第百三十五話 一つのお洒落とお弁当
お楽しみください。
ティアとリエルと共に楽しんだ翌日。
昨日と同じように部屋の中で待機をしているライ。果たして今日は誰が来るのかとはらはらしつつも、ベッドの上に腰掛けながら昨日のことを思い出していた。
本屋で過ごした楽しそうなティアの様子を、お菓子を買って幸せそうに食べるリエルの姿を。
すると自然と顔が笑みを浮かべてしまうことはしょうがないだろう。
コンコン
考えているところに扉がノックされる。
「どうぞ」
どうやら今回の女の子が来たようだ。こういうと何様だと思われるかもしれないけど事実なんだからほかに言いようがない。
「ライ様、失礼しますー」
そういって入ってきたのはヴェトリアだ。
「あれ、ヴェトリア一人?」
「いいえー違いますよー。私は午後からの時間を頂いたのでー、勇気が出ない一人の案内をしてきたんですー」
首をかしげるライを無視してヴェトリアはいきなり剣を取り出すと地面を見ながら
「ほらーいい加減に観念して出て着ないさいー!」
剣を地面に、正確には影に振りぬくと影の中から人影が飛び出してきた。
「ヴェトリア様!一体何のつもりですか!その武器は洒落になりません!」
「あらーなら最初から普通に出ていればいいではないですかー」
「いや、それは、そうかもしれませんが。でも実際私はライ様にこういってしてほしいことなど」
「でもエミル王女様も仰っていたでしょー?皆平等にするために、何かしらをするようにとー。もしここで行動しなければ嘘になりますよー?」
「うぅ」
「ということでライ様ー、最初のお相手はランちゃんなのでよろしくお願いしますねー。あ、お昼は気にしないでください。でわー」
言いたい事だけを言うとさっさとヴェトリアは出て行ってしまった。
部屋に残されたのはいつも通りの格好であるランとライだ。二人の間には少しだけ気まずい雰囲気が流れるも、最初に口を発したのはランだ。
「え、えっと、ライ様?どうしましょうか」
「んー、とりあえず行こうか」
「あのどこに?」
「ランはどこかに行きたいところはある?」
「私は別にありません」
「え、本当に?おいしいものが食べたい……ってのはヴェトリアが用意するから無理としても、何かほしいとか見たいとかも?」
「特には、今まで私は任務を中心に生きてきましたから」
「そっか」
ライはそういいつつ、少しだけもったいないと思ってしまう。自分の周りには魅力的な少女たちが大勢いる。それはもちろんランにも当てはまる。しかし、彼女らとランは少し状況や態度が違う。
自惚れておらず、ティア達は自分に形はどうあれ好意を寄せてくれている。でも、ランは俺に対して好意があったとしても、それを見せてくれることは少ない。というか、ラン自身がそういうことに興味がないという感じである。
ライは唸りながらどうしようかと考えていると、昨日歩いた道と今目の前にいるランの姿を見て、ふと聞いてみたいことを聞いていた。
「そういえば、今日もいつもどおりの服なんだ」
「はい、私は裏を生きるものです。いつ何時襲われる可能性、お守りする可能性があるなら町娘が切るような機動性に優れないものは着ないようにしております」
内心ライはその代わりに華やかさが優れることになると思うのになと考える、が口にはしない。仮にしたとしても頑として断ってくるだろう。
ここまで来るとなぜかどうしてもランにお洒落をさせたくなり始める。ただランが納得するような形で。
「……そうだ!」
一つライはひらめく。その様子を不思議そうに見つめるランだがライはすぐにランの手をとって歩き始めた。
「え!?あの、ライ様!?」
「いいからいいから!」
今日も一日ライの甘い日常が始まる。
それからライに引かれてやってきた場所は、なんとことない普通の広場であった。と言っても、活気があり小さな村ではないので、道の端を多くの商人や露店が出され呼び込みの声が飛び交っている。
「ライ様、一体どこに」
「もうすぐだよ」
ほとんど何も知らされずについていくランは首をかしげて戸惑う。
(この先は確か、大型の本屋ともっと先に行けば住宅外、露店が少しあるだけで別に物新しいのはないはずですが)
ランはいつでも守れるように、そして逃走できるように町の配置は記憶している。よってこの先に面白いような所はないはず。しかし
「……」
ライのほうを見ると、なにやら自信がある様子。さらに首をかしげることになるラン。そんな時、ようやくライは歩いていた足を止めた。
「ついた!」
前に行くライの声を聞いて意識を思考から目の先へと視線を向ける、そこには
「わぁ」
思わず口に出てしまうラン。すぐに自分の言葉に恥ずかしくなって身を縮ませるが、片手を解放されていないので中途半端だ。
しかし、それもしょうがないだろう。
目の前には様々に輝く宝石が敷き詰められた箱があったのだ。
ライとランが来たことをしった露天商の男は笑顔を向けながら話しかけてきた。
「おやおや、これはまたお若いお二人が来たものだ。さて、お二人さんは何をお求めで?」
「ラン、何かほしいものがある?」
露天商の男の声を中継するようにライはランに問いかけると、ランは少し驚く。
「え、いえ!別にそんなお心遣いは結構です!それに、私は暗部。このような光り輝く目立つものを身に着けるなどもってのほかです!」
強く反対すると、ライが小声で「んー駄目か」と呟いていた。何が駄目なのかわからないが、思惑と違ったのだろう。
と、ここで露天商が声を再びかけてくる。
「おや、珍しい反応をされるお嬢さんだ。女子と言うものは光るものを好む。ここに来るお客さんはほとんどが目立つものを求めていくんだけどねぇ、それに目で楽しむと言う方法もあるんだよ?」
「そ、それでもやはり目立つものは」
「ふむ」
ランの話を聞いて考え込む露天商。と何かを思い出したように。
「そうだ、お嬢さん。お嬢さんは目立たないものだったらいいのかい?」
「目立たなければいいといいますが、宝石類でそんなこと」
「いやいや、実は一つあるんだよ。さっきも行ったように目立つものが売れるから出してもあまり売れないんだけどねぇ」
といって、露天商は後ろにあった袋から一つの箱を取り出す。そして中から出てきたのもは
「黒い石?」
何も変哲もない黒い意思がそこにあった。いくらか加工はしてあるのだろうが、石がついたブローチとでもいうべきだろう。でも、これでは別の意味で目立ちそうだ。
でも露天商もこちらが考えることを読み取ったのかニヤリと笑いつつ一言呟いた。
「ブレイン」
すると、突如黒い石は光を放ち周りを白く染める。しかし光が収まった後そこにあったものは黒い石ではなく
「宝石?」
「ああ、そうだよ」
露天商の男はいたずらが成り立ったと言うように笑いつつ、宝石を差し出してきた。思わずそれを手にとってしまう。
「それは少し特別な石でな。人の言葉を認識して姿を変えるんだよ。ただ、何でも言葉を認識したら困るから今はブレインという言葉で石と宝石に変わるってぐらいしかできないけどな。ある一種の魔法装具でもあるけど戦闘用に使えないってことで売れ残ってるんだよなー」
目の前で説明してくれる露天商、しかしランはどこまでも黒い、でもどこか吸い込まれるような美しさを持つ宝石に釘付けだ。
(なんて綺麗なんだろう)
今まで色々な目立つ宝石を見てきたことはある。でもどんなものでも心奪われるものはなかった。これからもないとは思っていた。
けれどこれは違う。いい証拠に目が離せない。思わず受け取ったこともその証明となるだろ。
「おーい、ラン?ランー。大丈夫か?」
「え!?」
途中から聞こえてきた自分を呼ぶ名前に驚くラン。対してライはようやく反応があったことに安堵しつつ、話しかけてきた。
「ならそろそろ移動しようか。ここまで来るのに結構時間かかったから今から戻らないとヴェトリアの約束に間に合わないよ」
「あ」
そこで結構長い時間ここにいたことに気がつく。手に持つ宝石を残念に思いつつ戻そうとすると
「うん?何で戻すの?」
「え、いや、でもこれは商品ですので」
「あー、それはもう買ったんだよ。そしてランにプレゼント」
一瞬言葉を失った。驚きから。
「プレゼント?」
「そうだよ、誰から見ても気に入ったとわかるぐらいだったし。……元々の目的であるお洒落させるってことも達成できたしね」
後半は小さく呟くライ。ランは前半しか聞こえなかったけどそこは気にしなかった。ただ時間が立つほどに嬉しさがこみ上げて来て自然と笑みが零れる。
「じゃあ行こうか」
そういって手を差し出してくるライ。
対してランも自然と手を伸ばして手を握り合う。片手にはライの手の温もりを。もう片方には硬くも、この日を忘れられないだろう思い出の品である黒く輝く宝石を。
ランと宝石を買いに行って再びお屋敷前に戻ってきたころには、昼食の時間帯となっていた。
ヴェトリアとの約束した場所はここなので、待つしかない。
ちなみに、ランはここに到着するとすぐにどこかへと行ってしまった。お昼ぐらい皆で食べないかと誘っても
「次はヴェトリア様のお時間なので、それでは」
と言い、影の中に入ってしまった。
でもいつもよりも表情が柔らかく、頬と耳が赤かったから喜んでくれているんだろうと判断して引きとめはしなかった。
「ライ様ー」
するとここでお屋敷の中からヴェトリアの声が聞こえてくる。右手には風呂敷を持ちながら。そして目の前に来ると笑顔を向けてきながら話してきた。
「すみません、ちょっと準備に戸惑ってしまいまして。ですが用意はできたので早速いきましょうー」
返事を返すよりも早くライは腕を組まれて歩き出す。ただ
「え、ヴェトリアそっちはお屋敷の方向だけど?」
歩き始めた方向は町のほうではなく屋敷の庭だった。
「はいそうですよー」
返事を返すヴェトリアは別に問題はないようだ。首をかしげるライ。一体何をするのかわからずとも、ついていけば判るかと考えしばらく歩いていく。
するとしばらく歩いたその先には木の根元に敷物が敷かれている。目的はそこらしい。
「着きましたねー」
予想通り敷物の前に来ると、靴を脱ぎ敷物に座る。
「ライ様ーお早くお座りになってくださいー」
ライも進められるがままに腰を下ろすと楽しそうにしたヴェトリアが話しかけてきた。
「んふふー!やっとライ様とお喋りできますねー」
「え、いや。結構話してると思うけど」
「でもでもー、こうやって落ちついて離すのは初めてですよー?」
そういわれて、事実だと言うことを思い出す。ヴェトリアと出会ったのはジュアン帝国と戦争が始まった初期。今回が平和な日常とするなら確かに初めて落ち着いて話す機会となる。
「いわれてみれば。で、今回の向かう場所が落ち着いたここってことは察しがついたけど、本当にここでいのか?別に町でも」
「町だとどこで邪魔が入るか判りませんしー、周囲がうるさいよりは静かなほうがいいですよー。それに」
「それに?」
「落ち着いて食べてほしいのでー」
と言われながら出されたのは、何かの風呂敷だ。
差し出された風呂敷をヴェトリアがあけていくと中からは
「じゃじゃーん」
中には小さめのお弁当が用意されていた。じゃじゃーんといわれたのはあまり豪華なものではないなーと苦笑しつつも、ありがたく嬉しい事に変わりがない。
ヴェトリアのほうはと言うと、こちらの様子を気にしたふうもなくお弁当を差し出してくると、ライはそれを受け取る。ヴェトリア自身もお弁当を持つと
「それでは頂きますー」
そういって、木製のスプーンでおかずを掬い取る。
ライも習ってスプーンをとりお弁当を見るが
「……ん?」
少しだけ違和感を感じた。
「どうしましたー?ライ様」
こちらの声に反応してきたヴェトリア、ただライがスプーンを持ったまま動かないことからどこか不安そうな表情をしている。作り手として不手際があったのかと不安なのだろう。
でも、決してそういう違和感を感じたわけではない。どちらかと言うと
(どこかで見たことあるような)
自分の記憶を頼りに思い出していく。だけど思い出すことはできない。とりあえずスプーンで掬い口に持っていく。その様子をヴェトリアも慎重に見ていた。
口に運んだジャガイモはまだ作りたてなのかほんのり暖かい、そこに少しした調味料と塩が入っているのか、風味があり少量を食べただけでも満足感を得られる。
「ど、どうですか?」
珍しくおどおどした口調で聞いてい来るヴェトリア。それに対してライは返事を返した。
「うん。美味しいよ。昔と、あのときに食べたお弁当と変わらない」
思い出した内容と共に話す。すると、ヴェトリアは驚いたような表情をしつつ、
「いつから気がついておられたのですかー?」
「気がついたのは食べてからかな。そういえば長い道のりでこの料理を食べて美味しく腹持ちがしたことを思い出したんだ。そして、このお弁当を用意してくれたのはヴェトリアだ」
言葉を伝えると、両手を胸の上で握り嬉しそうにうなずいた。
「覚えていてくださったんですねー!」
「見たときから気がつけばよかったんだけど」
「いいえ、十分ですよー。逆に数年前に一度だけ食べたお弁当のことを覚えてくれていた。この事実でもとても嬉しいですー。私もっとライ様のことを好きになりましたー!」
そういって、ヴェトリアは飛び掛らんとするごとく動こうとしたがふと動きが止まり、元の位置へと戻っていく。
「ご、ごほん。感極まった余り約束を違えるところでしたー。危ないところでしたねー」
「約束?」
「別にライ様は気にしないでくださいー」
「そう?」
「はいー、それよりも私としてはもっとお料理の感想を聞いてみたいですー!」
飛び掛ることはないが顔と体を至近距離に近づけてくるヴェトリアにドキリとするのはしょうがないと言うもの。でもこれも何も邪気のない行動とわかれば好ましく思うライ。
ちょっとだけ恥かしさを覚えつつも、二人、ライとヴェトリアは楽しい昼食を昔話を交えて食していくのであった。
こんばんわ。ここで一言。
報告書の締め切りがががががががが!一週間を切ってしまいました。そこを抜ければとりあえず時間に余裕ができると思います。
それまではあとがきはお休みさせてください。物語を書くのだけで少し精一杯な感がありますので。と言っても後一回~二回の更新を過ぎればあとがき復活できるのでしょうけどね!
ではこのへんでまた次回に!




