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第百三十一話 会談Ⅱ

お楽しみください。

 戦後処理に伴い、今後どうするか、先の未来を決める会談がついに始まったのであった。


 話を始めた陣営は二つ。一つは、フェレス王国に所属しているが半ば独立している第三機関、国盾の砦

もう一つは、北にある冬国の大国、ジュアン帝国だ。


 「では最初の議題、というかこれは確認になるがジュアン帝国軍はこの会談にどういう立場で臨んでいるのか聞きたい」


 この言葉にジュアン帝国側は顔を歪め、ガドイ将軍も渋面を作る。


 それを見て、エミルは言葉を付け足した。


 「ああ、申し訳ない。別に今の言葉はそちらを皮肉るや侮ったという理由で言った言葉ではない。ただそちらがまだ交戦意思があるかの確認。この場に来たのだから無いとは思いたいが、可能性としてそちらから脅すようなことを言われたとき、こちらの短気な部下が逆上しないように明確な意思表示が必要だと思ったのだ。そちらとしても明確にしていたほうが仮に『兵士が暴走して』も勘違いを防げるであろう」


 その言葉に、ガドイ将軍がゆっくりと口を開く。


 「なるほど、確かに道理ではありますな。隠していてもいずれわかることなのでいっておきますが、実は軍の内部には数が勝っていることから徹底抗戦をする声もありましてな。抑えるのに苦労したところです」


 「それはそれは、心中お察しする」


 二人は軽く、お互いを気遣うように話し始めた。


 だがそれは否。すでに互いは駆け引きを始めていた。ただその駆け引きは二人だけではなく、別の者にも影響が及んでいる。


 最初に、エミルが言った立場を聞いたのはジュアン帝国が敗北者としてきたのか、それとも対等の立場で来たのか、まだ上から目線で交戦姿勢で来たのかを聞いた。これに、帝国陣営は渋面を作ったことから、三番目の交戦姿勢ではないことはわかる。敗北者か、対等の立場に限定される。これならば、エミルにとってはどちらでもよかった。だから後付するように次の布石を打ったのだ。


 すなわち、意思表示という公式の言葉を明確にすることで別の意思の介入、発言をやりにくくする。別の意思の介入とはここでは、リエルから報告にあったジュアン帝国本国にいる大臣達のことだ。この場ではエミルにとって、必要ない情報でありかき乱されては適わないと思っていた。


 これに対し、ガドイ将軍は素直に提案を受け入れた。だが、ただ受け入れるだけではなくこちらに理不尽な要求をするのなら、暴走した兵力が襲うという警告も含ませている。


 ここで、エミルのほうもジュアン帝国の代表、少なくともこのガドイ将軍という男は対等と敗北者の中間の立場できたと悟る。そして同時に大臣の息がかかったものではないことがわかったのだ。


 二人のやり取りを理解できたのはこの場に数人はいた。キャサリン、フィル、イプス、ユレイヌであった。だが、誰も発言はしない。


 「さて、ではエミル王女の言葉にお答えしよう。私は対等な立場で来ているつもりだ。だが、決して交戦意思は無い」


 「ふむ、なるほど。そちらの意思はわかった。ではそれを踏まえて話を進めよう。まず、二つの軍をどうするかだがそちらの要求はあるか?」


 「こちらの要求は即時休戦と支援物資の援助をしていただきたい」


 「なるほど、妥当なところではあるが、ちなみにそちらの兵数状況はどうなっておるのだ?」


 「こちらの兵数は二万弱。食料に関しては約二週間ほどがあるがさすがにそれだけでは心もとないのだ」


 「二週間か、フィルそなたのほうがこの話には詳しいだろう。こちらが譲歩できる物量と日にち、案があるか進言するのだ」


 「わかりました」


 そういって、立ち上がるフィルをガドイ将軍とイプスは真剣な眼差しで視線を貫く。しかし、二人以外の帝国幹部の目には侮りがあった。幼い外見のフィルを見下したのだ。

 

 それに気がついたティアやエミル達は表情を厳しいものにするが、それよりも早くフィルが話し始める。


 「ではエミル王女への返答としてご説明させていただきます。まず、こちらから捻出できる支援物資ですが、現状では明確なことは進言できません」


 明確には言えないと口にしたフィルを、幹部の一人が「それみたことか」と呟き、呟きを聞いたガドイは内心愚か者と罵る。こういうことを言うほど現状を見れていないのかと。


 非難されたフィルは、表情を決して変えず話を進めた。


 「……次に日にちに関しては五日ほどかと。ただ、次の案を採用していただければもっと時間を短縮できます」


 「ほう、ではその案を申すとよい」


 「私が考えた内容は希望するジュアン帝国兵士を国盾の砦に取り込むのです。そうすれば、彼らは人数を減らすことにより移動時間が短縮できます」


 「す、少しお待ちいただきたい!」


 案を出したフィルであったが、さすがにガドイは反論した。


 「何でしょうかガドイ将軍閣下」


 「そなたが、今説明した内容には確かに一理ある。人が少なくなれば移動速度、必要物資も減り問題はないかもしれない。だが、兵士たちには家族がいる者がほとんどだ。もし、そちらに取り込まれてしまったら本国は反逆行為とみなし逆賊扱いを受けてしまう。兵士を預かるものとして容認しかねる」


 「ガドイ将軍閣下がおっしゃる通りですね。それがもし、フェレス王国と結ばれるものだったらの話ですが」


 「なに?」


 この返事にはガドイの近くにいたイプスが説明をした。


 「ガドイ将軍、おそらくあちらはエミル王女が最初におっしゃったように、フェレス王国王家とは独立した軍隊。ならば国ではなく何かしらの組織に手を貸すというならば、将軍の現場判断ということで収まるはず。国益につながると判断したといえば。それだけの見返りがおそらくあの参謀さんにはあるんですよ」


 イプスの言葉にニコリと笑みを浮かべフィルは頷いた。


 「ご明察の通りです。先ほどは取り込むと言いましたが、正確には義勇兵扱いで手伝ってもらうという扱いになります。もちろん、手伝ってもらう内容は戦争に関することなので命の危険があうので、希望者だけになるんですけどね。ただ、こちらの見返りとしてはそちらが要求した支援物資の提供と、ジュアン帝国軍に義があると判断し、フェレス王国に非があるとわかれば、私たちは元凶を取り除くために援助すると約束しましょう。どうでしょうか?」


 フィルの言葉に、ガドイとイプスは押し黙る。


 しかし、やはり周りのジュアン帝国軍幹部は黙っていなかった。


 「そんな口約束など無意味ではないのか!」「まずは、支援物資を供出してそれからだろう話をするのは」「それに、なぜ我々がそちらを侮らなければならない、小娘にならばなおさらだ!」


 ガドイとイプスが黙ったことをいいことに、幹部たちは言いたいことをフィルに言い始めた。その様子に、国盾の砦陣営、特にティア、レーシア、リエルは飛び掛ろうとするほど一触触発の空気が流れるが以外にも、その空気を緩和しようとしたのは笑みを浮かべたフィル自身であった。


 「なるほど、わかりました。小娘である私がでしゃばったから気に入らないとそういうことですか?」


 話す内容は刺々しいものであるが、顔は笑みのままだ。もしこの時のフィルをライとエスティアが見れば、ライは冷や汗を流し、エスティアはちょっとしたトラウマを再発しかねないだろう。


 だが、幹部たちはそれすらも気づかないまま地雷を踏んだ。


 「ふん!こんな小娘などがでしゃばるほどに人が不足しているとは、確か相手はライ・ジュリアールとかいう小僧が指揮していたと聞いた。だがこれではほどが知れる。本当は偉業などせずにでっち上げたのではな」


 「将軍!それは相手に失礼極まりないことであるぞ!」



 慌ててガドイが止めに入るが


 パリン


 何かが割れる音がした。


 しかし、その割れる音は決して物理的音ではない。空気がひび割れたと錯覚しても間違いではない。


 もう修復不可能な事態に動き始めて


 「まてまてまて、少し落ち着くのだ皆のもの。ここで簡単に交渉決裂させてしまっては双方に利益は少ないであろう。それに巻き込まれる兵士たちの身にもなってみるのだ」


 エミルが軽い口調で止めに入った。


 いつの間にか、ユレイヌも動いておりリエルとティアの肩に手を置いていた。レーシアは前をユレイヌに塞がれた状態だ。


 エミルはまだピリピリしている空気を感じつつ、視線をライを侮辱した幹部に話しかけた。


 「ふむ、それでまずそちらの幹部殿は先ほどから危ない綱渡りをしている自覚があるのか聞きたいのだが」


 「き、危険性など!私は当然のことを言っているだけであって」


 「なるほど。ならひとつ説明をしていたほうがいいだろうな。ユレイヌ、ティア達を離してやるがよい」


 「かしこまりました」


 そうするとユレイヌは手を離しエミルのほうに近づく。


 「さてでは、幹部のそち。ここで問うがこのような女子がここにいることの理由として、なぜかわかっておるか?」


 「は?ただの護衛であろう」


 「まあ、確かに護衛の意味もあるがこの軍の最高戦力の一部でもあるからいてもらっておるのだ」


 「な、何を馬鹿なことを」


 「ほう、馬鹿なことと申すか。だが、われらが最初入ってきたときお主らはそこの者たちを見て、口々に呟いていたではないか。赤髪の悪魔と銀色の死神と。なのに、馬鹿な戦力というのは間違ってはおらぬか?」


 「せ、戦場では数がものを言うのだ!確かにそこにいる者たちが実力者であることはわかった。だが!一人で戦場を戦況を変えることはできるはずもない!」


 「おお、そうかそうか。ようやく理解した。どうやらそちらとこちらの食い違いが会議の妨害になっておるのだな。ならすぐに誤解を解かねばなるまい。各々方はすでに目撃していますが」


 「なに?」


 「覚えはありませんか?超巨大な魔法に」


 「超強大な魔法なぞ、われらが国の巫女が作ったものと火の球……」

 

 幹部にはどうやら話が通じたようだ。


「そうだ、あの火の魔法を誰がやったかは軍事機密ゆえに言えぬが、ここにいる三人はあの魔法と同等の力を使うことができる。他にも砦のほうに一人がの。そして、そんな人物達をまとめているのが先ほどそちが貶したライ・ジュリアールだ。その事実をもってしてもただのでっちあげと申すか」


 「ふ、ふん。それこそでたらめではないのか」


 「では、ここで魔法を使わせればいいとおっしゃるか?それも構わぬがあまりお勧めはしない。先ほどから上司であるライ・ジュリアールについて言いたい放題言われて、矛先がそなたのほうに飛んでいっても責任はとらぬぞ?それでもよければ試してみるといい」

 

 「な、な、な!」


 「ちなみに、脅しではないからな。ここは公式な場。不用意な発言は記録されてしまう。嘘でも言おうものなら、将来交渉の場に立とうと思ったらまず警戒され信用されないだろう」


 幹部の男はついに無言になる。エミルはその様子を見て、笑みを浮かべてティア達のほうを見る。


 「どうやら、話し合いで判っていただけたようだ。お前達も抑えるように。よいな?」


 エミルに言われ、渋々と頷くティア達。


 頷きを確認してガドイのほうを見る。


 「では少し話がそれてしまったが、続けるとしよう。フィル、話の続きを頼む」


 「……わかりました。では、続きを話します。先ほど話した内容で、イプス軍師がおっしゃったように私達が提供できる利点はその二つです。ただ、それ以外にも利点はあるんです」


 「……利点か。なるほど、ようやく私にも話が見えてきた。おそらくその利は貿易と情報伝達関連のものだな?」


 ガドイの言葉にフィルは頷く。


 「その通りです。ただそちらが義勇軍を組織したとしても得するのは国へと帰る兵士達と国の上層部だけ。残った兵士達は命の危険があるだけで十分な対価をもらえないことになります。この利だけでは。ですが、義勇軍を行軍扱いにすれば意味も出てきます。この先おそらくドリアド帝国と戦うことになるでしょう。その時、勝つことができれば恩賞が国からも出ましょう。働きによっては大きな利益をもたらすことができます」


 「むー、しかしフェレス王国は話しに応じるだろうか」


 「それは問題ありません。先ほど王女としてではないとエミル様は言われましたが、やはり私は影響力が皆無ではないと考えます。そして、エミル様のお父上は国王。大丈夫でしょう。万が一拒否された場合でも国盾の砦に恩を売ることにはなると思います。お得だと思いますよ?」


 「組織を売り出すというか」


 ガドイの言葉にエミルが話を間に挟む。


 「組織を売り出すか。いい例えではないだろうか。誤解を承知で言わせてもらえば我が軍はこの度の戦いで一国を相手にできることが証明された。もちろん、攻めと守りという違いも大きいが国ではなく組織ができたということは大きい。国盾の砦はフェレス王国の監視役という位置であるがもしジュアン帝国が窮地になされれば、フェレス王国が出兵できなくても国盾の砦が動ける場合もある。懇意にしていて損は無いと思うぞ?」


 「……」


 「といっても、そちらにも都合がありガドイ将軍一存では決めかねぬだろう。確実にジュアン帝国の岐路に立っておることは間違いない。ここでの選択は決して影響が小さくないからな。なのですぐに返答はいらない。ただ長い時間もかけられない。よって二日の猶予をもって返答してもらいたい。どうだろうかジュアン帝国の方々よ」


 ガドイ将軍はこのとき視線をエミルから自軍の幹部とイプスへと向けた。幹部達は面白くなさそうにまだ少し見下すような顔色をしている。しかし、イプスは平坦としており戦いが始まる前のように悲痛な表情ではない。


 そんなイプスがガドイの視線を受けて発言する。


 「ガドイ将軍、私めも二日の猶予をいただくのが良いかと。もしここでガドイ将軍が一存で決めてしまっては兵士達や本国も納得しないでしょう。ですがすべての兵士達に今回の内容を伝えて判断をあおるのです。……暴走も防ぐために正確に内容を伝えないものは厳罰に処すと付け加えなければなりませんが」


 「……それが妥当か」


 「これからどうなったとしても、兵士達の士気が無いと話になりません」


 「わかった。エミル王女、それからそちらの陣営の方々。二日の猶予をいただくことにします」


 「うむ、それが良かろう。ただこちらとしてもすぐにドリアドに対して行動をしなければならない身。二日後の返事を待ってから動いたのでは遅い。よって、そちらの軍需参謀と軍師の者達にこちらの参謀と予定をつめてもらう。仮に無駄な労力だったろうと、担当した者達には悪いが、実質的な損はないのでな」


 「了解した」


 「ではフィル、あとティア、リエル、レーシアはフィルについてやってくれ」


 「わかったよ!」「(コクリ)」「わかったなの!」


 エミルがこの三人を残したのはフィルにいらぬ危害が及ばないようにするためだ。あの幹部達が暴走しないとも限らない。用心に越したことは無かった。


 そしてこうして、会談は終わる。この日から後日、結果的にはジュアン帝国はフィルの提案を受け、義勇軍を組織、参加しなかったものは祖国の地に帰還することになるのであった。

こんばんわ、今は夜中の二時です。ようやく書けてほっとしてます。

会談Ⅱということでしたが、主にエミルが話の主導を握ることになりました。途中フィルが主導しましたがやはり会談の大きな流れはエミルがコントロールしていたといえるでしょう。……この物語で初めてこんなにエミルが活躍したかもしれませんね。ただ敵と会話するという意味でですが。ライとの絡みでは何度か活躍してもらってますもんね!

さて、次回ですがそろそろライが目を覚ますかも?というところです。次の話はどうなるかわかりませんが、早くて一日、遅くて三日のうちに更新したいです。ただ、もしできなくても活動報告のほうに書いておきますのでよろしくお願いします。活動報告のほうには夜の8時~12時の間に書くことが多いと思います。

では次回にまたお会いしましょう!

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