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第百三十四話 本屋パニック、お菓子の隠し味

お楽しみください

 ライが目覚めてから数十日後、国盾の砦は予定通りエンリデンヌへと到着する。到着するときに町に混乱があったかというとそういうことはなかった。それは、ドール伯爵に承認をしていたことと以前ライがエンリデンヌ防衛線で活躍したのが大きいだろう。


 そんなライは到着してから数日でようやく、行動ができるほどに回復した。動けない間にたくさんの見舞い客やエミル達が来てくれたので退屈せずに済んだのはありがたい。


 でもそれは今日まで。今日からは例の約束を果たすために動くのだ。


 何でもいうことを一つ聞く。


 本来ならばフィルとリエルと直接約束したこと。しかし、全員にばれて全員に適用されることになった。もちろんライとしては、贔屓をしているようにも感じられ文句はない。


 でも、それぞれ個性的な少女たちがどのように接してくるのかが少しだけ心配ではある。


 コンコン


 そう思いつつ、ドール伯爵に用意してもらった部屋で着替えながら待機していると扉を叩く音が聞こえてくる。


 「どうぞ」


 返事をすると、扉はゆっくりと開かれた。そこにはフィルとリエルがいた。最初に約束した速さで言うとこの二人だったから最初に一緒に行動することになったのだ。


 「ああ、二人ともきたん」


 しかし、ライはそこで言葉をとめる。


 「あ、あの。お兄ちゃん?」


 「ライ?」


 言葉を途中で止めたからか、二人とも心配するように、でも何かを期待するような視線を向けてくる。


 「あ、ああ」


 ライは驚き硬直していた。原因は二人の格好だ。


 リエルは銀髪の髪をいつも通り左右に結わえているが、髪を止めるための紐がいつもと違う。いつもは戦闘用か単一色なのに、今は色鮮やかな花のついたリボンをしている。それが、リエルのいつもの雰囲気とは違い、とても可愛らしい。だが、もちろんそれだけではない。服装が戦闘服ではないのだ。服装は白を基調とし、フリルが沢山ついていた。人形に着せられているような服だけどリエルが着ると、生きている人形が着ているように、とても美しく目を奪われる。


 「お兄ちゃん?」


 対して隣にいるフィルは髪のほうには何も飾られていないようだが、代わりに茶色の帽子を被っていた。帽子にはリエルと同じ花がついていることから、もしかしたらどこからか買ってきて取り付けたのかもしれない。服装は黄色を基調としたものだ。フィルにしては結構大胆な色だなと思うけどよく見れば、いつも冷静にだけど、本来は元気な様子も見せることもあるからある意味新鮮な格好に目を奪われてしまう。


 「……リエルちゃん、どうやらお兄ちゃん驚いてるみたいですよね」


 「(コクコク)」


 「お兄ちゃん、何か感想とかその、ないですか?」


 そういわれてライは我に返ったように反応し、咳をしながら返事をする。


 「あ、ああ。うん、二人ともすっごく似合ってるよ」


 そういうと、フィルは笑みを浮かべリエルも微笑を浮かべる。二人とも喜んでいるようだ。


 ライは少しだけ視線をそらしながら二人に聞いた。


 「そ、それにしても本当に二人一緒でよかったのか?てっきり一人づつと思ったんだが」


 「本当ならそのほうがいいんでしょうけど、今は戦時中ですからいつエンリデンヌを出て行かないといけなくなるから判らないんです。なら、時間を短縮して多く触れ合えたほうがいいと思いまして」


 「ふ、触れ合う?」


 「……へ?あ、ああ!いえ、あの、そうじゃなくてですね!触れ合うというのは、交流という意味であって、物理的なものではなくてですね、あの、うっ~~~~!」


 自分の発言に混乱したのか涙目にしつつ睨んでくるフィル。それにライは笑いながら謝るとフィルは「お兄ちゃんは意地悪です!」といってそっぽを向いしまった。


 苦笑しつつ、どうやって機嫌を直してもらおうかと考えているとリエルが隣にやってきて、いきなり腕を引っ張ってくる。


 「リエル?」


 「時間は有限。だから早く行こう」


 と、少しだけ不機嫌そうに言ってくるリエル。何か怒らせたかな?と思うがライには判らない。


 対してそっぽを向いたはずのフィルはリエルの行動に気がつくと「あっー!」といってからすぐにライの反対側に来てリエルと同じように腕を取る。


 「え、えっと?」


 「お兄ちゃん早く行きましょう!時間はリエルさんの言うとおり有限なんですから!」


 「あ、うん」


 さっきの態度からこの変わり身は早すぎないかと思いつつも言葉を飲み込むライ。今日は自分が主役ではなく二人が主役なのだ。いちいち反応していたら本当に時間が無くなってしまうだろう。


 「わかったよ。ただ、これからどこに行くかは決まってる?」


 訪ねると二人は頷く。


 「一度リエルちゃんと話し合ったんですけど、私はお兄ちゃんと一度本屋に、リエルさんはライさんとお菓子屋さんに行きたいとなりまして。それなら午前中本屋に、途中昼食をとってそれからお菓子屋さんに行こうとなりました」


 「(コク)」


 「そっか、二人が決めたなら異存はないけど……でもそれってよく考えると俺に何を頼んだことになるんだ?」


 「お兄ちゃんには私たちと一緒に行動してもらう。これがお願いです」


 「そんなことでいいの?」


 「はい……というかそれこそが願いなんですけどね」


 「ん?」


 返事の後の言葉が小さく聞こえなかったが、すぐに顔を上げたフィルは笑みを浮かべ腕を引っ張る。


 「ライ、早く行く。お菓子が私たちを待ってる」


 リエルも急く様に引っ張ってきた。


 「はいはい」


 そういって、一日目のライと少女たちによるデート?は始まった。



 まず三人が向かったのはフィルが提案した本屋だ。北の重要拠点であるエンリデンヌだから本屋の規模は結構大きく、人も多い。到着したときにフィルが教えてくれたことによるとここは王都にも引けをとらない規模らしく、東西南北へと道が繋がっていることから、商人もくることが原因のようだ。


 「わぁ~!あ、あっちの新刊も出てるんですね!あ、この本の続きも出てます!あれは、なかなか入荷しないといわれている本です!わぁ!わぁ!」


 到着してしばらく見回っていると、普段冷静に見えるフィルは年頃の少女相応にはしゃいで目を輝かせている。でも、なぜか言葉が出るだけで腕を放そうとはしない。


 「フィル?俺はここで待ってるから行ってきてもいいんだよ?」


 すると、今まではしゃいでいたフィルはさらに腕を抱え込んで怒るように言ってくる。


 「それじゃあ、今日の意味はないじゃないですか!私はお兄ちゃんとここに来たかったんですから!」


 「まあ、そっか。なら順番に見ていく?」


 「はい!ならまずはあっちから行きましょう!」


 そういって、三人は様々な本を見て手に取り話していった。本というものは本当に沢山のものがある。日常に使われるものは指南書、はたまた軍略書など。しかも同じ内容だったとしても著者が変われば見方は変わってくるのだ。ということは、呼んでいるほうも感じ方は変わってくる。


 フィルは一冊一冊をとっていき、常にライに意見を聞いてきた。内容は本当に沢山で、ある政治情報だったらどの国では近年海産物が取れたから、フェレス王国では何を使って貿易をすればいいかとか。流行の本をとれば「これはかわいいと思いませんか!」といいつつ、貴金属類や宝石関係の書籍でも感想を聞いてくる。


 でも、そんな中一つだけ困ったことがあった。人は気分が高揚すると周りが見えなくなるとは言うが。

 

 「お兄ちゃん、これはどう思いますか!」


 そういわれて表示された書籍を見て、ライは噴出す。


 「え、はぁ!?フィル、ちょ、それは!」


 ライが慌てた様に喋るとフィルは「??」というように首を傾げ不思議そうにライを見ていた。


 だが自分の持っている本のほうに視線を持っていき中に書いてある内容を覗き込んだフィルは



 「~~~~~~~~~っ!?」


 次の瞬間顔を真っ赤にしてあわあわしつつ、ライに


 「これは、違うんです!し、下着の本だなんてわからなくて!私は服のことについて聞きたくて!だから、こんな!こんな下着なんて!」


 しかも、運が悪いことにとても際どい下着の絵が描かれていたのが致命的だ。


 「ち、ち、ち、違うんです~!」


 顔を真っ赤にし手をブンブンと上下に振って弁明したと思ったら、フィルはその場から全力で走っていてしまった。遠くから


 「あわ~!?」


 という声とともに何かが崩れる音がして、「すみません!すみません!」という声が聞こえてくる。おそらく何かに躓いてものを崩したんだろう。


 「ま、まあ、うん。間違いだったんだよな。ならとりあえずフィルを追いかけて一緒に謝ろう。リエルもいいか?」


 「(コク)」


 ずっとフィルに遠慮をしてか静かにしていたリエルは頷き同意を示してくれた。


 それから、ライとリエルが向かうとそこには顔を真っ赤にしつつも謝るフィルと困った顔の店主の姿があるのであった。



 しばらくして、本屋でほしい本を買い店を出ると軽く昼食をとり、今度はリエルの希望であるお菓子屋さんに向かうことになった。


 ただ


 「は、はぁ~」


 フィルはまだ本屋のことを引きずっているのかため息をついている。


 「フィル、誰でも失敗はあるんだからそんなに落ち込むなって」


 「で、でも」


 「ほら、店主の人も気にしなくていいといってたでしょ?経営者が許可を出したんだから問題はないよ」


 「うぅ~」


 フィルとしては店に悪いことは悪いと思っているのだが一番は、ライに向けて下着のことを聞いたことのほうが衝撃が大きかった。しかしそこまでライは察することができなかった。


 とここで


 「着いた」


 リエルがそういうと、ライは目の前にある建物に目をやる。


 「うわ、これはすごいな」


 目の前には、宣伝の為か商品であるお菓子が並べられていたり壁には作り物だろうが、クッキーやケーキ、飴玉をモチーフにした建物があるのだ。いわゆるお菓子の家とでも言うのだろうか。


 「ライ、早くいく!」


 珍しく興奮しているリエルに引っ張られながら店内に入ると中には家族連れや子供が多くいた。この時代砂糖は貴重品である。だから、王都ならまだしもほかの店では大々的には店を開くことすらできないだろう。しかし、砂糖を使うお菓子は庶民だけではなく貴族たちの嗜好品でもあるのだ。そしてお菓子は作るものだ。だからドール伯爵は王国や近隣の貴族に相談を持ちかけお菓子屋を経営させることを提案したのだ。それがこのお菓子の店、『甘い誘惑』だ。


 でもそれだけ聞くと、貴族のような大金持ちしか食べられないかと思うかもしれない。しかし、そうではない。たとえば品の痛み具合や形が崩れたものができた場合貴族に納品することはできない。そういう時は、ある程度安くして提供するのだ。それでもやはり値段はするが、貴族しか食べれない物を食べれることは魅力でありお祝い事に買っていく家族もいる。


 よって、お菓子や甘いものが大好きなリエルには天国なようなところだろう。普段甘いものを食べないライでも店内に入ったときから漂ってくる甘い匂いが気になり、食べてみたくなる。


 「なるほど、確かにこれは甘い誘惑かもしれないね」


 「ですね」


 ライの呟きにフィルは頷くが、リエルは興奮したようにあっちこっちをキョロキョロしている。


 「リエルは何か食べたいものある?」


 「全部食べたい!」


 「う~ん、さすがにそれは予算的にまずいかな」


 一応ライは給金のようなものは貰っていないが、今回の約束の件でキャサリンに組織に貢献したってことの褒章ってことで少なくないお金を貰っていた。途中


 「これで皆と楽しみなさいな」


 と言っていたから、そういうことなんだろうけど。ただいま大量に使ってはこの後足りないということになってしまい困るだろう。


 「よし、ならリエル。この店にあるお菓子から三つ選んで」


 「三つ?」


 「そうだよ。三つ買ってあげるからさ」

 

 「!?本当!?」


 「ああ」


 「なら、あっちに行く!」


 ぐいぐい引っ張っていくリエルにライは苦笑しながら歩き、フィルも笑みを浮かべながら楽しそうに後を突いていく。


 そのまま店内を甘い匂いに囲まれながら歩いていってリエル達は大いに楽しんだ。花細工のようにきれいなお菓子があり食べるのが勿体無いと思うものであったり、形は無骨なのに中には砂糖が絡んだ甘い蜜が入っていたり、はたまた新鮮な果物を蜂蜜でつけたものがあったりと。


 こんなに多くあるのに三つを選べといわれたリエルは悩んだ末に何とか三つを選び出しそれをライに買ってもらうのであった。


 そんなことがありお菓子屋から出て少し離れた場所でベンチに座る三人。フィルは本を楽しそうに抱え、リエルはライに買ってもらったお菓子を持って嬉しそうにしていた。


 とそこで何かを思いだしたのか嬉しそうに抱えるお菓子の封を切ってあけてしまう。


 「リエル自分の部屋に帰ってからでもいいと思うけど」


 そういうが首を横に振ってガサゴソと何かをしているようだった。そして、目当てのものを見つけたのか取り出すとそれをライとフィルに差し出してくる。


 それは、何のことはない。クッキーであった。


 「二人にあげる。食べて」


 「え、でもこれはリエルに買ってあげたんだし気を使わなくてもいいんだぞ?」


 「そうですよ。自分で食べても」


 「いい、皆で食べるとおいしい。それにそのつもりで買った。それにこのお菓子は、私やライとの思い出のお菓子。一人で食べるのは寂しい」


 そういわれてライはあることを思い出す。色とりどりで沢山のお菓子の中、なぜかリエルはあの店ではあまり目立たないクッキーを選んでいた。一体どうしてだろうと思っていた。でも今の一言で思い出す。


 このクッキーは庶民にでも手を出せる部類のお菓子だ。そしてこれに似ているお菓子を以前貰ったことがある。それは初めて出会った時、王都からエンリデンヌに向かうときに。砦の上で。


 最近は忙しかったせいか食べている姿を見なかったが、あの懐かしい日を思い出し心の中が暖かく感じるライ。


 「……そっか、ありがとうリエル」


 「私にもありがとうございます」


 「(コク)」


 リエルにお礼を言う二人。リエルはお礼を聞いて頷くと自分のクッキーを取り出し両手でつかむとリスのようにカリカリと食べ始める。表情は緩み幸せそうな表情をしていた。


 ライとフィルも貰ったクッキーを食べながら告げる。


 「またここに、今度は皆で来ようか」


 そういうとフィルとリエルは


 「はい!」

 

 「ん!」


 元気に同意してくれるのだった。


 ライの日常一日目はこうして過ぎていくのであった。

 

 

こんばんわ!日にちを間違い一日遅れの更新になります。すみません。

さて、今回は日常編?となります。トップバッターはフィルとリエル!二人同時になりました。フィルとリエルのイメージとしてはこの二つの場所かなと思い書いてみましたが、いかがだったでしょうか。すこーしフィルの印象が強くてリエルの印象が薄いかなーと思いましたが最後によくまとめられたような気がします。

後、ここで言うのもなんですが結構いちゃいちゃって難しい……。少ない文字数でと考えても二人だとやはり六千文字ほどになってしまいました。本当は一人ひとり書きたいですけどそうすると約十人、十話分になりそれでは本編のほうが忘れ去られるような気がして複数同人進行になっております。

……至らない点があったらごめんなさい!それでも楽しんでいただければいいと思います!ではまた次回にお会いしましょう!

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