第百四十一話 乙女包囲網 中編
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お店の女性店員さんに案内されて通路を行く先は仕切り用にか、垂れ幕のようなものが垂れ下がっていた。
でも垂れ下がっているといっても本来ならこの付近には女性しかおらず覗き込もうとすれば、中を見ることはできる。幸い?ともいうべきかここから見える位置には先ほど部屋に入っていった三人、エミル、ティア、ユレイヌさんの姿が見えることはない。
しかし、約束からか中に入らないといけないのも確かだ。ライ自身決して枯れているわけではないし、女性、女の子に興味がないといえば嘘になる。だからこれは他から見れば嬉しい出来事なのだろう。けれど、ライにとってはやはりすんなり喜ぶこともできない。
恥ずかしいからか、倫理からかライ自身もわからないが、やはり戸惑ってしまうのだ。
【何をしてるの。早く入りなさい。男なのだから覚悟を決めなさいな】
戸惑っている様子を見て見かねたのかエスティアが急かしてくる。
「あら?もしかしてライ様来られたのですか?」
そしてそれを聞き取れたのか、はたまた気配で気づけたのかユレイヌがライの存在を認識する。
「え!?ライ来ちゃったの!あ、う、ど、どうしよう!?」
「おおおおおお落ち着くのだ。我らがしっかりしなければ、言った手前、し、示しがつかぬぞ!」
ユレイヌの言葉の後ろからはそのような声が聞こえてきた。ティアとエミルだろう。
「や、やっぱりこの話はなかったということにしよ」
ガシッ
あわてて引き返そうとしたライを布の先から伸びてきた手が掴む。掴まれた腕は肘のところまで見えていて、何も布が見えないことから上着を着ていないのだろう。
「ライ様、年頃の男子である以上恥じらいはあるでしょう。ですが私たちも恥じらいはあるのです。それに女には負けられない、引けない戦いもあるのです」
ライとしてはここでそんな戦いをしないでほしいと思う。
しかし、よく考えれば見られるのはティアたちであって自分よりも恥ずかしいのは確かに相手なのだ。ここで尻込みしてはだめだろう。
「……わかった」
決死の覚悟?をして正面を見据え意思を固める。第三者が見れば馬鹿らしいと思えるかもしれないがライには死地に向かうと同義である。
「ではいくよ」
あちらも覚悟を理解してくれたのか掴んだ手を(おそらくユレイヌさん)離してくれた。
目を閉じもう一度落ち着くために深呼吸をして、気持ちを抑えて閉じていた目を開く。
よし……いくぞ!
今ライは布を掴みその中へと一歩、歩き出した!
「や、やっぱりむりいいいいいいいいいいい!」
ガツン
聞こえたのはそのような音かゴトンと聞こえたのは幻聴か、次の瞬間ライの視線はぐるりと変化する。
「な!ティア!何をしておる!」
「わわわ!ラ、ライ!どうしたの!」
「どうしたではない!お主がそれを投げたからであろう!」
「だ、だって!恥ずかしいんだもん!」
「だからといってやりすぎだ!」
「うぅ、それよりもライ!ライは大丈夫なの!」
「そうじゃ、ライは大丈夫なのか!」
二人は責任転嫁をしていたが、ライの状況を考えるとすぐに身の安全を確認する。
この中で一番冷静であったユレイヌがすぐさまライに近寄り様子を真剣な眼差しで確認していた。
「……ふぅ」
そんな騒然の中、ライは薄れゆく意識の中で頭に浮かんだものがあった。
それは色とりどりの白と赤と紫の何かしらの布のように見えたような気がしたかもしれない。
「ん……」
意識が暗くなってから光が再び灯るまでどのくらいの時間を要したのか、ライとしてはわからなかった。
けれど今感じるのは生きていることはすばらしいという思い、意識を失う前に何かしらの決意をしたのではという疑問、そして何かやわらかい後頭部の感触だ。
……え?
ゆっくりと目を開け、一体後頭部のものは何なのかを確認するため手を動かすとそれは触ると同時に「んぅ」という声が聞こえてきて、ライ自身の体が硬直してしまう。
「え?」
「どうやらお目覚めのようですねライ様」
視線を空けたその先にいたのは、ユレイヌだった。それから見上げるようになっている体勢と角度、手の感触、後頭部の感触を考えてみて
「なっ!」
膝枕をされている事実を知る。
「まだいきなり起きてはなりませんよ。本気ではなかったとはいえ頭に当たったのですからしばらく安静にしなければ」
「いや!その、といわれても!」
「あら、ライ様はもしかして私の膝枕では不十分とおっしゃいますか?」
「決してそのようなことは……」
「なら問題ないですね」
伝説の軍師、救国の英雄といわれた人物でもこと女性関係になるとその能力を発揮することはできなかった。
とここで、ようやく気づいたことがある。ユレイヌが衣服を着ていないのだ。
いや、正確には着ているのだがこれは北の、しかも山が多い地域では適した服装ではなく
「……どうしてそのような格好を?」
踊り子が着るような衣装を着ており、肌面積がとても多くなっている。というかこれは下着ではないだろうかと思うが、下着ならこんな穏やかな空気にはならないだろう。ということは何かしらの意味がある衣装なのだろうか。
「この格好ですか?その前にライ様ひとつお聞きしたいのですが、ここには何をしにこられたのか覚えておられますか?」
「ここに?」
……はて、何だっただろうか。よく考えれば自分はなぜここに来たのか前後の記憶がない。確かティアとエミル、ユレイヌさんと一緒に何かのお店に向かう話をしていたような気がするけど。
「……そうですか、わかりました。お教えいたしましょう。」
何かを悟ったような表情をするユレイヌはすぐに答えを言う。
「ライ様には私たちのこの衣装が似合うかどうかを確かめていただくためにお越しいただいたのです」
「衣装?やっぱりそれは衣装なんだ」
「はい、私もよくは存じませんが水の中に入るときに着るものと伺いました」
「へぇ、そんなものがあるんだ」
「それで、その」
とそこでユレイヌの言葉が途切れ途切れになる。どうしたのだろうかと考えていると
「ラ、ライ様、それで私のこの衣装は似合っておりますでしょうか?」
見上げる形のライにいきなりそのようなことを聞かれてもと思う。
「ごめん、少し立ち上がらせてもらうよ?」
そういって膝枕を離れ、ユレイヌさんと正面をきって対峙する。
「ど、どうでしょうか」
いつもお姉さんという感じのユレイヌだが、頬を恥ずかしそうにしている表情からいつもの印象とは違い、新鮮でドキッとさせられる。
たくさんの女の子に囲まれているライ。けれど衣服が似合うかを問われることならまだしも、このように下着のような格好をした姿を問われるなど経験にない。
「……」
けれど何かしら感想を待つように瞳を向けてくるユレイヌに何かを言わなければ失礼だろう。
(そうだ、これはただ感想を言うためだけに見るんだ!やましいことは何もない!)
そう考えユレイヌの格好を見てみる。
ユレイヌが着ているのは白を基調にしたものだ。女の人の体をじっくり見たこともないからなんともいえないけど、その中でも一番目を引かれるのは女性の象徴であろう。
別にライ自身大きさで好き嫌いを判断する人物ではないが、それでも衝撃が走っている。ユレイヌの胸が想像していたよりも大きいのだ。
これはメイド服を着ているせいで小さく見えていたわけである。
よって、何が起こるか。胸を支える水着が前に伸び主張している。目線が言ってしまうのもしょうがないだろう。
「ライ様?」
何も言わないことに気がついたのか、視線を向けたとき、ライの視線がどこにいっているのか気づき
「……!」
恥ずかしさが最大になり思わず体を隠してしまうユレイヌ。
「え、えっと。その!とてもお似合いだと思います……。見とれていました」
「あ、ありがとうございます……」
普段のユレイヌなら「どこに見とれていたんですか?」と冗談を言うこともできただろうが、ここではそんな余裕もなく恥らうように無言になってしまう。
そんな二人の間に気まずいとも、甘いともいえる空気が流れ始めたとき
「ちょっと!二人とも何いい雰囲気出してるの!」
「そうだぞ、ライ!今回の出かける目的は三人の行動に付き合うことが目的だ!だというのにユレイヌばかりに視線がいきおって不公平ではないか!」
どこに隠れていたのか、我慢できなくなったか。奥の部屋から出てきた二人。
二人ともユレイヌと同じような衣装を着ている。
ティアはプロポーションがよく、出るところは出て引き締まるところは引き締まる。身に着けているものはティアの髪と同じ色である赤の水着だ。
対してエミルは白い水着を着ている。ただ、エミルの場合は二人と違い肌面積が少ない。けれど服とは言いがたく肌にピッタリと張り付いていた。形は違うとしてもこれもエミルの魅力を損なってはいないだろう。どちらかというと何かしらの儀式を行うときに着るものではないだろうか。
そんな二人だったが、次のライの一言で出鼻を挫かれる。
「二人ともとっても似合ってるね。一瞬誰だかわからなかったよ」
決して打算なく普通の感想を言ったライ。これを聞いた二人は体をピクリと動かしたと思うとすぐに、顔を赤くしてうつむく。
この様子を見て、エスティアは女は単純、男は鈍感と感じたらしい。ただ、昨日のエスティアのことを見ていて表情と雰囲気を見ていればお前が言うなといっただろうが。
三人の姿を眩しいものを見るように見ていたライ。だったが、ふと頭によぎるものがあり首を傾げる。
それに気がついたユレイヌは問いかける。
「ライ様、何かどうかされました?」
その問いに頭によぎったことを素直に答えた。
「いや、なんかさ。ここにきたのは三人が似合うかどうかで同行したような気もするんだけど、それ以外にさ何か意識を失う前に見たような気がしたんだ」
「え、ライ何を見たの?」
ティアが聞いてすぐにライは答えた。
「なんかわからないけど、色は覚えてるんだよ」
「色?またおかしなことを言うな。色など辺りを見ればたくさんあるであろう」
エミルが聞く。
そして
「いや、なんかさ。色が赤、白、紫だったような気がしてさ。やっぱり気のせいかな。あはは……ってあれ、三人ともどうしたの?」
色を言ったとたんに三人の動きが止まってしまった。
「あれ、皆さん?」
「な、何でしょうかライ様。別におかしいところはありませんよ?」
「いや、でも」
「そうだよーライ。私たちは何もないんだよ?意識を失う前に何かを見ていても忘れてしまったってことはないんだよ。うん、そうだよ」
「そうかな」
「そうじゃぞ!おそらく何もないのであろう。そうであろう!」
「んーかなー」
「そうだよ!」
ここまで言われてはそうなのかもしれない。気にしてもしょうがないだろう。それよりもまだ一日という時間は終わっていないこれからもこの三人に付き合うのだから余計なことを考えるべきではないだろう。
「だな、そんなことを考えるよりももっとこれからのことを考えるようにしようか」
「だね!ならすぐに着替えるから外で待っててね!」
「うむ、待っておるがよい!」
そういって、ライは追い出されるように外に出る。
そのとき、店の中にたくさんの下着があって顔を真っ赤にさせるライだったがそこでも幸いというべきか意識を失う前のことは思い出さなかったのだった。
ただ、一人、エスティアだけが真実を知っているがこれもまた同じ女として、情けも入り無言を貫くのであった。
まだまだ、三人の日常は終わらない。
こんにちは!更新が何とかできました。
そして
……ごめんなさい!自分がヘタレでした!下着回とは思いつつも、下着に近い水着を題材に話を書いてしまいました……。
ただひとつだけ言い訳をさせていただければ自分的にどこまでがこのサイトで認められているラインなのかわからず、過激にならないように、下着でもどこまでが描写で不適切なのかわからず方向転換しました。
引っ張ってこれですみません。
……ですが、ちょっと自分的に言えばこれはこれでいいような気もしているんですよね。
さて、今回の反省はここまでにして次回のことを。
次回はついにエンリデンヌの平穏のお話が最後……か、それとももう数話かを考えてます。数話続けるとしたら今まで個人的なものでしたので、みんなが集まったお茶会、料理回などなど考えてます。
というところで今回はこの辺で。次回またお会いしましょう。




