」
イプスはそういわれて驚いてしまう。降した相手を侮る、虐げる相手ではないと周りを見れば理解をしていたが、ライのことだから信頼の証とか信用したからとか甘い言葉で説得するだろうと思っていた。
けれどライは、それを言ってもイプスは表面はよくても深層では認めないだろうと考え、マリーを引き合いにだしてきたのだ。
「……わかった、マリーのことを大事にするならば信用しましょう」
この言葉にランが少しだけピクリッと反応をしたが、二人が気づくこともなく話は進む。
「で?一体何を聞きたいので?」
「実は今、そこにいる風影隊隊長のランが西方で起きているドリアド王国とフェレス王国の大戦がどうなっているのかを報告してくれたんだ」
「風影隊ですか」
「あー、そっちの説明がまだだったか。風影隊は伝達、伝令、諜報、偵察などを中心に動く諜報部隊だ。普通の部隊ではなく全員魔法を使える」
「……なるほど、だから先の戦いでは部隊行動が早かったわけですね」
「そういうこと。でだ、その諜報部隊が報告を持ち帰ってきたんだが……わからない、というのが情報らしい」
「わからない?」
「そうだ。西のほうに斥候を放ったがまず戦自体が行われた場所がないらいしい」
「ドリアドとフェレスの一大決戦ともいえるのに引くという可能性は極めて低いはずですよねぇ。その程度の覚悟ならばジュアン帝国まで巻き込んでやることではないですし」
「でも実際に戦争がおきた形跡がない。ただドリアドはともかくフェレス王国側が王都より出兵したのは確か。移動だけでも兵糧は減っていく。さっきランに聞いても王都に戻ってきたという報告はないらしい」
「休戦協定を結んで引き上げる途中という可能性もありますが」
「それこそ不自然だろう。仮にそうだったとしても行軍中の大部隊を斥候が見つけるはず。にもかかわらず誰の目にも留まらないというのは消えたといっても過言ではない」
「消えた、ですか」
「ジュアン帝国との戦いの時にももちろん西の情勢を調べてはいた。けれどそのときから何も情報が来なかったのだ。戦争のせいで情報伝達の混乱が起きているのではと考えてしばらく待ったけど、それでだめだったからランの部隊にも出てもらった。それで結果が」
「わからない、と」
これはどうすればいいのか考えている間、ひとつイプスが提案してくる。
「……ひとつ提案なんですがそちらの組織の斥候を南、そして西のドリアド王国内へと向けてください」
「やっぱりそう思う?」
「可能性のいくつかとして、一つはドリアド内に進む、もう一つは何かの目的で南に向かったのかと」
「……イプス殿はフェレス王国に不忠義があると申されますか?」
ランが突如暗い声でイプスをにらむがライがとめる。
「ラン、落ち着いて。別にイプスは嫌味で言ってるわけではないよ。可能性として言ったんだから」
「ですが、フェレス王国のことを」
「俺がイプスに聞いたんだから、それに諜報部隊の隊員なんだから正確な情報の重要性を知ってるだろ?」
「それは……」
「……いや、風影隊隊長殿。私は確かに新参者、しかも先日まで敵でした。しかし妹のマリーを救っていただいた恩があります。ここでつまらぬ企みなどしません。妹に誓ってもいいです」
これでは完全に悪役みたいになってしまったランは誰から見てもシュンとしてしまうのがわかるぐらい、落ち込んでいた。
それを見て、ライは手を伸ばして頭をなでてやる。すると、少しは機嫌がよくなったのか笑顔を浮かべた。最近、正確には宝石をプレゼントした辺りぐらいからライに対して好意を表に出すようになり、先ほどのように頭を撫でることを要求するようになって来たのだ。
フィルやリエルにもしていることなのでそんなことでいいのかなと思いつつ、やってあげるととても喜ぶ。そして喜ばれると悪い気はしなかった。
ライはしばらくランの頭をなでながら、居心地悪そうにするイプスに話しかける。
「これは軍師として、義勇軍の隊長に話すことだけど。そちらからジュアン帝国宛に伝令を送ってほしい」
「伝令をですか?」
「送る伝令の内容はジュアン帝国方面から斥候を出すようにと」
「……恐れながら、我々は負けたばかり。本国が対応するとは」
「伝える内容にドリアド王国に不穏な動きあり。ジュアン帝国にも被害が及ぼす可能性ありとも付け加えて。そうすれば必ず動く。というか前提にドリアド王国が進行したことを前提にしていたのに、実際は進行していなかったでは約束の破棄。それを確認するだけでも動く価値はあるはず」
「なるほど、ならばわかりました。すぐに伝令を送りましょう」
そして、ライはランの頭を撫でるのを辞めて手を離す。ランは少しだけ名残惜しそうな、残念そうな表情をするが、ライはランに苦笑しつつ話す。
「ごめん、今は結構情報が必要な時期なんだ。だから早速ランの風影隊にも働いてもらうよ」
「……わかりました」
「また暇ができたら何か埋め合わせはするから」
「わかりました!すぐに手配をいたします!内容は南とドリアド国内、そしてフェレス国、王都のほうを調べればいいのですね?」
「理解が早いね。それでお願い」
「では早速!」
そういってランは影に沈みいなくなってしまう。
一連の会話を見て、まずイプスが言った言葉は
「……女性の扱いがとても上手いのですね」
「……ああ、イプスも同じ状況になってみればわかるよ。数年間数人の女性に囲まれて見れば」
「いいえ、お断りします。いつか刺されるような気がするので」
「刺されるかな」
「英雄色を好むという言葉もありますし、成功例はあるかと」
「いや、けどティア達とはそもそもそういう関係では」
「周りから見ればそうとは思えませんし、というか貴方はそん……いえ、このことは言わないでおきましょう」
「途中でやめるとかよしてくれよ」
「これは私の仕返しでもありますから」
「仕返し?戦争についての?」
「違います……本当に貴方はどこか抜けておられる。そこが魅力でもあり、弱点でもあるのでしょうかね。マリーも惹かれているようですし」
「何を言ってるんだ?最後のほうが聞こえなかったんだけど」
「別にたいしたことではありません。とりあえず、先ほどの件はこちらでも対処させていただきます。ただお願いが、遠風の書を使わせてもらってもよろしいですか」
「それは構わないよ。イプスが裏切るとはもう思っていないからね。ただ今はティアが持っているから受け取ってもらえるかな」
「了解しました。ほかには用件はありますか?」
「特にはないかな。俺はこれからほかの隊長たちにもこのことを話して各自準備をするように伝えていくよ」
「わかりました。では何かわかりましたらまた連絡を入れさせていただきます」
「頼むよ」
二人はそういって会話を終え、イプスは部屋から出て行く。そして足音が遠ざかっていくのを確認してから
「あら、私になんか用があるって感じね?」
そういって、エスティアが空中から姿を現した。ライは視線でエスティアのほうを見ると頷く。
「ああ、ちょっと聞きたいことがね。俺が毒を飲んで倒れることはあっただろう?」
「ええ、そうね」
「後から聞いたんだけど毒入りの飲み物を持ってきたのは決して裏切る人ではなかったと聞いた。けれど実際には裏切った。……もしかしたら宝玉の関与があると思ってさ」
「……さあ、なんとも言えないわね。家族を人質にとられた可能性もあるのだし」
「まあ、確かにそうだけど」
「けど主人であるあなたが気になるのなら調べておくわ」
「よろしく頼むよ。ならもう一つ別の話をしていいかい?」
「何でも」
「最近体調はどう?無理はしていない?」
「……」
エスティアは次こそ黙ってしまった。ライが何を聞きたいか真意を知ってしまったから。
「……別に調子なんて悪くはないわ。宝玉の力もいくつも今ではあるのだし」
「そっか。でも無理はするなよ?これからも頼むよ相棒」
「ええ。安心しなさい」
そういってライはそれ以上追及しなかった。
だけどなぜライはこのようなことを聞いたのか。それは最近エスティアが話しかけてくる頻度が少なくなったこと、そして、氷帝の宝玉を取り入れたはずなのに感情面で何も変化がないこと。この二つが無関係とは思えない。
今はまだ普通に話せるぐらいだし、余裕があるように見えるから黙ってがんばってくれているエスティアには何も言わない。
けれど本当に危険なことになったら説得しなければならないだろう。
「エスティア」
「なに?」
「これから連絡をするがてら、市場に寄ろうか。また何か買ってあげるよ」
「なんだか餌付けされているような気分ね」
「なら要らない?」
「誰がそんなことを言ったかしら。もちろんついていくわ」
素直じゃない精霊に苦笑しながらライはエスティアと共に町へと繰り出す。
二人とも感じていた。
この平和な日常はあともう少しでなくなり、再び動乱の場所へと行かなければならないことを。
こんばんわ、前話ではあとがきがありませんでした。申しわけない。
さて、今回の話ではようやく?不穏な空気が入ってきましたね。もうすぐいちゃラブタイム終了でございます。
まだまだ続くかもだけどね!
ここで、一つお知らせが。
実は活動報告にも書きましたが、実は先日複数の友人と話していたのですが、一つの共有世界を持ちそれぞれの主人公を五人作って、物語を作ってみないかという企画が持ち上がっております。
もちろんこちらをメインとして今のペースで書いていくつもりですが、もし本稼動しましたらお知らせしますのでよろしくお願いします。
ちなみに投稿するとしたら小説家になろうで投稿になると思います。規約にも複数人が共有で使い一人が代表者でアカウントを取るのは許可されているらしいので、自分はその一人としてそちらでもやるかもしれません。
といってもまだ、思考段階なんですけどね。
以上!また次回お会いしましょう!




