第百四十二話 乙女包囲網 後編
記憶が曖昧なまま?店を後にしたライ達は現在道どおりを歩いている。
もちろん、ティア、エミル、ユレイヌの三人はいつもどおりの服装をしている。ただ表情が少しだけ赤くなっているのは察するべき事案であろう。
ライ自身もさっきのことが原因だということは気付いており、微妙な空気だ。
ただこの中で唯一、余裕がある人物がいた。
「さて、では皆様次にどちらに行きましょう」
ユレイヌである。
さすが年長者というべきか、空気を払拭するため行動指針を求めてくる。
これにティアとエミルは恨めしそうにユレイヌを見た。先ほど店の中でライに似合っているといわれて有頂天だった二人だったが、後になって冷静に考えていくと一番得をしたのはユレイヌだということに気がついたのだ。
ましてや格好姿をほめられただけではなく、膝枕までしたとなれば嫉妬心を覚えないということはありえない。
しかし、ティアとしては原因を作った人物、エミルは王族としてのプライドからか表情や行動に出さない(出していないと本人たちは思っている)ようにしており、それをユレイヌも知っているからこそこの状態である。
「……とりあえず、お腹がすいたから軽く何か食べない?」
ライがそういうと渋々という形で二人は頷き、ユレイヌも賛同する。
「そうでございますね。では私が案内させていただいてもよろしいでしょうか?実は屋敷を出る前に情報収集をしたところ、人気のお店があるとかでそこにお連れしようかと思うのですが」
「うん、それでいいんじゃないかな」
「では、皆様こちらにお越しください」
先頭にいたライだったが先導するためにユレイヌが先に歩き始める。ティアとエミルはいまだに不機嫌のままであった。その様子にユレイヌは苦笑をしていた。
それからライ達は後を付いていきたどり着いたところは一つの喫茶店である。
外から見ればあまり繁盛をしていないように見える店だが、ユレイヌに聞くと外と中の違い、中は結構な広さがあり繁盛しているということだった。
その言葉通り中に入るとたくさんの人が料理を食べ、会話をし、笑顔をこぼしている。
店の様子を見たときは、不機嫌だったティアとエミルもやさしい笑顔を浮かべていた。
(こういう人たちを守るために俺らは頑張っているんだ)
ライが思ったこの感情は二人にも間違いなくあるものだが。
ユレイヌはなにやら店主の人に話をすると、ライ達の姿を確認し頭を一度下げてから厨房のほうに下がっていった。ライはこれからどうすればいいのだろうかと迷うが、ユレイヌが奥の部屋を店主が用意してくれたと伝えてくれて全員指示に従い奥のほうへと歩いていく。
これは有名人であるライと王族であるエミル、幹部のティアが店に入ってきて騒ぎになってしまえば落ち着いて食事を取れないだろうという配慮である。入店した時点で何人かが気付いた様子だったが、奥の部屋に入ったことで誰もあえて話しかけなかったことから、正しい判断だったといえよう。
通された部屋には、人数分の椅子と食卓がありティア、ライ、エミルはすぐに座る。ユレイヌもてっきり座るのか思っていたが、給仕に徹すると聞かず結局後半は一緒に食事を取ると、強引にライが妥協案を出すことになる。
さて、ここで三人は一応一段落したわけだが、先ほどの微妙な空気は続いている。
でも、三人は新たに別の考えに移っていたのだ。
(これで俺はどうしろと!)
(な、何だろう。これはどうするべきなの!)
(落ち着くのだ。たかだかこのくらいで動揺してどうするのだ!)
三人がどうしてこのようなことを考えているのかというと、食卓で三人が横に並んでいるからだ。
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| 食卓 |
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テ ラ エ
こんな感じだ。
しかもこの席になったことをライは一番後悔することになる。
「ではまずは前菜からになります」
ユレイヌの給仕で一番最初に出されたのは野菜を使ったテリーヌである。何層かの食材を中心に押し詰めて周りを青野菜で丸め、上にオレンジ色のソースがかけられている。
このソースがまた絶品で野菜を口に入れたときのシャキッという歯ごたえと甘さ。これに加えソースのちょっときいた酸っぱさがアクセントとなり、上手く調合された味を実現していた。
それからもスープ、魚料理、メインの肉料理とだされていき、そのころになると三人は料理に舌鼓をうつ。そう、ここまではよかった。
「ではこちらがデザートとなります」
ユレイヌに運ばれてきたデザートを見て三人はそれぞれに固まってしまう。
デザートは果物をふんだんに使い、それをシロップなどで混ぜ、冷気の魔法か何かで冷やし固めたのだろう。薄い膜で覆われたデザートはスプーンを入れればさっくりと小気味よい音が鳴り、口の中で冷たさと甘さを引き立ててくれるだろうと連想させる。
ではなぜ三人が固まってしまったのか、理由は
「ユレイヌさん、これは、どういう意味でしょうか?」
「見たままの状態ですが」
「いや、でも」
「あ、わかりました」
「!?わかってくれましたか!」
「はい、ですが申し訳ありません。店主の言い分ではスプーンはこれしかありません」
「なんですと!?でもここ飲食店ですよね!ほかのテーブルでは使われてましたよね!」
「それが出ているのが全てらしく」
「補充はされていないのかよ……あーなら誰かの使った奴を待って、洗ってもらってからそれを遣わせてもらわぁ!」
代案を打ち出したとき突如両隣から腕を強く引っ張られる。もちろん引っ張る相手は両側に座る二人、ティアとエミルしかいない。
二人の様子を恐る恐る見ると、それぞれに表情を赤くしつつも咳をしながら話してくる。
「ゴ、ゴホン!あー、うむ、そうかそうか。予備が今のところすべて出ているか。ふむ、ならばこの状況もしょうがない」
「そ、そうだねー。皆全部使われてるんなら、しょうがないよねー。絶対そうだよね!」
「だが、デザートは三つでスプーンはひとつということはこれはどうするべきか。のう、ティア?」
「だ、だね。本当はライの言うとおり待つのも有りかも知れないけど、鮮度が落ちちゃうよね。それは作った人に申し訳ないよね!ユレイヌさんどう思う?」
「もちろんです。料理人の本懐は料理を食べて喜んでもらうことです。そして食べてもらうのは最高の状態を望みます。それを無視して食べないなど暴挙の以外のなにものでもありません」
「ならば、我らは即刻食べなければならない。スプーンが一個という状態は目を瞑ろう。ティアそれでよいな?」
「ううううう、うん。だいじょうびだよ!無問題だよ!」
「……ティア、噛むぐらい動揺しているなら無理しなくても」
「無理なんてしてない!早く食べるの!」
なんだか三人に押し込められるライ。やはり女性関係になると軍師という姿は消失してしまうらしい。
ライは、小声で「二人がいいならいいけど……」といって不承不承だが了承する。なんだか一人だけ反対をしてしまっては子供が駄々を捏ねているようにしか見えなかったからだ。
というわけで、デザートを処理することになった三人だ。意外にも最初にスプーンを握ったのはエミル。
エミルは震える手でスプーンを手に取ると、デザートのほうにスプーンを入れる。するとやはり予想通りサクッという音とともにスプーンが内部に入っていき、必要な量だけが掬われる。それをなぜか固唾を見つつ、見守る二人。
エミルは視線を掬ったデザートを見てとまる。ライから見たら何かしらを考えているようだった。いや、何か心の準備をしているような?
しばらくすると、決心がついたのかエミルはライのほうを見るが……
(おい、待て。何だその目は。俺が何かしたっていうのか、親の仇のような目で見るなよ!)
そう考えたライは次に聞こえてくる言葉に勘違いであったことを知る。
「そ、そういえばライ。お主は先日の戦で大手柄を立てた。これは私個人から、友人としての褒美だ受け取るがいい」
エミルが言って差し出されたのは掬われたデザート。第三者から見たら、戦果に見合った褒美ではないだろう。でも一人の少女としての褒美と考えれば勇気を出した褒美である。
瞬時にライはこれはあの行動ではないかと悟る。
(ま、まさか。仲のいい男女がやるというあーんってやつなのでは!)
こちらも女性に囲まれても、深くまでは進展はしていないライ。あーんを最近された記憶もある。しかし、何度体験しても恥ずかしいものは恥ずかしい。
躊躇して反応がないことをいぶしがってかエミルが催促する。
「ラ、ライ。もしや、私から食べさせてもらうのはいや……なのか?」
このときライの胸に何かが響いた。
いつも強気なエミルが不安そうに、目をウルウルさせて上目遣いで聞いてくるのだ。新鮮な一面を見せられる不意打ちに弱い男というのはライにも当てはまるだろう。
ライは観念した。
「わ、わかった。なら……あーん」
「あ、あーんだ」
スプーンがライの口内に入り、次には役目を終え出てくる。もちろん乗っていたデザートはなくなっている。
正直デザートの味なんかわからない。
「う、うむ。存外これは、は、恥ずかしいものなのだな。ははは」
「そ、そうだね。」
二人とも初々しい恋人のような空気が流れ始める。
が
「エミル、次は私だよね!貸して!」
エミルからスプーンをとると今度はティアが自分の分であるデザートを掬い差し出してくる。
「はいライ。あーんだよ!あーん!もしかしてエミルはよくて私はだめなんてないよね!」
「あ、ああ」
さすがにそんなことはできないと理解していたので今度はライは素直に口を開きデザートを食べる。
目的は達成させたのか、ティアも恥ずかしそうに「にへへへ」というように笑っている。
そして
「なら次はライが私に食べさせてよ!」
そう提案してくる。
(まあ、それはそうなるだろう)
やってもらったんなら、やってあげなければ。
そう思いティアからスプーンを受け取り、ライは自分の分のデザートを掬う。
目を閉じ口を開けるティアにスプーンを入れて食べさせてやる。
「んーーーーー!!!」
よほど美味しいのか、ゆっくりと味わうティア。しかし、するともう一人も黙ってはいないわけで。
「ライ!われにもそろそろ食べさせるのだ!味を知りたくて我慢できぬ!」
催促されるままにライはエミルにもデザートを食べさせる。食べさせたとたんにエミルも「くふふふふ」とティアと同じような反応をしてゆっくりと味わっていた。
そんな中ライは途中から食べることなく二人に食べさせてあげていたのだが、ふと思ったことは。
(なんだか、親鳥がひな鳥に餌をあげてる心境だな)
こんなことを考えていた。
でも、二人が幸せそうに表情を緩め満喫しているのを見てこれもいいかと思い直したのだった。
後日ユレイヌはその話について、
「あの時はええもう。一言で言えば、ごちそうさまでした。という言葉がとてもお似合いでしょう」
こう発言していたという。




