第百三十七話 少し抜けてるとある騎士様
お楽しみください
「さあ、ライ殿!思い切り打ち込んできてください!」
そんな声が響く場所は、エンリデンヌの軍施設の一つである訓練場。対峙するは隣国アスティールからやってきた女騎士サチ。
そして、迎え撃つは
「はぁ……」
ため息をつくライであった。
しかし、サチはため息をしたことに気がつくことなく目を輝かせて期待に心躍らせているという感じだ。
(どうしてこうなったんだっけなー)
内心思う。本当にどうしてこうなってしまったのかと。
それは時をさかのぼり一刻(二時間)ほど前のこと
昼食時にレーシアとともにサンドイッチを作り朝食をとった後、ティア達と雑談を始めたころだっただろうか。サチが突如やってきたのだ。話を聞くとサチの順番がレーシアの後、午後からだとのことだったので、別に問題はなかった。ティア達も了承していたからか不満な顔などしていなかった。
けれど次の言葉で表情を驚きに変えてはいたのだ。
「これから私と訓練をしてほしい!」
昨日から買い物や料理を食べたりとしていたので、まさか訓練をしてほしいといわれるとは想定になかった。周りもそう思っていたからこそ驚いているのだろう。しかも、ライがこうやって女子たちと一緒に町を回っている理由の一つには休養という意味もある。にもかかわらず、訓練をするのは無理があるのではないかとティア達が言ったのも無理がないだろう。
しかしサチの言い分は
「話では私達一人一人の願いを聞いてくれるということでした。ということは、その願いを決めるのは私のはずです!そしてこの時間は私の時間のはず」
そういわれては女子達も反論できない。
その後は見る見るうちに色々と決まっていって現在に至る。
え?見る見るうちに色々の部分の詳細はって?場所を指定されて、用意して、対峙した。これだけだけど。
ってなかんじで今に至る。
まあ正直このサチとの訓練自体には文句はないんだ。町を回るのがただ訓練に変わっただけで。ただなぁ。
「さあ!ついに対峙する二人!右におりますのはアスティールからやってきた女神の聖騎士、サチ!先のジュアン帝国との戦いでは強大な魔法と鍛え抜かれた技で大暴れ!実力は折り紙つきの彼女が一体どういった戦いを見せてくれるのでしょうか!」
実況席からは女の子が声を張り上げて実況をしている。盛り上げようとしているようだ。
「対して対して!対戦相手は先の戦いでは強大な魔法を使い敵を翻弄!しかもそれだけではなく、知略でも国一番と、非の打ち所がない。味方は幸運、敵は不運の代名詞でもある伝説の軍師!ライ・ジュリアール様!過去にエンリデンヌ防衛線でも我々を守ってくれたことに関しては記憶に新しいでしょう!キャー!あの時はどうもありがとうございましたぁー!」
興奮するように言ってくる女の子に苦笑する。
ただ実況者以外にも多くの声が聞こえてくる。
「ライー!がんばりなさいよー!」
「ライ!不甲斐ない戦いをしたら承知しないぞ!」
「お兄ちゃんがんばってください!」
「がんばるなのー!応援するなのー!」
レーシアのサンドイッチを一緒に食べていた面々も訓練場にやってきて見学しているのだ。ああ、しかし、実況者がそれだけでつくはずもない。
ライは訓練場の入り口のほうをみてみると
「さあ!アスティール王国の騎士であるサチと軍師のライ!どっちが勝つかかける奴はいないか!今の倍率ではサチが上だ!」
と賭博をするダンデがいたり
「ほらそこのやつ、焼き鳥はいらねえか?油も乗ってうまいぜ!」
と商売をするラッシュがいたり。
それに群がり、それ以外の人々、住民、兵士が周りを囲んで大群衆になっている。
どれもこれもサチが兵士に戦うから準備をと指示して、それから広まって後は察してほしい。
ライはもう一度ため息をつく。
「はぁー」
「ライ殿、早くきてほしい!でないとこちらからいきますよ!」
いや、このため息の原因はサチなんだけどねという言葉が出てくるがなんとか飲み込む。サチにとって見世物になることが目的ではなく純粋に訓練をしたいだけだろう。それに、この時間は先の戦いで自分が倒れたことによって迷惑かけたお詫びだ。断る権利もない。
「……わかった。ならルールを再確認するよ。ルールは相手に一撃を当てたら勝ち。当てる手段は何でもいいけど強力な魔法は俺に影響があるからなし。致命傷を与える攻撃はなし。でいいんだよね」
「ええ、それでかまいません」
「魔法も使っていいんだね?」
「もちろんです。というかこちらからそれを頼みたいぐらいですから」
「了解」
そういって、ライは二対のガンドレッドに包まれた両手を軽く握る。サチもこちらが戦闘態勢になったと判断し剣を抜き構える。
二人の会話を見計らっていたのか司会者も今と判断し声を張り上げた。
「どうやら両者会話も終わり戦いが始まるようです!本来ならお互い自然に戦いが始まるのが普通なのでしょう!ですが、ここはお呼びした特別ゲスト様に試合の開始をお願いしましょう!」
二人の間に緊張が高まっていくときゲストという人が試合の開始を告げた。
「それでは試合かいしですよー!」
「はぁ!?」
声を聞いて思わず叫んだのはライだった。それもそのはず。今聞こえた声は、一度しか聞いたことがない声。しかもここ最近、エスティアと共に聞いたはずの声なのだから。
でも試合開始されたことには変わりない。
「ライ殿!余所見をするなど余裕の現われですか!」
いきなり間合いを詰めたサチは剣を振り上げて切りかかってきた。
隙ができていたライはこれを何とか横に飛ぶことで回避。あ、危なかった。
「おっーと!開始と同時に動いたのはサチ!なにやら同様をしていたライ様の隙をついて攻撃をしたようですが、それを何とかライ様が回避したようです!」
「動揺したのがなぜかわからないですよー。ただ、あの人は私が見込んだ人なのでここで終わってほしくはないですよー」
「そうですね!これからの戦いに期待しましょう!」
(動揺したのはお前のせいだよ!)
心の中で叫ぶものの声に乗せることはできない。
目の前では連続で攻撃してくるサチがいるのだ。強い攻撃は体で避けて、軽い攻撃はガントレッドで受け止める。しかし少しでも気を抜けば負ける。
「ライ殿!もっと私を楽しませてください!それともこの程度なのですか!」
挑発するように言ってくるサチ。いつもの様子と違う感じだが……ライ自身も男子だ。女子に言われたままにするのは気分がよくない。
攻撃をしのぎきりながらライはお返しとばかりに言った。
「がっかりはさせないよ。どうしてそんな焦っているのかわからないけど……君を倒す。まずは小手調べとしていこうか」
そういって、ライは白帝の壁を使用しサチの攻撃を弾く
「くっ!」
でもこのことは想定内だったのか、一度だけ後ろに下がると再び突撃してきた。
(壁があるのはわかっているはずなのに突っ込んでくるか。ってことはたぶん)
そう思いつつ、ライは軽く体を左に動かす。
しかし、その動きを関係ないとばかりに進んでいきサチは剣を振りかぶって攻撃!壁にあた……らない!
「どうして!?」
これにはティア達も驚いていたようだ。白帝の壁はいままでほとんどの攻撃を防いできた。なのにあたるどころか通り抜けるなど、ありえないからだろう。
こうなると壁の向こうにいたライは無防備だ。
「あー!これはライ様絶体絶命の危機です!あなたはどう思いますか!」
「……これはサチの負けですよー」
「へ?」
ゲストの言葉に意味がわからないというふうに声を上げた実況者、ほかの周りも今目の前で起きていることをみてそのような言葉はいえないだろう。
ライを除いて。
壁をすり抜けた剣はついにライの眼前に迫り首元で止まる。
「ライ殿!これで私の勝ちで!?」
誇らしげに告げようとするサチ。
そして
「うっ……」
その場に蹲った。
サチの横には今まで正面にいたはずのライがサチの背後に立っていたのだ。
「な、な、な、なんと!これはどういうことでしょうか!先ほどまで絶体絶命の危機だったはずのライ様!ですが、倒れたのはサチです!しかも私の見間違えでしょうか!ライ様の体が瞬間移動したように突然現れたように見えたのは!」
場外ではざわめきが起こり、今の勝敗について原因がわからず様々な憶測が流れている。これには長いことそばにいたティアやエミルたちですらわからない。自分達の目にもライが追い詰められていたようにしか見えなかったのだ。
この広場に真実を知るものは少なかった。
サチとライ、エスティア、そして仮面をつけた少女。
サチは痛む腹部を軽くさすりながら立ち上がり、ライに話しかける。
「まさか、私の十八番で負けるとは思いませんでした」
ライは言葉を聴いてどうやら今の原理を理解したらしい。
「ぶっつけ本番だったけどね」
「確かにそうだったんでしょうが、光の魔法を使って位置を誤魔化しているとは。ただ、一つわからないことがあるのですが」
「なに?」
「なぜ私があなたの壁を通り抜けることを予測できたのですか?」
「え、通り抜けるってよりかはサチも魔法を使ったでしょ?まさか光の屈折を九十度変えて幻を正面に、本物を右に配置……するだけではなく左にも幻を一瞬だけ出すとは思わなかった」
そうなのだ、あの時一度引いた後突っ込んできたサチは途中から幻だったのだ。本物は右に走り壁を迂回していた。それだけではなく左にも惑わすために幻を作った。
その後、壁を通った風に見える幻と本物が合流した。
「でもそうだね。あえて言うなら予測はできてもできなくても最初からやるつもりだったから。こっちも幻を使って逃げることは」
「なぜ?」
問いかけられてライは苦笑しながら答えた。
「以前ヴェトリアに壁を貫通させられてさ。ヴェトリアの武器は光関係だった。ならサチももしかしたらと思ってさ」
「なるほど……」
そこでようやく納得したのか、難しい顔をしていたサチはなんだかすっきりしたような表情を浮かべてうなずいた。
「わかりました!では私はこれからライ殿の妾となりましょう!」
「は?」
「「「「「はあああああああ!?」」」」」
「なんということでしょう!私にもわかりませんがいきなりサチ選手がとんでもないことを!というか、そんなの私も知りませんけどどういうことですかー!」
いきなりの爆弾発言に動揺する会場に動揺するティア達。
その反応にサチは首をかしげる。
「ん?このような決闘に負けた場合、勝った相手の命令に従うものだと昨日遠風の書で王女様が言われていたのだが」
「いや、まて!だからってどうして妾になるんだよ!」
「ま、まさか奴隷になれと?」
「どこをどうしたらそうなるんだよ!」
「そ、そうかその気はないのだな。少し安心した」
「人の話を聞いてるのかサチ!」
先ほどまで訓練場は騒がしかったが、それ以上に騒がしくなり始める。そんな中
「ちょっとライ!どういうことか説明を求めるよ!」「ライどういうことだ!しっかりと説明をするのだ!」「ライ様?返答によってはとても面白いことになりますわよ?」
発言していない、というか被害者であるはずのライに集中砲火がやってくる。
「俺だって知らないぞ!」
言い訳をしても聞いてくれる人がいない。原因を作ったサチは
「王女様、私がんばります!」
と決意を何か固めているのだった。
この日、ライが体験したことは集中砲火のすごさとサチが見た目に対して少しだけ抜けている。そんな事実を再確認できたということであった。
こんばんわ、今これから研究のほうにいかなければならないのであとがきはなしでお願いします。
あと、少しだけ書くとすればサチのお話はこれでいいんでしょうか。ほかの子に比べてちょっとだけ不完全燃焼かもしれません。
ということで、また次回お会いしましょう!ちなみに、コメントのほうは見ましたがまた後日返信いたします。申し訳ありません。




