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第百二十九話 譲渡

お楽しみください

 氷柱の断末魔。


 そびえたつ氷柱は魔法の核となっていたマリーを失ったことで強度が不十分になり、氷柱自身の重量からギシギシと音を鳴らしていた。


 そして当然、いつか限界は来る。新たに氷を補充できずに辿る道といえば、もう崩壊の二文字以外はありえなかった。


 「ライ、早く!」

 

 それは、マリーを助出したライ達にも容赦なく襲い掛かる。


 「エスティア!まだ使えないのか!」


 「まだよ!譲渡がまだ終わってないわ!」


 ライはエスティアに焦ったように問いかけたが、返答は望むものではなかった。その腕の中には意識がなく横たわるマリーがおり、白帝の宝玉がマリーの懐付近に押し当てられ淡く輝いている。


 現在、ライ達が慌てているのは氷柱が崩壊を始め襲い掛かっているからだ。幸い氷による侵食能力が倒れてくることはなかったのは救いだが天に昇るほどの重量が根元から崩れていけば、周りに及ぼす被害は甚大であり、離れなければならない。


 本来ならば慌てる必要はないライ達。白帝の壁を使うなり炎帝、土帝で壁を作る方法もあった。しかし今はできない。ライはマリーの暴走状態を緩和させるため、力を白帝の宝玉へと譲渡している最中なのだ。そうしなければ、逃げている最中に心が闇に侵食されてしまう恐れがあったから。


 でも、そんな事情は氷柱に関係なかった。


 リエルが先頭にライとマリー、エスティア、後方に騎士の長と部下が南へと全力で南下している。


 「全員なんとしても走り抜けるのだ!もう少しで生還できるぞ!」


 騎士の長は鼓舞し闘志を燃やさせようと部下を叱咤する。部下たちも仲間から裏切りが出たなどの動揺はあった。しかし、仲間に疑心暗鬼が出たとしても騎士の長ただ一人に信頼を置けることは変わらない。


 とそんな時、崩れ行く氷柱の衝撃と余波、飛び散る氷の破片が刃として降り注ぐ。


 「危ない!」


 リエルはいち早く気がつくと、水魔法で上空に壁を展開した。展開された水壁に次々と強大な欠片が降り注ぎ、すぐに壁は砕け地面に突き刺さる。でもその一瞬の時間がライ達一団を生存させている要因となっていた。


 「エスティア!」

 

 「あと、もう少しよ!」


 ライはマリーを抱えながら宝玉の譲渡完了をいち早く望んだ。このままでは、フィルたちとの約束を、黙ってもういなくならないという約束を破ってしまうことになる。それだけはもう嫌だった。人の涙を見るのはたくさんだ。


 「う、うわああああ!」


 後ろの騎士の一人が突如悲鳴を上げた。偶然後ろを向いたからこそわかったことかもしれない。挙げられた悲鳴は、ほかの者にも聞こえており、全員が後方を確認した。



 そこには、マリーが戦場で作った超巨大な氷魔法の数倍の大きさに匹敵する氷が存在し、今まさにこちらへと落ちてきたのだ。


 あの時は、ライが白帝の壁で衝撃を逃がし障害物の壁を置くことで防ぐことができた。だがこの場合仮に壁を使ったとしても地面に落ちたときの衝撃はすさまじいものになり、さらに氷が砕け襲い掛かってくることになるだろう。


 リエルはとっさに魔法を行使して進行を少しでも遅らせようとした。いくつもの水の柱が氷の塊へと向かっていく。でもそれは津波を丸太で塞き止めようとするがごとく、簡単に弾かれ霧散する。


 全員が、その光景を見て絶望をした。この速度ではいくら逃げても衝撃を免れない。運よく助かったとしても、今度は氷の刃が降り注ぎ命を絶つだろうと簡単に想像がついた。


 しかし、ライ達の命運はまだ尽きていなかったのだ。


 「全部隊、各自魔法を目標に放つのだ!各隊長、ティア、レーシアは全力の一撃を放って壊すつもりでいくのだ!ラッシュ、お主は破砕させた場合飛来する障害を壁を作り防ぐことを第一と考えよ!ラン!お主たちの風影隊はライ達を回収後全速力で離脱、後方援護に回るのだ!サチ、光を集め氷に攻撃し強度を落とさせるのだ!よいな!」


 「「「「「「「おう!(了解!)」」」」」」」


 声が響くとともに、何百、何千という魔法が空を舞う。土の槍が飛び、炎の塊が吹き荒れ、鋭い風の刃が咲き乱れ、水の嵐が降り注ぎ、氷の塊が舞い上がる。


 「レーシア!魔法をあわせて!ライ達を助けるよ!」


 「わかったなの!」


 先陣として舞い上がった魔法を確認してから、ティアとレーシアは魔法を意識し協力して放とうとしていた。本当なら、強力な魔法はライの副作用関係で使いたくない。でもライ自身を死なせてしまったら意味がないと、ティアは全力で魔法を構築した。


 「はああああああああああ!」


 上空に戦場で構築したときと同等の炎の球が現れる。しかしそれだけでは終わらない。


 「合わせるなの!」


 炎の塊の周りに風が猛烈に吹き荒れる。吹き荒れる風は炎の勢いを増し、何重もの風の層に守られ氷の塊へと向かっていった。


 「ラン!お前らはすぐにでもライのところにいってやれ!」


 「わかりました!」


 「サチ、お前さんもすぐに魔法を放て!」


 「すでにやっております!」


 土帝隊、風帝隊、水帝隊、風影隊、氷兵隊、炎帝隊。国盾の砦とジュアン帝国の魔法部隊。何百という兵士たちが今戦争という垣根を越え、数名の命を救うために団結した瞬間であった。その様子を見た、ライは内心歓喜し、喜ぶ。まだ自分には帰らなければならない場所があるのだと再認識して。


 そしてついに最初の魔法群は氷の塊に衝突しいくつもの衝撃音とともに、弾け、飛び散り、砕けていく。

 

 その後をティアとレーシアの合体魔法が襲い掛かり、サチの光による光線で氷の表面を焼く。


 最初の魔法では動きを止めなかった氷の塊が合体魔法とぶつかり空中で静止状態を作る。一度の均衡状態を作り氷の塊は



 「なんで!」


 ティアは思わず叫ぶ。魔法が弾かれてしまったのだ。二人の合体魔法、それならばただの氷なら跡形も残らず破壊できただろう。でもこの氷はマリーが暴走をして作られた氷であり、巨大な氷柱を支えられるほどの強度があるのだ。簡単に壊すことはできない。


 指示をしたエミルも驚愕の表情を浮かべるが気丈にも声を張り上げる。


 「う、うろたえるな!諦めず撃ち続けるのだ!一瞬の足止めが生死を分けることがあるのだ!」


 一瞬止まりかけた魔法部隊はすぐに射撃を開始する。


 だが無情にも氷は迫ってくる。


 「ライ!譲渡が終わったわ!」


 もうだめかと思われたとき、ライはついに待ちわびていた言葉を聴いた。


 それを聞いて、ライはエスティアに返事をする。


 「エスティア!ティア達にすぐ連絡をとってくれ!」


 「いつでもいけるわ!内容を早く!」


 「ティアとレーシア、ラッシュ、リエル、サチは合図とともに最大魔法で氷の目の前にぶつけるように放つようにと!その後は何とかするからって」


 「わかったわ!」


 【全員聞いてたわね!合図は私が送るからいうとおりにして頂戴!】


 エスティアの声が宝玉持ち達に届き、一度魔法を撃ちやめる。


 そして


 【……っ!今よ!】



 全員がいっせいに魔法を放った。ひとつでも戦場を塗り替えられる力を秘める強大魔法が。


 放たれた魔法を確認しライも意識を集中、走るのをやめ立ち止まり氷に視線を向けた。


 「上手くいけええええええええええええええええ!」


 ライは白帝の宝玉に秘められる風、炎、土、氷、光を放つ。リエルもライから譲渡された力とあわせた放った。


 合計十一もの魔法が氷のほうに向かっていき、ついに衝突するかと思われた!


 「……ッ!」


 ライは予想される衝撃に歯を食いしばり、次の魔法を構築開始していた。


 そのとき魔法は、確かに衝突した。氷ではなく、魔法同士が。


 衝突しあった魔法は様々な衝撃を生み出し、爆発的エネルギーを生み出した。突如氷の塊の前で生み出された衝撃は通常であたるよりも相乗効果で、すさまじい力を発揮したのだ。


 いくら攻撃しても進路を変えようとしなかった氷の塊が次に、衝撃を受け重力に引っ張られるように落ちていく。真っ直ぐ向かってきていたのも、若干右にそれたのだ。


 氷の塊は屈するように地面へとめり込み地震のような地響きを起こし砂を巻き上げる。


 それと同時にライは魔法を展開した。


 「もってくれよ!」


 引きちぎられるように飛び散る木々や石、氷の破片、土砂が雨のように降り注いだ。しかしそれをライは白帝の壁で防ぐ。時間がなかったために所々壁の間を抜けて襲い掛かる、ライの皮膚を引き裂くが致命傷にはならない。


 「ライ様!お守りします!風影隊は負傷しているものを護衛、それ以外は空からの飛来物をはじき防御を!」


 やってきたランと風影隊はすぐさま行動を開始し被害を最小限に抑えていく。


 そしてついに


 地響きは終わり、氷の飛来物は無くなった。


 氷の断末魔は終わり、襲い掛かる命の危険は去ったのだ。


 それを見守る兵士たち、人間たちは最初呆然とし、次の瞬間歓喜する。ライも一瞬気を抜き安堵をしたときだった。


 「ぐあぁ!」


 後ろから金属をはじく音と何かを斬る音、突き刺す音が次々と聞こえた。

 

 ライは驚き後ろを見ると、はじめてみる男が剣を振りぬき、リエルが剣を薙ぎ、ランが剣を刺し、一人の男が口から血を流しながら倒れていく。


 その男は剣をライに突きたてようとしていたらしく、三人は守ってくれたようだ。


 でもこの振りぬいた男は誰だろうと考える。だが質問をする前に相手から聞いてきた。


 「マリーは!マリーは無事なのか!」


 どうやらマリーの関係者らしいとわかりライは頷く。


 「暴走状態になってたけど、力の譲渡をしたから無事だと思う。今は力の後遺症から意識を失ってるけどね。あなたは、マリーの知り合い?」


 「あ、ああ。私はイプス、マリーの兄だ」


 「そっか、ならマリーのことを頼む。……エスティア」


 「ええ、エミル達にはよく言っておくわ。リエルとランにも指示しておく。だから……今はもう安心しなさい。ゆっくり休むといいわ」


 「そうさせてもらうよ。じゃあ……あとは…たの」


 そこまでいって、ライは意識を手放す。様子を見ていたエスティアは驚くことも無く、当然だろうと考えていた。ライがもつ白帝の宝玉は他の宝玉の力を集中させる。だが、他の宝玉が力を使えばそれだけ影響は受ける。今回、各宝玉は限界近い魔法を使用した。しかもライ自身も力を使ったのだ。疲労困憊にならないとおかしいのだ。さらに、毒をあおり意識が戻ったばかりの体は体力が戻っているとも考えにくい。逆に今まで意識があったことのほうが不思議だ。


 二人のやり取りを聞いていた、リエルとランはライが倒れたことに驚きあわてたが、エスティアがすぐに指示を出す。


 「リエル、あなたはそこのイプスだったかしら、その人が乗ってきた馬にライを乗せてフィルのところに急ぎなさい。毒の影響も心配だしあの子の天使の微笑は力になるわ。ラン、あなたはエミルにすぐ状況を伝えなさい。戦争の終結を告げるのも重要でしょう。早く終わればライが休める時間も長くなるわ」


 二人はエスティアの話を聞いてすぐに動き出した。


 走り出した二人を背にエスティアは一度だけ、後方をみた。


 そこにはマリーを抱きしめるイプスの姿がある。目から涙を流し泣いていた。


 エスティアは思う。


 (また、ティア達のライバルが増えるってことかしらね)


 考えすぎかとも思うが、なんとなくエスティアにはあながち間違ってもいないような気がするのであった。


 

こんばんわ、ついにマリーを助け出しましたよ!

途中まで息を呑む追いかけっこ?を繰り広げておりましたが、魔法部隊の活躍などがありライたちは助かりました!

ですが、ライは疲労から倒れてしまいます。まあ、あれだけやってれば当然ですね。毒もあおったんですから。逆になんであそこまで動けたのが不思議です。

さて、とりあえずといいますか戦争は終結しそうですね。ですが、とりあえずというところが、ある意味みそなんですが。

この後は戦後処理と状況整理、少し日常話を挟むかな?と考えております。

ということで今日はこのぐらいで。また次回お会いしましょう!


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